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インバリアント解析技術(SIAT)を用いたプラント故障予兆監視システム
Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集故障予兆監視システムは、NEC独自のビッグデータ技術であるインバリアント解析技術(SIAT)をプラントの運転管理に適用したものです。これまで蓄積された温度や圧力などからなる膨大な運転データから、このプラントの「いつもの状態」を自動的に定義するとともに、最新の運転データとリアルタイムに比較解析して「いつもと違う状態」を見つけ出すことで、設備の故障につながる恐れのある予兆を早期に、かつ的確に検知することを目的としたシステムです。2014年7月、初号機を中国電力株式会社 島根原子力発電所2号機へ納入しました。
1. まえがき
発電所などのプラントはタービン、発電機、ポンプなど数多くの機器や設備で構成され、高度な監視システムが導入されています。大規模なプラントになるとセンサや計器類が数千台以上に及ぶことも珍しくなく、限られた人員で確実に異常を発見するために、各センサに「しきい値」を設定し、それを基準に運転員が常時監視する運用(例:水温が50℃を超えたらアラームが鳴る)が一般的です。
こうした仕組みは大規模プラントで効率的に異常監視するうえで必要不可欠ですが、(1)しきい値を超えない兆候に対して気付きにくい、(2)運転員の経験や力量により、発生したアラームや異常数値に対する認識力、異常を確認してから原因の推定までの対応(時間など)に差が生じる、という課題がありました。
こうした課題をNEC独自のビッグデータ技術であるインバリアント解析技術(System Invariant Analysis Technology:SIAT)を用いて解決したのがNECの「故障予兆監視システム」です。効果を検証するため中国電力株式会社様、株式会社IIU様の協力のもと数年にわたる実証試験を行い、2014年7月、初号機を中国電力株式会社 島根原子力発電所2号機へ納入しました。以下に詳細を説明します。
2. インバリアント解析技術(SIAT)の基本原理
大規模プラントにおいて常時計測している温度や圧力、流量、振動などのプラントパラメータは非常に多く、例えば中国電力株式会社 島根原子力発電所2号機では合計で約2,500種類、3,500点にのぼります。
プラントが安定した運転状態にあるときは、これらプラントパラメータは一定の相関を持った状態となっています(例:発電出力を上げると、ポンプ圧力が上がる)。
しかし、通常とは異なる状態、すなわち異常が生じると、安定した運転状態時のプラントパラメータ間の相関に崩れが生じ始めます(例:発電出力を上げても、ポンプ圧力が下がる)。
インバリアント解析技術は、こうした「お互いの関係がいつもと同じかどうか」を全てのセンサ間で常時監視することにより、一つひとつのセンサがしきい値を超える以前に、いち早く異常の予兆を検知する技術です。この弊社独自のビッグデータ解析エンジンは、過去の運転データを投入することで、自動的にこのプラントパラメータ間の不変性(インバリアント)を導き出すことができるため、大きな負担なく導入できるのも大きな特徴です。
ベテラン運転員が運転中のわずかな違和感を見逃さないように、本システムはビッグデータ的なアプローチによって、いち早く「いつもと違う」兆候をつかみ、運転員へ伝えることができます。また、発電所に蓄積された膨大なプラントパラメータをデータベース化することで、過去の知見を生かし、「いつもと違う原因は何か」をより精度高く通知することが可能となります。
3. 故障予兆監視システムの機能
3.1 通常運転時の故障予兆監視機能
故障予兆監視システムの通常運転動作について図1で説明します。
まず、「通常運転時のモデル(=いつもの状態)」を作成します。モデルとは、原子力発電所に取り付けられたセンサの時系列データを基に、SIAT技術により各センサ間の関係性を導き出したものです。また、通常運転時のモデルとは、「過去、原子力発電所が正常に稼働していたときのセンサ情報を基に作成したモデル」という定義になります。
