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カーボンナノチューブの金属型・半導体型分離技術の開発と実用化

NECの最先端技術

2018年2月8日

軽量・強靭・ユニークな特性 革新を加速させる新素材

カーボンナノチューブとは

カーボンナノチューブ(CNT)は、1991年にNECの飯島澄男により発見されたナノカーボン材料です[1]。CNTは、グラフェンシートを筒状にしたチューブ状構造体であり、グラフェンシートの層数が1層の単層カーボンナノチューブ(単層CNT)[2]、二層の二層CNT、複数の層数の多層CNTと分類できます。単層CNTは、その筒の巻き方(カイラリティ)により電気的特性に違いが生じます。1/3が金属的な、2/3が半導体的な性質を持つため[3]、電界効果型トランジスタのチャネル材等への応用には分離技術の開発が必要となります。
個々の単層CNTを溶液中へ単分散させる手法[4]が確立されてから、単層CNTの分離技術が多くの研究者により提案されてきました。金属型・半導体型分離に関しては、密度勾配遠心法を用いる分離手法[5]、ゲルへの吸着を用いる分離手法[6]などがあります。
これまでに開発された単層CNTの金属型・半導体型CNT分離技術は、CNTを溶媒中へ分散する際に、ナトリウムのような金属イオンを含有する界面活性剤を分散剤として使用します。しかしながら、半導体型CNTを電界効果型トランジスタ(FET)のチャネル(トランジスタのドレイン電極とソース電極の間に流れる電流が通過する領域)等の電子デバイスの材料として応用する場合、上記のような分散剤の存在はデバイスの動作の不安定化や性能低下を引き起こす恐れがあります。従って、イオン性の界面活性剤を使用せず、高純度な半導体型CNTを分離できれば、優れた安定性を持つFETデバイスを作製することが可能となります。

電界誘起層形成法(ELF法)

ELF法は、NECの井原らにより開発された手法で、単層CNTを非イオン性界面活性剤により単分散し(Fig. 1)、その分散液を分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する技術です(Fig. 2(a))[7-8]。単層CNTを非イオン性界面活性剤を用いて分散した場合、半導体型CNTのミセルは負のゼータ電位、金属型CNTミセルは逆符号(正)のゼータ電位を持ちます。そのため、単層CNT分散液に電界を印加すると、半導体型CNTミセルは陽極方向へ、金属型は陰極方向へ電気泳動します。最終的には陽極付近に半導体型CNTが、陰極付近に金属型CNTが濃縮された層が分離槽内に形成されます。(Fig. 2(a))。Fig. 2(b)は、回収した金属・半導体型CNTの分散液です。また、単層CNTのゼータ電位を制御することで、ELF法で市販の様々な単層CNTを分離することが可能です。

Fig. 1 1 wt%のBrij S100水溶液中に単分散された金属型・半導体型単層CNTの様子
Fig. 2 (a) ELF法によるCNT分離装置、(b) 分離後に回収した半導体型CNTと金属型CNTの分散液

Fig. 3は、非イオン性界面活性剤により分散したCNT分散液(分離前)、ELF法で分離したCNT分散液の光吸収スペクトルを示しています。赤色と青色の部分がそれぞれ金属型と半導体型CNTに由来する吸収です。分離前に比べ、分離後の半導体型CNT分散液は、金属型CNTの吸収がほとんどなくなり、半導体型CNTの吸収が非常に強くなっています。これらの分散液の共鳴ラマンスペクトルの面積比から、半導体型CNTが99%になることが分かりました。

Fig. 3 分離前、分離後金属型、及び、分離後半導体型CNT分散液の光吸収スペクトル

本技術による半導体型CNT分散液を使って、薄膜トランジスタを作製し、そのデバイス特性を評価しました。Fig. 4(a)は、各々のチャネル上にCNTインクを塗布したフレキシブル薄膜トランジスタフィルムです(16×16)。この薄膜トランジスタの各デバイスのON状態(電流が流れている状態)とOFF状態(電流が流れていない状態)をプロットしたものがFig. 4(b)です。これによれば、ONとOFFの比が10⁶程度の優れたFET特性を得ることに成功しました。また、この時の移動度は、4.1 cm²/Vsで、アモルファスシリコンに比べ10倍以上の高い値を示しています。以上から、ON状態とOFF状態が完全に分かれた良好な均一性を持つデバイス性能が得られ、高性能で安定的に動作するデバイスが作製可能であることが分かりました。また、このサイズの圧力センサシートの動作試験に成功しています[9]。

Fig. 4 (a) 半導体型CNTインクで作製した16×16のフレキシブル基板、(b) FETのデバイス特性

参考文献

  1. Iijima, S., Helical Microtubulets of Graphite Carbon. Nature 354, 56-58 (1991).
  2. Iijima, S. and Ichihashi, T. Single-Shell Carbon Nanotubes of 1-nm Diameter. Nature 363, 603-605 (1993).
  3. Saito, R., Fujita, M., Dresselhaus, G. and Dresselhaus, M. S., Electronic structure of chiral graphene tubules. Appl. Phys. Lett. 60, 2204-2206 (1992).
  4. O'Connell, M. J., Boul, P., Ericson, L. M., Huffman, H., Wang, Y., Haroz, E., Kuper, C., Tour, J., Ausman, K. D. and Smalley, R. E., Reversible water-solubilization of single-walled carbon nanotubes by polymer wrapping. Chem. Phys. Lett., 342, 265-271 (2001).
  5. Chattopadhyay, D., Galeska, I. and Papadimitrakopoulous, F., A Route for Bulk Separation of Semiconducting from Metallic Single-Wall Carbon Nanotubes. J. Am. Chem. Soc. 125, 3370-3375 (2003).
  6. Tanaka, T., Jin, H., Miyata, Y., Fujii, S., Suga, H., Naitoh, Y., Minari, T., Miyadera, T., Tsukagoshi, K. and Kataura, H., Simple and Scalable Gel-Based Separation of Metallic and Semiconducting Carbon Nanotubes. Nano. Lett. 9, 1497-1500 (2009).
  7. 井原 和紀、二瓶 史行、ナノカーボン材料の分離方法、及び分離装置、特許第5541283号.
  8. K. Ihara, H. Endoh, T. Saito and F. Nihey, Separation of Metallic and Semiconducting Single Wall Carbon Nanotube Solution by Vertical Electric Field, J. Phys. Chem. C, 115, 228827 (2011).
  9. H. Numata, S. Asano, F. Sasaki, T. Saito, F. Nihey, H. Kataura, Adhesion property of carbon nanotube micelles for high-quality printed transistor, Proc. Int. Conf. IEEE-NANO 2016, 849.
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