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自販機電子マネー決済におけるM2Mの活用
Vol.64 No.4 2011年11月 Network of Things特集近年、電子マネーで購買可能な自動販売機が増えてきました。電子マネーには、小銭を用意する必要がないなど自販機に向いた性質があるため、電子マネー対応自販機はその数を増やしています。電子マネー処理をするために多くの自販機は無線通信を利用しており、自販機はM2Mの一デバイスとして位置付けることができます。本稿では、自販機における電子マネー処理の概要と、自販機における無線通信の活用方法を紹介するとともに、将来、M2M基盤を活用して自販機電子マネー処理を行う際のイメージについて考察します。
1. はじめに
自動販売機(以下、自販機)とは、飲料などの商品を無人で販売するための機械であり、商品の選択、代金の収納、商品の排出・提供などを自動的に行うことができるものです。2010年末時点で日本には400万台近い数の自販機が設置されています 1) 。全国、津々浦々どこでも気軽に飲料などの商品を手に入れることができるという意味で、自販機は日本の消費生活に欠かせない重要なインフラとなっています。
従来、自販機で商品を購入するには現金(コインまたは紙幣)を投入するのが一般的でしたが、2000年代後半から非接触ICカード技術 2) を用いた電子マネーによる購入を可能とする自販機が登場してきました。電子マネーには、コインを投入するのに比べて処理が早い、小銭がないときでも小額商品を購入可能である、盗難の心配がないなどの利点があり、自販機の支払い手段に適していると言われています。こうしたことから、電子マネーを利用可能な自販機の数は現在も増え続けています。
電子マネーでは、コインや紙幣といった物理的な貨幣の代わりに、電子的なデータのやり取りで決済処理が行われます。このため、電子マネー対応自販機は公衆無線などの通信手段を用いて電子マネーのセンターサーバとデータの送受信を行っています。自販機という機器が無線ネットワークを活用して通信をしているため、自販機における電子マネー処理はM2Mの一アプリケーションと位置付けることができます。
本稿では、電子マネー対応自販機における情報処理や通信インフラ活用の概要、NECが提供する電子マネー決済プラットフォームの紹介を行うとともに、自販機電子マネー処理におけるM2M基盤の活用の可能性について記述します。
2. 自販機における電子マネー決済
2.1 電子マネー決済処理の概要
自販機では、コインや紙幣などの貨幣の代わりに、電子データをやり取りすることで決済処理が行われます。 図1 を参照しながら自販機における電子マネー処理の概要を説明します。
- 1)まず、消費者が電子マネーカード *1 を利用して自販機で商品を購入します。
- 2)このとき、消費者の持つ電子マネーカードからは商品代金分の電子マネーが引き去られます *2 。
- 3)同時に、自販機の電子マネーリーダライタに、取り引きの詳細を記述したログデータが保存されます。
- 4)1日1回などのタイミングで、自販機内に保存されたログデータが電子マネー事業者のサーバに送られます。また、同じタイミングで電子マネー事業者サーバからネガデータ *3などを自販機が受信します。
- 5)電子マネー事業者によってログデータが集計され、利用額が電子マネー事業者から自販機の運営業者(オペレータ)に送金されます。
これらが繰り返し行われることにより、自販機の電子マネー決済処理が実行されます。
2.2 マルチ電子マネーサービス
現在、日本には数多くの電子マネーサービスが存在しています。Edy、WAON、iD、QUICPay、Visa Touchなど、それらの多くは全国ブランドの電子マネーとして多くのユーザーを擁しています。
第2章第1節では、1種類の電子マネーの処理を行う場合を説明しましたが、最近では日本の電子マネー事情を反映して、1つの自販機で複数の電子マネーを扱える例が増えています。例えば弊社が提供しているマルチサービスリーダライタシステム 3) では、Edy 4) 、iD 5) 、QUICPay 6) 、Smartplus / VisaTouch 7)8) 、WAON 9) の最大5種類の電子マネーを自販機で利用することが可能です。マルチサービスリーダライタシステムでは、利用者がどの電子マネーカードを所有していても利用可能であるため電子マネーの利用を促進するという側面があります。
(1) マルチサービスリーダライタ(MSRW)
