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欧州におけるスマートシティとSociety 5.0の実現へ向けての標準化の動向
シティマネジメント技術日本では、Society 5.0(情報化社会)化が進んでいます。商品とサービスの生産、流通、更には消費までをもデジタル化することで、デジタル経済での価値が生まれます。サービスに必要なナレッジプロセッシング(AIや機械学習など)では、多数の異なるソースから情報を収集して組み合わせるため、メタデータ(情報の質、ソース、ライセンス、使用権、個人情報の使用権も含む)が必要です。関連する標準は多数あり、調査結果をここに記載します。ヨーロッパの標準化グループETSI ISG CIMでは、この情報交換用にNGSI-LDというオープンなAPIを開発しています。また、他の多くの標準化機関と協力して、IoTプラットフォーム、モバイルアプリ、レガシーデータベース、リンクされたオープンデータとの相互運用を促進しています。
1. はじめに—デジタル化、都市、社会の動向
経済やサービスのデジタル化が進む昨今、ますます多くの経済的価値が生成され蓄えられており、その事例はあらゆるところで見ることができます。例えば、製造業は、ジャストインタイム量産から、3Dプリンティング1)などのデジタル設計に基づいたPOSカスタマイズ生産に発展しています。移動手段は、自家用車や公共交通機関から、現実世界のデジタルモデリングに依存するマルチモーダル交通や自動運転車両2)などへと進化しています。そして、通信用のアナログ信号は、1876年3月10日にアレクサンダー・グラハム・ベルが電話の実験に成功し3)、1898年にそれをNECが最初の製品のひとつ4)として採用した当時は奇跡以外の何物でもありませんでした。しかし、もはやわれわれが生きている間にはその姿を消し、デジタル技術に完全に取って代わられることが予想されます。このようなデジタル情報の「増加トレンド」を図1に示しましたが、グローバル規模のインターネットトラフィックは、2018年ではひと月あたり150,000ペタバイトであり、その後も増加傾向にあるとの予測です。
こうした背景のもと、われわれが直面している高齢化社会、健全な社会、共生社会、スマートシティ、レジリエントな経済などの実現に向けた社会的挑戦のため、2017年10月6)日本政府は、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット工学、共有経済などの第4次産業革命によって、イノベーション活用を目指すべきであると提案しました。
その成功のためには、共通の標準と相互運用が可能なインタフェースが不可欠です。それにより、コストを抑え効果的なエコシステムを実現して、イノベーションを促進し、更には問題の追跡機能を強化しその範囲を限定することが可能となり、特定の単一サプライヤによる製品とサービスのロックインを防ぐことができます。
Society 5.0は、情報化社会です。スマートシティにおいて、情報へアクセスするということは、水や空気を手に入れることと同じように、欠くことのできないものになります。NECは、この「空気」(情報)の自由な流れを担保する技術と標準の共創に、欧州でも日本でもそして国際的にも強く関わっています。本稿では、欧州に焦点を当てて説明します。
2. EUにおける標準化のセグメント
欧州では標準化機関は論点も含め複層構造をなしており、業界主導の活動と国家またはEU全体の社会目標とのバランスをとるために、行政機関とさまざまな連携がとられています。
EU全体としての標準化機関(ESO)は、欧州標準化委員会(CEN)、欧州電気標準化委員会(CENELEC)、欧州電気通信標準化機構(ETSI)の3機関で、ここで規定された仕様は政府調達要件として認められています。
CENは、国際貿易関連、欧州市民の福祉及び環境問題関連の仕様を扱っており、CENELECは、より電気・電子工学分野へ焦点を当てた仕様の作成に携わっています。一方、ETSIは、テレコミュニケーションに関する仕様に特化しています。しかし、デジタル化が経済と生活のすべての側面に浸透していることから、この責任分担は過去10年間で崩れつつあります。
