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魅力あふれるフライトインフォメーションシステムの実現

Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集

近年、航空需要が右肩上がりに伸びていくなかで、空港は単なる通過点ではなく、滞在を楽しめる空間として、エンターテインメント施設の充実やショッピングモール設置など商業施設化してきており、そこを利用する空港利用客に対してさまざまなマルチメディア情報を適切に表示案内していくことが、消費誘導やCS面で重要になっています。

NECは、空港におけるフライトインフォメーションシステムを中心とした情報表示システムに長年携わってきており、本稿ではその取り組みについて紹介します。

1. はじめに

フライトインフォメーションシステム(Flight information System:FIS)は、空港を利用する旅客及び空港スタッフに対して、空港運用の基本となるフライト情報を中心に、空港に関わるさまざまな情報(アクセス交通情報、天候情報、広告など)を、目的に応じて大型表示盤やディスプレイ表示盤などの視覚手段と、自動放送などの音声で情報提供するシステムです。

近年の航空需要は年々増加の傾向にあり、2012年度は27,810万人であった航空旅客数が、2027年度には33,390万人と更に増加する見込みです。加えて、LCC(Low Cost Carrier)の台頭や中小型航空機の進展に伴い、空港を離着陸する航空機の便数は増加しています。

そうした中、空港間の競争激化や、空港施設の商業化が進み、空港においてさまざまな情報が輻輳(ふくそう)する中で、それを適切な場所とタイミングで空港利用客に提供することが必要になっています。FISに求められる役割が単なるフライト情報の提供だけではなく、さまざまなマルチメディア情報をフライトと連動させて表示させるという方向に広がっており、FISの重要性が年々高くなってきています。

NECのFISは、1992年の成田空港第二旅客ターミナル開港時に本格的にシステム導入して以来、新千歳空港、羽田空港国際線、福岡空港、仙台空港、新潟空港など国内16空港、海外(フィリピン)1空港で納入実績があります。

当初はLED表示盤とCRTモニターを使い、単なるテキスト情報の提供のみであったシステムが、近年は液晶ディスプレイを中心にしたマルチメディアコンテンツの表示にシフトしています。

本稿では、多くの納入実績の中で培ってきた、弊社のFISを実現している要素技術、取り組みについて紹介します。

2. FISに求められる要件

FISには以下の要件が求められます。

(1) センターサーバの高い信頼性

フライト情報は、言うまでもなく空港運用の基本となる情報であるため、FISがシステムダウンすると空港を利用する旅客及び空港スタッフに多大な影響を与えかねません。したがって、FISの中枢となるセンターサーバへは、システムダウンに至らないような高い信頼性が求められます。

(2) 高い視認性をもった表示盤デザイン

FISの表示盤には老若男女を問わず、ユニバーサルデザインに配慮した誰にでも見やすく、情報把握しやすい高い視認性をもったデザインが求められます。

(3) 表示デザインの拡張性・柔軟性

旅客を適切に誘導するには、旅客ターミナルビルの構造に合わせて、表示内容、表示タイミングを最適化する必要があり、設置場所に合わせて表示内容を変更する拡張性、柔軟性が求められます。

(4) 故障時に迅速に復旧できる高い保守性

大型空港になると、空港内に数百台にも及ぶさまざまな表示盤が設置されており、それらを効率よくメンテナンスできることが求められます。また、故障時には旅客への影響を最小限にするために短時間で復旧できることが求められます。

(5) 空港のランドマークとしての役割

FISの大型表示盤には情報提供の他に空港の象徴やランドマークといった役割も持っています。また、近年ではデジタルサイネージと融合することで、旅行者の気分高揚、コマーシャル提供などの役割も求められています。

(6) 空港運用に影響を与えない工事施工

FISの更新工事では、空港運用終了後の夜間に長期間にわたって工事、調整作業が必要となることから、効率的で安全な工事施工が求められます。

3. NECの取り組み

第2章で記述したFISに求められる要件に対して、弊社の取り組みを以下に紹介します。

3.1 センターサーバの信頼性向上技術

(1) センターサーバ四重化

センターサーバはOracle RAC(2台)を使用した冗長(二重化)構成を採っています。一般的にはそれで十分ですが、更なる高信頼性が求められる空港においては、この二重化構成を更にアクティブ/スタンバイ構成にして四重化しています(図1)。これにより、万一、共用ディスク(iStorage)が故障した場合でも、スタンバイ系に切り替えることにより、業務の停止を最小限にします。

