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IoTデバイス応用に向けたナノカーボンの材料開発

代表的なナノ材料であるカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノホーン集合体(CNHs)は、NECにより発見されました。CNTは、炭素の六角形の並び方の違いで金属・半導体的性質を持ち、半導体的CNTを利用した薄膜トランジスタは、エレクトロニクス領域への応用が期待されています。一方、CNHsは、高比表面積と高分散性を持ち、キャパシタ、燃料電池の電極材などのエネルギーデバイス領域への応用が期待されています。更に近年、NECにおいてカーボンナノブラシ(CNB)が発見され、CNBがCNTとCNHsの優れた特性を併せ持つことから大きな注目を集めています。本稿では、NECのナノカーボンの材料開発について紹介します。

1. はじめに

カーボンナノチューブ(CNT)1)やカーボンナノホーン集合体(CNHs)2)は、NECの特別主席研究員 飯島澄男が発見したナノカーボンであり、センサー、エネルギーデバイス、複合材などの特性を向上させる革新材料として期待されています。NECは、これらのナノカーボンの製造からデバイス応用まで幅広く研究開発を行っています。また、近年、新たなナノカーボンであるカーボンナノブラシ(CNB、繊維状カーボンナノホーン集合体)が発見され3)、その優れた特性からさまざまな応用が期待されています。

2. カーボンナノチューブ

2.1. カーボンナノチューブの特徴

カーボンナノチューブ(CNT)は、1991年に前述の飯島によって発見された炭素材料です。黒鉛と同じく、六角形の炭素ネットワークによってできている直径1 nm(ナノメートル、10億分の1メートル)の円筒状の構造体です(図1(a)、(b))。単層CNTは、その特異な形状と強靱性、高導電性、高熱伝導性などの特徴を持つことからさまざまな応用が期待されています。また、炭素の六角形の並び方の違い(カイラリティ)で半導体的性質を示したり、金属的性質を示したりするのも特徴で、単層CNTは半導体型と金属型が二対一の割合で生成されます。

図1 CNT(a)、(b)とCNHs(c)、(d)とCNB(e)の電子顕微鏡像(挿入図は、おのおののモデル図)

2.2 CNTの金属・半導体分離技術とセンサー応用

半導体型単層CNTは、印刷技術を利用して電子回路などのエレクトロニクス製品を生産する印刷エレクトロニクスの材料として注目されています。高い電子移動度と化学的安定性を持つ半導体型単層CNTをトランジスタのチャネル材料として利用することで、大面積、フレキシブル、安価かつ高速動作可能で高性能なIoT(Internet of Things)活用に不可欠なセンサーデバイスを製造することができます。NECは、半導体型単層CNTを99%以上の高純度で抽出することができる電界誘起層形成法(ELF法)を開発しました4)。この手法は、単層CNTを非イオン性界面活性剤により分散し、無担体電気泳動により陰極・陽極にそれぞれ移動させ、半導体型と金属型の単層CNTの安定的な分離を実現します(図2)。また、本技術による半導体型単層CNTの高機能性インク(図3)を使って作製した印刷トランジスタアレイ(図4)は、アモルファスシリコンの10倍以上の移動度です。この256個のデバイスは、オン状態とオフ状態が均一に分かれ、6桁のオン/オフ比を得ました5)。このトランジスタアレイを使った圧力センサーデバイスの動作試験を行い、多点の動的な圧力分布の検出に成功しました。今後、コンビニエンスストアや倉庫などの物品管理など、IoT活用に期待しています。

図2 ELF法による単層CNT分離装置
図3 分離後に回収した半導体型CNT(左)と金属型CNT(右)の分散液
図4 半導体型CNTインクで作製した16×16のフレキシブル基板

3. カーボンナノホーン集合体

3.1 カーボンナノホーン集合体の特徴

カーボンナノホーン集合体(CNHs)は、前述の飯島により、1998年に発見されたナノカーボンです。1個のカーボンナノホーン(CNH)の構造は、グラフェンシート一枚からできた円筒状物質であり(図1(c))、単層CNTと類似の構造です。しかし、先端の円錐角が19°程度で、5員環を含んだ閉構造を持つ直径が2-5 nm、長さが40-50 nmの筒状構造です(図1(c))。このCNHは、1個では存在せず、数千個が放射状に集まり直径約100 nmの球形集合体を形成しています(図1(d))。またCNHは、先端部や欠陥部を酸化処理(開孔処理)することで、内部のナノスペースを利用することが可能になります。既に、NECは、安価で高品質なCNHsが大量に製造できる技術を開発し、サンプル販売やさまざまな用途開発を行っています。

