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自治体DXに向けた取り組み
社会システムのDXを実現する技術 ~ 政府・行政サービスのDXここ数年におけるブロードバンド網の発展やスマートフォンなどの電子デバイスの普及により、行政においても、署名と押印を前提とした行政手続きが大きく見直されることとなっています。更に紙をなくしすべての行政情報がデジタルとなることにより、AIなどを活用したビッグデータ活用がその利用範囲を広げ、新たな価値を生む可能性が高まっています。
本稿では、このような環境において、行政と国民との接点である地方公共団体のDXに向けた取り組みについて、業務標準化や実証実験の内容を中心に紹介します。
1. はじめに
今、日本は、大きな転換期を迎えていると考えます。人口減少に伴う超高齢社会への突入をきっかけに、社会保障費の高騰やインフラ老朽化対策などによる財源不足、労働力不足など、大きな課題が山積みとなっています。加えて、2020年度には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)による社会変化、特に新たな生活様式への変貌など、私たちの身近な生活も変わっていかなければならない状況となっています。そのようななか、2021年9月1日に新たに設置される予定のデジタル庁では、前述した課題を踏まえた6つの重点取り組み事項が挙げられており、自治体事務を変革するとともに、私たち住民の利便性を向上させる施策についても取り組まれる予定です。
第2章より、これまでの自治体システムの変遷を紹介しながら、デジタル庁を中心とする自治体DXへの大変革について、行政の取り組みとNECの事例について紹介します。
2. 自治体システムの変遷
古くは手作業から始まった自治体事務ですが、時代を経るごとに、電算化、情報化、そして標準化と大きく変化してきています。第2章では、今日に至る自治体システムの変遷を簡単に整理します。
2.1 手作業~汎用機導入
1947年4月に地方自治法が制定され、戦後復興真っただ中の時期に今の都道府県の形へと再編され、新しい自治体運営が始まっています。当然ながら自治体事務は手作業で進められ、以後30年あまり手作業での自治体運営が続きました。
1970年後半から1980年代に、安定した運用で大量の事務処理に適している汎用機(レガシー)が徐々に自治体に導入されていきましたが、この段階では自治体個別に汎用機を作りあげるという個別最適にとどまっていました。
2.2 オープン系パッケージ導入
1990年代以降、ベンダーによる自治体向けパッケージの開発・提供がはじまり、個別で開発していた自治体業務システムもパッケージという形態に変わってきました。
更に2000年代になると、技術進歩により小型で性能の良いサーバの出現、情報ネットワークの普及などにより、これまで大幅なコストが掛かっており、特定ベンダーに依存する必要のあった汎用機から脱却し、全庁的に統一(全体最適)したパッケージを導入する動きが活発化し、自治体は小型化・オープン化へと舵を切りました。ただしパッケージを導入するにしても、自治体事務に合わせて個別にカスタマイズを実施しており、IT投資額の低減など、まだ余地のある状態でした。
2.3 クラウド化・マイナンバー制度開始
2000年代後半になると、小規模な自治体においてはシステムの共同化・クラウド化が進み、一般的にいわれる「自治体クラウド」が促進されてきました。
加えて2010年代になると、マイナンバー制度が制定され、国民一人ひとりにマイナンバーが付与され、より国民の利便性向上を図る制度・ICT施策が推進されるようになりました。
3. 自治体DXへの大変革
前述したように、これまで自治体システムにおいては、汎用機~オープン系パッケージ~(小規模自治体における)クラウド化が進められてきましたが、今度は「標準化」「共通化」が進み、更なる自治体事務の効率化、IT投資の低減が図られていくことが求められています。加えて、COVID-19による臨時給付金の申請など、マイナンバーカードの利活用や住民との接点に関するデジタル化において、日本はまだ弱い部分でもあります。今後はデジタル庁を中心に、これらのデジタル化も加速されていく見込みです。
第3章では「標準化・共通化」「行政手続きのオンライン化」「自治体のAI・RPAの利用促進」について、現在の行政の動きなどを紹介します。
3.1 標準化・共通化
