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デジタルで創る未来 NEC Value Chain Innovation
デジタル化の浸透は、人々の生活スタイルや価値観を根底から変化させました。一方、企業・産業はさまざまな社会課題や多様化する脅威への対策のみならず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴いNew Normalへの変革も求められています。このような先が見通せないVUCAの時代、企業・産業が持続的な成長を続け、豊かな社会、ワクワクする未来を創っていくために何が必要でしょう。
NECは、企業・産業の枠を超えた共創による人やモノのデータ、さまざまなプロセスで発生したデータを活用した「社会価値創造」への取り組み「NEC Value Chain Innovation」が企業・産業の未来を創り出す鍵ととらえています。
本稿では、VCIを代表する取り組みとVCIの実現を支える5つの事業領域における取り組みを紹介します。
1. はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)。世界は今、ほぼすべての地域において爆発的な感染症の広がりという大きな課題に直面しています。
感染症の広がりは、多くの企業・産業に大きな悪影響を与えるとともに、新たな課題をも浮き彫りにしました。例えば、国境を越えてグローバルに広がるサプライチェーンが分断されたことで、部品の供給が止まり、サプライチェーン全体が停止するリスクが顕在化されました。また、人の移動を支えていた航空、鉄道などの輸送産業、コト消費へのシフトやインバウンドの増加により需要が増加していた観光やサービス業、更に人々の日常の食生活や暮らしを支える小売や外食などの多くの産業では、人の移動が大幅に減少したことで、ビジネスが多大な悪影響をこうむりました。
今、企業・産業は、従来取り組んでいたさまざまな社会課題に加え、この新たな試練を克服する、New Normal時代への変革が求められています。
2. 企業・産業を取り巻く環境と「NEC Value Chain Innovation」
COVID-19の感染拡大以前から、企業・産業を取り巻く環境は、急速かつ目まぐるしく変化をしていました。温暖化の進展は、急激な気候変動による自然災害の甚大化を招き、資源の枯渇や需給変動が発生し、企業が社会的責任を果たすことはこれまで以上に求められています。国連で掲げられた持続可能な開発目標(SDGs)の17項目において、持続可能な社会の実現に向けた資源の保全や食品ロス削減、人権尊重に向けた取り組みなど、さまざまな企業が具体的な取り組みを表明しESG観点での投資も活発化してきています。更に日本では、内閣府により、IoT、AI、ロボット、ビッグデータなどの先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済と社会問題の解決を目指す「Society 5.0」が提唱され、さまざまな産業分野で具体的な取り組みが始まっています。イノベーションで創出される新たな価値により、多様なニーズに対応したモノやサービスを提供することで、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
また、デジタル化の浸透によって効率化や利便性が急速に向上する一方で、さまざまなサイバーリスクを生み出し、個人情報の漏えいやサイバーテロへの対策がより求められています。
更に、デジタル化の浸透は、人々のコミュニケーションスタイルの変容をもたらしました。それは、シェアリングエコノミーを根付かせ、さまざまなサービスを統合したスーパーアプリなどを活用した新たなビジネスモデルやサービスを次々に生み出し、生活者の利便性を向上させるとともに、価値観も根底から変化させてきました。
そのなかで発生したCOVID-19の感染拡大は、テレワークの活用や遠隔操作といったリモート化、接触を避けるためのオンラインでの接客やキャッシュレスといったタッチレスの積極活用など、あらゆる業務やサービスのデジタルシフトへの必然性を一気に高め、強力な進化圧をかけました。更にNew Normal時代に向けた企業・産業のあり方を大きく変えようとしています。
3. 今、求められるデジタルによる変革
このようにさまざまな社会課題や多様化する脅威、リスクに直面し、COVID-19の発生など、先が見通せないVUCAの世の中で、企業・産業が持続的な成長を続け、豊かな社会、ワクワクする未来を創っていくためには何が必要なのでしょう。
