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No.1(3月)宇宙特集
Vol.64 No.1(2011年3月)
宇宙特集
はじめに
ロードマップ実現に向けた取り組み
松尾 好造
NECでは2010年に策定した「NEC宇宙事業ビジョンと宇宙事業ロードマップ」のなかで、宇宙技術とIT・ネットワーク技術の融合による「総合宇宙利用システム」を提案しています。この総合宇宙利用システムは、宇宙技術を製品として提供するだけでなく、他の技術と融合させ、利用者が抱える問題を解決するための手段(ソリューション)として提供するものです。本稿ではクラウドに代表されるような新しい世代のプラットフォームの潮流を紹介し、クラウドをベースとした宇宙利用のための仕組み作り、今後解決しなければならない課題などに関して述べます。
坂上 謙太郎
宇宙産業のマーケット・産業政策の変化から生き残るためには、宇宙事業のグローバル化が必須であり、そのための施策として、NECは小型衛星をコアとした「グローバルな宇宙ソリューション」を提供できる企業となることをロードマップの骨子として位置付けました。そのためにはプロダクト(事業ドメイン)とともにユーザの拡大が必要であり、海外、特に宇宙新興国への参入を目指します。その施策は、従来の欧米・中国・ロシアなどの宇宙先進国とのビジネスとは大きく異なり、単なる機器売りだけではなく、ハード・ソフトを含めたパッケージ提供が必要となります。また、資金面や技術導入などにおいては、民間企業では限界があるため政治的支援が必要であり、政官民一体となった活動が必要となります。このような施策を中心として、NEC宇宙事業は海外を中心としたグローバルソリューション企業を目指します。
成松 義人
機器製造の観点から見た宇宙事業は、成熟しつつある市場といえます。宇宙事業の更なる発展のためには、機器製造事業からシステム運用やデータ利用までを含むサービス事業へと、事業主体を変えていく必要があります。本稿では、「宇宙を利用したサービス事業」におけるNECの取り組みの概要を紹介します。
小川 俊明
ASNAROは経済産業省殿、無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)殿と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)殿との委託契約により開発中の、小型地球観測衛星です。この衛星は単なる技術衛星ではなく、将来2機目、3機目を世界各国に輸出することを目標に、さまざまな最新技術を導入して小型化・標準化を実現し、市場競争力の高い小型・高性能・低価格な衛星を開発することを目的としたものです。
ロードマップの実現を支える技術と製品(人工衛星/宇宙ステーション)
桑尾 文博 ・大塚 聡子 ・田中 剛彦 ・熊谷 博貴 ・竹貝 朋樹 ・清水 基充
日本は、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟を完成させて、初の有人施設を開発しました。NECは衛星間通信システムとロボットアームの2つのシステムと、管制制御装置、各種実験装置、運用管制システムなどを担当しました。宇宙飛行士の安全確保を最優先とし、かつ、使いやすさと汎用性・多様性などを追求して、それぞれの機器の開発において従来の宇宙開発技術に新しい有人宇宙開発要求を取り込み、日本独自の技術として昇華させました。現在、「きぼう」は24時間体制で監視・運用され、さまざまな宇宙実験が行われています。
大島 武 ・佐々木 得人
2010年5月21日に打ち上げに成功した日本初の内惑星探査機「あかつき」は、金星周回軌道投入には失敗したものの、現在も、6年後のリベンジを目指して航行中です。本稿では、「あかつき」探査機システム設計と、個々の技術について紹介します。
梅里 真弘 ・岡橋 隆一
