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食品ロスを削減するバリューチェーンにおける共創「需給最適化プラットフォーム」

まだ食べられるのに廃棄される食品ロス。世界で年間約13億トン、国内では年間約612万トンにも及びます。食品ロスは、生産・加工・物流・小売・消費のバリューチェーンの各段階で発生。その原因の1つが需要と供給のミスマッチです。本稿では、「需給最適化プラットフォーム」を活用し産業界と社会の課題解決に向けた取り組みについて紹介します。

1. はじめに

余剰生産による食品ロス・廃棄、少子高齢化に伴う労働力不足、多様なキャッシュレス決済の登場や消費環境の変化、デジタル技術の発展と比例し多様化する脅威など、現代の日本社会はさまざまな課題に直面しています。

そして、それらは社会課題であると同時に、社会を構成する産業、企業が取り組むべき喫緊の課題でもあると考えています。

本稿では、社会課題である食品ロスの解決にデジタル技術を活用した取り組みについて紹介します。

2. 深刻な社会課題である食品ロスとNECが目指す世界

2.1 社会課題となっている食品ロス

日本における年間の食品ロス612万トンは、飢餓状態にある世界中の人への食糧援助量の1.6倍に相当します。また、半分以上の約328万トンが、事業系で発生しています。

SDGsのゴールの1つである「12.つくる責任 つかう責任」では、2030年までに生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることがターゲットとして示されています。

この世界的な目標を達成するためにも、NECは「需給最適化プラットフォーム」により、食品廃棄を出さない、つまり「リデュース」で事業系の食品ロス削減に貢献します(図1)。

図1 「食品ロス・廃棄問題」解決の方向性

2.2 NECが目指す世界観

食品ロス・廃棄問題の場合、廃棄の半分は産業界が生み出していると言われています。

これまでは、それぞれの企業単位、または業種単位で解決への取り組みが行われてきましたが、もはや単独の企業や業種で解決できるような課題の規模ではなくなってきていると考えられています。

NECでは解決の方向性として図1に示した6つがあると考えており、そのなかでもICTとAIを使い「出さない(業界連携による需給最適化)」により、解決に貢献します。この実現のために、関わる企業や業種で保有するさまざまな業務データや、消費動向に関わるマーケティングデータ、気象予報などを連携・活用することで、今まで単独の企業や業種では解決できなかった課題が解決できるのではないかとNECでは考えています。

食品ロスの削減は、食品や原材料の製造や輸送に必要となるコストやエネルギーなどの無駄も削減することができ、圧倒的に効率化されると考えています。すると同時に企業の利益が上がり競争力も上がることになります。

一方で、世界的に問題になっている環境破壊や食糧危機、貧困などの解決にもつながっていきます。

そのような大きな循環システムが形成されるようになるのがNECの目指す姿です。

3. 解決に必要な「データ流通基盤」「共創」「AI」

3.1 データ流通基盤「需給最適化プラットフォーム」

複数の企業間、異なる業種間が連携し社会課題を解決するために開発したのが「需給最適化プラットフォーム」です。これは、各企業が提供したデータを集積し、NECの独自AI技術を使って最適値を算出、企業や業界の枠を超えた共通の取り組みに生かすというものです。ここに集積され利活用されるデータは、各企業の過去の売り上げデータなどはもちろんのこと、さまざまな種類のコーザルデータ(販売に影響を与える外部要因データ)と組み合わされ、独自AI技術である「異種混合学習」で分析されます。それらは、精度が高いだけではなく、用途に応じた新しいデータの利活用方法を生み出すことができます。

単に企業の持つデータを共有するというだけではありません。現実の社会から取得したデータを、デジタル空間でつなげることで、 複数の企業間、異なる業種間のつながりをより密接にすることができます。NECは、いかにデジタルで企業間・業種間をつないでいくことで、データを付加価値化することに力を注いでいます。

3.2 推進するための「共創」

それらのデータを企業の枠を超えて活用することで、1つの企業だけではなく業界全体、更には消費者にとどくまでのバリューチェーン全体の最適化を図り、新しい価値を創出していきます。

