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音声の可視化による学びの改革 協働学習支援ソリューション
社会システムのDXを実現する技術 ~ 政府・行政サービスのDX新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡⼤を受け、子どもたちや教員、学びを⽀える事業者には新たな学び方/働き方の実現が求められています。
NECのスマートスクール事業が提供する学習コンテンツの1つ「協働学習⽀援ソリューション」は、遠隔形式の“アクティブ・ラーニング”などのオンライン学習におけるグループ活動を支援し、子どもたちの発話からさまざまな特性(学習キーワード出現回数、子どもたちと教員の発話率など)を可視化・分析することで、子どもたち一人ひとりに効果的な指導の実現を支援します。
1. はじめに
Society 5.0の実現に向けて、社会のさまざまな分野でデジタル化への対応が進むなか、教育においても、ICTの活用をはじめとする教育改革が推進されています。
本稿では、教育機関を対象にNECが提供する、NEC教育クラウド「Open Platform for Education(以下、OPE)1)」と教育支援サービス「協働学習支援ソリューション」の概要と将来の展望について紹介します。
1.1 教育改革—改訂学習指導要領の要請
2019年4月に施行された学校教育法などの一部を改正する法律により、通常の教科書に加えデジタル教科書との併用が可能になり、2020年度には改訂学習指導要領に沿って小学校段階から「プログラミング学習」や「外国語教育」が導入されました。
文部科学省は、改訂学習指導要領の基本方針として、新たな時代に必要となる資質・能力の育成を掲げており、そのための主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング、協働学習)の実現や学習評価の充実など、学校教育の質的改善を要請しています。
現在、全国の学校では改訂学習指導要領での基本方針を受け、多様な方法で子どもたちの対話を重視した授業が実践される一方、協働学習型の授業を定量的なエビデンスに基づいて評価する仕組みの整備が課題となっています。
1.2 教育改革—GIGAスクール構想の実現
改訂学習指導要領施行と時をほぼ同じくして、2019年12月に文部科学省は「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想2)」を打ち出しました。
GIGAスクール構想は、Society 5.0時代を生きる子どもたちに「1人1台端末及び高速大容量の通信ネットワーク」を一体的に整備するとともに、クラウド活用推進、ICT機器の整備調達体制の構築、利活用優良事例の普及、利活用のPDCAサイクル徹底などを推進します。これにより、特別な支援を必要とする子どもを含め、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現することを目指しています。背景として、長年、教育におけるICTを基盤とした先端技術などの効果的な活用が求められる一方で、地方交付税による学校ICT環境の整備の遅れや自治体間の格差が生じてしまっているという課題がありました。
その後、2020年4月には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の感染拡大に伴い、臨時休校などの緊急時にもICTを活用しながら子どもたちの学びを保障する取り組みが喫緊の課題となり、4年で実現を目指していたGIGAスクール構想は文部科学省の後押しもあり、1年で概ねやり遂げました。
2. NECのスマートスクール事業
NECでは、文部科学省による教育改革の早期実現に向けて、スマートスクール事業を推進しています。次に、各製品について説明します。
2.1 NEC教育クラウド「OPE」
NECでは、2020年度にGIGAスクール構想で導入される学習者用端末とともに、シングルサインオンで教材コンテンツをシームレスに活用可能とするNEC教育クラウド「OPE」の提供を開始しました(図1、2)。実践的英語力を鍛える教材、プログラミング教材、全教科対応ドリル教材を活用し、前述の「新しい学び」「GIGAスクール構想における学びの保障」をサポートします。
2.2 協働学習支援ソリューション
