Japan
サイト内の現在位置を表示しています。
宇宙開発向けプリント配線板の認定状況と今後の展開
Vol.64 No.1 2011年3月 宇宙特集電子部品における小型・軽量化は、宇宙開発用プリント配線板に対しても、その特異な環境下における高信頼性を維持し、要求を満たさなければなりません。山梨アビオニクス株式会社(YACL)は、この問題を解決するためにJAXA認定取得をベースとした評価試験を行いながら、継続的な生産活動をしています。本稿では、YACLが取得しているJAXA認定部品のさまざまな設計仕様の説明と今後の展開について報告します。
1. まえがき
近年における半導体部品の高集積化や受動部品など電子部品の小型化傾向は、プリント配線板の高密度化を加速し、結果搭載される部品の実装密度を上げながら、電子装置はますます小型軽量化と高機能高速化が進んでいます。このような背景のなかで、宇宙開発向けプリント配線板の高密度高機能化に対しても、同様に特殊な環境下における開発要求が課せられるようになってきました。
特に宇宙開発用プリント配線板では、地上では考慮されない熱サイクルや高真空下での材料挙動、及び放射線耐性などの厳しい評価項目をクリアしなければ、実用に供することができません。
それらの要求に対し最近では、2007年に、高密度プリント配線板の仕様拡張及び厚銅箔(105μm)を用いた高放熱プリント配線板の開発を、更に2010年には、低熱膨張プリント配線板の開発を行い、宇宙航空研究開発機構(JAXA)殿の部品認定を取得しました。本稿では、JAXA認定について現在までの取得状況と、今後ますます厳しくなるプリント基板開発の展開について述べます。
2. 認定取得状況
YACLは、宇宙開発用途向け高信頼性プリント配線板に対して20年以上の製造実績を持ち、国内で最初のプリント配線板製造会社として認定され、今にいたっています。なお、現在もJAXA認定部品として「フレキシブルプリント配線板」、「フレックスリジッドプリント配線板」及び「CIC入りプリント配線板」と称される、YACLが唯一取得しているプリント配線板の認定仕様も含め、要求されるすべてのプリント基板仕様対応が可能な体制を維持し、衛星メーカの各種の要求を満たすことで、宇宙開発の一端を担っています。
図1 は、現在までのYACLのJAXA認定取得状況をまとめたもので、プリント基板の使用目的により、その品種は拡大していることが分かります。
当初(80年代)フレキシブル配線板の認定に始まったプリント基板開発は、90年代に入って高密度実装及び配線要求をベースに一般基板に拡大し、更に搭載スペースの効率化を実現し、最近は発熱対策や低線膨張化といった、更なる信頼性向上を目的とした開発を継続するにいたっています。
3. JAXA認定仕様
図2 にJAXA認定プリント配線板の仕様書体系をまとめました。この仕様書体系のなかで、一般的に個別仕様書が要求事項に対して最も優先され、上位にある共通仕様書や付則で規定できない事項が、個別仕様書には細かく記載されています。
また、適用データシートは、設計仕様、認定試験結果及び使用上の注意点などを規定した仕様書であり、実装前のベーキング条件なども含まれ、プリント配線板の「仕様選択~設計~実装までのガイドライン」として使用できるよう配慮されています。
現在、JAXA認定仕様は付則A~付則Fまでの6種あり、YACLはそのなかの5種に対して認定を取得しています。各付則B、D、E及びFの設計仕様の概要を 表 にまとめました(付則Aの設計仕様は付則Bに包含されています)。
表 JAXA認定プリント配線板設計仕様
まず、「付則A、B」は一般的な多層プリント配線板の構造で、その基材にポリイミド樹脂やエポキシ樹脂を含浸したガラス布を用いていることを特徴としており、宇宙開発用配線板として最も広く採用されています。
「付則D」はポリイミド樹脂ベースのフレキシブルプリント配線で、プリント配線板どうしあるいはコネクタなどの接続用部品との配線に用いるために開発されました。
また、プリント基板どうしの接続を配線板自体の構造のなかにあらかじめ実現したものが「付則E」のフレックスリジッドプリント配線板です。これにより、複数の実装済みプリント基板のケーブルAssyが不要となり、更にその屈曲性を利用して機器への狭スペース搭載が可能となっています(製品例: 写真 )。
