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ネットワークのインテリジェントな運用管理を実現するMANO技術

Vol.68 No.3 2016年3月 新たな価値創造を支えるテレコムキャリアソリューション特集

MANOは、NFVアーキテクチャにおいて、ネットワークサービスとリソースの統合的な管理・制御、最適化(オーケストレーション)を担います。今後、NFVがテレコムネットワーク全体へ導入され、かつネットワークがあらゆる産業で使われることが予測される状況において、MANOには「統合管理とスムースなマイグレーション」と「多様なサービスへの対応」が求められています。それに対しNECでは、オーケストレーションの対象をNFVだけでなくレガシー環境へ拡張することを特長としたMANOを製品化しています。更に最適化技術の高度化の研究開発を行い、より先進的なMANOの実現を目指しています。

1. はじめに

近年、テレコムネットワークにおいて、従来専用装置として一体で提供されていたネットワーク機能のハードウェアとソフトウェアを分離し、汎用サーバの仮想化基盤上で実現するNFV(Network Functions Virtualization)の取り組みが活発になってきています。NFVの議論は、2012年11月にETSI(European Telecommunications Standards Institute)配下に設立されたISG(Industry Specification Group)にて、実現に向けた業界標準のアーキテクチャ・仕様の策定が推進されています。

NFVアーキテクチャにおいて、ネットワークサービスやリソースの統合的な管理・制御、最適化(以下、オーケストレーション)を担うのがMANO(Management and Orchestration)です。MANOが注目されている理由は、統合的なオーケストレーションにより、ネットワークサービスの迅速かつ柔軟な構築や、自動化、ポリシーに基づいたネットワークの動的な最適化など、インテリジェントな運用管理を実現できることにあります。

また将来、IoT(Internet of Things)/M2M(Machine to Machine)を中心に広がりを見せる5Gモバイルネットワーク時代においては、要件や特性が異なるさまざまなネットワークサービスが展開され、効率よく運用するために、より高度なネットワークの制御が必要になります。そのなかでも、MANOが中心的な役割となることが期待されています。

NECでは、オーケストレーションの対象をNFVだけでなくレガシー環境へも拡張することを特長としたMANO(NEC拡大MANO)を、世界に先駆けて提案しています。更に今後、最適化技術の高度化を加味していくことで、より先進的なMANOの実現を目指しています。

本稿では、NFVにおけるMANOの役割と求められる要件について概説し、NECのMANOに関する取り組みを紹介します。

2. MANOの概要

NFVアーキテクチャにおけるMANOの役割について概説します。図1に示すように、NFVのアーキテクチャは、NFVI(NFV Infrastructure)、VNF(Virtual Network Function)、MANOから構成されます。これらの間には標準のインタフェースが規定され、マルチベンダーでNFVを構成できる枠組みが作られています。

図1 NFVアーキテクチャフレームワーク

NFVIは、コンピューティングやストレージ、ネットワークの物理リソースを、仮想リソースとして柔軟に扱えるようにする基盤です。VNFはNFVI上で動作する仮想化されたネットワーク機能群です。そして、NFVの運用管理において、最も重要な役割を担うのがMANOです。MANOは以下の3つのコンポーネントから構成され、NFVIやVNF、また複数のVNFで構成されるネットワークサービスを統合的にオーケストレーションします。

  • NFVO(NFV Orchestrator)
    複数のVNFから構成されるネットワークサービスのライフサイクル管理(生成、監視、運用、削除など)を行い、システム全体の統合的な運用管理を担う。
  • VNFM(VNF Manager)
    VNFが必要とするリソース要件の管理、VNFのライフサイクル管理を担う。
  • VIM(Virtualised Infrastructure Manager)
    物理・仮想リソースの運用管理を担う。ETSI NFVの実装においてはOpenStackがデファクトとなっている。

NVFO、VNFM、VIMの3つのコンポーネントにより、VNFの起動やソフトウェア設定などを自動化し、新たなネットワークサービスの迅速な構築やサービス需要に応じた柔軟な設備変更、障害時の自動復旧などが可能になります。

3. テレコムネットワークに求められる要件とNECの取り組み

3.1 統合管理とスムースなマイグレーション

(1)テレコムネットワークに求められる要件

テレコムネットワークは、NFVに加えて、トランスポートSDN(Software-Defined Networking)やデータセンターSDNなどが複雑に連携し構成されていきます。更に、マルチベンダーで構成されることもあります。これら複雑化、階層化されたネットワークを運用するために、MANOにはネットワーク全体を統合的に管理・制御することが求められます。
また、NFVは、今後、基地局やモバイルコア網、ホームネットワーク機器の仮想化など、通信事業者のネットワーク全体へ導入が進むことが期待されています。しかし、既存のシステムが一度にNFVに置き換わるわけではありません。NFVへの移行期間が必ず存在し、MANOは、既存ネットワークとの統合を図りながら、スムースなマイグレーションを実現する必要があります。