2017年に「自治体戦略2040構想研究会」が発足し、2040年頃までの課題及び対策についてまとめられました。このなかで、今後労働力の絶対量が不足していくなか、人口縮減時代のパラダイムへの転換が必要として、「自治体行政の標準化・共通化」が挙げられています。
以降2018年に「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)」、2019年に「自治体システム等標準化検討会」が立ち上がり、自治体業務17業務の標準仕様の取りまとめが開始されました。
そして2021年4月現在、住民記録の標準仕様が公開され、順次2021年夏頃に第1グループ(介護・障害者福祉、就学、地方税(固定資産税・個人住民税・法人税・軽自動車税))、2022年夏頃に第2グループ(児童手当、選挙人名簿管理、国民年金・後期高齢者医療・生活保護・健康管理・児童扶養手当、子ども・子育て支援)の標準仕様書が公開される予定となっています。
標準化に対応することにより、これまで自治体で個別にカスタマイズを実施してきたことで高止まりしていたIT投資を低減するとともに、システム導入に関わっていた職員工数を、真に必要とする自治体事務に振り向けることで、自治体運営の高度化、住民サービスの更なる向上の実現を目指すものとなります。
NECは、住民記録の標準仕様書への完全準拠とともに、今後公開予定の業務においても、標準仕様書への完全準拠を目指しています。また国が認定する「(仮称)Gov-Cloud」にも対応し、クラウドサービスでの提供も可能としていくことで、行政・自治体が目指す姿の実現を支援します。
3.2 行政手続きのオンライン化
「標準化・共通化」に加え、COVID-19での臨時給付金でも課題が浮き彫りになった住民からのオンライン申請についても、重要取り組み事項として挙げられています。住民がマイナポータルからマイナンバーカードを用いて、オンライン手続きを可能とする取り組みとなります。子育て(15手続)、介護(11手続)、被災者支援(罹災証明書)及び自動車保有(4手続)の計31手続が今回対象となっており、2022年度末を目標に全自治体での整備を目指しています。
これに合わせ、マイナポータル側のUX・UI改善及び自治体基幹システムまでのネットワーク疎通を実現することで、住民は自宅に居ながら申請が行えるようになります。NECは、このオンライン化にも積極的に取り組みます。詳細な実現方法などは、第4章の先進事例で紹介します。
3.3 自治体のAI・RPAの利用推進
前述したスマート自治体研究会において、「破壊的技術(AI・ロボティクスなど)を使いこなすスマート自治体」へ転換するためにも、自治体事務においてAI・ロボティクスが処理できるものは、すべて処理すべきと提言されています。2020年2月時点では277団体での導入にとどまっていますが、標準化・共通化が進むことで、本取り組みも加速度的に増加するものと考えます。NECにおいても、RPAだけではなく、AIを活用したさまざまな事例がありますので、第4章の先進事例で詳細を紹介します。
4. 先進事例
4.1 スマート行政窓口ソリューション
自治体で取り扱う住民基本台帳は、住民の居住関係を公証することにより、住民の日常生活の利便を図るとともに各種行政事務の基礎資料となるものであるため、市町村長が住民の居住に関する事実を正確に把握し、その記録を整備しておくことが求められます。特に個人情報に対する住民意識の高まりと住民基本台帳に対する信頼性向上を図るため、現在の届出受付事務においては全国的に統一された本人確認手続きの厳格な取り扱いが行われています。
そのようななか、昨今の急速な自治体DX化により、オンライン申請の整備が叫ばれていますが、なりすまし防止及び本人申請確認の厳格さが求められ、住民基本台帳法における電子届出については公的個人認証サービス(JPKI)を活用した手続きを求められています。一方で、転入・転居の手続きについては、対面手続きの原則が求められています。加えて、昨今のコロナ禍において課題が浮き彫りとなった窓口手続きについて、見直しが急速に行われ、マイナポータルを活用した手続きの普及を目指した政策が推し進められています。
