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データ利活用型スマートシティの始動

社会課題をデジタル変革によって解決するスマートシティへの取り組みは新しい時代を迎えようとしています。初期のスマートシティではエネルギーや交通など分野ごとにシステムを構築し、分野ごとのデータ活用にとどまっていましたが、今後は全体最適の視点で社会課題に取り組むべくクロスドメイン(分野横断)でのデータ利活用が主流になろうとしています。本稿では、新たな方向に進み始めたスマートシティの動向と、世界及び日本国内でNECが取り組んでいるソリューション事例、更に、その基盤となるシティマネジメント技術を紹介することで、データ利活用型スマートシティの開発状況を概説します。

執行役員
受川 裕


1. はじめに

世界では、国連が2015年に採択した持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に向けた取り組みが各国で活発化しています。日本政府もSDGsの達成に向けて、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで人々に豊かさをもたらすスマート社会を実現すべくSociety 5.0構想を推進しています。

都市にはさまざまな課題があります。エネルギー需給、交通渋滞、災害対策、健康寿命など社会課題をデジタル変革によって解決する取り組みがスマートシティです。単にAIやIoTなどのデジタル技術を都市のインフラに導入すればよいというものではなく、それらによって変革が起き、社会課題が解決されることを目指しています。

初期のスマートシティは個別分野に特化してICTシステムを構築し、個別にデータを活用していたので、その特定分野の課題解決には大いに貢献しましたが、分野横断的にデータ利活用・連携することが困難でした。一方、都市の課題は複合的に影響するため、分野横断的にデータを連携させて、新たなサービス・価値を創出していくことが求められるようになりました。スマートシティにいち早く取り組み始めた欧州では、こうした課題を解決すべくデータ活用プラットフォームとしてFIWARE(ファイウェア)を開発し、世界に普及するよう推進しています。データ・セントリックな社会の実現に向けて、クロスドメイン(分野横断)でのデータ利活用を推進しています。

こうして多角的なデータが集積されるようになると、都市の状況を一元的に見える化できるようになります。都市の指導者が進める都市経営をデータ活用の立場でサポートすることで、より効率的にそしてより高度に社会課題を解決して、安全・安心・効率・公平といった社会価値の創造に貢献します。新時代のスマートシティは究極のところ、全体最適の視点でこうした社会価値の創造を目指しています(図1)。

図1 スマートシティの変遷

2. 世界のスマートシティ事例

スマートシティへのさまざまな取り組みが世界的に広がっており、社会価値の創造に向けて都市ごとに独自の仮説を立てて価値検証しています。第2章では、デジタル変革によって社会価値を生み出している世界の事例のなかから一例を紹介します。いずれもNECが参画したプロジェクトです(図2)。

図2 NECが参画したスマートシティ事例(本稿で紹介した都市のみ掲載)

1つ目は、社会課題をデジタル技術の活用によって解決した初期のスマートシティとして、ティグレ市(アルゼンチン共和国)の実装事例を紹介します。同市は、街中監視センターを構築して、市内に設置したカメラ映像を一元的に監視できるようにしました。同センターでは、それらの映像をAIによって自動的に画像解析して、指名手配犯や盗難車などを容易に発見することができるようになりました。その結果、2008年にひと月約120件あった自動車の盗難が、2013年には約80%減りました1)。また、安全な街に生まれ変わったことで、観光分野にも良い影響が現れています。市の主要産業である観光関連(レストランやホテルなど)の2016年の売り上げが10年前の約3倍に拡大しました1)。NECはシステム構築を担当しただけでなく、同市職員と共創プロジェクトを立ち上げて2030年の街ビジョンを策定し、市の課題を明確化することにも貢献しています2)

2つ目は、クロスドメイン(分野横断)でのデータ利活用を実現したスマートシティとして、サンタンデール市(スペイン)の実装事例を紹介します。同市では、市内に約12,000個のセンサーを設置し、データ活用プラットフォームであるFIWAREにてこれを集約し、水道、駐車場、エネルギーなどさまざまな分野のアプリケーションで利用できるようにしました。その1つがゴミ回収事業での活用です。従来は、実際にゴミが溜まっているかどうかにかかわらず、決められた回収ルートを清掃車が回っていました。そこで、ゴミ箱にゴミの量を計測するセンサーを設置し、収集ルートを効率化した結果、15%のコスト削減ができました3)。このデータ活用プラットフォームは、民間企業が新たなサービスを乗せられるようにAPI(Application Programming Interface)を公開して進化するサービスを目指しています。更に、市民へのデータの見える化を進めると同時に市民からの意見を収集して都市計画に活かすなど、双方向のコミュニケーションを実現することで、市民とのエンゲージメント強化を図っています。

3つ目は、次世代のスマートシティの実現に向けた事例も紹介します。NECは、前述のFIWAREを活用しつつ、都市経営をデータ活用の立場でサポートする共通基盤として、CCOC(Cloud City Operation Centre)を開発しました。これをブリストル市(イギリス)やリスボン市(ポルトガル)の統合管理センターに導入して、その効果を検証しているところです。

3. 日本国内のスマートシティ事例

日本国内のスマートシティへの取り組みも広がっています。日本政府においてもSociety 5.0を掲げてデジタル活用による社会価値の創造を推進しています。第3章では、日本国内において、デジタル変革によって社会価値を生み出している事例のなかから一例を紹介します。いずれもNECが参画したプロジェクトです(図2)。

