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転換期にデジタル活用で拓く未来

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を通じ、日本はデジタル後進国であるという現実が浮き彫りになりました。今、必要なことの一つは、感染症対策と質の高い未来を同時に実現するデジタル技術の活用です。デジタル実装においては、これまでの経済や産業の枠組みの延長ではない、非連続の発想が求められるでしょう。

デジタルインテグレーション本部 主席ディレクター 岩田 太地


発見、デジタル先進国の意味

2019年5月にデンマークを訪れて肩透かしを食らった気になりました。デジタル先進国だと聞いていたのですが、首都コペンハーゲンにデジタル活用を感じる風景が見当たらなかったからです。デジタル技術から想起していたイメージとは程遠く、夕方5時には仕事を終え運河の畔で思いおもいに北欧の涼しい夏を謳歌する人たちの光景が印象的でした。

ところが、2019年2月にNECグループとなったデンマークの大手IT企業であるKMDや政府関係施設を訪れるにつれ分かったのは、デジタル活用が可能にした姿の一つが夏を謳歌する人たちの姿だったということでした。

自然資源も少ないデンマークは、デジタル技術を徹底的に活用することで、生産性を高め人びとの豊かな生活中心の社会を実現してきたのです。

また、驚いたのは経済発展と資源消費のディカップリングを実現していることです。デンマークの革新的な気候変動対策を進めるプライベート・パブリック・パートナーシップ団体であるState of Greenによると、デンマークのGDPは2018年時点で1980年対比2倍に成長していますが、CO2排出量と水使用量は約40%削減しています。その理由は、市民による行動様式の変換などの努力に加え、エネルギー使用量のデータ予測により代替エネルギーの使用量を増やすなど、デジタル技術活用が大きく貢献しているのです。

デジタル後進国—日本

諸外国と比較し新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)対策にデジタルツールを活用しきれなかった日本では、デジタル後進国であるという現実に直面しました。

公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較」1)によると、経済協力開発機構(OECD)データに基づく2018年の日本の労働生産性は加盟36カ国中21位、G7ではダントツの最下位です。

デンマーク、ノルウェーやスイスのようなデジタル先進国と評価されている欧州諸国は1990年代から労働生産性を上げているのに対し、日本は1990年代から下げています。米国やドイツといった主要先進7カ国においても、2000年代以降、日本の国民1人当たりのGDP順位はイタリアと並んで最下位周辺を低迷しています。日本は2010年から2018年の間に名目ベースで22%上昇していますが、他国と比べて生産性は上がっていないのです。

デジタルニューディール

日本政府は、2020年7月17日に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)でPost COVID-19時代の新しい未来、すなわち新たな日常を通じた質の高い経済社会の実現を目指すとしています。

質の高い経済社会とは、個人が輝き・誰もがどこでも豊かさを実感できる社会、 誰ひとり取り残されない(インクルージョン)、国際社会から信用と尊敬を集め不可欠とされる国と説明しています。

「新たな日常」の実現に向けて、「10年かかる変革を一気に進める」として、その原動力となるデジタル化関連の施策を「デジタルニューディール」と題しています2)

ニューディール政策といえば、1930年代に世界恐慌から脱するために米国のフランクリン・ルーズベルト大統領が展開した一連の経済対策です。道路や車といった新たなインフラを開発することで、経済復活を推進しました。

ジェレミー・リフキンは著書「限界費用ゼロ社会」「グローバル・グリーン・ニューディール」で、歴史上の経済的大転換には通信手段・動力源・運搬機構の相互的な変化を必要としているという点で共通している、と述べています。

ニューディール政策により開発が推進された電話通信網や電気・石油に関する技術革新、大量生産可能になった車といったような新たなインフラの相互作業が、当時の産業革命を進めたのです。

進行中の産業革命

1990年代からはじまったインターネットなどによる情報革命は次のステージへと進みだし、ここ数年は、データ通信高速化やコンピュータ資源の低コスト化が格段に進んでいます。これらの進化の相互作用により第四次産業革命という大転換の入り口に突入しているのです。

この転換期に起こったCOVID-19の感染拡大。

感染症対策のための新たな日常づくりと、質の高い経済と未来をつくる、といった2つの課題解決につながるデジタル技術活用が求められているのだと思います。

未来志向で進める

日本がデジタル先進国となり新たな未来を世界に先駆けて示していくには、これまでのデジタル活用で見えてきた課題解決の糸口を、未来志向で過去の概念に固執することなく力強く前に進めていくことがより重要になってくるでしょう。

リモートワークが当たり前になりつつある今、混雑した東京に集中して働く意義は薄れつつあります。物理的制約から解放され地域再生を進めることができるかもしれません。

例えば、地域金融機関はバンキング機能のデジタル化で行政や産業とより速く多様にサービス連携をすることで、新たなビジネスエコシステムづくりを進め地域産業の活性化に取り組んでいます。ロジスティックはデジタルを活用した全体最適により、人手不足の解決に取り組もうとしています。小売り産業では、リモートや非接触での購買体験変革を続けています。

米国のメディア理論家であるダグラス・ラシュコフは、1990年代から進んだ経済活動を「デジタル産業主義」と区切り、これから転換すべき産業の形を「デジタル分散主義」と語っています。「デジタル産業主義」とは、ニューディール政策以降実現されてきた大量生産消費時代の延長で、生産者と消費者の距離をつなげるために生まれたデジタル広告に代表されるアルゴリズムと巨大なデジタルプラットフォーマーを中心に指数関数的な成長を目指す産業形態です。デジタル産業主義時代の思想にとらわれず、これから目指す時代を「デジタル分散主義」と命名し、デジタルインフラを活用し地域や個人が物理的制約にとらわれず、それぞれの課題を解決して自立共生していく持続可能な繁栄を目指すべきだろうと主張しています。

産業全体・産業を超えて活用するデジタルインフラ

今必要なのは、デジタル技術を活用し産業や行政がこれまでの枠組みにとらわれず、人命を守るための感染症対策を実現しながら、自然にも個人個人にも豊かでサステイナブルな生活を具体化していこうという発想だと思います。

従来の境界を超えて、非競争領域に必要な機能は共有化すべきものとして、新たな積極的協調によりワン・アーキテクチャのもとでデジタルインフラを構築していき産業全体の生産性を高めていく。また、デジタルインフラはグローバルにつながるものであるという前提に立ち、デジタル経済社会におけるグローバルサプライチェーンで必要不可欠な国となるためにも、デジタルインフラの構築に関わるような相互互換性や原則論の国際ルールシェイパーとなっていく取り組みも重要になってくると思います。

新たな時代のNEC Way

NECは、2020年4月1日に創業120年を機にNEC Wayを改定しました。NEC Wayを構成する中核のPurpose(存在意義)は、「Orchestrating a brighter world」をもとに、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指すという、宣言です。

コペンハーゲンで見たような、豊かな生活と地球にやさしい経済発展は、Purposeが具現化された姿の一つだと思います。

本特集では、お客様の成功とPurposeのために、各産業のお客様の課題に寄り添いデジタルを活用した例を掲載しています。

お客様とともに各産業の課題を深く理解し解決するためにデジタル技術を駆使し、従来の行政や産業境界の枠とこれまでの発想にとらわれず未来志向でイノベーションを実現していくのが、NEC Value Chain Innovationです。

これらNECの共創活動が、brighter - より明るくより賢い - 未来の実現のための原動力となっていければ幸いです。

参考文献

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