図1 センターサーバ四重化イメージ

(2) ローカルバックアップ機能

ローカルバックアップ機能とは、万一、センターサーバがダウンした場合や、共用ネットワークが使えなくなった場合でも、センターサーバを介さずに入出力端末から直接表示要求を行うことで、ローカルネットワーク内において運用を継続する機能です。

図2に運用イメージを示します。通常時、ローカル表示用入出力端末は、センターサーバと接続し最新のフライト情報を自端末内に保存しておきます。センターサーバ障害時や共用ネットワーク障害などには、ローカル表示用入出力端末をローカルネットワークに繋ぎ替え、入出力端末から直接表示要求を掛けることにより運用を継続します。

図2 ローカルバックアップ機能イメージ

3.2 視認性向上施策

(1) 大型表示盤での取り組み

大型表示盤での1文字のドット数は16×16ドットまたは24×24ドットが一般的です。一般のディスプレイに比べてドット数が少ないために表現力が限られます。弊社では、実際に表示盤が設置される環境を考慮しつつ、ユニバーサルデザインに配慮しながら少ないドット数に合わせて最適となるような画面デザインを開発しています(図3図4)。

図3 デザイン検討例(1文字16×16ドット)
図4 設置イメージ検討例

(2) ディスプレイ型表示盤での取り組み

高齢者や障がいのあるかた、子供、外国人など空港を訪れるさまざまなお客様に利用されるFISには、ユニバーサルデザインの実現が重要な課題です。弊社ではNECマネジメントパートナーによるユーザー中心設計の協力を受け、より魅力的で分かりやすい画面を開発しています。

魅力的かつ直感的に必要な情報を取得できるような画面構成を実現するだけでなく、高齢者や障がいのあるかたにとっても情報を読み取りやすいよう、視認性の優れたUD(ユニバーサルデザイン)フォントを採用し、文字の大きさや色のコントラストにまでこだわっています。更に、色覚に障がいのあるかたにも重要な情報が強調されるカラーユニバーサルデザインの実現を目指し、色覚ごとの見え方を確認した配色を行いました。

色覚を考慮した画面の見え方の比較を図5に示します。更に、表示端末だけでなく操作端末の画面も、表示イメージを確認しながら入力ができ、マウス選択中心の直感的な操作や表示イメージを確認しながらの入力を可能にすることで、空港スタッフやエアラインスタッフのユーザビリティにも配慮しています。

図5 色覚ごとの画面の見え方の比較

3.3 表示デザインの拡張性・柔軟性

表示盤の画面デザイン(レイアウト、表示タイミングなど)は、XMLファイルで定義情報を持っており、設置場所ごとに縦横柔軟に配置でき、自在なデザインを設定することができます。

また図6に示す画面編集ツールにより、GUI(Graphical User Interface)で画面デザインを編集し、XMLファイルに出力することができ、空港ごとのさまざまな要望に容易に対応できます。

図6 画面編集ツール

3.4 高い保守性の実現

(1) シンクライアント方式採用による高い保守性の実現

ディスプレイ型表示盤については、その表示制御のためにWindowsベースの制御PCを採用しています。大型空港では制御PCの台数が数百台にも及ぶため、OSを含めたソフトウェアの起動方式にシンクライアント方式を採用しています(図7)。ソフトウェアをセンターサーバで一括管理することで、表示盤側にソフトウェアをインストールする必要がなくなりました。このことにより、制御PCにソフトウェアをインストールしていた従来方式に比べて短時間での故障復旧が可能となり、高い保守性を実現しています。

