都市評価指標標準とその活用

シティマネジメント技術

都市経営における重要な目標は、持続的な成長を達成しながら都市の価値を高めることにあります。都市の価値向上の実現には、現状を把握するための客観的評価が必要となります。その公正な評価のために、さまざまな視点での評価指標が複数の国際標準化団体において策定されています。本稿では、都市の評価指標標準とその活用事例を紹介します。また、ICTを活用したNECのスマートシティ製品が、都市の評価指標標準の観点でどのように価値向上に寄与できるかを考察します。

1. はじめに

都市経営における重要な目標は、持続的な成長を達成しながら都市の価値を高めることにあります。都市の価値向上の実現に向け、現状を把握するための客観的評価が必要となります。その評価には、公正性が求められるので、公的機関が規定する評価指標の利用が望まれます。また、単一の評価指標を複数都市に適用することで、評価結果の都市間での比較も可能となります。このような背景から、標準化された(公正で共通に利用可能な)都市評価指標が、さまざまな国際標準化団体で策定されています。

本稿では、国際標準となっている都市評価指標とその活用事例を紹介します。また、ICTを活用したNECのスマートシティ製品が、都市評価指標標準の観点でどのように都市の価値向上に寄与できるかを考察します。

2. 都市評価指標標準

都市評価指標標準の策定は、公的な標準化機関である、国際電気通信連合(ITU)、国際標準化機構(ISO)、ISO/IEC JTC1(ISO/IEC Joint Technical Committee 1)などで進められています。また、国連でも「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の達成度合いのための指標が決議されています。以下に、策定が完了している都市評価指標標準を紹介します。

2.1 ITU-T Y.4900/L.1600シリーズ

国連の専門機関であるITUでは、ICT分野の標準化を行う電気通信標準化部門(ITU-T)において、都市評価指標に関する標準化が進められています。表1に示す4件のKey Performance Indicator(KPI)が、ITU-T勧告として発行されています。ITU-TはICT分野の標準化団体ですので、これらの指標は都市のICT導入に重きを置いたものとなっています。その他、都市の成熟度モデル、都市のオープンデータ活用度などの勧告作成が進められています。

表1 ITU-T勧告として規定されている都市評価指標

2.2 ISO 37120:2014

2014年に、ISOが国際標準ISO 37120:2014(都市サービスと生活の質のための評価指標)を制定しました。この標準は、世界の都市を統一指標で評価し比較することを目的として定められました。表2に示す17の領域に関して、100項目の指標(46のコア指標と54の補助指標)が規定されています。例えば「セーフティ(安全)」に関しては、表3に示す5項目の指標が規定されています。

表2 国際標準ISO 37120:2014で規定されている都市評価指標の17領域(カッコ内は指標項目数)

表3 国際標準ISO 37120:2014で規定されているセーフティに関する評価指標

ISO 37120:2014の他に、ISOでは都市インフラの評価指標に関する標準も策定しています。2017年に策定されたISO 37153(都市インフラ成熟度モデル)は、都市インフラの継続的な改善を促すためのガイドラインです。都市インフラの性能、プロセス、相互接続性の3つの観点で評価項目を用意し、それぞれ5段階の評価を行うことで、現時点の課題や改善点を見出すことを想定しています。用意すべき評価項目は、ISO/TS 37151(評価指標のための原則及び要求事項)にて規定されています。

2.3 SDGs達成のための指標

2015年9月に開催された国連総会で、総会決議70/1「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。この決議では、2030年までに人類が解決すべき課題としてSDGsが定義されています。SDGsは17の目標と、各目標に対する169のターゲットから構成されています。この中には持続可能な都市に関する目標(目標11:住み続けられるまちづくりを)も含まれています。

2017年7月に開催された国連総会では、国連統計委員会の活動に関する総会決議71/313が採択されました。この決議には、SDGsが定める目標とターゲットの達成度合いの評価方法が232項目にわたり記載されています。決議から日が浅いため、2018年5月時点ではこの指標を適用した都市の事例はありませんが、今後その利用が広がっていくものと思われます。

3. 都市評価指標標準の活用例

第2章で紹介した都市評価指標標準を用いて都市評価を実施し、結果を公表する取り組みが報告されています。以下に、その例を紹介します。

3.1 WCCDによる認定プログラム

都市データ世界協議会(WCCD)が、前述の国際標準ISO 37120:2014の認定プログラムを実施しています1)。この認定プログラムでは、都市がISO 37120:2014に基づく都市評価結果を提出し、第三者機関による監査を経て評価結果の認定及び公開が行われています。2018年5月時点では、WCCDのWebサイトでは世界55都市の評価結果が公開されています。国際標準化された単一の評価指標による評価結果なので、都市間の比較も可能となっています。ただし、都市によってはISO 37120:2014が定める100項目すべての評価結果が提出されているわけではありません。包括的な比較ができないので、都市のランキング付けは実施していません。

WCCDでは、都市がより多くの項目での評価結果を提出することを促進するために、評価結果が提出されている指標項目数に応じて、5段階の認定を行っています。表4が示す通り、2018年5月時点では、82都市が認定を受けており、うち59都市が最高レベル「Platinum」の認定を受けています。