ソーラー電力セイルは、太陽からの光子の運動量を利用した推進と、電気推進機関を組み合わせて航行する探査機であり、木星及びトロヤ群小惑星を目指し、将来の外惑星探査で必須となる技術実証を目的とした中型実証機です。小型ソーラー電力セイル「IKAROS」は、中型実証機計画における開発リスク軽減のため、大型膜面の展開、電力セイルによる発電、及びセイルによる光子加速/航行技術について、世界初の先行実証に成功しました。本稿では、NECが担当したIKAROSのバス技術の開発について報告します。
池上 真悟 ・加瀬 貞二
1969年、アポロ11号のアームストロング船長の“小さな一歩”から始まった有人月面探査は、1972年のアポロ17号以来、その歩みを止めていましたが、2007年9月14日に先陣を切って打ち上げられたわが国の月周回衛星「かぐや」により、新たな月面探査活動が開始されました。本稿では、NECがプライムインテグレータとして開発から運用まで担当した「かぐや」の主要諸元と、打ち上げからミッション終了までの概要を示すとともに、NECが開発を担当したレーザ高度計の技術を紹介します。
渡辺 暁 ・平尾 昭博
本稿では、2006年1月24日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センターからH-ⅡAロケット8号機により打ち上げられた「陸域観測技術衛星(ALOS)」の概要、及び打ち上げ後5年間にわたり観測された3つの観測センサ(PRISM、AVNIR-2、PALSAR)の画像が、どのような分野で利用され、また社会公共インフラとして、国民生活及び世界の人々にどのように貢献しているのかを紹介します。
馬場 功 ・奥居 民生 ・鳥海 強
超高速インターネット衛星「きずな」は、インターネットへの親和性の高いKa帯による超高速衛星通信システムの技術開発及び実証を行うために開発された静止衛星です。日本全国及びアジア太平洋地域での超高速通信実験を可能にします。打ち上げから現在までの約3年間に多くの通信実験が行われ、その有効性が実証されています。また、今後も多くの実験が計画されています。本稿では、「きずな」の概要及びこれまでの主な実験の成果について紹介します。
木村 恒一 ・藤村 卓史 ・小野 清伸
合成開口レーダは天候に左右されず、昼夜を問わずに地表を観測することが可能なため、近年ニーズが高まってきている画像センサです。NECではこれまで蓄積してきたSAR技術、宇宙機設計技術、及び小型標準化技術を活用して、SARによる地球観測サービスを高性能・低価格・短納期で提供するため、500kg級の小型SAR衛星の開発に取り組んでいます。小型SAR衛星のシステム概要、開発手法、及び地球観測データサービスのグローバル展開構想について紹介します。
ロードマップの実現を支える技術と製品(衛星地上システム)
吉川 志郎
衛星がミッションを達成するためには、衛星の状態を監視してミッション達成のための制御を行う衛星管制機能、及び衛星が取得した種々のデータを受信する機能などから構成される地上システムの整備が必要です。NECでは、これらの機能のパッケージ化によるシステム標準化を行うとともに、最新の技術動向に対応した要素技術開発を行い、国際競争力のある地上システムの開発を目指しています。
岡本 博 ・河西 由美 ・長尾 優
衛星の撮像した地球画像(衛星データ)には、衛星のセンサの特性による歪みが含まれています。このため画像処理システムでは、ユーザが有効に活用できるように衛星データの補正処理を行います。画像処理システムは従来、衛星またはセンサごとに開発してきました。今後は、この画像処理システムを衛星やセンサが変わっても共通に扱えるパッケージ(画像処理PKG)としてまとめていきます。将来、画像処理PKGを衛星の画像処理システムに適用することにより、NECとしての衛星データの利用促進を図ります。
ロードマップの実現を支える技術と製品(衛星バス)
檜原 弘樹 ・吉田 禎仁 ・棚町 健彦 ・隈下 恭介 ・小林 明秀
NECは通信・放送衛星、気象衛星、地球観測衛星、科学衛星から宇宙ステーションにいたる多様な宇宙機システムを製造し、運用した実績を持つとともに、地球に帰還した「はやぶさ」により、地球周回軌道や静止軌道に加え、月・惑星軌道においても、宇宙機を自在に運用する技術を有することを示しました。これらの実績を集約した「NEXTAR」標準プラットフォームは、公共機関や民間事業者が観測センサや通信機器を用いたリモートセンシング事業を短期間に立ち上げることを可能にします。
