データを活用した都市経営の海外事例

データ利活用型スマートシティの実証・実装事例

都市を企業のように経営するという観点が、広がりを見せています。住民により良い暮らしを提供するためには、常にイノベーションを取り込み、効率を上げていくことを、持続的に行わなければなりません。そのために、都市に存在するデータを有効に活用する試みがあります。NECは、ヨーロッパの複数の都市の取り組みをテクノロジーとソリューションで支えています。本稿では、NECのソリューションとして、クラウドシティオペレーションセンターの概要を説明するとともに、これらを使ってスマートシティの実現を目指す海外の都市での活用事例を紹介します。

1. はじめに

世界では、2018年時点で、50%を超える人々が都市に住んでおり、20年以内には、75%を超えるとみられています。そのため、GDP、エネルギー消費量、温室効果ガス発生量などの経済指標に占める割合は、更に高いものになると考えられます。つまり、都市は、国全体の総合的な意味での開発において、重要な位置を占めます。

その一方で、都市は、国とは違うレベルで、市民生活を向上させる動機を持っています。なぜなら、住民は住みにくいと感じれば、すぐに転居することができてしまうからです。他の国に移住するより、はるかに簡単に行動に移すことができます。こうした競争状況が、都市におけるイノベーションを創発し、持続させます。

2. 都市経営の課題

世界中の都市は、それぞれ異なる歴史・産業・規模を持ち、具体的な課題・優先度は異なりますが、共通する課題もあります。本章では、都市が抱える共通の課題として持続可能性と継続性について説明します。

2.1 持続可能性

さまざまな意味での持続可能性が、大きな課題となっています。

(1) 経済的持続可能性

昨今の景気後退や財政赤字の膨張、社会保障と福祉の将来に対する不安を考えれば、政府が緊縮財政に向かうことは避けられません。そのなかで都市は、事業及び投資の対象として、魅力的であり続けるために、政府からの支援だけに依存しない、新たなビジネスモデルの構築が必要となります。

(2) 社会的持続可能性

都市が人材及び投資を呼び込むには、生活の質、法的な枠組み及び事業機会という、社会的な安定性が欠かせません。

(3) 環境的持続可能性

特に急激に都市化が進んでいる地域においては、十分なインフラが整わないなか、環境への負荷が高まっています。そこで、成長のための施策は、環境への負の影響を最小限化する必要があります。

2.2 継続性

新たなスマートシティ計画の立案・遂行と合わせて、既存の日常サービスのスムーズな継続が必要です。

(1) データ収集

都市開発においては、データが重要な意味を持ちます。それは、変革と改善という目標に向けて、市民サービスがどう提供されているか、どう利用されているか、市民がどう感じているか、を正確に理解するためです。ただし多くの都市では、データの収集は自動化されておらず、その結果も正確なものでもありません。

(2) 変革プログラム

多くの都市は、各省庁が独立して活動しており、首長が都市全体を見渡すこと、更には、将来の姿を示すことが難しい状況にあります。変革にあたっては、自治体の階層、サービスごとのサイロ化及びそれに伴う予算の細分化を克服しなければなりません。関係部門は、長期的な目標と短期的な指標を共有し、すべての部門が支持する戦略を作る必要があります。そのためには、データソースとアプリケーションの間を取り持つ、柔軟で効率的なデータプラットフォームの構築が欠かせません。

3. NECのソリューション

3.1 クラウドシティオペレーションセンター
(Cloud City Operation Centre:CCOC)

NECのCCOCプラットフォーム(図1)は、NECが開発した産業別スマートサービスの状況可視化、データ分析、シミュレーションなどを行うための共通基盤となるシステムです。EUの次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)で開発・実装された基盤ソフトウェアで、欧州を中心に多数の都市や企業でスマートシティを実現するシステムに活用されているプラットフォーム:FIWARE(ファイウェア)を活用しています。FIWAREは、既存のITシステム及び新規開発されるシステムに向けたオープン性が特長です。

図1 NEC Cloud City Operation Centre

(1) 機能

  • データの可視化、ダッシュボードのカスタマイズ
  • IoT(Internet of Things)データの統合
  • 既存ITシステムのデータの統合
  • サービス自動化用ルールとワークフローの作成
  • 報告書の作成
  • 特定のサービス用の分析アルゴリズムの追加

(2) 導入効果

  • 過去及び収集中のデータの整理、管理
  • IoTアプリケーションの効率的な開発
  • データの可視化による戦略的な知見の獲得
  • 市民及び起業家へのデータ公開
  • 予測アルゴリズムによるサービスの効率化
  • 省庁間の連携
  • データに基づく事業からの収益

