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センサとICTを融合させた漏水監視サービス
Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集近年、日本の高度成長期に整備されたインフラが老朽化し、さまざまな問題が発生しています。そうしたなか、NECは2014年9月、水道管の漏水を常時監視する「漏水監視サービス」を開始しました。本サービスは、センサとクラウド解析により地中に埋設された水道管の漏水個所を発見し、水事業者にその正確な位置情報を伝えるものです。今までの漏水検知は、訓練された技能者が特殊機器を使って路上から耳で確認するのが主流でしたが、このサービスにより水事業者のオフィスで漏水の発生状況を常時監視し、速やかに対策ができるようになります。漏水は世界中で深刻な問題となっており、本サービスはグローバルに展開する予定です。本稿では、技術やサービスの特徴と将来への展望を紹介します。
1. はじめに
水道管の漏水は、コストを掛けて浄水した水を水道管で各需要家へ供給する水事業者にとって、深刻な課題となっています。水道管は通常地下に埋設され、その敷設距離が極めて長いうえ、40年以上の長期にわたり使用されることも珍しくありません。管が埋設されているため、目視やカメラによる監視は難しく、たとえ供給量と水使用量の差から漏水の存在が明らかでも、漏水個所の特定は容易ではありません。現在の一般的な漏水調査は、訓練された技能者が特殊な漏水探知機を使って路上から耳で確認する、という地道な作業によるものが主流で(図1)、深刻な漏水事故が発生するまで発見できないことも多くみられます。
今回NECが開発した漏水監視サービスは、この問題に対する1つの有効な解となります。水道管に任意の間隔で取り付けたセンサで漏水特有の振動をとらえ、無線ネットワークと公衆回線網を介してデータをクラウドへ集約、その解析結果から漏水個所をピンポイントで特定します。水事業者など本システムの利用者は、WEB上の画面を見るだけで漏水発生状況を正確に把握することができ、漏水被害を最小に抑えることができます。
仕組みは単純にもかかわらず、こうしたサービスがこれまで存在しなかったのには理由があります。センシング技術だけで漏水個所を正確に特定することが難しかったこと、そして何よりも期待される効果に対し、投入するコストや手間が掛かりすぎることです。弊社が漏水検知に着目したきっかけは、NECグループにて世界最高水準の小型振動センサモジュールを開発したことですが、サービス開始に漕ぎ着けるうえで、上記課題をクリアするのは容易ではありませんでした。
水道管を使った実証など試行錯誤の末、次のような対策により、実用性の高い製品とすることができました。
- (1)漏水解析や各種サービスを弊社クラウドへ集約し、「漏水監視サービス」として提供することで、お客様の業務や設備投資に関わる負担を低減
- (2)振動センサを使った漏水地点特定で世界最高水準の技術と実績を有するスイスのGutermann社と提携
- (3)最小構成でも導入効果が実感でき、導入後は予算に応じて柔軟に拡張や改造が可能なサービス体系を整備
以下、漏水監視サービスの概要を紹介します。
2. 漏水監視サービス概要
図2に、本サービスを構成する各要素を示します。
2.1 センサロガー
センサロガーの小さな筒型の筐体(写真)には、振動センサ、メモリ、バッテリ、ロジック、無線装置、アンテナをパッケージ化しています。底面に強力な磁石が付いており、マンホール内にある消火栓や止水弁など水道管に付属している設備の金属部へ自由に取り付け、取り外しが可能な構造となっています。バッテリは5年間連続使用可能(使用条件により変わります)です。既存マンホールを使い約200mごとに1台設置します。免許不要の特定小電力無線により、後述するネットワーク装置と通信を行います。
2.2 ネットワーク装置
中継装置(パーマネント収集用)
センサロガーの情報を収集するための装置です。センサロガーの周辺数十m以内の電柱などに設置します。センサロガー同様、バッテリを内蔵し、長期間無保守で使用を継続することが可能です。
基地局装置(パーマネント収集用)
各中継装置から情報を集約するための通信装置です。免許不要の特小無線により、中継装置設置場所から見通しで最大0.5~1km程度の通信を実現します。その後、公衆回線網などを利用し、弊社のクラウドへデータ通信します。
データ収集装置(ドライブバイ収集用)
上記のようなパーマネント収集方式の他に、自動車などに簡単に搭載できるデータ収集装置を用いて、センサロガーからデータを収集することも可能です。この場合、自動車で走りながらデータの巡回収集を行うため、パーマネント収集機材は不要になります。
2.3 NEC ウォータークラウド
漏水監視サービスを実現するために開発した「NEC ウォータークラウド」について説明します。本クラウドにはGutermann社独自のノウハウが結集した「漏水解析エンジン」と、そこから得られた結果をもとに弊社の独自解析やサービスを実現する「漏水サービスアプリケーション」で構成されます。