NECは、前述した状況を踏まえ、スマート行政窓口ソリューションの開発を進めています。大きな特徴としては、対面手続きが求められる転入・転居において、より効果が発揮されるペンタブレットを活用した申請手続きの受付機能です。具体的には、住民が申告してきた情報を職員が補正し、更に住民が氏名に使われる特殊な文字(外字)の検索に、筆書き(ストローク)から検索できるようにする工夫や、そのストローク情報を保存し、本人特定が行える技術を活用しています。住民票などの証明書に印字する字体については、通常のパソコンなどで取り扱う文字とは異なり特殊な文字で正確に確定させる必要があり、その字形確定においては、職員が専用ソフトウェアを活用して手書きされた文字を目視確認して入力していました。今後は、住民自ら文字の候補を選択し、確定できるようにすることで、住民によるセルフ手続きにより届出を完結できる将来を目指します(図1)。
4.2 マイナポータルお知らせ機能
第4章1節で紹介したスマート行政窓口ソリューションは、住民が自治体に対して手続きを行うにあたり、主に、職員側の負荷軽減を実現するものとなります。しかし、国は、マイナンバーカードの普及を推し進めており、住民が自治体に来庁することなく手続きをオンラインで完結できるようになる未来を描いています。これが実現されることにより、従来は来庁し紙での申請を行っている流れがオンライン申請に切り替わることで、今までは庁内の窓口で住民と職員が対面で実施していた業務が大きく変わってくることとなります。その手段の1つとして、マイナポータルの利活用を国は推し進めています。マイナポータルには自治体から住民へのお知らせ通知機能が搭載されており、この活用が今後活発に行われることが予想されます。
マイナポータルお知らせ機能は、既に利用可能となっている機能ですが、マイナンバーカードがまだ普及しきれていない現状では、なかなか浸透していない状況です。また自治体からの通知文書を、電子的にシステムが送付するためには、送付するインタフェースに変換するためのシステム改修が必要であり、利用者である住民がまだ少数である現状では、費用対効果を意識する自治体では広がりが乏しいのが実情です。そこで、NECは、PDFファイル形式からテキスト情報を抽出する独自技術を駆使し、電子文書からシステム連携するXMLファイル形式を生成したうえで、送付先住民の宛名番号を外部から指定できる専用のツール開発を行いました(図2)。これにより現行の基幹系システムを大規模に改修しなくても、マイナポータルのお知らせ通知への連携が可能となる仕組みに成功しました。これにより、システムで作成する送付文書だけでなく、任意のお知らせ文書(Wordなど)にも活用することができるようになります。従来の紙による通知であれば、その印刷コスト、郵送コストが掛かっていましたが、デジタルで通知することによりコスト低減になると同時に、郵送先での対象者不在による返戻リスクも回避されることで、返戻処理による事務処理負担軽減にも役立つものとなります。
4.3 AI例規
自治体の事務は法律に基づいて実務が行われていますが、その法律も多岐にわたり、解釈により判断が難しいケースも存在します。またデジタル化など社会情勢も変化しており、過去の判例や法解釈だけでは判断が難しい場合は、事務連絡などが補足として発出されることもあり、自治体職員は最新の法律と各種事務連絡などを踏まえた判断が求められています。この多岐にわたる資料を見て、職員は確認作業を行い判断する必要があり、職員負荷軽減が叫ばれてきました。
そこで、NECはテキスト含意技術を有するNEC自動応答を活用し、自治体向けに法令集を検索するためのAI例規アシスタントを開発し実証を行いました(図3)。具体的には、キーワード検索とは異なり、文脈を読み取ってAIがテキスト含意分析した文章を、原文に近いと判断したものから順に並べて表示するため、まったく異なるキーワードが並んだ文章でも、意味的に近い文章を検索することが可能になります。また、1問1答形式とせず、1問復答で表示させるため、質問者が意図した回答を得るまでの時間がチャットボット形式よりも削減されるなど、効率化の工夫が施されています。
更に、コンテンツは職員が育てるのではなく、自治体事務に関する書籍を発行している出版社から提供される書籍データをインプットすることで、速く正確な回答が得られること、幾多の法改正にも書籍データが迅速に対応するため、情報の鮮度維持がされることなど、自治体業務を支援するソリューションとしては重要な要素と考えています。
5. むすび
デジタル庁の設置、またCOVID-19の影響などにより、自治体市場においてもますますデジタル化が加速していくと思われます。NECとしても本稿で紹介した事例のみならず、最新テクノロジーを駆使し、自治体業務、住民サービスの利便性に今後も寄与します。
執筆者プロフィール
公共システム開発本部
シニアマネージャー
デジタル・ガバメント推進本部
シニアエキスパート
公共システム開発本部
マネージャー