2009年度、新たに認定を取得した「付則F」は、電子部品の多ピン化を背景とした実装信頼性向上のために、プリント配線板の中にCIC(カッパー、インバー、カッパー)を挟み込んだ構造で、CICの特性を生かした低線膨張基板として開発を行ったものです。
実測の膨張係数は13ppm/℃以下を実現しており、今後の宇宙開発用プリント板の新たなラインアップとして期待されています。
なお、これら一連の各種認定プリント配線板に対しては、製品実現までの詳細な設計仕様解説や各仕様書の適用基準などの疑問点に対して、YACL担当部署の専門スタッフが広くサポートしています(付則Cについては、YACLでは対応していないディスクリートワイヤー方式の配線板であり、本稿では取り上げません)。
4. 宇宙開発における高信頼性要求とは
宇宙開発用途プリント配線板には、一般産業・民生用途と同じ評価試験項目に対しても、更に厳しい条件が課せられていることはもちろんのこと、より特徴的な評価試験項目が追加され、高度な信頼性が要求されています。特に宇宙空間での稼働を前提とした特有の信頼性要求には、長期にわたる熱衝撃耐性や放射線耐性、更に高真空下での材料挙動の1つであるアウトガス制御などが挙げられます。
プリント板製造のための各種要素技術開発では、専用製造装置の開発はもちろんのこと、加工条件についても要求以上の特性を発揮できるように目標設定を行うことで、すべての評価試験内容に対して満足する結果を得なければなりません。
アウトガスは、ASTM595によって試験を実施し、質量損失比(TML)及び再凝縮物質量比(CVCM)を測定してます。判定はNASA推奨値(TML:1%以下、CVCM:0.1%以下)を参考に、JAXA殿として基準を定めており、測定結果の一例としてフレキシブル銅張り積層板の場合、TML:0.450%、CVCM:0.003%で宇宙開発用プリント配線板としての要求を満たしています。
また、認定試験項目以外にも諸特性試験として、高温放置試験・振動試験・衝撃試験などを行うことで、より高度な装置要求にも応えられるように拡大評価も実施しています。それらの認定評価試験、及び諸特性試験の結果の一部は各適用データシートに記載され、利用される方々の便宜を図っています。
5. 今後の展開
宇宙開発用プリント基板に実装される電子部品は、今後ますます高集積化高機能化が進み、求められる要求は更に高密度配線、高放熱化対応が望まれるようになり、一方で表面実装部品の採用増加に伴い、その接合信頼性を考慮した熱膨張係数の最適化などの技術革新が必要になってくると考えます。
これらの要求を満たすために今後、産業用途で先行している超高多層、高細線パターン化技術をベースに、宇宙開発用高信頼性プリント配線板としての展開が必要です。
直近では、現在適用しているJAXA認定仕様から、その拡張対象として高密度配線フレックスリジッドプリント配線板の開発を推し進めることで、衛星の省スペース対策の一助とすることが課題と位置付けています。
将来的には、表面実装の多ピン狭ピッチ化(BGAへの流れ)も踏まえた、実装形態の進化に追従するための構造を有する配線板(例えば、高精細ビルドアップ基板、部品内蔵基板、高周波対応特殊基板など)の開発が必須となることを想定しています( 図3 )。
また、電子製品に対する環境対応の流れのなかで懸念される、完全鉛フリー化における各種汎用部品の入手性の問題から、将来想定される宇宙機器への影響は、相対的にプリント配線板への影響も考慮する必要があり、従来適用されてきたはんだコート仕上げに代わる配線板の表面仕上げと実装信頼性といった、新たな課題が生まれることも想定し、今後本問題と向き合っていかなければならないと考えています。
6. まとめ
これまで、YACLは多数の宇宙開発のプロジェクトに携わってきました。最近では、2010年に7年ぶりに地球へ帰還した「はやぶさ」にもYACLのプリント配線板は使用されており、宇宙開発担当大臣や文部科学大臣からも感謝状をいただくなどの評価を得ています。
YACLは、長きに及ぶ宇宙開発向け高信頼性プリント配線板の製造実績のなかで、JAXA認定の部品メーカとして宇宙開発に貢献してきたことを自負するとともに、今後も宇宙開発に求められるプリント配線板の開発を推進し、製造した多数の製品が宇宙へ飛び立ち、その役目を無事果たせるよう、ものづくりの改革が進むなかでその維持・管理に努めてまいります。
執筆者プロフィール
日本アビオニクス
MLB事業部
技術部
山梨アビオニクス
技術部