例えば、こうした重複した状況について、欧州委員会は2017年9月13日7)8)、欧州全体のサイバーセキュリティ証明とコンプライアンススキームのための計画文書を発表したところ、3つのESOは直ちにそれに応え、それぞれ独自の意見を表明しています。欧州委員会は、特に、工業プロセスにおけるデジタル化において、地域レベル、国家レベル、国際レベルで所有権や法令上の仕様が数多く乱立していることに懸念を抱き、2018年初頭にはマルチステークホルダー・プラットフォーム諮問グループの特別小委員会MSP DEI9)を立ち上げ、行政活動のための概要と勧告を11月までに作成する予定です10)。この委員会の代表者の一人として、NECがETSIにより任命されました。
3つすべてのESOはそれぞれの分野に影響を与えるグループを所有しています。例えば、CENELEC(ISOと似た組織)は高レベル経営指針とKPIを、CENは環境ガイドラインと測定仕様を、ETSIはIoT関連仕様をそれぞれ有しています。また、重複した業務領域と仕様のマッピングを最低でも行うべく、SF-SSCC11)と呼ばれる特別調整委員会が設置されました。NECはそこにおいて中心的な貢献をしてきており、図2で示されるように、スマートシティ分野において、各種作業部会の分類方法に関して大きく関与しています。
図2はSF-SSCC業務の一環としてNECが作成したマインドマップの一部です。各ブランチは、例えばCEN、CENELEC、ETSI、oneM2M、ITU-T、ISO、IECなどの、標準化に関わる主な機関を示しています。一部の作業には重複があるにせよ、これらすべてはスマートシティに大きく関与するものです。このマインドマップ活動は多くのソースからの数百もの文書へのリンクを提供しており、その詳細はSF-SSCCのWebサイト11)上で公開されています。2018年10月まで継続する予定で、その後は、ESOで進行している活動と合流する予定です。
取り組みの重複を避け、スマートシティに関与するすべての業務を特定するために、こういった標準化の詳細な全体像が強く必要とされています。CENで“CEN Workshop Good Practices for Smart City Solutions”12)というグループを立ち上げたときに、CEN内部の多くの専門家でさえもそれに気付かなかったという最近の事例からも明らかなように、全体像をつかむことは個々の専門家、ポリシーマネージャーにとって事実上不可能なことになっています。
3. スマートシティ標準の優先順位付け
仕様やそれらの担当作業部会の情報の収集や分類は、始まりにしかすぎません。スマートシティに関する標準化は、既にかなりの数が存在しています。インタビューや記事で繰り返し述べられているように、ポリシーマネージャーやテクニカルオフィサーにとっての究極のニーズは、重要な課題と施策の要件から始まり、次に適切なサブカテゴリとテクノロジーアプローチ、更にはどの仕様を適用するのかという詳細にいたるトップダウン概要を取得し、なるべくなら特定の街とユースケースに最も関連する標準を選択することにあります。
こうしたシティマネージャーが、必要とする標準に優先順位を付けられるようサポートするため、2018年初頭にNECは、ESTIグループISG CDP(City Digital Profile13))を共同設立しました。まず直面した困難は、パラダイムシフトの実現でした。最初に主たる目標とシティマネージャーのニーズが何であるか分析し、その次にどのようなサービスとプロセスが必要であるか分析し、その後、初めてどのテクノロジーの選択が適しているか、どの標準を適用するかを分析します。しかし、残念ながら、ほとんどの標準化グループでは、最初にテクノロジー自体の討論が行われ、その次にそれをどのように適用するかの討論がなされます(たとえそれがスマートシティのユースケースに最適なものでなかったとしても)。
おのおのの都市においてスマートシティ実現に不可欠なことは、さしあたってのユースケース(サービス)から順次分野横断のサービス導入を低コストで可能とする水平プラットフォームの導入ということがISG CDPの認識です。しかし、これまで、(1)どのサービスを最初に行うか、(2)どのセンサーインフラの設置を最初に、柔軟な拡張性を持って行うか、(3)容易な拡張性のためにはどの水平プラットフォームを選択するか、(4)どのプラットフォームAPIが最も優れた相互運用性をレガシーシステムにおいても提供するか、などに応えるガイドラインはありませんでした(図3)。
4. 標準化のレイヤ
スマートシティまたはSociety 5.0のためのプラットフォームの分析の多くは、ISOの7レイヤモデルで始まります。これは、以下、図4に示すとおり、より幅広い5層レイヤに簡略化することができます。
- (1)データ収集、デバイス作動レイヤ(物理、リンク、ネットワークレイヤ)