(2)NECの取り組み:E2Eサービスオーケストレーション

NECでは、これらの要件に対し「E2Eサービスオーケストレーション」として、OSS(Operation Support System)/BSS(Billing Support System)などのTOMS(Telecom Operations and Management Solutions)分野で豊富なノウハウを持つNetCracker社と共同で、世界に先駆けて取り組みを進めてきました。
E2Eサービスオーケストレーションでは、図2に示すようにMANOのオーケストレーション対象をNFVだけでなく、トランスポートやデータセンターSDN、更にはレガシー環境にも拡張しています。E2Eのオーケストレーションの本質は、それらを個別に最適化するのではなく、全体を最適化し、End-to-Endで統合的に管理・制御できるようにしていることにあります。これにより、複雑化、階層化されたネットワーク全体の統合的な管理・制御や、既存ネットワークからNFVへのスムースなマイグレーションを実現します。

図2 E2Eサービスオーケストレーション概要

3.2 多様なサービスへの対応

(1)テレコムネットワークに求められる要件

今後、IoT/M2Mを中心に広がりを見せる5Gモバイルネットワーク時代では、あらゆる産業のビジネスでネットワークが使われ、多種多様な要件を持つネットワークサービスが混在します。また、そのネットワークサービスを取り巻く状況も、時々刻々と変化していくことが考えられます。このような環境において、ネットワークサービスを効率よく運用するためには、MANOによるオーケストレーションが重要となります。そこでは、MANOによるネットワークの迅速性と柔軟性の実現が求められます。

  • 迅速性:新たなネットワークサービスの迅速な構築
    ネットワークサービスを取り巻く状況が時々刻々と変化していく環境では、新たなネットワークサービスの展開は容易かつスムースに行われる必要があります。そのためには、ネットワークサービスの設計・構築に要する時間を、大幅に短縮しなければいけません。
    MANOには、ネットワークサービスの抽象的な要件を、具体的な機能配備まで自動で落とし込むことが求められます。
  • 柔軟性:サービス需要に応じた柔軟な設備変更
    多種多様な要件を持つネットワークサービスが混在する環境においては、それぞれのネットワークサービスに求められる性能や可用性、セキュリティといったサービス品質を保証するために、ネットワーク全体の最適化が必要です。
    MANOには、状況に応じてネットワーク全体のリソース・機能配備を動的に最適化することが求められます。

(2)NECの取り組み:フィードバックループによる最適化

NECでは、柔軟性に関するMANOへの要件に対し、ネットワークサービスの状況をフィードバックし、ネットワーク全体を動的に最適化するサイクルを回す「フィードバックループによる最適化」として、最適化技術の高度化に向けた研究開発を進めています。
この技術は、図3に示すように、「①ネットワークサービスのデータを収集」し、「②収集したデータの分析・計算」を行い、「③分析・計算の結果に基づき制御」することで、ネットワーク全体を動的に最適化するものです。

図3 フィードバックループによる最適化

このフィードバックループによる最適化のなかで最も重要なプロセスが、「②収集したデータの分析・計算」です。このプロセスでは、まず、収集したデータを分析し、負荷の変動や障害発生といったネットワーク全体の状況変化を把握します。次に、その状況変化に対し、ネットワーク全体がサービス品質を満たせるように、必要な性能・機能や、最適な機能配備などを計算します。最後に、現状のサービスに影響なく、その計算した構成に変更するための手順を作成します。しかし、NFVにおいてフィードバックループによる最適化を実現するには課題があります。それは、NFVの特長の1つである、マルチベンダーでネットワークサービスが構成されることによるものです。ネットワークサービスを構成するネットワーク機能は、ベンダーごとに内部構造が異なっていることから、それぞれの性能などの実際の値をリアルタイムに正確に把握することが困難です。そのため、MANOは、End-to-Endでサービスレベル(Service Level Agreement:SLA)を満たし続けることができるネットワーク機能の種類、量、配置場所などを適切に判断できず、最適化の精度が落ちてしまいます。
これに対しNECは、マルチベンダー環境でのネットワーク状態をリアルタイムにシミュレーションする独自技術を開発しました。本技術では、ネットワーク機能の処理時間やリソース使用量などの観測情報を統計解析し、ネットワーク性能モデルを生成します。これにより、内部構造を把握することが困難な他ベンダーのネットワーク機能の性能推定を実現しています。MANOはその性能推定結果をもとに、より適切な判断・制御を行うことができます。この技術を用いることで、マルチベンダー環境においてもEnd-toEndでネットワークサービスの性能を高精度に把握し、その情報をもとに最適化を行うことができ、ネットワーク全体の効率的な運用を実現します。

4. まとめ

本稿では、NFVにおけるMANOの役割とそれに求められる要件について概説し、それに対するNECの取り組みを紹介しました。
NECが提供するE2Eサービスオーケストレーションは、既存のレガシー環境からのスムースなマイグレーションをサポートし、NFVを早期に実現することを可能にします。また、フィードバックループによる最適化といった最適化技術の高度化に関する取り組みを推進していくことで、MANOによるインテリジェントな運用管理、新たなネットワークサービスの実現を目指していきます。

参考文献

  • 1)
    ETSI:ETSI GS NFV-MAN 001 V1.1.1, 2014.12

執筆者プロフィール

新井 智也
キャリアサービス事業部
部長
極樂寺 淳一
キャリアサービス事業部
主任
大平 麻代
キャリアサービス事業部

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