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デジタル時代のDX人材育成

Vol.74 No.2 2022年3月 社会のデジタルトランスフォーメーションを加速するDXオファリング特集

お客様や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向け、データとデジタル技術を活用できる人材の活躍が期待されています。世界的にDX人材不足が深刻化するなか、各企業の間で優秀なDX人材の争奪戦が行われており、DX人材育成に対するニーズが高まっています。本稿では、デジタル時代に必要となるDX人材育成をワンストップで提供する「NECアカデミー for DX」の活動事例をもとに、そのDX人材育成オファリングについて紹介します。

1. はじめに

近年、あらゆる産業分野でデータとデジタル技術によるビジネスモデル変革が求められるなか、「DX人材」の不足が大きな社会課題となっています。経済産業省が2020年に発行した「DXレポート2」では、DXを推進するために必要な人材の確保の重要性が主張されています1)。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」では、日本企業が直面するDX人材不足を「量」と「質」の両面からとらえて、DX人材の育成に対するニーズが高まっているとしています2)

NECアカデミー for DXでは育成対象者を3つの階層に分け、育成施策の検討を行っています(図1)。第1に、最新テクノロジーに関する専門性でデジタルビジネスを実現していく「DX専門人材」です。第2に、デジタルを活用した事業や業務を企画デザインして推進していくビジネス部門に代表される「DX遂行人材」です。第3に、デジタル技術を使いこなして活用していく「全社員」です。

図1 DX育成対象の3階層

今後、さまざまな業界・業種の企業がDX推進の取り組みを加速すると考えられますが、DX推進を担うために十分な知識・スキルを持つ人材が不足しており、その育成が急務となっています。

本稿では、デジタル時代の多くの企業で必要となるDX人材に着目して人材育成において考慮すべきポイントを説明し、NECアカデミー for DXにおける事例をもとに、DX人材育成オファリングについて紹介します。

2. DX人材育成アプローチ

DX人材を育成するアプローチは、「DX人材戦略の策定」「実践的なDX人材育成」「継続的なDX文化浸透」の3つのフェーズで取り組む必要があります(図2)。まず、DX人材戦略の策定フェーズでは、DX実現に向けた人材戦略の検討及びDX人材育成計画の策定を実施します。次に、実践的なDX人材育成フェーズでは、DX実現のためのDX専門人材の育成及び全社員へのDXリテラシー教育を実施します。その後、継続的なDX文化浸透フェーズでは、DX浸透のための継続的なDX教育及びDX人材コミュニティの運用を実施します。

図2 DX人材育成アプローチ

自社のビジネスモデルを変革するDX推進は、経営課題に大きな影響を与える活動となるため、トップマネジメントのコミットメントを得たうえで、この3フェーズを繰り返し実行していくことが重要となります。また、DX専門人材、DX遂行人材に限らず、一般社員に至るまでの全社員が、「学び直し(リスキル)」と「継続学習」を習慣化しながら、DX推進に主体的に関与するマインドセットを常態化し、全社員が一丸となって、自社の業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性の確立にチャレンジする文化の醸成が重要となります。

3. DX人材育成ポイント

DX推進では、それぞれ異なる専門スキルを持った複数の人材が協力しながら事業企画・開発を行い、価値実現に向けて最適なテクノロジーやソリューションを取捨選択しながら、プロジェクトを遂行します。NECがこれまでにDX人材を育成してきたなかで明らかとなった、DX人材育成において考慮すべきポイントについて、DX育成対象者の3階層ごとに解説します(図3)。

図3 DX育成対象者の知識とスキル

3.1 全社員

デジタル技術を使いこなし活用していくことが求められる「全社員」は、DXがもたらす価値について正しく理解したうえで、変化を不必要に恐れないよう、デジタル技術の基礎知識(AI、IoT、クラウドなど)を獲得していく必要があります(図4)。そして、キーテクノロジーとなるAIから出力された結果を正しく解釈し、データドリブンに論理的な意思決定をしながら業務活用していくために、データを適切に読み解き判断するデータリテラシーが求められます。また、デジタル技術によって高度化や拡張された業務システムの操作方法や活用方法を習得し、実際に業務で活用するなかで更なる強化や改善ポイントをフィードバックする役割も担っています。

図4 全社員の育成ポイント

全社員の育成には、DXの知識・スキルを獲得するための幅広い研修プログラムやセミナーを整備する必要があります。

3.2 DX遂行人材

競争力のあるデジタルビジネスを企画・推進していくことが求められる「DX遂行人材」は、本質的に解決するべきビジネス課題を精査して、課題解決に向けて真に必要なテクノロジーを目利きしながら実現への道筋をデザインし、デジタルビジネスを企画・推進していくためのマインドセットが必要となります(図5)。

図5 DX遂行人材の育成ポイント

従来の現場業務フローを変革していくDX推進では、導入に向けたジャッジポイントを明確に定義したうえで、多忙な現場部門の協力を得ながら、PoC(Proof of Concept)を通じて価値実証することが求められます。そして、PoCを通じて実証したビジネス価値が、異なる現場部門や類似業務に適用拡大しても実現性があるかを類推したうえで導入の意思決定をする役割も担っています。

DX遂行人材の育成には、同業種/他業種でのDX事例を学ぶ研修プログラムをはじめ、DXの進め方やデザイン思考の考え方を習得するためのワークショップ、新たな事業創出・業務変革に向けた伴走型コーチングを整備する必要があります。