その価値の創出には、複数の企業や異なる業種のお客様とともに「共創」による解決策の検討やビジネスモデルの構築が必要であると考えています。一例として、需給計画や調整業務に課題を持つお客様を募り研究会を定期的に開催、お客様を交えた課題抽出と解決策の検討や実証検証により、お客様とともに価値の創出を実践しています。

3.3 データを価値に変換する独自「AI」技術

デジタル活用のなかで、売上や商品・サービスの需要を予測する「AI」も重要な役割を果たしています。

人間の力では対応が困難である膨大な情報から予測ができるのはAIの大きな強みであり、販売・在庫実績や販売企画データなどを加味することでより正確な発注・出荷予測を行えるだけではなく、それらの予測値を利活用することで在庫管理や就業管理などが更に効率化されることが期待できます。

調整にかかる労力や輸配送に必要なエネルギーなどさまざまな無駄を省けることが、AIを活用した需要予測によって得られる大きなメリットと言えるかもしれません。

今回、重要な役割を果たすAIは「異種混合学習」と呼ばれるNEC独自の技術です。この「異種混合学習」の特長はブラックボックス型と呼ばれる一般的な機械学習技術と異なり、予測数値などを導き出した根拠や、AIが発見したルールを明確に説明できる点にあります。人の意思決定を裏付け、また予測方法を改善するための試行錯誤に役立てることができます。

3.4提供する価値

「需給最適化プラットフォーム」は、「異種混合学習」を活用した「AIによる需要予測」により、食品メーカーの在庫・生産の最適化、食品卸・物流の在庫の最適化やリソースの効率化、また食品小売の発注の最適化などを実現します。

食のバリューチェーン全体で、需要と供給を最適化し、過剰な生産、期限切れによる返品、過剰な在庫、売れ残りといったさまざまな課題を解決することにより、「食品ロス削減」や「企業の収益向上」を支援します。

4. 「需給最適化プラットフォーム」サービス基盤強化の取り組み

「需給最適化プラットフォーム」は、「データ流通基盤(集信、蓄積、加工、配信)」「予測分析機構(異種混合学習エンジンを活用した回帰分析機構)」をベーステクノロジーとして据え、5つのサービス機能「データ連携/蓄積」「データ統合/標準化」「需要予測」「予測根拠見える化」「業務/意思決定支援」を有しています。そして、お客様のビジネス/業務における意思決定を支援することで、社会課題解決(食品ロス削減)を推進することを目指しています。

本章では、サービス機能に対する強化施策のうち「データ統合化の推進」「取り扱い範囲の拡大」「提供価値向上」を目指した取り組みについて紹介したうえで、New Normalに向けた取り組みについても言及します(図2)。

図2 「需給最適化プラットフォーム」

4.1 データ統合化の推進:クラス分類(データ整理AI)

「需給最適化プラットフォーム」では製造業、卸売業、小売業に加え、サードパーティのデータをつなぎ、分析し、食品ロス廃棄といった社会課題解決に貢献しようとしています。当然のことながら、各企業はこの取り組みのためにデータを蓄積しているわけではないため、データレイアウトは異なります。これらのデータを統合し、横串でデータを参照できるようにすることが、「需給最適化プラットフォーム」の予測分析には必要となります。NECはその技術課題に対し、研究・開発ユニット(データサイエンス研究所)の「データ意味理解技術」を活用した「クラス分類エンジン」を開発してきました。

本エンジンは、「需給最適化プラットフォーム」への活用のほかに、企業のM&A時のマスタ統合、サードパーティのデータ整理など、多方面に応用しようと取り組みを開始しています。

4.2 取り扱い範囲の拡大:少量(ゼロ)データ予測分析

多くの企業に「需給最適化プラットフォーム」に対して「実現してほしい」と期待されているサービスが「新商品に対する需要予測」です。新商品なので売上実績データはありません。実績データが十分にある定番商品と比較して、予測の難易度が高いことは容易に想像がつくと思います。事実、企業においては新商品における廃棄ロスや機会損失が多く発生しており、「需給最適化プラットフォーム」としても優先度を上げて取り組むべき課題となっています。