テクノロジー:LoRa、DECT ULE、3GPP LTEなど - (2)統合、管理レイヤ(デバイス検出/アップグレード、データ収集)
テクノロジー:MQTT、CoAP、oneM2M - (3)情報アクセスレイヤ(共通の定義、用語を用いたデータアライメント)
テクノロジー:OMA NGSI、ETSI ISG CIM(NGSI-LD) - (4)ナレッジプロセッシングレイヤ(プロージビリティチェック、データアナリティクス、AIを用いたデータのリアルワールドモデルへの統合)
- (5)アプリケーションレイヤ(ドメイン固有ナレッジとサービス使用)
テクノロジー:マルチモーダル交通計画、e-Healthサービス、パーソナルセンサー/ライフスタイル情報の統合、市民サービスなどのサービスへアクセスするためのアプリケーション
各レイヤでは詳細データの抽象化を行います。例えば、「統合、管理レイヤ」のoneM2M15)の標準では、ほとんどのデバイスプロトコルに関係なくデータ収集が可能になるという、抽象化による大きな利点があります。また、oneM2Mの「情報レイヤ」との「上りインタフェース」においては、デバイスとの直接のインタラクションが不要です(あるいは大幅に削減可能です)。
同様に、その次の「情報アクセスレイヤ」では、更に上位のソフトウェアに対し「上りインタフェース」を提供します。そうすることで、「ナレッジプロセッシングレイヤ」では、上位層のソフトウェアが接続されたリアルワールドオブジェクトのいわゆる「デジタルツイン」16)とのみインターアクションを行います。すなわち、ナレッジプロセッシングソフトウェアは、動作状態と来歴の情報を提供するセンサーとアクチュエータとの直接のインターアクションは発生しないのです。
5. 数多くのソースからデータを組み合わせ、高信頼性のAIを実現
ナレッジプロセッシングは、図5に示されているように、コンテキストインフォメーションとも呼ばれる多数のソースからの情報の収集と組み合わせを伴います。直近の課題は、レガシー(例えばSQLデータベースまたは単なるファイルサーバ)、オープンデータ、IoT及びユーザーアプリケーションシステム間の情報交換のための、低コストで、柔軟性があり、拡張性の高いシステムを開発することであり、これによりデータに関する出所やライセンスの情報を維持・交換することも可能となります。
出所情報は情報のソースと質(正確さ)を記録し、その一方でライセンス情報は個人情報や私有情報を含むさまざまなコンテキストでの情報を使用するための権利を記録します。AI導入成功のキーとなる要因は、出所とデータの質への厳重な注意が必須である入力情報のソースと正確さのトレーサビリティです。昨今、企業の多くはデータ取得予算の多くの部分を、関連情報の購入と「クリーニングアップ」に当てていますが、こういったアプローチではSociety 5.0の規模を図ることはできません。
これらの問題に対応すべく、NECは、以下の2つの国際組織内で取り組みを行っています。それは、(a) IoTとスマートシティ/コミュニティをサポートするデータパブリッシング、マネジメントのためのITU-Tフォーカスグループ17)、(b)コンテキストインフォメーションマネジメントのためのETSIの業界標準を策定するグループ(ISG CIM)18)です。実際、NECはITU-T FG DPM委員会に幹部要員を派遣しており、ETSI ISG CIMの共同設立者でもあります。筆者は、このグループの議長に2回選任されています。
ISG CIMの実績はNGSI-LD API19)として知られるオープンAPIの仕様策定で実を結び、2018年には完成が予定されています。レビュー用に本番前のバージョンも入手可能です。NGSI-LD APIはJSON-LD製品を再利用しています。すなわち、既に多くのグループ20)がリンキングデータをサポートしているということです。類似のトピックも既にW3C Web of Things21)やDublin Core22)などのグループで議論されています。
オープンソースFIWARE Foundation23)は、NGSI-LDをそのソフトウェアスイート内で早急に実装することを計画しています。NECは、FIWARE Foundationの活動をプラチナ会員としてサポートしており、理事会と技術運営委員会に代表メンバーを派遣しています。
6. 標準化におけるNECのミッション
本稿では、欧州における標準化について述べてきました。そのなかで、NECがこの活動に協力しているのは、短期的長期的の2つの視点での理由があります。