主体的・対話的で深い学びを実現するアクティブ・ラーニングや協働学習において、教員が子どもたちを指導・評価するには、学習結果だけでなく、学習の過程における子どもたちの情報が重要となります。具体的には、子どもたちが授業の中で作成したワークシートなどの成果物だけでなく、授業中の発話内容、子どもたちの意見交換の活発さ、意見交換が活性化する契機となる発話などが評価に有用と考えられます。そのため、協働学習過程における子どもたちの発言を教員が授業中もしくは授業後に確認でき、評価・授業改善へ活用可能な技術が求められています。
本ソリューションは、「OPE」上で提供する予定である複数のAI技術を活用した教育支援サービスです。協働学習を行う際に、GIGAスクール構想で導入された1人1台の端末に接続したマイクにより、協働学習中の教員と子どもたち一人ひとりの発話をとらえ可視化することで、教員による指導改善や子どもたちの評価におけるエビデンス提供などの観点で学校現場のニーズに応えます。
3. 本ソリューションによる教育的価値の創出と仕組み
協働学習支援ソリューションが提供する教育的価値と発話情報を可視化する仕組みを紹介します。
3.1 教育的価値について
本ソリューションが提供する主な教育的価値は、次の3点と考えます。
1点目は、教員が適切なタイミングで机間指導、子どもたちへの声掛けを可能とする点です。協働学習では、教員1人に対して、複数の子どもたちで構成される複数のグループが、並行して異なる議論を同時に進行します。教員が適切なタイミングで全体や各グループ、個人に働きかけられるよう、優先的に働きかけるべきグループや個人を教員へ授業中にリアルタイムにお知らせ(アラート)として通知できます(図3)。学校現場では限られた授業時間の中で、より効果的な指導の実現が求められるため有用と考えます。
2点目は、授業後の評価において、授業中の教員の発話及び子どもたちの意見交換の活発さや内容を時系列でテキスト情報として確認でき、必要に応じて各発話を音声として再生できる点です(図4)。テキスト情報だけでは把握しきれない授業時の教員及び子どもたちの発話トーンや周囲の様子を把握することができ、振り返り・分析に有用と考えます。
3点目は、蓄積した複数回の学習データをもとに、教員及び子どもたちの発話量の推移などの統計情報を確認できる点です。教員においては、自身の授業の統計的な振り返りを可能とし、指導改善に有用であり、子どもたちの評価の観点においては、成長や変容を見とることが可能になると考えます(図5)。
3.2 実現方式について
本ソリューションは、「OPE」が提供する認証機能と、教員及び子どもたちの発話情報を有用な情報へと変換する音声認識・話者認識・感情解析などのAI技術によって実現しています(図6)(関連特許申請中)。
学校現場では、教員と子どもたちの端末に接続したマイクにより、協働学習中の教員と子どもたち一人ひとりの発話をとらえ音声情報へ変換、発話者を特定したうえで、発話テキスト・発話量・感情変化・学習すべきキーワードの出現状況などの情報へ加工します。そして、それらの情報を活用して、優先的に働きかけが必要なグループや個人に関するお知らせ(アラート)として教員へリアルタイムに通知します(教育的価値1点目)。
すべての解析・加工した情報は、授業と個人に紐付く形で音声情報と合わせて蓄積します。そのため、各発話のテキスト単位での音声再生が可能となる他、特定範囲内の音声情報を連続再生することが可能です(教育的価値2点目)。
そして、蓄積された情報は、授業単位だけでなく統計情報として教員及び子どもたち一人ひとりの指導・学習履歴として管理できるように、本ソリューションは構成されています(教育的価値3点目)。
4. おわりに
本ソリューションは2021年現在、実証段階にあります。2019年より、義務教育段階における個々の子どもに応じた学習の実現と教員の指導力向上を目的として、京都市内の実証校4校(小学校2校・中学校2校)を対象に、協働学習における学習状況の可視化・評価に関する実証3)4)を継続的に行っています(写真)。
実証開始当時は、教室内において教員及び子どもたちが密接な状態での協働学習を前提とした検証を推進していました。しかし、現在はCOVID-19に伴い、教員及び子どもたちが物理的に離れた環境での協働学習を想定した検証を行うなど、多様なユースケースを想定し、環境面・技術面の課題に取り組んでいます。
これら課題の早期解決・教育改革への貢献に向け、NECだけでなく各技術分野を専門とする事業者との協業も視野に入れ、今後も取り組んでいく予定です。
参考文献
執筆者プロフィール
第一官公ソリューション事業部
シニアマネージャー
第一官公ソリューション事業部
エキスパート
第一官公ソリューション事業部
マネージャー
第一官公ソリューション事業部
主任