この通常運転時のモデルを故障予兆監視システムにセットすることで、システムは「通常運転時のセンサの動きが予測できる(例ではxのセンサ動作に対するyの予測)」状態になります。
故障予兆は、モデルからの予測値と実測値(図1では予測値y*と実測値y)をリアルタイムに比較することで、実測値が予測値と同じ動きをしていれば、「いつもと同じ状態」と判断、問題なく通常運転が継続していると判定します。そして、実測値が予測値と外れてくれば「いつもと違う状態」と判断、この外れが継続しているか、外れ度合が時間経過と伴に増加しているかなどの条件により、故障の予兆と判定します。システム画面例を図2に示します。
故障予兆監視システムでは得られたデータを有効に活用するため、さまざまな表示機能や解析機能を実装しており、効率的に異常の原因解析を進めることができます。実測値を使った実証検証では、条件にもよりますが運転員よりも約7時間前に異常予兆の検知ができたものもあり、本システムの導入によりプラント運転管理の質を高めることができると考えています。
3.2 プラント起動時の妥当性確認機能
もう1つ、システムの主要機能を紹介します。
原子力発電所などプラントの起動に当たっては、複数の工程に分かれ、工程ごとにプラントパラメータを入念にチェックし、問題ないことを確認しながら次の工程へ進んでいきます。この各工程において、「過去に実施した同手順のデータと比較して、いつもと同じか」を、故障予兆検知システムは解析し、結果を通知します。運転員は、過去と同様の挙動かどうかを確認しながら、安心して起動手順を進めていくことが可能となります。
図3に起動工程時のモデル比較結果を示します。
図3における縦軸、横軸はセンサであり、表になっています。表中の赤い部分は、「これまでの正常起動時とセンサ間の関係性に違いがあるもの」を表します。
対して、白い部分は「違いがないもの」になります。色の出方によって順調に進んでいるかがひと目で分かり、赤い部分が特定のセンサに偏っていないかなどを分析することで、起動時に何か起きていないか、速やかに判断できます。
補足
- 1)本確認を各工程で行い、起動工程全体の妥当性を確認します
- 2)前回正常起動データは複数回あることで妥当性確認の精度は向上します
4. 故障予兆監視システム構成
故障予兆監視システムのシステム構成を図4に示します。
故障予兆監視システムは、既設の運転監視装置からデータを取得し、そのデータを基に分析を行うことで異常発生の有無を監視します。システムは後から追加設置することが可能で、設置において既設の運転監視装置に影響を及ぼすことがほとんどありません。また、センサや運転監視装置は既存設備をそのまま活用でき、追加/削除に対しても柔軟に対応できる点が重要なポイントです。
構成としては、複数の監視員が同時に状態を確認できるように、複数のクライアントを兼ね備えたサーバ-クライアント方式を採用しています。サーバは大きく「分析サーバ」と「ストレージサーバ」に分けられ、取得したデータはSIATエンジンを搭載した分析サーバで解析し、ストレージサーバに結果を保存する仕組みになっています。
クライアントでは、結果の確認や、監視方法の設定などの操作が可能です。
5. 今後の取り組み
今後、問題個所の特定や原因の推測など、より精度高く、高速に対応できるよう機能強化していくとともに、他業種への展開も検討しています(図5)。
6. むすび
以上、故障予兆監視システムに関して、原子力発電所の事例を基に紹介を行いました。今後、監視手法の精度を上げていくとともに、他業種への展開も見据えて技術向上を図り、インフラの安全・安心に貢献していきます。
執筆者プロフィール
交通・都市基盤事業部
第二システム部
部長
交通・都市基盤事業部
第二システム部
マネージャー
交通・都市基盤事業部
第二システム部
エキスパート
交通・都市基盤事業部
第二システム部
主任
交通・都市基盤事業部
第四事業推進部
マネージャー
NECエンジニアリング 計測ソリューション部 マネージャー
兼 NEC 交通・都市基盤事業部 第二システム部 エキスパート