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地域共創基盤としての「スマートシティたかまつ推進協議会」

地域共創

2017年10月、高松市に「スマートシティたかまつ推進協議会」が創設されました。これは、都市のさまざまなデータを使うことで人・モノ・情報の動きを活発化し、イノベーションの創出及び地域間相互の連携と相乗効果の促進が起こるスマートシティを実現することを目標とした地域共創の場です。

本稿では、本協議会をオープンイノベーション実現の場であると考え、アイデア創発、選択、実践を通じてイノベーションにつながる流れに基づいて、協議会で実現した機能について整理し紹介します。

1. はじめに

ビジネスの型がモノづくりからコトづくりへ進むなか、NECも新たな事業開発の手法を獲得すべく、さまざまな取り組みに着手しています。スマートシティの実現においても、地域課題に丁寧に寄り添いながら、複数のステークホルダーとともに共創を通じたイノベーションを創出することが必要と考え、具体的な活動を進めているところです。

2017年10月には香川県高松市で創設された「スマートシティたかまつ推進協議会」に参画、事務局に対して企画・運営支援という形で主体的に関わっています。

本稿では、本協議会が共創の場としてどのように機能しているかについて紹介します。

2. イノベーションに寄与するデータ利活用

総務省統計局の分析によれば、2008年より日本は人口減少社会に突入しています1)。その結果、地方自治体や地域の企業には、自立した経済活動をこれまで以上に進め、自らの特徴を生かしたイノベーションを起こす必要が増大しています。そのため、新たな付加価値を生み地域活性化に寄与することを目的として、自治体や企業が保有する資源を可能な限り共有し、協働する動きがはじまりました。

特に資源のなかでも、データ・情報の価値に目を向けると、データの共有によるアクセスの効率化や、一元化されたさまざまな情報による地域に潜む問題の発見、更にはその解決にも、データを生かすことができると考えます。行政であれば政策に生かすこと、企業であれば実際にサービスやアプリケーションを開発し新たな事業や事業体を創出することが該当します。

一方、地域が抱える課題を解決するさまざまなアイデアも、自治体や個別の企業が単独で出し、具現化するには限界があります。この状況を改善する手段として、課題や解決策の仮説構築をともに実施する、地域共創活動の場の設置が進んでいます。

3. 「スマートシティたかまつ推進協議会」

3.1 協議会の概要

高松市では、2017年10月25日、自治体、企業や非営利団体の計14組織が参画する形で本協議会が発足しました。本協議会の目標は、都市のさまざまなデータを使うことで人・モノ・情報の動きを活性化し、イノベーションの創出、地域間相互の連携、相乗効果の促進が起こるスマートシティを実現することです。そして、本協議会は、地域共創によるイノベーションを推し進める場であるともとらえることができます。

そのためには、市が協議会を行政機能として管轄するのではなく、産学官民といった幅広い参加者が集い、自立的に活動することが期待されました。市長が会長を務めることもあり高松市ICT推進室が事務局を担っていますが、協議会運営の中心的課題である「高松において、どのような領域で、どのような解決策をもって、スマートシティたかまつを実現するイノベーションを協議会会員に起こしてもらうべきか」の検討は、有識者によって構成される運営委員会に委ねる構造となっています(図1)。

図1 協議会の構造

3.2 協議会の2つの機能

ここでは、協議会活動をイノベーションにつながる機能(施策)の観点から整理します。図2は、所属する組織内外にある多数のアイデアのなかから、所属する組織が自社の戦略に合う一部を選び、イノベーションにつないでいくという、ヘンリー・チェスブロウの提唱するオープンイノベーションの考え方に基づいた流れを表しています2)。(1)地域課題解決に寄与しそうなアイデアを多数生み出し、(2)協議会という組織の目指す方向から、協議会として魅力的なアイデアが検討・選択され、実践へ向けて進んでいきます。

図2 アイデアがイノベーションにつながる流れ

機能(1)アイデアが増える仕掛け

協議会としては、スマートシティたかまつの実現、データ利活用の促進といった目的を踏まえ、実際にイノベーションが起こるために(1)のアイデアが増える仕掛けを機能させる必要があります。そのための方策の1つ目は、協議会会員数の増加です。これは組織間の出会いの組み合わせの増加となり、アイデアを生む可能性を増やします。2018年3月末時点で、本協議会は26組織が会員となっており、現在も増加しつつあります(図3)。