マルチサービスリーダライタシステムを実現するために、弊社では2つの製品を提供しています。1つは、マルチサービスリーダライタ(以下 MSRW)です。MSRWは、1つのリーダライタで複数の電子マネーサービスを提供可能とする以下の機能を有しています( 図2 )。
1) マルチーサービスセキュリティ機能
MSRWでは、1台のリーダライタのなかに複数の電子マネーサービスのカードアクセス鍵とカードアクセスプログラムを格納することができます。鍵はSAM(Secure Application Module)と呼ばれるセキュリティの高いハードウェア内に保存され、外部から鍵の値を読み取ることができないようになっています。プログラムは暗号化されて保存され、やはり外部からの読み取りはできません。また、異なる電子マネーサービスのアクセス鍵とアクセスプログラムは、ソフトウェア的なファイヤーウォールで分離されており、お互いの電子マネーサービスの鍵やデータをアクセスすることができないようになっています。これらの機能により、1台のMSRWで複数の電子マネーサービスを安全に提供することが可能となっています。
2) オンラインインストール機能
MSRWでは、前述したアクセス鍵とアクセスプログラムをサーバからダウンロードしてインストールすることが可能です。この機能により、自販機を設置した後に必要に応じて電子マネーサービスをオンラインで追加することが可能となり、需要に応じた適切なサービス提供が可能となります。
(2) マルチサービスゲートウェイ (MSGW)
マルチサービスリーダライタシステムを実現するもう1つのソリューションがマルチサービスゲートウェイ(以下、MSGW)です。MSGWは、MSRWに導入する電子マネーの種類の管理と、MSRWが電子マネーサーバに送信するデータの中継と集計を行います( 図3 )。すなわち、MSRWは複数の電子マネーサーバに個別に取り引きデータを送信する代わりに全電子マネーの取り引きデータをMSGWに送信し、MSGWが各電子マネーサーバへのデータ送信を行います。これにより、MSRWから見ると複数の電子マネーサーバに対して通信接続を確保する必要がなくなるという利点が生まれます。また、電子マネーサーバから見ると、多数のMSRW端末から送られてくるデータ送信リクエストを処理する必要がなくなるという利点が生まれます。
- *1現在、日本で電子マネーを利用するには、電子マネー事業者が発行した電子マネーカードを利用する方法と、携帯電話に搭載された電子マネー機能を利用する方法とがある。本稿では、両者を合わせて「電子マネーカード」と総称する。
- *2プリペイド型電子マネーの場合。
- *3ネガデータとは、利用できない電子マネーカードの番号などを格納したデータ。
3. 自販機電子マネー向け通信インフラ
第2章で説明したような電子マネー決済処理を行うため、電子マネー対応自販機は通信インフラを利用します。自販機向け通信インフラとしては、有線接続、無線接続の両方があります。有線接続は、主としてビル内や駅構内などにおいて既設のネットワーク設備が利用可能なときに用いられますが、配線やネットワーク機器設定に手間が掛かるためか、無線接続が主流となっています。
無線接続の場合は、FOMA 10) などの公衆携帯電話網を利用したネットワーク接続を利用することが一般的です。自販機のなかに無線モデム(ルータ)やアンテナを内蔵したり、自販機の外に設置された無線モデム(ルータ)に電子マネーリーダライタからLAN接続する形態があります。
さて、公衆携帯電話接続の場合、電子マネーに関わるシステム運用コストの一定部分を通信コストが占めることになるため、通信コスト削減のためにさまざまな工夫がなされています。ここでは、そうした通信コスト削減の工夫を紹介します。
1) 公衆携帯電話回線の集約
自販機は複数台が同一個所に並べられて設置されることがあります。こうした場合、1台の自販機で1つの携帯電話回線を利用するのではなく、複数台の自販機で1つの回線を共用して回線の基本料金を削減することが可能です。弊社の自販機電子マネーリーダライタでは、LANポートを3つ搭載するuMルータ 11) を利用することで、複数の自販機を1つの回線に集約しています。
こうした施策が行われる一方、隣り合った自販機どうしが別々の運営会社によって運営されており、回線の集約が行えないという事例も存在します。回線コストの低減には、こうしたビジネス上の制約を解決していくことも必要と言えます。
2) 夜間のデータ送信
