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ワールドカップを支えた「NECのスタジアム・ソリューション」

Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集

NECは、2014年にFIFAワールドカップが開催されたブラジルにおいて、スタジアム建設プロジェクトにシステム・インテグレーターとして参画し、さまざまなICT製品を最適化した1つのインフラとして統合するとともに、求められた納期、品質基準をクリアしました。

本稿では、本プロジェクトを例として、グローバル規模の社会ソリューション事業に貢献するNECのインテグレーション力、マネジメント力を紹介します。

1. まえがき

2014年6月から7月の約1カ月間、世界の注目は2014FIFAワールドカップブラジルに注がれました。世界32カ国の代表チームによって繰り広げられた本大会は、12都市のスタジアム(練習用を含め16スタジアム)*1で連日熱戦が繰り広げられ、7月12日に無事閉幕しました。

NECは、全16スタジアムのうち5つ*2の建設プロジェクト(以下、「本プロジェクト」)に、ゼネラルコントラクター(以下、「お客様」)のサブコントラクター(以下、「サブコン」)として参画し、スタジアムICT設備の統合化設計、調達、施工の役割(システム・インテグレーター(以下、「SIer」))を担いました(写真1)。

写真1 ブラジルにおける実績

スタジアムの設備として求められるICT製品群は、IPネットワーク(Wi-Fiを含む)、デジタルサイネージ、大型映像表示装置、各種モニター・ディスプレイ、セキュリティ系のCCTVシステム(CCTV:Closed-circuit Television)、入場ゲートなどのアクセス・コントロール、スタジアム内のIP電話、ビル管理システムなど多岐にわたります。更に火災報知システム、音響システム、無線システム、時計など、ICT以外の製品群を加え、その数は13種類に上りました(図1)。

図1 NECのスタジアム・ソリューション対象製品群

弊社は、エンドユーザーであるスタジアム・オペレータ のニーズに応える統合化されたスタジアムICT設備を設計し、約2年に及ぶ5つのスタジアム建設プロジェクトを予定期間に遅延なく納入しました。

本稿では、華やかな国際的イベントを支えた「NECのスタジアム・ソリューション」の概要を紹介します。

  • *1
    本大会では、試合用として12スタジアム、練習用として4スタジアム、計16スタジアムが新設または大規模改修により準備されました。
  • *2
    NECは試合用の4スタジアム(Arena Fonte Nova:Salvador, Arena Pernambuco:Recife, Estadio das Dunas:Natal, Arena da Baixada:Curitiba)、練習用の1スタジアム(Arena do Gremio:Porto Alegre)の5スタジアムを担当しました。

2. NECのスタジアム・ソリューション

弊社は、本稿で事例として取り上げているワールドカップ以前にも、さまざまなスタジアムや施設へのICT製品の導入実績を有しています(表1)。

表1 過去の導入実績(一例)

また、長きにわたり各種ICT製品を市場に提供し続けている技術力を生かし、各業種のお客様に向けたシステム・インテグレーション組織、業務分析やプロジェクト管理スキルをもって、ICTのトータル・ソリューション事業を展開しています。

弊社は、スタジアムICT設備の導入における施工上の時間節約やリスク削減、運用/保守の効率化などのコスト・メリットをお客様やエンドユーザーに還元するために、これまでの実績や技術を背景にスタジアム/施設建設プロジェクトに求められる“システム統合設計技術”、“資材調達力”、“プロジェクト・マネジメント手法”を「NECのスタジアム・ソリューション」として体系化し、事業を推進します。

3. システム統合設計技術

システムの統合設計を進めるうえで最も重要なことは、“統合化のポリシー”を決定することです。単にいくつかの異なるシステムを技術的な観点だけで組み合わせるのではなく、以下に列挙する“スタジアム建設プロジェクト固有の課題”を克服すべく、お客様と協議を進め、「システムの集約化/集中化」、「施工容易性」、「仕様変更への柔軟性」、「運用/保守の容易性」を織り込んで、システム全体を設計しました。