米田 誠良 ・栗井 俊弘 ・柿沼 真博 ・前川 勝則 ・東野 勇
衛星搭載機器において、どのような衛星でも共通的に使用されるコンポーネントがあります。地球センサ、トランスポンダ、GPS受信機、スタートラッカと呼ばれる機器もその分類に属します。NECでは、これらの機器をほとんどの国内衛星において供給しており、地球センサのように海外でも大きなシェアを確保しているものもあります。本稿では、海外市場を含め、更なるシェア拡大を目指した小型高性能な標準機器の開発について紹介します。
ロードマップの実現を支える技術と製品(通信)
山田 慎二 ・深藏 英司 ・田畑 稔 ・白玉 公一
NECは、衛星通信技術を支える種々の技術として、衛星打ち上げを支えるロケット搭載用通信機器をH-ⅡA/Bロケット向けに供給しています。また、次世代の衛星通信技術としては、技術試験衛星VⅢ型において軌道上大型展開アンテナを開発し、地球観測衛星・移動体通信衛星への応用が期待されています。更に、光衛星間通信実験衛星での光通信機器の開発・実証など、大容量通信の実現に向けての開発を行っています。
小島 政信 ・山佐 靖彦 ・鈴木 和高
NECの宇宙事業のなかで、通信/放送衛星に搭載される中継器用機器は、厳しい海外衛星の市場のなかでも多くの供給実績を持つ製品であり、NECの優れた技術・信頼性は、海外の衛星メーカから高い評価を得ています。更に新規デバイスの開発、機器の標準化、加えて付加価値の高い分野へ力を入れ、事業拡大を目指しています。ここでは、中継器用機器の現状と今後の展望について紹介します。
ロードマップの実現を支える技術と製品(観測センサと応用技術)
濱田 一男 ・神田 成治 ・平松 優 ・石田 十郎
人工衛星からの地球観測は、地球温暖化などの気候変動に対応した地球環境監視や、地震・津波・火山活動・集中豪雨など自然災害の被害状況監視、安全保障にかかわる情報収集など、近年その重要性が増してきています。NECは、日本で最初の衛星搭載用光学観測センサを開発して以来、数多くの衛星搭載用光学センサの開発実績を有しています。本稿では2009年に打ち上げられた温室効果ガス観測衛星「いぶき」に搭載されたTANSO及びNECが現在開発中の先進的宇宙システム(ASNARO)搭載の高分解能光学センサ(OPS)、ハイパースペクトルセンサ(HISUI)、地球環境変動観測ミッションに搭載される多波長光学放射計(SGLI)の各光学センサの概要を紹介します。
奥村 実 ・宮谷 聡 ・深津 彰 ・山佐 靖彦 ・神原 直樹
GPM主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)は、1997年に打ち上げられ現在も運用中である熱帯降雨観測衛星搭載降雨レーダ(TRMM/PR)の後継機であり、Ku帯とKa帯の2つのレーダにより、高緯度地方を含む地球上の降水分布を観測します。また、EarthCAREに搭載する雲プロファイリングレーダ(CPR)は、現存する衛星搭載雲レーダの約10倍の高感度で全地球上の雲を観測します。また、衛星搭載ミリ波レーダとして、世界初のドップラー速度計測機能を有しています。これらの技術は、今後の地球観測・安全保障に関連する衛星搭載レーダなどに活用していきます。
木村 恒一 ・藤村 卓史 ・小野 清伸
NECは、1980年に日本で初めてSARデータの画像再生処理に成功して以来、各種SAR画像処理に関する研究開発を継続的に進めてきています。SARデータの高次処理を行うことにより、地表の三次元情報の取得や変化抽出、更にはターゲット解析のためのSAR特有である特徴量抽出が可能となります。本稿では、SAR画像処理の最新技術として、ポラリメトリックSAR画像解析ソフト「RSGIS-SAR」、ScanSAR / ScanSARインターフェロメトリ、バイスタティックSAR画像再生処理について紹介します。
石川 裕貴 ・杉山 和洋 ・佐々木 要