図3 協議会会員構成(2018年3月)

2つ目は、協議会会員と地域(地域の住民や組織)との交流機会の増加です。地域が抱える課題に対し、組織内に閉じた検討だけにとどまらず、広く地域住民・企業との開かれた検討・交流を行い、更にイノベーションの創出を促進させるために、2018年2月24日にシンポジウムを実施しました。

本シンポジウムは、協議会の考える未来像についての意見交換の場として実施しました。100名近い住民が参加し(写真1)、アンケートなどから協議会内部ではあまり重視されていなかった子育て支援のような領域への多数の支持を受けるなど、住民との意見交換の意義を感じる場となりました(図4)。

写真1 シンポジウムの模様
図4 シンポジウムアンケート結果(有効回答者数58)

3つ目に、地域住民へ高松のスマートシティ像を動画の形でイメージを伝える活動を行いました(写真2)。誰でも無償で閲覧できるYouTube上に公開し、交流のきっかけづくりになるようにしています。動画の制作にあたっては、地元のデザイン会社に依頼することで、地元のより魅力ある場所や企業の発掘にもつながりました。

写真2 スマートシティたかまつイメージ動画

機能(2)イノベーションにつながるアイデアを選択する仕掛け

(1)に加え、多数のアイデアのなかから協議会が期待するイノベーションにつながるアイデアを選択する仕掛けとして、運営委員会の絶え間ない検討の質の向上があります。

まず、運営委員会の基本的な機能について説明します。運営委員会は、協議会会員のなかから選ばれた方々、外部有識者、そしてオブザーバーで構成します。運営委員会の主要な決め事は以下の2つです。

  • 1)
    協議会の方針と進め方の検討・決議
  • 2)
    ワーキンググループ(WG)の設置

検討の質の向上のため、2017年度は以下の活動を実施しました。

まず1)に対する活動としては、協議会ビジョンの検討があります。協議会がどこに向かうべきかを運営委員会メンバーが各自、そして皆で検討することで、協議会がこれからどの領域でイノベーションを起こすべきかという、未来志向の方針が明確になる活動となりました。更に、前述した2018年2月のシンポジウムも重要なきっかけとなりました。協議会会員でもある運営委員会メンバーも参加したことにより、地域の声を踏まえて協議会が何を目指すべきかを考え、アイデアの選択に生かせるよう常に考え続ける契機となりました。

次に、2)について説明します。WGは、協議会を通じ、データ利活用基盤である共通プラットフォーム(FIWARE)を使った新たなアプリケーションやサービスを具体的に企画・検討するためのグループです。WGの設置までのプロセスを図5に示します。

図5 WG設置プロセス

本協議会としてのイノベーションに合うアイデアを選択・審査することは運営委員会の役割ですので、WGの設置という形で、協議会会員が具現化を提案するアイデアの将来性をよく理解するための検討をしなければなりません。

また、運営委員会の検討の質とは無関係に、企画には旬があり、検討や実現に複数年かけている間に求められるものが変わってしまう可能性があります。そのため、WGの活動はできるだけ短期間にし、イノベーションに向けて事業化させるべきか見極めなければいけません。そこでWGは運用期間を最大1年程度とし、活動終了後に実証事業を行うかの判断を実施します。

2018年は、複数のWGが活動しています。一例として、「交通データ流通・活用WG」というWGがあります。高松を走る公共交通機関(バス)である「ことでんバス」の運行に関わるデータをより利活用しやすい形式でオープン化し、希望する事業者が利活用できる環境整備の検討を進めています。これが実現すれば、他の事業者も自社の保有するデータをオープン化する機運が高まり、域内のステークホルダー間による課題解決が加速されると期待しています。

4. まとめ

NECが新たなビジネスの型を模索するなか、オープンイノベーション、地域共創の観点で取り組みが進む「スマートシティたかまつ推進協議会」の活動について紹介しました。

協議会活動を通じたデータ共有・利活用が進むことで、都市のなかでさまざまなイノベーションの芽が見つかる可能性が高まります。今後も新たな事業の創出が進むよう協議会を支援していきます。


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参考文献

執筆者プロフィール

大賀 暁
未来都市づくり推進本部
主任
小林 慶佑
未来都市づくり推進本部
主任

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