図7 シンクライアント方式による構成例

(2) きめ細かい装置監視の実現

数百台設置される表示装置は全て自動運転であり、各種装置の状況はセンター運用室において一括管理されます(図8)。

図8 システム監視画面イメージ

表示盤の制御PCの死活監視、SNMP(Simple Network Management Protocol)監視はもちろん、制御PC内で動作するブラウザなどのアプリケーション状況も監視し、異常を検出した場合は再起動して自動復旧させます。

装置状態は、単に電源ON/OFFを監視しているのみではなく、正常終了して不通になった場合と異常終了した場合は区別されます。またシステムの業務状態(開始、終了、日替わり中など)も監視装置に表示しており、システムの状況がこの監視装置で全て分かるようになっています。

ディスプレイについても、温度や輝度なども監視しており、LED表示盤については表示ラインごとの状況、FAN、電源状態などきめ細かく監視し、ツリーやマップの表現で装置状態を運用者に通知しています。

3.5 空港のランドマークにふさわしい表示盤

(1) フィールドシーケンシャル方式採用の大型表示盤

フィールドシーケンシャル方式とは液晶パネルの駆動方式の一種で、人間の目の残像現象を利用してバックライト(赤、緑、青)のそれぞれの色の点灯時間を適切に制御することによって色を表現する方式です(図9)。色を表現するためのカラーフィルタを必要としないことから、高輝度、高視野角で、くっきり見やすく落ち着いた表示を実現しています(写真)。

図9 フィールドシーケンシャル方式原理図
写真 フィールドシーケンシャル方式を採用した
大型表示盤

(2) デジタルサイネージとの融合

従来のFISがフライト情報の表示に特化していたのに対し、弊社のFISはCMS(Contents Management System)機能を備えており、鉄道・道路交通案内やニュース、広告などの他のコンテンツと切り替えて表示することができるのが特長です。

図10にフライト情報とコンテンツの表示スケジュールの一括管理のイメージを示します。

図10 コンテンツ表示スケジュールの一括管理イメージ

更にFISの表示盤をデジタルサイネージと供用し、フライト情報に連動してコンテンツを切り替えることによって、表示効果を高めることができます。

例えば、2面設置したディスプレイの左面に出発便の情報を表示し、右面にその出発便に関連したコンテンツを表示させることによりコンテンツのPR力を高められます。

3.6 大型空港でのシステム更新実績

NECネッツエスアイと連携して実施した大型空港におけるシステム更新工事において、半年にもわたり夜間に更新作業を実施し、無事無事故にて完遂しました。お客様からも無事故完遂が評価され表彰されました。

4. むすび

以上、弊社のFISを支えるさまざまな要素技術及び取り組みについて紹介しました。

現在の空港市場は、日本政府のオープンスカイ政策の推進による航空自由化と、民活空港運営法の成立により、政府主導による空港整備の時代から民間による空港運営効率化を目指す流れに変革されつつあります。また、2020年には東京オリンピックも予定されており、情報表示システムの重要性も今以上に高まることが予想されます。

これらの情勢を鑑み、弊社では今後、クラウド技術を利用したFISクラウドの実現や、SDN(Software-Defined Networking)技術を利用した高い拡張性の実現、Videowallなどのデジタルサイネージ機能の更なる強化、及び、空港セキュリティ・映像系システムや旅客の待ち時間予測システムなどとのシステム連携による更なる付加価値の創造に挑戦し、お客様にとって使いやすく魅力あふれる情報表示システムとなるよう取り組んでいきたいと考えています。

また、日本国内だけではなく、アジアを中心としたグローバル市場に進出すべく、現在、海外への提案活動に力を入れています。


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    Oracleは、Oracle Corporation及びその子会社、関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。
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    その他記述された社名及びロゴ、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

執筆者プロフィール

金井 武志
交通・都市基盤事業部
航空第五システム部
部長
赤松 学
交通・都市基盤事業部
航空第四システム部
部長
羽田 幸剛
交通・都市基盤事業部
航空第五システム部
マネージャー
岡本 昌士
交通・都市基盤事業部
航空第四システム部
マネージャー
垂木 和也
交通・都市基盤事業部
航空第四システム部
平原 真帆
交通・都市基盤事業部
航空第四システム部