宇宙利用は、さまざまな分野において日常生活に浸透し、私達の日々の生活に必要不可欠な存在となっています。そのため、国民の安全な生活向上を目的とした地球観測は、新たな成長分野として注目されています。本稿では、地球観測の一環として産業廃棄物監視を目的とした衛星技術と、産業廃棄物監視システムを紹介します。この技術により、これまで一部の専門家に限られていた衛星画像の利用・活用が、広く推進されることを期待します。
ロードマップの実現を支える技術と製品(基盤技術)
岡 慎司 ・竹村 浩司 ・岩﨑 正明 ・丸家 誠
NECの宇宙技術は、広範な基盤技術により支えられています。生産革新活動は、これまで匠の技能や技術に依存していた宇宙技術を、生産革新の最前線へと変貌させました。また、宇宙技術は材料開発と表裏一体をなしています。光学ミラー材料として世界最先端の反応焼結型SiCを開発し、軽量、高強度なミラーを可能としました。搭載用ソフトウェアは、ミッション要求の多様化や高精度化に対応する技術開発を行っています。リモートセンシングデータをより高度に利用するための画像処理技術の開発は、ユーザであるデータ利用者の要求に直接応える技術です。本稿では、以上の宇宙技術を支える基盤技術や開発プロセスについて紹介します。
寺田 博 ・松岡 正敏 ・田中 貴美恵 ・鵜飼 千亜妃
月惑星探査機の軌道計画は、地球周回衛星とは異なる技術が必要です。NECでは長期にわたり、現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA)殿の協力の下、多くの月惑星探査機の軌道計画を担当しました。本稿では、軌道計画立案のための主要な要素技術の概要と、それを利用した各プロジェクトにおける軌道計画の特徴について報告します。
矢野 善之 ・池田 直美 ・鈴木 隆博 ・中村 正夫 ・谷代 智寿 ・中谷 直人
宇宙機に使用されるMPUやFPGAの低電圧化が進んでいます。一方、低電圧化が進むと配線抵抗により電圧降下が発生し、これら部品の安定動作に支障をきたします。この問題を解決するために、MPUやFPGAなどの直近に配置する電源であるPOL(Point of Load)DC/DCコンバータの必要性が高まってきています。本稿では、POL DC/DCコンバータの開発経緯と、信頼性・耐環境性などの試験結果を報告します。
加賀田 司 ・矢ヶ崎 章
電子部品における小型・軽量化は、宇宙開発用プリント配線板に対しても、その特異な環境下における高信頼性を維持し、要求を満たさなければなりません。山梨アビオニクス株式会社(YACL)は、この問題を解決するためにJAXA認定取得をベースとした評価試験を行いながら、継続的な生産活動をしています。本稿では、YACLが取得しているJAXA認定部品のさまざまな設計仕様の説明と今後の展開について報告します。
ロードマップの実現を支える技術と製品(誘導制御計算機)
林 伸善
日本の国産主力ロケットであるH-ⅡA/H-ⅡBロケットは、通算20機の打ち上げを行って連続14機の成功を重ね、国際的な信頼を勝ち取り競争力を高めつつあります。このようななかで、NECが担当している誘導制御計算機(GCC:Guidance Control Computer)は、部品製造中止に伴う宇宙航空研究開発機構(JAXA)殿による再開発の一環で、新GCCの開発を実施しています。新GCCでは新しいMPUを採用し、より高速高性能で小型軽量化を図っています。本稿では、これまでのロケット搭載計算機の開発経緯を紹介し、この新GCCの特徴と機能性能、及び今後のロケット用搭載計算機システムの取り組みについて述べます。
小惑星探査機「はやぶさ」
萩野 慎二
小惑星探査機「はやぶさ」は、月以遠の地球圏外の天体に着陸し、サンプルを地球に持ち帰った世界初の小惑星探査機です。NECは、「はやぶさ」のシステムインテグレータとして、システム全体の設計、製作、試験、運用を担当し、またバス機器やイオンエンジンなど多くの搭載機器も担当しました。本稿では、「はやぶさ」の設計や運用の概要を示し、「はやぶさ」の開発・運用で得られた成果と、今後の事業へのつながりについて紹介します。