NECのアプローチは主に2つです。1つ目が「過去の類似商品の予測モデルを活用し、予測を行う」ことです。過去の予測モデルからのパターン化、予測モデルの流用、転移学習など、手法はさまざまですが、現時点での技術の確からしさを検証し、プラットフォームに導入する取り組みを継続しています。2つ目が「販売直後から予測の妥当性を検証し、早期にアラートを提供する」ことです。目論見と外れていることに対し、予測を軌道修正することも大切ですが、「どのように外れているか、どうなっていきそうか」を見える化/アラート通知することで、お客様の意思決定を支援することを目指しています。

4.3 提供価値向上:処方的分析

「予測分析」のアウトプットは予測結果です。企業は、その予測結果を元に最適なアクションを選択していくことになります。小売業(店舗)では、商品の販売数を予測し、発注数を決定するというアクションを行います。従来はこのアクションの補助(例えば、推奨発注数の算出)を業務ロジックが担っていましたが、当然のことながら、業務ロジックで定義した範囲にしか対応することができません。対応しきれないケースに追随しようとすると、業務ロジックに対して「条件の見直し/追加」を延々と続けていくことになります。これでは市場の激しい変化に追随することが難しくなりますし、せっかく追加した条件が別のケースでは悪手を導く、ということも起こりかねません。

加えて、店舗ではさまざまなマーケティング施策が行われます。「販促商品をコーナーに山積みして見せたい」といった見込み販売数を度外視した発注が求められるケースもあります。これらを業務ロジックで実現することには限界があり、結果「人間によるチェック、最終意思決定」がセットで必要になることが多くなります。これが「処方」の難しさです(本稿の主旨とは異なるため説明を省略しますが、NECは労働人口縮小についても社会課題ととらえており、省力化の課題解決に取り組んでいます)。

このように、店舗においては「売上を最大化させる/在庫ロスを最小化させる」以外に「マーケティング施策を踏まえること」など、店舗事情や方針を踏まえた発注が必要となります。この課題を解決するため、「需給最適化プラットフォーム」では「予測分析」の出口として「処方的分析」の導入検討を本格化させています。具体的には、研究・開発ユニット(量子コンピューティング推進室やデータサイエンス研究所)と連携し、単に「最適化」の計算をするだけでなく、店舗の「意図を汲む(意図学習技術)」、担当者の「模倣をする(模倣学習技術)」といった技術の導入を検討しています。「処方的分析」の導入により、食品ロス廃棄削減に一層寄与できるものと考えています。

4.4 New Normalに向けた取り組み

「需給最適化プラットフォーム」のベーステクノロジーである「異種混合学習」は「教師あり機械学習」であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受けています。NECは、大きく2点の課題について着目し、取り組みを開始しています。1点目は、緊急事態宣言時期のように、急激な消費変化が起こっている期間、どのように需要の予測を提供していくべきか。2点目は、その期間内に得られたデータを単純にAIに学習させて良いものかどうかということです。

過去にも、大型台風や大雪の際に類似の課題は発生していますが、今回は「期間が長い」「予測対象によって、宣言解除後に元の傾向に戻るもの、戻らないものがある」といった特徴があります。難題ではありますが、これを契機に急激な消費変化にも対応できるプラットフォームに進化させようと、研究・開発ユニットと技術、運用の両面から検討を開始しています。

5. まとめ

デジタルの力を用いて複数の企業・異なる業種間でデータとプロセスをつなぐためには、企業にとって財産であるデータを目的外に使わないという基本的なルールをきちんと作っていくのはもちろん、単なるITベンダーとして、データを利活用するという立場だけではなく、より安全・安心なデータ運用についてもお客様と一緒になって検討していく必要があると考えています。

既にNECでは「産業データ共有促進事業(平成29年度補正予算:経済産業省)」を活用し、賛同いただいたお客様とともにデータ利活用のガイドラインを作成し経済産業省を通じて公開しています。これの活用を促進するなかで、企業間・業界間で安全・安心にデータを提供・利活用が行える環境の醸成に努めていきます。

また、「需給最適化プラットフォーム」をデータ流通基盤ととらえ、将来的には他消費財や生産財などへも対応させていきたいと考えています。

執筆者プロフィール

森田 亮一
デジタルインテグレーション本部
シニアマネージャー
安田 健一
デジタルビジネス基盤本部
シニアマネージャー

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