OSSにおける運用完全自動化へのNECの取り組み

Vol.75 No.1 2023年6月 オープンネットワーク技術特集 ~オープンかつグリーンな社会を支えるネットワーク技術と先進ソリューション~

通信事業者のネットワーク設備は、基地局をはじめ世界中に膨大な数が配備されていて、事業者1社当たり100万を超えることもあります。設備は日々、新規構築され、更新され、故障し、修理されており、日夜、インフラ保守にかかわる多くの人々に支えられています。そんなネットワーク設備の「運用」を担うのがOSS(Operation Support System)といわれるシステム群です。本稿では、人間による作業を極力減らし、ネットワークが自ら自律的に動作することでゼロタッチでの運用を目指すAutonomous Networksの考えのもと、NECが開発している次世代OSS/オーケストレーション製品を紹介します。

1. はじめに

Beyond 5G/6G時代の通信事業者ネットワークにおいては、エッジデータセンター技術が十分に普及しており、基地局や固定ネットワークのアクセス網、コア網にわたって仮想リソースが、数千(日本国内の場合は1,000~10,000程度)箇所の小規模データセンターに地理的・ネットワーク的に分散配置されることとなります。そのような分散されたリソースの構成や配置を、時間的・空間的・消費電力量的・ネットワーク性能的に最適化することが重要となります。しかし、その最適化にかかる変動パラメータとしては膨大な変数の考慮が必要であり、配置設計を必要とされる時間内に人手で完了させることは計算量の観点から困難であるため、ネットワーク自身が自律的に構成を変化させることが課題となります。

2. 世の中の取り組み

ネットワーク自身が、自律的に構成を変化させるための取り組みとして、仮想化とAIを組み合わせてオペレーションの自動化を実現する「Autonomous Networks」に注目が集まっています。TM Forumでは、その構想を6段階の自動化レベル(図1)として定義1)・議論しています。世界の通信事業者の多くは、現状として、レベル1または2を実現していると回答しています。更に、今後3年間で、多くの事業者がレベル3、4で運用予定であるとされています2)

図1 Levels of Autonomous Networks

レベル5、すなわち運用完全自動化を実現するためには、Intentの取り組みは重要不可欠であり、人間の「意図」を含めた解釈が可能な高度なシステムが求められています。

3. NECの取り組み

3.1 全体像

NECは、Autonomous Networksレベル5を実現し運用自動化を実現するためのソリューションとして、NEC Operation Support System(以下、NEC OSS)の開発を進めています。

NEC OSSは、Assurance、Fulfillment、Orchestration(オーケストレーション)の領域をカバーしOperation Systemに必要な要素を具備しています。また、マイクロサービス化された機能を組み合わせることができるフレームワーク製品であり、フルスクラッチの柔軟さとパッケージ製品のベース機能の両面の特長を持っています(図2)。

図2 NEC Operation Support System Portfolio

また、日本市場において近年顕在化している課題に、「2025年の人材の崖」3)に代表される人材不足やサービス提供の迅速性への対応があり、この解決策として、業務をデジタル化(以下、DX化)する機運の高まりと、通信事業者自身が開発運用を行う内製化への期待も高まっています。こうした新たなニーズに対応するためにNEC OSSは、No/Low-Code*1の仕組みを備えており、カスタマイズ性の高さに加え、内製化への取り組みを加速する支援メニューなどを備えたソリューションとなっています。

第3章2節より、各領域の特長を示します。

3.2 Assurance

Assuranceシステムは、通信事業者のネットワークの運用保守業務に必要となる監視機能を提供します。NECのAssuranceシステムは保守業務の効率化、高度化を可能にし、保守稼働削減や迅速な障害復旧を実現します。

現在、通信事業者では3G/4G/5G/6Gの複数世代のネットワーク、ネットワーク仮想化/クラウドネイティブ化による管理階層の増加によりネットワークが複雑化しており、保守稼働増加、障害復旧の長期化が課題となっています。

NECのAssuranceシステムはマルチベンダーの装置に対応し、Fault Management、Performance ManagementやIT Service Management(ITSM)領域であるチケット管理や変更管理など、ネットワーク監視に対応した機能を具備しています。また、監視/分析/措置といった一連の保守フローを自動化するオートメーション機能も具備しており、アラームやパフォーマンス情報などの組み合わせ条件を契機とした自動制御の実行や、装置のトポロジー情報やアラーム情報を用いて主原因を自動で特定するコリレーション分析が可能です。図3に、NECのAssuranceシステムの機能構成を示します。

図3 Assuranceシステム機能構成

NECはAI/Machine Learning(ML)による保守業務の高度化についても取り組んでいます。アラーム発報がないという障害であるサイレント障害の検知や、予測データと実績データを比較することで、平常時とは異なる異常を検出する予兆検知を実現しています。また、AI/ML分析に必要となるビッグデータ蓄積基盤、マルチベンダーのAI/MLエンジンの管理が可能なAI/MLエンジン管理プラットフォームも提供しています。通信事業者に最適なAI/MLを選択し、導入することが可能です。

3.3 Fulfillment

Fulfillmentシステムは、通信事業者の管理する通信ネットワークの構築業務に必要なネットワークの設計・設定・試験の機能を提供します。

近年、通信事業者では5Gへの移行によりエリア拡大のために急速な基地局建設が課題となりました。また、ネットワークが複雑化するなかで、サービスの多様化や品質の確保、消費電力削減への取り組みが求められ、通信事業者ではFulfillment業務の自動化を進めています。今後Beyond 5G/6Gネットワークでは5G以上に高速・大容量・低遅延のデータ通信提供が求められるため、更なるネットワーク構築業務高度化への取り組みが必要になってくると考えています。