1つ目は、防災分野において、デジタル技術の活用によって課題を解決した事例として、豊島区(東京都)を紹介します。同区では、カメラ画像をAIで解析する群衆行動解析技術を総合防災システムに組み込みました。災害時に滞留人数や移動方向を自動的に算出することで、帰宅困難者の迅速な誘導など対策に役立てることができました。また、SNSなどを自然言語処理技術で解析して現場の状況を把握する実証実験も行いました。これらにより同区が目指す安全・安心な街づくりの実現に貢献しています。

2つ目は、異業種連携でのデータ利活用に貢献するスマートシティの実証実験段階の事例を紹介します。六本木・虎ノ門(東京都)や広島市(広島県)では、訪日外国人を対象にバーソナルデータを活用した「おもてなし」サービスと交通機関を中心とした周遊促進サービスの実証を行いました。交通系ICカードを活用して空港、バス、ホテル、免税事業者なども含む地域の複数の業種が連携し、地域活性化につなげる検証を行っています。

3つ目は、クロスドメイン(分野横断)でのデータ利活用を実現したスマートシティとして、高松市(香川県)の実装事例を紹介します。同市では、優先度が高い防災分野と観光分野について、実世界データをIoTによって収集し、見える化する仕組みと、他分野でも利活用可能なデータ活用プラットフォームとしてFIWAREを構築しました。以前は河川の氾濫リスクを知るためには職員が現地確認をしていましたが、システム導入後は豪雨などの際に同システムの情報をもとに河川が危険水位に近づいていることを庁内の職員がいち早く察知して、迅速に行動することができたという実際の効果が出ています。更に、同市においては、スマートシティたかまつ推進協議会が設立され、産学官民連携を通じたデータ活用による地域課題の解決を目指しています。

4つ目は、データ流通を加速させるための実証実験事例を紹介します。さくらインターネット株式会社とNECは、2018年3月に福岡市(福岡県)にてFIWAREに準拠したデータ流通環境を共同で構築しました。実証実験参加者(ベンチャー企業、中小企業、団体、個人など)にこれを開放することで、参加者は自社のビジネスなどに役立てるとともに、データ流通におけるニーズ・課題などを抽出して参加者間で共有できるようになります。データ流通市場におけるエコシステムを構築し、これによって新たな価値を創造するスマートアプリケーションの創出を促進していきます。

5つ目は、都市の指導者が進める都市経営をデータ活用の立場でサポートする実証実験段階の事例です。岡崎市(愛知県)ではオープンデータを活用したAIによる相関分析を実施しています。施策の効率的かつ計画的な運営を実施すべく、財務、子育て、地域振興などのさまざまなデータを活用し、施策実施と期待効果の関係を推定するなど、施策立案の手法検討に役立てています。こうした取り組みは、最終的には社会基盤に投入している予算配分の見直しなど、都市運営の変革につながります。

前述したように、スマートシティの取り組みは、世界も日本国内も、個々の社会課題の解決に資する初期のデジタル活用から、分野横断でのデータ利活用による新たな価値創造、そして、都市の指導者が進める都市経営をデータ活用の視点でサポートする方向へと進化を続けています。

4. シティマネジメント技術

クロスドメイン(分野横断)を前提としたデータ利活用型スマートシティの中核となるのがデータ活用プラットフォームです。欧州FI-PPP(Future Internet-Public Private Partnership)にて2011年より5カ年にわたって開発を進めてきたデータ活用プラットフォームがFIWAREです。2016年にはFIWARE Foundationが設立され、欧州におけるデファクトスタンダードを目指して普及活動を進めています。その特徴は、APIとしてOMA標準のNGSI-9/10を採用し、OSS(Open Source Software)によるモジュール提供をしていることです。オープンアーキテクチャーであり、ベンダーロックを避けることができます。

しかし、欧州で開発された初期バージョンはオープン性を重視したため、セキュリティ面やAI・アナリティクス面での強化が必要となります。多岐にわたる社会基盤がデジタル化したスマートシティにおいては、サイバー攻撃によって都市機能が停止するリスクが高まります。また、パーソナルデータを扱うようになれば、情報漏えいの対策をより一層高めなければなりません。更に、IoTによるリアルデータの流通が進めば、デバイスとクラウドをつなぐネットワークの処理能力に問題が発生します。これを解決すべく、フォグフロー技術の開発などエッジ領域を強化する必要があります。NECでは、特にこうした観点の課題意識が強い日本において、日本版データ活用プラットフォームを開発して強化を進めています(図3)。

図3 日本版データ活用プラットフォームの強化点

一方で、スマートシティの標準化は、技術レベルだけでなく、マネジメントレベルにおいても検討が進んでいます。国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)や国際電気通信連合(International Telecommunication Union:ITU)などで議論されており、都市経営に関わる都市KPI(Key Performance Indicator)の標準指標も発表されています。こうしたことも意識しつつ、社会価値に資する技術開発を進めています。

5. むすび

NECは、これまで述べてきたように都市のデジタル変革を目指すスマートシティに取り組んでいます。また、従前から、行政システムの構築や日本におけるマイナンバーの普及など、パブリック領域のICTシステムの構築に深く携わっています(図4)。しかし、クロスドメイン(分野横断)のような新しい取り組みは、都市の運営者側にもその体制が確立されていない場合がほとんどであり、ICTシステムを構築しただけではコトが前に進みません。そこで、この新たなスマートシティの取り組みにおいては、地域に根ざし、地域共創に力を入れています。NEC自身がモノを提供する企業から、社会に対して新しい価値を提供する企業へと変革を進めています。

図4 NECのパブリック領域のソリューション事業

* OMAは、Open Mobile Alliance Ltd.の登録商標です。
* その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

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