表4 WCCDが規定する5段階の認定レベル

日本の自治体では、WCCDでのデータ公開、及び認定を受けている例はありません。今後、日本からも積極的に評価結果を公開し、WCCDの認定を受ける都市が出てくることが予想されます。

3.2インドのスマートシティインデックス

インド政府は、国内100都市でスマートシティを構築するという構想を発表しており、スマートシティの推進に積極的な国として知られています。インドでは、単一の都市評価指標を導入し、その指標を用いて各都市のスマートシティ構築の進捗状況を把握する取り組みを行っています。使用される都市評価指標はインド国内でのみ用いられるため、国際標準化された指標は必要ありません。インド国内の特性に合わせた指標の設計を行い、その指標を用いて評価を実施しています。インド商科大学院を中心とした研究機関が独自の指標を作成し、国内都市の評価を行っています2)。この指標は、前述の国際指標標準ISO 37120:2014をベースとして、インド独自の評価項目を追加したものとなっています。生活、経済、住民、政府、交通、環境の6領域に計58項目の指標で構成されています。2018年5月時点では、インド国内53都市の評価が実施され、評価結果も公表されています。これにより、各都市の現状把握と課題認識を可能にしています。

3.3 ドバイとシンガポールにおける都市評価指標の活用

アラブ首長国連邦のドバイでは、石油に頼らない都市経営を目指し、「Smart Dubai」と冠したスマートシティプロジェクトを推進しています。都市のスマート化を推進し社会インフラ整備を進めることで、投資の呼び込みや雇用創出を実現して持続可能な成長を目指しています。これを達成するためには、「ドバイがどれだけスマートか」をアピールすることが要求されます。ドバイは、前述のITU-Tが定めた都市評価指標を用いた評価を実施し、現状分析と今後改善すべき点を公表しています。

「Smart Nation」のスローガンでスマートシティを推進しているシンガポールも同様の取り組みを実施しています。ドバイのケースと同様に、評価結果や改善点などを公表しています。今後、ドバイやシンガポールのように、都市評価指標標準を活用した評価結果を公表し、自都市のスマートさをアピールする取り組みが増えてくるものと思われます。

このように、標準化された都市評価指標を用いることで都市間の比較を可能にする取り組みや、自都市の現状や課題を客観的に評価し、都市のスマートさをアピールする取り組みが世界各地で進められています。

4. 特定領域での都市評価指標標準の適用

第3章では、都市全体としての価値評価のために都市評価指標標準を適用する例を見てきました。本章では、注目している領域に特化して都市評価指標標準を適用し、その領域での課題を特定することについて考察します。課題を特定し、その課題を解決するICTソリューションを明確にすることで、都市の価値の更なる向上を実現できます。

例えば「安全・安心な街づくり」という領域を考えます。第2章で紹介した都市評価指標標準のうち、この領域に関係する評価指標項目の例として、表5に記載したものが挙げられます。これらの項目を評価することで、この領域の現状の把握及び課題の特定ができます。災害対策や防犯対策など、安全・安心な街づくりが課題となっている都市では、これらの項目での改善施策を推進することが望まれます。なお、この領域で更に詳細な分析を行う場合には、標準化された指標だけではなく、民間が発表している領域特化型の指標を利用することも可能です。「Safe Cities Index 2017」3)は、国際標準ではありませんがセーフティに特化した詳細な指標が紹介されています。

表5 安全・安心な街づくりに関連する評価指標項目の例

評価により明確となった課題を解決するためにICTソリューションの導入を検討する際にも、都市評価指標標準は活用できます。例えば、NECが豊島区で構築した「群衆行動解析技術」を用いた総合防災システム4)は、区内に設置した防災カメラの映像からリアルタイムに異常を検知し、災害時の帰宅困難者への早期対応や、平時の混雑エリアでの事故防止を実現するものです。また、NECがアルゼンチンのティグレ市に導入した「街中監視システム」5)は、不審車両の検知や、犯罪発生マップの生成により防犯対策を実現します。これらのシステムは、表5のいくつかの評価項目で改善効果が望め、安全・安心な街づくりに貢献できます。

このように、領域に特化して都市評価指標標準を利用することで、その領域における現状把握と課題の特定が可能となります。また、特定した課題を解決するためのICTソリューションの選定が可能となります。

5. むすび

本稿では、都市評価指標標準とその活用事例を紹介しました。標準化された都市評価指標を用いることで都市間の比較を可能にする取り組みや、都市のスマートさを客観的にアピールする取り組みが世界各地で進められています。また、NECのスマートシティ製品が都市評価指標標準の観点でどのように価値向上に寄与できるかを考察しました。

都市評価指標標準を用いることで、都市の価値を客観的に評価し、改善すべき都市課題を明確にすることが可能となります。NECは、明確となった都市課題を解決するスマートシティソリューションの開発に取り組み、持続可能な成長を実現する都市経営に貢献します。

参考文献

執筆者プロフィール

山田 徹
技術イノベーション戦略本部
エキスパート
野澤 善明
技術イノベーション戦略本部
エキスパート
本永 和広
技術イノベーション戦略本部
シニアエキスパート
芹沢 昌宏
技術イノベーション戦略本部
主席主幹