短期的な視点での理由は、ICT業界が、標準化と自己強化型ネットワークの影響に基づいて、創造的自己破壊の強力なパラダイムを追求しているからです24)。標準化は所与のレイヤにおける相互運用性を実現するために必要であり、それはNノードネットワークの各追加ノードでN2付加価値を可能とし、上位レイヤにおいて「相互運用のポイント」を提供します。しかし、この同じ標準化がそれを採用した機器のコモディティ化を実現するのです。すなわち、機器の主要なインターアクションが標準化された場合、唯一の差別化要因は価格だけになります。実際は、信頼性、性能または安全性での差別化がありますが、それらは競争の厳しい分野ではあくまで価格の二次的なものになりがちです。
コモディティ化の結果、持続可能な利益は主として、イノベーションの最先端の近辺で発生することになります。それはビジネスモデルを含むソフトウェアのことであり、図4の情報アクセスレイヤ、ナレッジプロセッシングレイヤにも及ぶものであり、これらはNECの専門分野となっています。
欧州そして全世界の標準化をサポートする長期的な理由は、短期的な理由と同様、それがNECがその使命を果たす唯一の道だからです25)。
7. まとめ
多くのIoT、クラウド、セマンティック技術の複雑さとそれらの相互関係は、今まで垂直的サイロになりがちであった、従来の標準化方式の適用をもってしては、手に負えないものになりつつあります。膨大な数の標準化団体とアライアンスの組織編成を監視することは、専門家にとっても非常に困難です。そして、組織の数がまだ少ないときには問題がなかった1対1の連携に基づいた従来の調整手法は、現在のはるかに数の増えた組織に対しては機能しなくなってきています。
複雑さを隠すためにいくつかの面(レイヤ)をモジュール化する従来の手法は使用可能ですが、SF-SSCC、ITU-T DPM、ETSI ISG-CIMなどのグループも認めているように、追加の調整が各上位レイヤにおいて必要です。
Society 5.0の実現は、透明性と相互接続へのより大きなコミットメントを、多くの標準化グループ内のみならず、ソリューションを開発し実装する人々と企業から求められることでしょう。
- * LoRaは Semtech Corporationまたはその子会社の商標または登録商標です。
- * LTEは、欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。
- * Facebookは、Facebook, Inc.の登録商標または商標です。
- * Netflixは、Netflix, Inc.の登録商標です。
- * LinkedInは、LinkedIn Corporationの商標です。
- * eBay(イーベイ)はUS(アメリカ) および国際的に登録されている商標です。
- * PayPalは、PayPal ,Inc.もしくはそのライセンサーの商標または登録商標です。
- * Adobeは、Adobe Systems Incorporated(アドビ システムズ社) の米国ならびに他の国における商標または登録商標です。
- * その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
- 1)
- 2)
- 3)
- 4)
- 5)
- 6)
- 7)
- 8)
- 9)
- 10)
- 11) CEN-CENELEC:CEN-CENELEC-ETSI Sector Forum on Smart and Sustainable Cities and Communities
- 12) 欧州標準化委員会:CEN/WS - Description and Assessment of Good Practices for Smart City Solutions
- 13)
- 14) Paul Copping et al.:The 4th Industrial Revolution and the Municipal CEO: ETSI City Digital Profile,ETSI White Paper,No.26,2018.4
- 15)
- 16)
- 17)
- 18)
- 19)
- 20)
- 21)
- 22)
- 23)
- 24)
- 25)
執筆者プロフィール
Chief Standardisation Engineer
NEC Laboratories Europe
Senior Researcher
NEC Laboratories Europe