(1) 漏水解析エンジン
センサロガーと漏水解析エンジンの組み合わせにより日常的な漏水有無の監視を行い、センサロガーごとに漏水の確度を「漏水スコア」という独自指標により表現します。このスコアが一定以上となった場合、その周辺に漏水の可能性があり、データの詳細な解析を行います。具体的には漏水が疑われる場所周辺の複数のセンサロガー間で「相関分析」と呼ばれる詳細解析を行うことにより、漏水地点を1m程度の精度で正確に見つけ出すことが可能となります。従来でも振動センサを用いて周囲の漏水有無を検知するアプローチはありましたが、最終的な漏水地点の特定には、改めて当該地点のマンホールの蓋を開き、専用の漏水探知機を取り付けるなどの作業が必要でした。本サービスではそうした手間が不要で、全て事務所からのオペレーションで行うことができるのが大きな特徴です。
(2) 漏水サービスアプリケーション
NEC ウォータークラウド上では、漏水解析エンジンで得られた「漏水スコア」を最大限、ユーザーの業務に活用できるよう、さまざまな機能が用意されています(図3)。
主な機能を、以下に示します。
- (1)Google Maps上でセンサロガーの位置と状態を表示(位置情報は、設置時に現場でGPS計測)
- (2)水道局専用マッピングシステムとのデータ互換機能
- (3)漏水発生状況に関わる各種アラーム機能
- (4)異常個所のデイリースコア記録機能、各種条件検索機能
- (5)漏水発生報告書の作成機能
- (6)漏水発生個所履歴管理機能 など
日常的には、アラーム機能やGoogle Mapsなど各種マップと連動した表示画面が便利です。漏水スコアに応じて、センサロガーアイコンを緑、黄、赤の色分けで表示し、漏水の疑わしさが視覚的に確認できます。実際の運用では、毎朝職員がこうしたサービス画面を確認することで、きめ細かな保全業務を行い、事業運用の大幅な効率化に役立てることが可能になります。
将来的には本サービスで取り込むさまざまなデータをもとに、設置場所の状態を数値化して、漏水監視以外の活用も可能になると考えています。例えば、管の老朽化度合いや材質、地盤などファクタごとに劣化傾向を把握し、多額の投資を要する管の更新計画において、優先順位を決めるなど効率的な事業運用にも貢献していきます。更に本技術の延長線上にはグローバルで集積したデータをもとに、弊社が保有するビッグデータ解析技術などを活用し、水運用効率化へつなげていきたいと考えています。
3. フィールドでの実証成果
2013年9月~2014年3月にかけ、柏崎市ガス水道局様(新潟県)のご協力をいただき、地元の情報処理企業である株式会社カシックス様とともに、実際の水道管を使った実証を行いました。
20本程度のロガーで実施条件を変えながら評価した結果、4件の漏水を検知し、位置誤差についても1m以内の精度を確認できました。また操作運用性について散見された課題については、製品版の改善ポイントとして反映されています。
4. 今後について
日本の水道管理が国際的に優れているのはよく知られているところで、漏水率も全国平均5%と、20%以上が珍しくない海外に比べはるかに低くなっています。しかし水道設備の多くが高度成長期に整備されたため、今後40年を超える老朽管の割合が急速に増えることが確実な一方、人口減少が見込まれるなか、水道管の更新に充てられる費用は少ないのが現状です。ICTの力を活用して敷設済みの水道管を今まで以上に効率的に管理していくことは不可欠であり、弊社としても貢献していきたいと考えています。
また当然ながら漏水問題は海外においてより深刻であり、こうしたサービスへのニーズは高いと考えられます。水問題に悩んでいるのは発展途上国だけではなく、欧米などいち早く上水設備の老朽化が進む地域でも深刻な問題になっています。
今回構築したNEC ウォータークラウドは、最初からワールドワイドでの展開を想定した設計となっており、既に北米などでのプリセールス活動でも好感触を得ています。グローバルで豊富な実績を有するGutermann社との提携関係や、英国でインペリアル大学と実施中のスマートウォーターマネジメントの共同研究などの成果もこのクラウド基盤上へ集約し、水マネジメント領域において国際的に存在感あるサービスを提供できるようにしていきたいと考えています。
5. 謝辞
製品開発及び本稿執筆にあたり貴重な実証機会をいただきました柏崎市ガス水道局様、及び実証協力いただきました株式会社カシックス様に感謝いたします。
- * Google Mapsは、Google Inc.の商標または登録商標です。
執筆者プロフィール
交通・都市基盤事業部
第二システム部
部長
交通・都市基盤事業部
第二システム部
マネージャー
NECエンジニアリング
兼 NEC 交通・都市基盤事業部
第二システム部 主任
交通・都市基盤事業部
第二システム部
交通・都市基盤事業部
第二システム部
交通・都市基盤事業部
グローバルシステム開発部
マネージャー