3.2 画面部品

CCOCプラットフォームには、データの可視化を柔軟に速やかに実現するための豊富な部品が用意されています(図2)。

図2 CCOCプラットフォーム画面イメージ
  • 地図(Map)、表(Table)、グラフ(Graph)、メータ(Gauge)、イベント詳細(Event details)、予測(Predictions)、警報(Alarms)、操作(Actuation)、多変量解析(Multivariate analysis)、新イベント生成(Create new event)、カメラ(Camera)、フィルタ(Filter)、内蔵Web(Embedded web)

3.3 統合済みアプリケーション

CCOCプラットフォームには、いつでも次のNECのセキュリティアプリケーションを搭載することが可能です。

(1) 高度映像解析 行動検知 IAPRO

リアルタイムで動く物を検知し、人/車/それ以外の物体を自動で認識し、追跡することで高精度な行動検知を実現します(図3)。

図3 IAPROによる監視イメージ

(2) NeoFaceシリーズ

NECのNeoFaceシリーズは、世界No.1の精度・速度を誇るNECの顔認証技術を使用した顔認証製品です1)。PCアクセス認証やビル・施設などへの入退場管理などの企業ユースから、顔パス入場などのエンターテインメント分野、更には出入国管理や国民IDシステムなどの国家レベルのセキュリティ管理まで、グローバルに幅広い用途で採用されています(図4)。

図4 NeoFace Watchイメージ

4. 事例

ヨーロッパ諸国は、一般に環境意識が高く、以前から、欧州連合(EU)、各国政府、地方自治体が、再生可能エネルギーの普及推進を軸としたスマートシティ政策を進めてきました。2018年時点では、データの利活用をベースにした包括的なスマートシティの実現を目指しています。

ここでは、ブリストル市とリスボン市における取り組みについて紹介します。

4.1 ブリストル市

ブリストル市はイギリス国内で8番目に人口の多い中核都市です。イギリスの先進的なスマートシティプロジェクトの1つとして、革新的なサービスの創造を目指しています。ブリストル市とブリストル大学は、スマートシティプロジェクトを推進するジョイントベンチャーBristol Is Open(BIO)を設立。NECとBIOは、パートナーシップを締結しました。

関係省庁間でのデータの共有・活用を促進するために、まず、City Operation Center(COC)と呼ぶ施設を作りました(写真)。

写真 City Operation Centerの様子

イギリス政府は、中央政府及び地方自治体向けの共通購買プログラムを運営しており、NECもCCOCのクラウドホスティングサービスとしての提供の認可を受けています。ブリストル市へのCCOCの提供も、このフレームワークを利用しました。

NECのCCOCに装備されている画面部品を活用して、まず、在宅介護、市中監視、交通監視の領域の可視化を実現します。また、イベント管理の部品を利用して、ワークフローの標準化(Situation management)を進めます。更に、今後、エネルギー供給管理、廃棄物管理、エンターテインメントなど、幅広いサービスの展開を予定しています。

4.2 リスボン市

リスボン市は、ポルトガルの首都であり、市域の人口は54万人程ですが、都市圏でみると、300万人を上回り、欧州連合域内では11番目に大きな都市圏を形成しています。観光都市として有名な同市は、都市の安全性の向上とQOL(Quality of Life)の改善を目指し、IoT機器で収集した都市環境データや外部機関と都市の複数部門のデータを横断的に統合し、都市全体のデジタルトランスフォーメーションを検討しています。

そこで、COI(Integrated Operation Center)と呼ぶ施設を立ち上げました。そこに設置される、データを統合管理するシステムの入札を行い、グローバルベンダー、ポルトガル国内ベンダーによる競合を経て、NEC CCOCが選ばれました。

10個のリスボン市内部システムのデータを統合管理し、30個の外部システム(空港、鉄道、交通局、環境関係、エネルギー、警察など)とのデータ連携を実現します。NECのIAPROも、市中監視システムとして、導入されています(図5)。

図5 市中監視システムイメージ

NECのAI・IoT技術を活用して、違法駐車車両や不審物の置き去りの検知を行うなど、リアルタイムに市中の各種データ(気象、地理、観光関連、空気汚染、交通渋滞、など)を収集・分析することにより、速やかな市政サービスの提供に貢献します。

5. むすび

スマートシティの実現には数々の課題があります。その解決策として、持続可能性に着目し、都市を一種の企業と見立て、経営の観点で見直す動きがあります。そして、それらの一例として、NECのソリューションと、データ利活用に基づく、都市経営の海外での事例を紹介しました。

参考文献

執筆者プロフィール

李 周翰
セーファーシティ営業本部
久木田 信哉
グローバルビジネスユニット
主席技師長

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