その1つのキーは「デジタルによる共創」だと、NECはとらえています。社会課題の解決は企業単独のイノベーションでは限界があり、企業・産業の枠を超えた「共創」による人やモノのデータ、またさまざまなプロセスで発生したデータを活用した「社会価値創造」への取り組みが、企業・産業の未来を創り出す鍵になるととらえています。
NECはこの取り組みを「NEC Value Chain Innovation」という事業コンセプトとして掲げ、2014年から取り組んできました(図1)。

4. 「NEC Value Chain Innovation」とは
「NEC Value Chain Innovation」(以下、VCI)は、お客様とともに各産業の課題を理解し解決するためにデジタル技術を駆使し、産業の枠やこれまでの発想にとらわれず、未来志向でイノベーションを実現していく取り組みです。
一企業や業界に閉じず、産業の枠を超えたさまざまな企業との「共創」により、新たなエコシステムやビジネスモデルの形成を目指します。そのためには、「デジタルデータの相互流通や利活用」が必要であり、このような取り組みを通して、企業・産業が直面するさまざまな社会課題の解決や人々の豊かな生活、ワクワクする未来の実現に向けた「社会価値創造」が、NECの目指すビジョンです。
NECが考えるVCIは、企業・産業のDXの段階により「つながり方を変える」「新たにつながる」の2つのパターンがあります(図2)。

「つながり方を変える」はIoTやAIを活用することで、グローバルに広がる生産ラインの圧倒的な効率化を実現するものや、今まで、工場やプラント、小売店舗などの設備機器が故障した後に対処していた業務プロセスを、故障の予兆をとらえて関係プレイヤーと情報を連携し事前に対処することで、事業やサービスを止めないプロセスへと変革するものが一例です。
また、「新たにつながる」は、製造、卸、物流、小売といったサプライチェーンの各プレイヤーで発生している無駄やムラ(淀み)を「視野を広げてつなぎ」、最適化をもたらす取り組みやさまざまな事業者が提供するサービスを「顧客視点でつなぎ」、新たな価値を創出する取り組みなどがあります。第5章ではその代表的な3つの取り組みについて紹介します。
5. 代表的な取り組み
VCIの代表的な取り組みは、地球規模の社会課題としてSDGsの目標12.3に掲げられている「食品ロス削減」に向けた需給最適化プラットフォームへのチャレンジです。
食品廃棄・ロスは、世界で年間13億トン、日本では年間612万トンに及びます。製造、卸、物流、小売のサプライチェーンで過剰な生産や返品、余剰在庫、売れ残りが発生し、廃棄につながっていました。これらに対応するには、個々の事業者での取り組みでは限界があるため、データ共有・流通とAI(異種混合学習)を活用し、バリューチェーン全体の最適化を図ろうとする取り組みが、需給最適化プラットフォームです。数々のお客様との共創、実証を重ねてサービスを拡充し、 VCIの象徴的な取り組みとなっています。
加えて、加速するデジタル化や、Under COVID-19のNew Normalな社会において、顔や虹彩などの生体認証を共通のIDとして、旅行や買い物、通勤など、生活に関わる複数のタッチポイントやサービスをつなぎ、利用者へ一貫した体験を提供する「NEC I:Delight(アイディライト)」を、NECは2019年11月に発表しました。
更に、Under COVID-19で課題が浮き彫りになったサービスのデジタル化で必然性が高まる、オンラインでの本人確認に関連した取り組みも始まっています。オープンAPIを活用し銀行が保有する本人確認済情報をさまざまな事業者へセキュアに連携し、オンライン本人確認を完結する「マルチバンク本人確認プラットフォーム」への取り組みです。このように、データを活用し、企業・産業の枠を超えた共創による「社会価値創造」の取り組みへのチャレンジを進めています。
6. VCIを支える5つの領域
企業・産業の枠を超え複数の業種の企業間で、デジタルを活用した共創やデータ利活用によるDXによってVCIを実現するには、各業種のお客様の深い理解と実績を伴った信頼関係が必要です。NECは長年にわたり、製造業、物流業、小売業、サービス業、金融業といった各業種のお客様の事業に関わるシステム構築のなかで蓄積してきた業種知識や業務ノウハウ、課題への幅広い知見や実績を保有しています。
また、各業種領域においても、VCIの実現に向けた未来のあるべき姿に関しビジョンを描き、ソリューション・サービスを整備、提供し、いくつかのリファレンス事例も誕生しています。そのVCIの5つの領域について簡単に紹介します(図3)。