スタジアム建設プロジェクト固有の課題

  • スタジアムの設計構想における未考慮事項の把握
  • コストと期間への考慮
  • イベントオーガナイザー(FIFAなど)が規定した仕様に加え、スタジアム固有のニーズ吸収
  • プロジェクトの遂行中における仕様変更やスケジュール変更への柔軟性

3.1 システム・アーキテクチャ:集約化/集中化

スタジアムに求められるICT製品は、個々に独立したシステムとしての導入も可能ですが、稼働後、運用/保守が煩雑になることが強く懸念されるため、「まとめられるものは極力まとめる(集約化、集中化)」という考え方をシステム・アーキテクチャの基本思想として取り入れました。

“データ伝送手段の集約化”と“サーバ機能の集中”を徹底することで、“コンテンツ共有”と“システム全体の冗長化”が容易になり、「仕様変更への柔軟性」の確保と「施工容易性」、「運用/保守の容易性」の向上を実現します。

ブラジルのスタジアムICTシステムのアーキテクチャ(図2)の一例を以下に挙げます。

  • スタジアムを取り巻く全てのデータ*3伝送手段をIP通信に集約化(Consolidation)
  • 各製品の制御機能(サーバ)をデータセンターとして集中化(Centralization)
  • デジタルサイネージシステムと大型映像表示装置間で映像コンテンツを共有化(Sharing)
  • スタジアムに2つ備わる集中オペレーションセンター(Command Operation Center:CoC)を拠点に上記のIPネットワーク及びデータセンターを冗長化(Duplication)
図2 システム・アーキテクチャ

3.2 集中オペレーションセンター(CoC)の設計

「NECのスタジアム・ソリューション」では、運用に則したレイアウトや各種設備の基本デザインをお客様とともに進め、その延長上で最適なICT製品の選定を行います。特に、スタジアム運用の中心となるCoCは、“音響や映像など運用のスタッフとセキュリティ関連のスタッフが共用する”スタジアム運用の中枢であり、導入においても細心の注意が求められる場所です(写真2)。運用のスタッフには、“客席にいる観客と同等の音響や映像のモニタリング環境”が必要です。一方、セキュリティ関連のスタッフには、“常に各種モニターやアラームに集中できる環境”を必要とします。こうした相反する要件に応えるべく、CoCには、経験によって培われた「運用/保守の容易性」を向上するノウハウやアイデアが集約されています。

写真2 集中オペレーションセンター(CoC)

3.3 スタジアム特有のケーブル敷設ノウハウ

スタジアムICT製品の導入では、製品ごとにさまざまなケーブルを広範囲にわたり敷設することから、膨大な工数と期間を要します。また、スタジアム建設プロジェクトでは、施設の建設作業と同時並行の作業環境となるケースが多いことから、ケーブル敷設作業における「施工容易性」の考慮と、施設の建設作業に準ずる*4“作業単位区画”をベースとした工程設計(敷設作業工程及びテスト工程)が求められます(図3)。

図3 スタジアムの作業単位区画

本プロジェクトでは、先の“集約化/集中化したシステム・アーキテクチャ”により、全13の製品群を5系統のケーブルに集約し単純化することで、工事計画の変更に柔軟な対応が可能となりました。また、ケーブル構成の単純化によって、「施工容易性」、「仕様変更への柔軟性」、「運用/保守の容易性」も併せて確保しました。

  • *3
    このデータには制御系データ、音声データ、映像データなどが含まれます。
  • *4
    スタジアムを水平方向N-NE-E-SE-S-SW-W-NWの8区画、垂直方向はスタジアムのフロア数(スタジアムによって異なります)で工事区画を設定し工事を進めます。