3.2 カーボンナノホーン集合体の量産技術と応用

CNHsは、金属触媒を含まないグラファイトターゲットに、室温Arガス雰囲気中でCO2レーザーを照射することで作製できます。図5はCNHs大量製造装置の概略図です6)。この装置は、グラファイトターゲット貯蔵室、レーザー照射室、CNHs回収室の3つの部屋から形成され、Arガスは、レーザー照射室の下側から入り、回収室の上側で排気されます。CO2レーザー照射後、グラファイトターゲット貯蔵室の新しいグラファイトターゲットが自動的に交換されます。グラファイトターゲットの交換回数と交換時間を減らすために、直径100 mm、高さ500 mmの大型グラファイトターゲットを使用しています。CO2レーザーは、出力3.5 kW、連続発振モードで使用し、この時2 rpmでらせん状にターゲットを回転させることで、CNHsの連続生成が可能になります。生成されたCNHsは、Ar気流に乗って搬送管を使って回収室に移動すると落下し、回収容器中に捕集され、ゲートを閉じて回収します。この製造システムにより、NECは、CNHsを100 g/hで連続生成し、1 kg/日を実現しました。

図5 CNHsの量産装置と概略図

CNHsは、400 m2/gという比較的大きな比表面積を持ち、導電性も高いため、燃料電池の触媒担持体やリチウムイオン電池の導電材への応用が期待されています。CNHsは、酸化による開孔処理を施すことで、鞘の内部のナノスペースを利用することが可能になり、1,420 m2/g以上の極めて大きな比表面積になります7)。このためナノスペースを利用した研究開発が積極的に行われ、特にガス吸着剤、電気二重層キャパシタ(EDLC)の電極応用、DDS(Drug delivery system)などの生化学的応用が期待されます(図6)。

図6 CNHsの応用例

4. カーボンナノブラシ

4.1 カーボンナノブラシの特徴と応用展開

カーボンナノブラシ(CNB、繊維状カーボンナノホーン集合体)は、2015年にNECの主任研究員 弓削亮太によって発見された炭素材料です(図1(e))3)。その構造は、単層CNHが放射状に集合し、かつ、繊維状につながっていて、試験管ブラシやモールなどに似ています。CNBは、鉄を含んだ炭素ターゲットをレーザーアブレーションすることで作製でき、その際、CNBとCNHsが一緒に生成されます。また、作製方法が既に量産技術が確立しているCNHsとターゲットが異なるだけなので、比較的容易に大量製造可能になると考えています。従来の球状CNHsと同様に高分散性と高吸着性(高分散性)を持つだけでなく、優れた導電性を有することから、今後の応用展開が期待されています。CNBは、CNHsと同様に高分散性です。エタノール中でCNBとCNHsの混合物を超音波分散した溶液の動的光散乱測定を行うと、70-300 nmと1-10 µmの領域に粒子サイズ分布が検出されます。このマイクロメートルオーダーのサイズ分布は、CNBのものであると思われます。また、CNHsのように、酸化処理することで極めて大きな1,600 m2/g程度の比表面積になります。CNBとCNHsの混合物とCNHsをSiO2基板上で薄膜を作製し、電気抵抗率を比較すると、CNBとCNHsの混合物はCNHsに比べ1/10の抵抗率になります。このことから、CNBは一次元方向に導電パスを持つことが分かりました。したがって、CNBは、高導電性、高分散性、及び、高比表面積を持つ実用的に優れた材料です。

4.2 カーボンナノブラシの応用例

EDLCは、多くの電荷を貯め、急速に入出力する必要があるため、高比表面積、高導電性、及び、高分散性などの条件を満たす電極材料が必要です。CNBは、これらの特徴を有するためEDLC応用に最適です。図7は、酸化処理後のCNBとCNHsの混合物(oxCNB/oxCNHs)、酸化処理後のCNHs(oxCNHs)、市販のYP50Fを電極材料に使用したEDLCの容量維持率です。このoxCNB/oxCNHs、oxCNHs、YP50Fの比表面積と静電容量はほとんど同じで、oxCNB/oxCNHsを使用することで、市販のYP50Fの出力特性(急速放電性)を6倍以上に改善することに成功しました。

図7 電気二重層キャパシタの出力特性

5. むすびに

本稿では、NECのCNT、CNHs、CNBの材料開発について紹介しました。CNTでは、電界誘起層形成法という優れた金属・半導体分離技術が開発され、実用化間近です。この技術で作製されたトランジスタは、高性能で安定して動作することから、エレクトロニクス応用も加速すると思われます。一方、CNHsは、量産技術が確立し、最近ではNECだけでなく試薬メーカーなどからも良質なCNHsが販売され、製品化に向けて開発が飛躍的に進んでいます。更に、CNBは、2015年の発見以降、材料物性の評価や応用展開について活発に研究開発が行われています。前述したように、NECは、ナノカーボンを使った新しい技術を次々に創出、実用化しています。今後更にさまざまな製品にナノカーボン適用を行っていきます。

参考文献

執筆者プロフィール

弓削 亮太
システムプラットフォーム研究所
主任研究員
井原 和紀
データサイエンス研究所
主任
沼田 秀昭
システムプラットフォーム研究所
主任研究員
二瓶 史行
データサイエンス研究所
主任研究員

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