6.1 「Connected Manufacturing」
1つ目は、自らもものづくり企業として取り組む製造業を中心とした「Connected Manufacturing」の事業領域です。
今、製造業は、人材不足・技能継承や、マスカスタマイゼーションへの対応だけでなく、COVID-19の影響を受け、サプライチェーンの分断や従業員の移動制限など、新たな課題も表面化しています。
「Connected Manufacturing」では、さまざまな課題に直面する製造現場やサプライチェーンをデジタルで融合し、製造業を起点として、すべての業界をまたいだバリューチェーンの革新をもたらすことを目指しています。
「Connected Manufacturing」の論文では、IoTやAI、ローカル5Gといったテクノロジーを活用し、工場やサプライチェーンのスマート化を実現する「スマートファクトリーの実現」と、モノ売りからコト売りへの変化を促す「お客様のビジネスモデルの変革」への取り組みの2つのオファリングを紹介します。
代表的な取り組みとして、NECが実践してきたIoTやAIといったデジタル技術でスマートファクトリーを実現する、未来のものづくりコンセプト「NEC DX Factory」を提唱しています。更に、通信技術の5G化に伴いローカル5Gを活用した遠隔操作や制御などによりスマートファクトリーを実現し、New Normalな社会での製造業の働き方の変革に対応します。
6.2 「Intelligent Logistics & Mobility」
2つ目は、造られたモノや、人の移動や輸送を支える「Intelligent Logistics & Mobility」の事業領域です。
COVID-19の感染拡大によるNew Normalへの転換が求められるなか、人やモノの移動が大きく変わろうとしています。人の移動は、観光控えや在宅勤務などで減少している一方で、モノの移動は、在宅の増加に伴う購買活動の変化により、宅配などを通して増加しています。一方で製造業の荷動き停滞により全体の物流量は減少し、サプライチェーンを見直す兆しもあります。更に、人やモノの移動を支える運輸・倉庫業界の労働力の不足は深刻化しています。「Intelligent Logistics & Mobility」では、これらの課題に対し「実世界とサイバー空間をつなぎ、ロジスティクスとモビリティを融合することで、『安全・安心な人とモノの移動』を『デジタル』で支え、すべての人々と産業が公平にサービス・機会を享受できる社会」の実現を目指しています。
「Intelligent Logistics & Mobility」の論文では、3つのオファリングを紹介します。まず、「安全・安心で快適な人の移動を支える交通サービス(Transport)」に関しては、あらゆる交通手段をモバイル・ICカード・生体認証などでシームレスにつなぎ、MaaSによるシームレスな移動やIoTやAIの活用によるオペレーション&メンテナンスの高度化・効率化に関し紹介します。次に、「企業間連携によるサプライチェーン革新/安全・安心で効率的な物流現場を実現(Logistics)」では、企業や産業の枠を超えたサプライチェーンのモノ流れを、IoTやAIの活用により可視化し、サプライチェーンの分断・需給変動への柔軟な対応を実現するとともに、生体認証やAIを活用した物流現場の安全な労働環境確保に向けた取り組みを紹介します。更に「安全・安心な人とモノの移動を支えるモビリティサービス(Mobility)」では、モビリティのコネクテッド化やAIによる映像分析を活用した人やモノの安全・安心な移動を高度に支える取り組みを紹介します。
6.3「Smart Retail CX」
3つ目は、運ばれた商品を生活者に届ける小売業を中心とした「Smart Retail CX」の事業領域です。
小売業では近年、ECサイトでの購買の拡大やキャッシュレス決済の浸透といった生活者の購買行動のオンライン化が進展しています。
COVID-19の発生は小売業にも大きな影響を与え、在宅勤務の拡大・自粛生活によって生じた「巣ごもり消費」の拡大など、オンラインを活用した購買の普及が急速に拡大しています。更に人材不足が深刻な課題になる店舗では、業務の効率化に加え、感染症リスクを避けるためのキャッシュレスやタッチレスを求める社会機運が高まっています。
こうした環境のなか、「Smart Retail CX」では、以前から「Consumer-Centric Retailing 生活者から選ばれる小売業へ」の変革をコンセプトに掲げ、小売業に貢献しています。