NECのFulfillmentシステムは、基地局建設を行うプロビジョニング機能や設備管理、置局工事で必要なネットワークロールアウトの機能を具備し、物理・仮想ネットワーク設備の導入及び新設/増減設を一元管理しリソースの効率化を実現します。図4にNECのFulfillmentシステムの機能構成を示します。

図4 Fulfillmentシステム機能構成

また、NECの研究技術である自動設計技術のAIと連携した計画・設計業務の自動化や、クラウドサービスを利用してネットワークの設定から試験までを自動化する自動構築技術の実現に向けても取り組んでいます。

3.4 Intent-Driven Orchestration

AssuranceとFulfillment、または他の機能や隣接システムなど、さまざまな情報や機能を組み合わせて高度なオペレーションや広範囲の業務自動化を実現する重要な役割を担うのがOrchestrationです。

ネットワーク全体でのオーケストレーション (End-to-End Orchestrator:E2EO)、ネットワークドメイン単位でのオーケストレーション(Domain Orchestrator)、ドメイン内のリソース単位のオーケストレーション(Resource Orchestrator)など、さまざまなレイヤ・ドメインでのオーケストレーションがありますが、NECのオーケストレーションはマルチレイヤ・マルチドメインのオーケストレーションを共通プラットフォームにより提供します。

また、外部接続インタフェースやフロー制御などを開発レスで変更可能な高いカスタマイズ性と拡張性を具備しており、これによりネットワークやサービス、リソースの状態に合わせてさまざまな機能・システムと連携して動作する柔軟なオーケストレーション機能を迅速に導入し、継続的に進化させることが可能となります。

更に、近年ではIntent-Driven Orchestrationが注目され、TM Forum、ETSI、3GPP、ITU-Tなど多くの標準化団体で議論されています。Intent-Driven Orchestrationではユーザーやオペレーターなど人のIntent(意図、目標、期待)を宣言的に伝達し、Intentに合わせてシステムが自律的に動作します(図5)。Intent及びIntent-Driven Orchestrationは前述のネットワーク運用の自動化レベル5、つまり完全自動運用に欠かせない技術と考えられていますが、新しい技術のためまだまだ多くの課題もあります。NECでは2010年代後半から技術研究・製品開発、実証実験(PoC)などを行い、Intent-Driven Orchestrationの実現に向けた取り組みを行っています。

図5 Intent-Driven Orchestrationの概念

3.5 DX/内製化

今後、国内企業では、既存の運用システム(レガシーシステム)に携わってきた人材が定年退職の時期を迎え、人材に属していたノウハウが失われ、運用システムのブラックボックス化が懸念される「2025年の崖」へのリスクなどもあり、多くの企業で「運用自動化」への移行が急務となっています。

その一方で、これから先VUCAと呼ばれる先が見えない時代、目まぐるしく変化するシステム運用環境において環境変化、技術・事業の変化に対し柔軟に、かつスピーディに対応できる運用システムが必要になってきます。

このため、昨今ではシステム開発を外部のITベンダーに依頼する従来のやり方(アウトソーシング)から、スピーディに社内でシステム構築し、運用・開発を行う「内製化」への転換を多くの企業が模索しています。

しかし、IT部門の人手不足や社内に開発要員の育成の仕組みがないなど、組織や文化に課題を抱えており「運用自動化」への検討や移行ができていない企業も多く存在します。そのため、NECではDX 推進によるOSS領域での「運用自動化」実現に向けて、大きく3つのアプローチを実施しています。

1つ目は、NECの国際標準化活動における知見を生かし、既存業務を変革し、ベストプラクティスの適用や標準アーキテクチャ技術を定着化させることを目的とした「教育や人材育成による組織変革を推進するアプローチ」になります。

2つ目は、内製化の導入支援として、通信事業者のエンジニアとNECがともに一体となって運用システム開発を行うことにより、「運用自動化」に必要なシステム要件に基づく開発スキルを向上することやノウハウを蓄積するなどの「エンジニアリング文化の醸成を支援するアプローチ」になります。

3つ目は、前述したNEC OSSのNo/Low-Code開発プラットフォームの導入・提供による「レガシーマイグレーションを軸としたアプローチ」になります。

これらの活動を通し、NECでは企業のDX推進による業務の「完全自動化」を支援しています。

  • *1
    No/Low-Code:プログラミング言語によるコーディングを行わず(No)または、最小限(Low)にとどめ、GUIやツールを利用してアプリケーション開発を行う仕組み。
  • *2
    FCAPSとは、障害管理(Fault Management)、構成管理(Configuration Management)、課金管理(Accounting Management)、性能管理(Performance Management)、機密管理(Security Management)を指し、Open Systems Interconnection(OSI)のネットワーク管理システムの設計で使用する共通フレームワークモデルのこと。

4. むすび

本稿では、NEC OSSにおける運用自動化への取り組みについて、Assurance、Fulfillment、Intent-Driven Orchestration、DX/内製化に分けて紹介しました。NECは今後もBeyond 5G/6GネットワークでのAutonomous Networksの実現を目指し、研究開発を進めます。

参考文献

執筆者プロフィール

渡邉 正弘
BSS/OSS統括部
ディレクター
黒田 貴明
BSS/OSS統括部
プロフェッショナル
池田 仁
BSS/OSS統括部
主任
村松 英二
セキュアシステムプラットフォーム研究所
主任
山下 達矢
NEC通信システム
第二テレコムソリューション事業部
主任
藤本 淑美
NEC通信システム
第二テレコムソリューション事業部
主任