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FIWAREを活用したスマートシティ向け共通プラットフォームの構築(高松市事例)
データ利活用型スマートシティの実証・実装事例高松市は、総務省「データ利活用型スマートシティ推進事業」を推進するにあたり、行政だけでなく市民や企業がオープンにデータを利活用できる共通プラットフォームの構築に、国内で初めてFIWAREを活用しました。特に、優先度が高い防災分野(大規模災害への対応)・観光分野(観光・MICEの振興)について、データをIoT技術によって収集、蓄積、可視化、分析を行う仕組みを構築しました。本稿では、高松市で導入した共通プラットフォームと、防災・観光分野でのデータ利活用の事例について紹介します。
1. はじめに
香川県高松市では、持続的に成長できる都市の実現のため、複数分野におけるデータの収集・蓄積・可視化・分析を行うスマートシティ向け共通プラットフォームを導入しました。
本稿では、国内初事例となるFIWARE(ファイウェア)*1を活用したスマートシティ向け共通プラットフォームと、高松市が抱えるさまざまな課題のうち、防災と観光分野の課題について、IoT技術やオープンAPIを活用してデータの収集・蓄積・可視化・分析するシステムを構築した事例について紹介します。
- *1FIWARE:FI(Future Internet)WARE(次世代インターネット基盤ソフトウェア)の略。FI-PPPが次世代インターネット技術における欧州の競争力強化と、社会・公共分野のスマートアプリケーション開発を支援するために、開発した基盤ソフトウェア。
2. スマートシティ向け共通プラットフォーム:FIWARE
FIWAREは、EUの次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)*2で開発・実装された基盤ソフトウェアで、欧州を中心とした多数の都市や企業でスマートシティを実現するシステムに活用されています。
NECは、このFIWAREの開発に2011年から携わっており、FIWAREを基に、その品質を独自に検証し、セキュリティを強化したスマートシティ向け「データ利活用基盤サービス」として自治体やエリア開発事業者向けにサービスを提供しています。
本サービスは、地域の活性化や安全など、都市における課題解決に向けて、都市や地域に分散して存在するさまざまな分野・領域のデータ(防災、観光、交通、エネルギー、環境など)やIoT技術などを活用して収集したデータをクラウド上で蓄積し、共有・分析・加工して提供するサービスであり、高松市に導入したスマートシティ向け共通プラットフォームは、この「データ利活用基盤サービス」の機能を使用し、防災・観光分野でのデータ利活用を行っています。
- *2次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP):EUの第7次研究枠組計画におけるICTプロジェクトとして、3億ユーロの予算の下、2011年から5年計画で次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)を実施。
3. IoT技術を活用した防災分野でのデータ利活用
高松市の防災分野での課題としては、(1)「近年、ゲリラ豪雨や台風などによる、河川のはん濫リスクや津波・高潮のリスクの高まり」、(2)「近い将来、発生が予想される南海トラフ大地震(今後30年以内に70%~80%)など、大規模災害における避難所の状況把握の迅速化や市民への迅速かつ的確な情報提供」の2つがありました。
本課題解決のため、河川の水位・護岸の潮位や避難所の開設状況などをリアルタイムに把握することが可能なシステムを構築しました(図1)。これまでは、リアルタイムに河川の水位などが把握できるセンサーがなく、職員による現地確認が中心でしたが、本システムの導入により、市役所から現地の状況変化をモニタリングし、早期の災害対策(市民への迅速かつ的確な情報提供、職員による効率的な現地調査など)が可能な環境を整えることができました。

3.1 河川の水位・護岸の潮位の可視化
(1)の課題解決のため、高松市水防計画で指定されている水位・潮位観測地点に水位センサーや潮位センサーを設置しました(写真1)。そのセンサーから収集する水位・潮位のデータのほか、オープンデータとして香川県の防災情報「かがわ防災Webポータル」で公開されている水位・潮位・雨量のデータについても収集し、「高松市ダッシュボード」上でリアルタイムに可視化しています(図2)。


3.2 避難所の開設状況の可視化
(2)の課題解決のため、高松市内の指定避難所にスマートメーターを設置しました。そのスマートメーターから電力使用状況のデータを収集し、「高松市ダッシュボード」上でリアルタイムに可視化することで、避難所の開設可否の判断、及び開設状況を登録する仕組みを実装しています。
また、避難所開設時に、職員が避難所から避難状況を「高松市ダッシュボード」に登録するスマートフォン向けアプリケーションも有しています。
4. IoT技術を活用した観光分野でのデータ利活用
高松市の観光分野での課題としては、(1)「観光客の宿泊に結びつくナイト観光、食文化の魅力の創出など、新たな観光資源の発掘」、(2)「多言語案内標識や外国語を話せるスタッフの充実を始め、ユニバーサルデザインを取り入れた、外国人受入環境の充実」の2つがありました。
本課題解決のため、観光客(外国人含む)によるレンタサイクルの利用動向を把握可能なシステムを構築しました。瀬戸内海に面する高松市は坂が少なく、風光明媚(めいび)な土地として評判となり外国人観光客が増えています。また、平地が多いこともあり、多くの観光客は観光地を巡るのにレンタサイクルを利用しているため、その動態を把握することで、新たな観光資源の発掘や観光客向けのサービス向上(多言語案内・サインの設置、多言語研修の実施など)に役立てる環境を整えることができました。
4.1 レンタサイクル利用動向の可視化
(1)、(2)の課題解決のため、レンタサイクルにGPSロガー(GPSにより移動経路を記録する装置)を搭載しました(写真2)。貸し出したGPSロガー搭載レンタサイクルがレンタサイクルポートに返却されたタイミングで、GPS ロガー内のGPSログデータをWi-Fiを使って自動収集し、事前に利用者の承諾を得たうえで収集した利用者の属性情報(国籍、性別、年代、利用目的など)とマッチングすることで、レンタサイクルの利用動向から観光客の動態を分析する仕組みを実装しています。

分析結果は、共通プラットフォームに蓄積し、「高松市ダッシュボード」上に、出発地・目的地、滞在時間、移動経路として可視化(メッシュ表示)しています(図3)。

5. むすび
高松市では、今後も、本稿で紹介した共通プラットフォームを活用し、防災・観光以外の他分野においても、データ利活用の推進を目指しています。更に、高松市、NEC、株式会社STNetは、産学民官の多様な主体が自由にデータを利活用できる共通プラットフォームの実証環境の構築を検討しており1)、「スマートシティたかまつ推進協議会」(2017年10月設立)*3を構成する企業・団体などが、本実証環境を利用して、防災・観光・交通・安全安心・福祉などの多様な分野における新たなアプリケーション開発と実証を行うことが期待されます。
- *3スマートシティたかまつ推進協議会:2017年10月に高松市及び6つの企業・団体を発起人として設立した協議会。産学民官の連携の下、高松市の地域課題の解決を目的として、官民データの共通プラットフォーム上での適正かつ効果的な利活用の推進(スマートシティ化)を図る。2018年4月末現在、30社が参加している。
* Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
* その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
執筆者プロフィール
未来都市づくり推進本部
主任
未来都市づくり推進本部
マネージャー
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