「Smart Retail CX」の論文では、3つのオファリングに基づき紹介します。まず、快適で心地よい顧客購買体験の提供と省人化による効率的な店舗運営を実現する、レジレス型店舗を中心とした「業務量50%削減」を目指した取り組みを紹介します。また、オンラインとオフラインを融合したOnline Merges with Offline(OMO)の概念に基づき、ECや店舗ソリューションを基にした、今だけ、ここだけ、私だけの買い物体験を通した「魅力2倍」の実現、更に安全・安心なお買い物体験を支える「不正/現金ゼロ」に向けた取り組みを紹介します。加えて、「Smart Retail CX」の実現を支える情報システム基盤「Digital Store Platform」を紹介します。
6.4「Smart VenueCX」
近年、コト消費へのシフトやインバウンドの急増も相まって、ホテルやテーマパーク、ライブエンターテインメントなどのサービス業における需要は年々増加する一方で、労働力不足による現場オペレーションの負荷軽減が課題となっていました。こうしたなかで起きたCOVID-19の感染拡大の影響により、これらのサービス業は経済的に大きな打撃を受けています。
4つ目の「Smart VenueCX」では、こういった業界の変革を支えるため「感性とデジタルの融和が生み出す感動空間の連鎖が、人、地域、社会の絆を深める」をビジョンに取り組んでいます。感動空間である、スタジアムやテーマパーク、ホテル、IRといった場で、デジタルを駆使してビジョンを具現化していくことで、人と人/場と人をつなげ、想像を超える体験を、安全で快適な環境のなかで提供し、人、地域、社会の絆を深める取り組みを進めています。
「Smart VenuCX」の論文では、2つのオファリングを中心に、ホテルや集客施設を中心とした「タッチレスで快適なこれからの顧客体験」に向けたスマートホスピタリティサービスの取り組みと、New Normal時代での集客施設に求められる「ファンマーケティングソリューション」に関し紹介します。
6.5「Digital Finance」
目まぐるしく環境が変化する金融業界。FinTechプレイヤーを中心にスマートフォンを介した決済や家計簿といった金融サービスを提供する新たなプレイヤーの台頭が著しい一方で、「金融サービス仲介業」の創設が認められるなど、オープン化の流れも進んでいます。こうしたなかで起きたCOVID-19により、金融サービスも他業種同様に、非接触、非対面への社会的機運が高まっています。
5つ目の「Digital Finance」では、この目まぐるしい環境におかれる金融業界のお客様に、3つのオファリングを提示しています。「Digital Finance」の論文では、顔認証技術を活用したデジタルでの本人確認を実現するDigital KYCサービスなどを基にした「お客様接点改革」や、AI技術を活用した業務の自動化や一部業務のBPOなどによる「業務変革」、更に、AIを活用した不正検知サービスなどによる「リスク対策」に関し紹介します。
7. VCIを支えるデジタルテクノロジー
このようなVCIの実現に向けた取り組みは、NECの121年にわたり培ってきたテクノロジーにより支えられています。
製造での生産量や小売での販売数の予測を高度化する「異種混合学習」や、倉庫での最適な人員配置などを実現する「自律適応制御」をはじめとした、人と協調し、人の能力を拡張するNECの最先端AI技術群である「NEC the WISE」、「NEC I:Delight」の世界観を実現する顔や虹彩などの生体情報を活用したマルチモーダルの生体認証技術の「Bio-IDiom」、更に、スマートファクトリーや建設機械などを遠隔で操作・制御するローカル5Gの活用の実証が進み、つなぐを創り出す次世代のネットワーク技術を支える「Smart Connectivity」。この他にテレワーク環境が進むNew Normalな時代に、多様化する脅威に対処するために必要なサイバーセキュリティやクラウド技術などの最先端技術を活用して、VCIの各ソリューション・サービスを実現しています。
更に研究所で生み出されるテクノロジーの源泉をお客様との共創活動のなかで取り入れることで、新たな価値の創出につなげています。
8. まとめ
本特集では、VCIの代表的な取り組みを、具体的なケースとそのベースとなるテクノロジーとともに紹介します。
お客様の事業発展やNew Normal時代への変革に必ずや貢献するものと確信しています。ぜひご一読賜りますようお願いいたします。
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