電子マネー処理は原則としてオフラインで行われるため、取り引きのたびに自販機とサーバ間での通信は発生しません *4 。主な通信は、日に1回程度のバッチ処理で行われます。一般に、公衆携帯電話では、夜間に通信量が減って設備に空きができます。このため、電子マネーの通信処理を夜間に限定して行う代わりに、通信料を割安にすることで、コストの削減を行うことができます。
ここに挙げた通信費用削減施策は、あくまでも電子マネーサービス対象の閉じた対策となっており、その効果には限りがあります。今後、公衆無線回線に依存しない無線ネットワークの活用や、電子マネー以外のさまざまなサービスを横断することで、よりいっそう効率的な通信費用の削減ができるようになることが期待されます。
- *4一部の電子マネーでは、一定の割合で取り引き時にオンライン通信が発生することがあるが、これは100回に1回などの非常に低い割合でしか発生しないため、通信コストへのインパクトは少ない。
4. 自販機におけるM2M基盤の活用
自販機では電子マネー決済以外に、自販機内の商品の在庫状況や売上情報をセンターから把握・管理するための検量システムなどのサービスが存在します。また、最近では節電のために電力消費状況の把握や電力制御などに対するニーズも高まってきています。また将来的には、自販機に取り付けたセンサから都市の温度や騒音などの情報を収集するようなサービスも実現される可能性があります。
現在、こうした複数のサービスは、それぞれが独自の通信網とサーバシステムを持って運用されています( 図4 )。
将来、M2M通信が広く使われるようになり、M2M通信を統一的に扱うようなM2M基盤が普及すると、自販機におけるサービスの処理も大きく変わると考えられます。 図5は、M2M基盤を活用した自販機通信サービスのイメージです。
さまざまなサービスのデータが自販機で発生すると、M2M用に集約された通信回線を通じてM2M基盤サーバに送信されます。M2M基盤では、必要なデータを抽出して各種の処理を行うサーバにデータの振り分けを行います。
このような仕組みを利用することで、通信回線が集約できたり、複数のアプリケーションで同じデータを共有したり *5することが可能となります。また、通信を利用したサービスの追加が容易になるため、自販機をインフラとしたような通信サービスが数多く利用されることが期待されます。
一方、サービスが異なると、データ処理に要求される信頼性・頻度・性能なども異なります。例えば電子マネーの取り引きデータは金銭に関わるデータであるため、データが失われたり盗聴されたりすることは許されません。一方、環境データなどは信頼性よりも、大量に発生するデータを効率良く処理することが求められます。自販機に対してM2M基盤を適用するには、このような課題の解決が必要となります。
- *5図5においては、環境データを複数アプリケーションが利用する例を示している。
5. おわりに
本稿では、自販機における電子マネーの処理の概要を述べるとともに、自販機における複数の通信サービスがM2M基盤によって統一的に扱われる可能性について考察しました。
自販機は、日本に約400万台存在します。この自販機がM2M通信インフラ及びM2M基盤に接続し、さまざまな通信サービスが追加されるようになると、商品を売るという役割に加えて、自販機自体が社会のインフラとしてさまざまな役割を果たすようになることが考えられます。こうした社会インフラ化に向けては、弊社の「CONNEXIVE」のようなM2Mサービスプラットフォームの活用も有望な手段であると考えられます。
- *「WAON」は、イオン株式会社の登録商標です。
- *「iD」「FOMA」は、株式会社NTTドコモの商標または登録商標です。
- *「QUICPay」は、モバイル決済推進協議会が推奨するポストペイ型非接触IC決済サービスです。
- *「Edy(エディ)」は、ビットワレット株式会社が管理するプリペイド型電子マネーサービスのブランドです。
- *「Smartplus」は三菱UFJニコス株式会社の商標、または登録商標です。
- *「Visa Touch」は、ビザ・ワールドワイドの商標、または登録商標です。
参考文献
- 1)「2010年末自販機普及台数及び年間自販金額」、日本自動販売機工業会
- 2)「特集 非接触ICカード技術とその展開」、情報処理学会会誌「情報処理」 Vol.48 No.6
- 3)
- 4)
- 5)
- 6)
- 7)「Smartplus(スマートプラス)」
- 8)
- 9)
- 10)
- 11)
執筆者プロフィール
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