3.3 DX専門人材

DX遂行人材が企画したデジタルビジネスを実現していくことが求められる「DX専門人材」は、デジタル技術を実装して運用していくためのITスキルに加えて、データサイエンス・AI、サイバーセキュリティなどの専門知識が必要となります。また、進化の激しいデジタル技術に積極的にアンテナを張って学び続ける熱意が重要となります。

データサイエンス・AIの専門人材であるデータサイエンティストに必要となる「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3分野のスキルに関するスキルレベル定義は、一般社団法人データサイエンティスト協会が公開する「データサイエンティストのためのスキルチェックリスト」が知られています3)。また、サイバーセキュリティ人材のスキルレベル定義として、米国国立標準技術研究所(NIST)の「Workforce Framework for Cybersecurity(NICEフレームワーク)」や特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が公開する「セキュリティ知識分野(SecBoK)人材スキルマップ」が知られています4)5)

DX専門人材の育成には、模擬プロジェクトやマシン演習を通してデジタル技術を活用した課題解決を繰り返し疑似体験する場、更に実際のプロジェクトを通じて活躍する場(実践型OJT)を整備する必要があります。

4. DX人材育成施策

NECでは、AI、セキュリティ、クラウド、デザイン思考で培った育成ノウハウを集結し、デジタル時代に必要となるDX人材育成をワンストップで支援する「NECアカデミー for DX」の提供を開始しました。「NECアカデミー for DX」において、どのような育成施策を行っているか紹介します(図6)。

図6 DX育成施策

4.1 全社員向けDXリテラシー教育

「NECアカデミー for DX」では、全社員が身に付けるべきDX人材に必要なベーススキルを学ぶための研修プログラムをDXリテラシー教育として準備しています。DXの必要性やDXに取り組まなかった時のリスクといった共通的な学びから、DXを支えるデジタル技術(AI、IoT、クラウドなど)とそれぞれの技術で何ができるのか、どのように活用することで価値を生み出していけるのかの理解を促進します。

4.2 DX遂行人材向けDXビジネス教育

ビジネス部門のデジタル活用を加速させることを目指して、グループワーク、アイデアソン、On-the-Job Training(OJT)などの施策を組み合わせたDX人材育成オファリングを提供します(AI・データ活用プランニング支援サービスなど)。代表的なDX活用事例を学びながら、ビジネスの企画立案に関するポイントやAI・データ活用を実施する際のマインドセットを獲得します。そして、業務・業種のドメイン知識とデジタル知識を掛け合わせた模擬演習(ワークショップ・宿題)を経験させた後、伴走型コーチングで実践型OJTを繰り返し経験させながらDXビジネス開発や業務変革を企画できる人材を育成します。

4.3 専門人材

DX専門人材の実践力を強化することを目指して、AI、サイバーセキュリティといった領域ごとに、マシン演習、課題解決型学習(PBL)、OJTなどの施策を組み合わせたDX人材育成オファリングを提供します(NECアカデミー for AI 入学コースなど)。NECでは、データサイエンティスト育成サービスとして「NECアカデミー for AI」を提供しており、第一線で活躍するメンターによる指導のもと、OJTやPBLによるケーススタディを通して、ビジネスにデータ分析・AIを活用するための実践経験を積むことで、データサイエンティストを育成します6)。また、サイバーセキュリティ人材を育成するためのサイバーセキュリティ訓練場では、演習を通じて自らが堅牢化しきれなかったシステムの脆弱箇所を攻撃されて、実際に被害を受けることでサイバー攻撃に有効な堅牢化の実践スキルを獲得します。DX専門人材の実課題を解くスキルは、時間をかけて実際のプロジェクト推進のなかで身に付けるしかありません。NECではDX人材育成を、知識習得とOJTのセットとしてとらえ、実践経験の場を重視するようにしています。

4.4 「NECアカデミー for DX」の今後

近年、デジタル技術の社会実装・活用が急速に進むなか、世界的にDX人材の不足が大きな課題となっています。今回提供する「NECアカデミー for DX」は、DX人材戦略から文化浸透まで、DXに取り組むお客様と伴走しながらDX人材の育成を継続的にサポートします。NECは、本アカデミーをDXに取り組む企業を対象として今後3年間で6,000人の育成を目指します7)

5. むすび

本稿では、「NECアカデミー for DX」の活動事例をもとに、DX人材の育成方法について説明しました。日本のDX対応の遅れに対する懸念があるなか、DX人材の必要性がますます高まる一方で、DX人材を促成栽培することは難しく、各企業の間で優秀なDX人材の争奪戦が行われています。DX人材を育成するためには、時間もコストも必要となるため、いち早くDX人材育成に取り組み始めることが重要だと考えます。NECは、社内で培ってきたDX人材育成の方法論を産業界に還元することで、労働生産性の向上や国際競争力を高め、デジタル技術を有効かつ安全に利用できる人間中心のデジタル社会の実現に貢献します。

参考文献

執筆者プロフィール

祐成 光樹
AI・アナリティクス事業部
AI人材育成センター
マネージャー
菅嶋 真理
NECソリューションイノベータ株式会社
デジタルソリューション事業部
主任
孝忠 大輔
AI・アナリティクス事業部
事業部長代理 兼
AI人材育成センターセンター長

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