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包括連携協定による地域共創
地域共創地域の抱える課題がより複雑さを増すなか、NECは、現場で実際に行動して課題設定や提供価値を提示し、それを中長期にわたって実現していくため、地域のステークホルダーとの包括連携協定による地域共創を促進しています。本稿では、北海道旭川地域と神奈川県鎌倉市を事例として、地域の大学や自治体職員と行っている包括連携協定に基づく取り組みを紹介します。
1. 包括連携協定による地域共創の重要性
少子高齢化が叫ばれ、地方創生が誌面を賑わせる昨今、地域が求めていることには大きく2つの傾向があると考えています。
1つは、自治体・交通などの公共サービスに代表されるように、「利用者が減っても今のサービス水準を維持したい」というもの。もう1つは、地域全般として、「外から人に来てほしい」というもので、詳細に言うと「地域資源を掘り起こして地域の魅力を再定義し、観光収入、及び、雇用を増やしたい」というものになります。
いずれも、加速しかけている人口減・高齢化に歯止めを掛けたいという切実なニーズであり、成長のための旺盛な投資というより、地域を持続可能にするための最低限の投資という方向性に変わってきているととらえることができます。
更に要請内容として、要請サイドも「答えが分からない」なかでのものとなっており、要請された側としては、取り掛かる前に課題設定から定義する必要があること、また、効果が見えるまでに時間を要することなどから、漠然と「地域の課題がより複雑化している」という印象を持つ背景になっているのではないかと考えています。
そういったなかで課題設定から取り掛かるため、中長期的な取り組みが前提になること、また、効果的な解決策を導くためにも、地域の持っている強みとNECの持っている強みの双方をうまく活かしながら進めていく必要があることから、地域のステークホルダーとの包括連携協定を積極的に進めています。
具体的にどのようにアプローチをしているのか、北海道旭川地域、神奈川県鎌倉市の2つの事例を紹介します。
2. 事例1 北海道旭川地域における地域共創
(1)地域共創活動の始まり
活動の始まりは、NEC北海道支社から東京本社への依頼でした。2014年、既に札幌以外の主要都市で人口減少が進みだしており、得意先である各地域から、そのような状況に対して力を貸してほしい、解決策はないかという問い合わせが増加しました。このようななかで北海道支社では、既存ビジネスの維持と、地域の持続可能性をどのように両立していけばよいかという課題が浮かび上がりました。
(2)見えてきた課題とNECの提供価値の設定
まず、行政が掲げる市の施策やその裏にある課題などを整理しつつ、それら地域の課題を正しくとらえるため、旭川地域を支える各業種の社長クラスの方々に対する個別訪問を、延べ数十社以上に対し実施しました。
次に、ヒアリングした旭川地域の課題を関係図で整理し、再訪して、ボトルネックは何で、その解決のためにすべきことは何かという話し合いを繰り返し行いました。
そこで出た課題はさまざまでしたが、目指す街の姿として、特に「住民が住みやすい街」と「インバウンドが訪れやすい街」の2つで意見が分かれました。
このような議論を進めていくうちに、地域のステークホルダーが別々に動いている傾向が判明したため、2015年、NECが主導して、学校法人旭川大学様学長、旭川信用金庫様(以下、旭川しんきん)地域振興部部長、中心市街地商店街会長など、地域のステークホルダーが一堂に会し、協働体制を構築していきました。
(3)包括連携協定の締結
このような活動を続けていくうちに、ステークホルダーから「地域資源を掘り起こして地域の魅力を再定義し、観光収入及び雇用を増やしたい」という要望が高いことが判明しました。インバウンドに限らず、「観光」に展望を見いだしましたが、観光客をどのように集客すればよいのか分からないことが判明しました。
そこで、2016年に、各ステークホルダーとNECで実行委員となり、「アサヒカワノミライ」プロジェクトを発足しました。まず、大学生と協働して、道行く人に声を掛け、約300人から「旭川のこんなところが好き」「旭川の未来はこうなっていてほしい」に対する考えを紙に書いてもらい、書いたご本人の表情とともに写真に撮り集めることで、地域の方々の認識・期待を見える化しました(写真1)。
次に、地域の未来をより良くしたいという思いで活動されている企業の社長、会社員、NPO、主婦、学生など、これまでの活動で係わった幅広い層の70名に参加いただき、集めた300人分の街の声を活用して、「2042年の旭川を考える」というワークショップを開催しました(写真2)。
ここでは、地域の方々が深層心理で考えている「旭川の強み」「旭川の魅力」を解明し、更に、それらと世の中の流れを掛け合わせ、旭川地域の希望する未来像を住民だけで描き出しました。これにより、地域の人々が未来に望むキーワードが明確になりました。
これらの活動が歓迎され、かつ、新たな手法・情報を地域にもたらしているということが評価され、2016年12月、旭川大学との包括連携協定を締結するに至りました1)。
(4)締結後の取り組み
