Japan
サイト内の現在位置
太陽電池パドル(SAP)
太陽電池パドル(SAP:Solar Array Paddle)は、太陽光を受けて人工衛星の運用に必要な電力を発生・供給する、非常に重要な一次電源バス機器になります。
人工衛星など宇宙で稼働する機器は電気で動いています。どんな衛星でも、搭載しているバッテリだけでは数十分で電池切れになり運用ができなくなってしまうため、常に新たに電力を提供する必要があります。太陽電池パドルは、打上時に小さく折り畳まれ、軌道上で展開し、受光面に貼り付けられた太陽電池セルにより発生した電力を衛星に安定供給します。

太陽電池パドルに求められる機能と性能
発生電力(数百~数kW)
発生電力要求は衛星によって様々であり、衛星の要求寿命の間における軌道上での劣化(放射線、紫外線、原子状酸素など)を見越し、季節変動を考慮した軌道上温度を基に、電力解析により算出しています。
打上時は収納状態で保持され軌道上で展開する
打上時は衛星本体にコンパクトに折り畳まれた状態で保持され、ロケットの厳しい打上環境(振動、音響)に耐える設計としています。また、軌道上では保持機構を動作させ、展開機構のばね力で展開し、展開状態でロックが掛かりその維持します。
地上試験では、熱真空試験や電気性能試験はもとより、収納状態での振動、音響試験。加えてSAP特有の試験として、エアパットで浮上させたり、上から吊ることで自重をキャンセルさせ、設計通りの時間とシーケンスでも動作を確認する展開試験を行います。


幅広い温度の耐性
SAPは衛星の暴露部にあたるため、地球近傍の周回衛星で-100℃~+120℃以上、内惑星では180℃以上、深宇宙では-200℃以下と幅広い温度の耐性が必要となります。
太陽電池セルを搭載した状態での高温・低温の耐性は、因果関係が複雑なため設計解析だけでなく実際のハードウェアを部分的に試作した要素試験(クーポン試験)による事前検証にて確認します。
太陽電池パドルの種類
NECのSAPは幾つかの種類を用途に応じて使い分けています。
小型標準SAP
パネルや展開機構、保持機構といった部品を標準化し、それらを組み合わせることで衛星の要求に対応可能なシリーズのSAPです。パネル枚数を変えることで~2 kW程度まで対応可能であり、展開後の剛性要求や視野要求に応じて、一次元展開だけでなく二次元展開にも対応可能です。

中大型SAP
中大型衛星用のSAP は、パネルが大型化(約2m×2m)するため構造物の質量も大きく、ばね力の展開のみだと展開衝撃荷重が大きくなり過剰な補強が必要となってしまいます。そのため、各展開機構に同期機構を追加し、同時にロータリダンパ(※)を設けてゆっくりと全体が同期をとりながら展開する方式をとっています。
パネル2~3枚構成の2翼で~5kW程度が多いですが、過去には10枚以上を連結した実績もあります。
※ロータリーダンパ:オイルの粘性抵抗を利用して蓋やカバーをゆっくりと閉めるために使用する部品

薄膜SAP
薄膜SAPは、軽量化に特化しており従来のSAPに比べ2~3倍(150W/kg以上)の発生電力質量比(SAP質量に対する発生電力の比率)という世界トップレベルの性能を実現した、NEC独自の方式のSAPです。
従来の単板に太陽電池セルを貼り付ける構造ではなく、曲面フレームに太陽電池シートを貼るといった、特殊な構造、工程により、通常のSAPよりもコストと納期を要しますが、深宇宙探査や月面など質量が厳しい特殊な用途に適しています。直近では、深宇宙探査機DESTINY+への搭載が予定されています。


SAPは衛星に搭載される機器の中で最も大きな動きをする機構物であり、軌道上で確実な動作をするために各構成品に様々な工夫がなされています。NECはここで紹介した豊富な実績品以外にも、将来の更なる拡張性、汎用性を見越して新型のSAPを開発中です。