4. 資材調達力


NECは、世界140の国、地域、都市を拠点に事業活動をするなかで、さまざまな優れた製品/サービスを持つ世界的な企業との資材調達パートナーシップやネットワークを有し、自社の先進技術と組み合わせた社会ソリューション事業を提供しています。

本プロジェクトでは、要求仕様を満たす製品サプライヤをリストアップしたうえで、より優位な条件で製品の提供が可能なサプライヤに優先順位を付けた製品ポートフォリオ(表2)に基づき、お客様と最終的な導入製品の決定を行いました。

表2 製品ポートフォリオ

このように「NECのスタジアム・ソリューション」において、グローバルに事業展開する企業ならではの資材調達力を発揮し、最適な製品を提供できることを実証しました。

5. プロジェクト・マネジメント技術

「NECのスタジアム・ソリューション」は、実プロジェクトを完遂したノウハウに基づくスタジアム/施設建設プロジェクトに最適化した管理手法(スタジアム・ソリューション プロジェクト管理基準書)を規定しています。本プロジェクトでも、これに準じて各工程の作業を行うことで、大会を開催するための厳しい品質基準をクリアし、納期遵守を実現しました。

5.1 工程管理とリスクマネジメント

本プロジェクトでは営業チーム、エンジニアリング・チーム、デリバリー・チームと連携した高度な組織的マネジメント体制(Project Management Office:PMO)を敷き、“スタジアム・ソリューション プロジェクト管理基準書”に準じた進捗管理、リスク管理、課題管理、品質管理など、スタジアム建設プロジェクト全体を俯瞰でき、常にお客様と最新の状況を共有できる管理手法を導入しました。

お客様は、配下のサブコンが一堂に会する進捗ミーティングを毎週実施し、これに参加する土木系、構造系、内装系、電気設備系、上下水道設備系、ICT設備系(NEC)の各サブコンによって、おのおのの進捗状況や課題が共有されました。例えば内装工事の進捗が遅れた場合、それが電気設備系の作業に影響を与え、最終的に弊社が担当するICT設備系の作業にまで影響を及ぼす可能性があるなど、潜在的なリスクを見極めて、これに備えることまで配慮する必要がありました。

この“スタジアム・ソリューション プロジェクト管理基準書”とPMOの経験こそが「NECのスタジアム・ソリューション」における“プロジェクト・マネジメント手法”の要なのです。

5.2 品質管理

弊社では、ICT製品及び設備工事に関する品質管理基準を体系化しています。本プロジェクトのエンジニアリング・チーム、デリバリー・チームは、PMOの管理監督の下、この品質管理基準に準じた設計や導入作業を実施し、ワールドカップ本番の絶対納期が決められた状況において、最終工程における第三者機関の厳しい検査もクリアしました。

6. むすび

本稿では、ブラジルのワールドカップを支えた「NECのスタジアム・ソリューション」の一部を紹介しました。本誌に掲載されるさまざまな最先端の製品/サービスを最大限にお客様の利益に繋げるため、NECはこれまで培った“システム統合設計技術”、“資材調達力”、そして“プロジェクト・マネジメント技術”を存分に発揮し、グローバル規模でお客様への貢献の最大化に挑戦し続けます(図4)。

図4 スタジアムを起点に社会ソリューション事業へ

NECは今後も、最先端技術とシステム・インテグレーション力で、より豊かな社会の実現を目指してまいります。


  • *
    Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。

執筆者プロフィール

藤永 誠司
事業イノベーション戦略本部
シニア・エキスパート
Francisco Yoshihiro Yamamoto
NEC Latin America S.A.
Engineering Division
Solutions Engineering Manager
Claudia Yokoo Eguti
NEC Latin America S.A.
PMO IT Department Manager PMP
福永 孝一
事業イノベーション戦略本部
エキスパート
坂本 修作
事業イノベーション戦略本部
主任
幸田 拓也
事業イノベーション戦略本部
主任
小林 哲郎
事業イノベーション戦略本部
エキスパート