締結後は、大学カリキュラム検討のアドバイザー、大学におけるNEC講座の実施を進めています。また、地元の各種会合に参画し、地域活性について活動の連携を強めています。更に、行政からも相談事項が増えており、地域の人を集める手助けから、ICTによる行政業務効率化などのソリューション提案まで多岐にわたる活動に発展しています。
一例として、「観光産業活性化」という地域課題に対して、旭川市、旭川しんきんと協働し、NECの首都圏事業場にて旭川物産展を開催しました。数万人を対象とすることで、認知度を上げるだけでなく、どの物産に人気が集まるか、値付けは妥当かなどの試験販売ともなり、今後の旭川物産による観光収入拡大に向けた一助となりました。
3. 事例2 神奈川県鎌倉市における地域共創
(1)地域共創活動の始まり
一般社団法人コード・フォー・ジャパン様が実施する、企業から自治体への短期研修職員派遣プログラムで、NECから鎌倉市に3カ月間社員を派遣したことが共創活動の始まりです。
活動では、高齢者の住民が増加している地域での町内会参加による課題のヒアリングや、職員や市民との「市民協働」をテーマとしたUX(ユーザーエクスペリエンス)ワークショップ、働き方改革をテーマとした意見交換会など、さまざまな取り組みを行い、課題探索を行いました(写真3)。
(2)見えてきた課題とNECの提供価値の設定
さまざまな取り組みに参加することで、以下の課題やニーズが見えてきました。
- 高齢者がいきいきと暮らせる社会の実現
- 施策検討における民間手法(UX手法など)の活用
- 職員の業務効率化を実現する働き方改革の実現
これらの課題やニーズに対し、ベンダーとしてITを提供するだけでなく、民間の手法やノウハウなども提供価値があることが分かりました。
(3)包括連携協定の締結
前述の取り組みを通じ、NECの「共創によって社会課題を解決し新たな価値を生み出していきたいという理念」と、鎌倉市の「民間の手法を駆使し、多様な主体と一緒になって街づくりを進める『オープンガバメント』の目指す方向性」が同じであることを共有できたことから、今後中長期的に共創活動を行うことに両者で合意し、協定締結に至りました。
協定の具体的内容は、「健康で生きがいに満ちた福祉のまちを目指す活動」や「市職員などを対象とした人材育成の活動」「ICTの活用による地域発展を目指す活動」など計5つの柱を定めました2)。
(4)締結後の取り組み
締結後の取り組みの一つである、RPA*の効果検証の取り組みを紹介します。
働き方改革による生産性向上が叫ばれるなか、鎌倉市では業務プロセスの見直しだけでなく、ITを活用した業務効率化についても検討していました。特に、昨今盛り上がりを見せているRPA活用について、導入効果や導入までの進め方に関心があるものの、RPAのイメージをつかめていない状況でした。一方NECは、RPAをソリューションとして展開しているものの、お客様の業務プロセスを深く理解し、RPAの適用業務を適切に絞り込む進め方を模索している状況でした。このような両者の状況のなか、RPAの簡易検証をテーマとした取り組みを行いました。
まず、NECと鎌倉市の両者で検討した後、業務負荷の高い納税課を対象とし、以下の流れで進めました。
- 1)納税課へのRPAのご紹介
- 2)業務プロセスの理解とRPA適用先の選定
- 3)検証環境でのRPAの検証
1)~3)のプロセスを進める場合、従来は「顧客とベンダーの関係」として、ベンダー側が業務を理解しRPA適用先を提案します。しかし、その方法では業務選定に時間が掛かる、どちらか一方的な提案になる可能性があり両者の納得感が得られにくい、などの課題があります。そこで、ワークショップによる共創スタイルでプロセスを進めました(写真4)。
具体的には、まず、納税課の職員とNECでグループを組み、RPA機能の認識合わせをしました。次に、模造紙や付箋を使って業務プロセスを整理し、負荷の高い業務を洗い出してRPA選定業務を絞り込むといった進め方を行いました。その後、NEC側ではRPAプログラムを作成、鎌倉市側で日程調整や検証環境準備などを行い、両者で導入効果を検証しました。
このような取り組みにより、NEC側ではRPAを適用する業務選定の進め方を検証できました。また鎌倉市側では、RPAの理解度が高まるとともに、RPAの導入効果や導入までの進め方を検証でき、働き方改革の実現を支援する取り組みとなりました。
他にも、「高齢者見守りサービスの実証」「プログラミング教育の実証」など、地域課題の解決を目指した取り組みを行っています。
- * Robotic Process Automation:認知技術(ルールエンジン、機械学習など)を活用した、主にオフィスや官公庁などの業務の効率化・自動化の取り組みのこと
4. まとめ
本稿で、2地域の共創事例を紹介しました。包括連携協定に基づく地域共創では、地域とベンダーが一緒になって課題の発掘を行い、新たな事業の可能性を探る取り組みを行うことが可能です。
NECグループは現在、旭川大学、鎌倉市に加え、北海道釧路市、秋田県湯沢市、石川県羽咋市、和歌山県、沖縄県島尻郡久米島町など、さまざまな自治体と包括連携協定を締結しており、社会課題の解決に向けた取り組み、及び事業可能性の検証を行っています。
NECは、2020中期経営計画に述べた「お客様とのパートナリングによる社会課題の解決」に向け、今後も地域のステークホルダーとの共創活動を推進していきます。
参考文献
執筆者プロフィール
未来都市づくり推進本部
マネージャー
SI・サービス市場開発本部
主任