サイト内の現在位置を表示しています。

新幹線の安全・安定輸送を支える情報制御監視システム

Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集

東北・上越新幹線開業以降、新幹線の安全・安定輸送を支えてきた新幹線情報制御監視システム(CIC)について、このたび伝送容量の高速・大容量化を図り、指令・保全業務の効率化や安全輸送に寄与する新機能を盛り込んだ新システムとして、東日本旅客鉄道株式会社様に納入しました。本稿では、新システムの構成や特徴について紹介します。

1. はじめに

東日本旅客鉄道株式会社様の新幹線情報制御監視システム(Centralized Information Control System:CIC)は、風速・雨量などの防災情報や信号・通信設備の状態をリアルタイムに収集・管理し、指令所での状態把握、及び各設備に対する制御操作を可能にするシステムです。東北・上越新幹線開業以降、CICは初代・二代目と二代にわたって30余年NEC製のシステムが導入されており、新幹線の安全・安定輸送に欠かせないシステムとなっています。

今回、これまで稼働してきた旧システム(Centralized Information Monitoring System:CMS)*1は導入から10余年が経過しており、新幹線運行を支える各システムの高速化と監視対象システムの増加に伴い、伝送容量の高速・大容量化が求められるようになってきました。このような背景から、指令・保全業務の効率化、安全輸送へ寄与する新機能を盛り込んだ新システムを、東日本旅客鉄道株式会社様に納入しましたので、その概要を報告します。

  • *1
    旧来は監視運用が主であったためシステム呼称をCMSとしていたが、各設備に対する制御項目が増加し重要性も増してきたため、今回のシステムの更新に併せて、設備制御も行っているシステムであることを示す目的で、システム呼称をCICに変更。

2. 新システムの構成

2.1 ネットワーク構成

各アラーム情報を収集する各駅と指令所間を接続するネットワーク構成をに、主な特徴を下記に示します。

図 CICシステムイメージ

  • (1)
    局間光伝送路に光ファイバを直接使用し、L3スイッチ(L3SW)にてネットワークを構成することで、IPプロトコルへの対応と伝送の大容量化を行います。CMSでは、被監視装置でもある光搬送装置を通信路として使用していましたが、CICでは光ファイバを直接使用した通信路を構成しました。これにより、被監視装置に通信路を依存しないアウトバンド監視を実現しています。
  • (2)
    各局間光ファイバ2系統を使用したリング構成とし、L3SWの単独障害により通信全断が発生しない構成とします。
  • (3)
    情報伝送装置内のL3SWは二重化構成とし、それぞれ異なる駅の電源系統から給電することにより、装置の単独故障や局舎電源単独停電時にもネットワークが全断とならない構成とします。
  • (4)
    L3SWの装置故障や光ファイバの断線時でも2~3秒で迂回経路への切り替えを可能とします。

2.2 ハードウェア構成

2.2.1 中央処理装置

システムの中枢をつかさどる中央処理装置(写真1)は完全二重化構成とし、両系のハードウェア、ソフトウェアがそれぞれ独立に並行稼働する構成としています。各駅の情報伝送装置との情報送受信も両系がそれぞれ独立して行いますが、系間でのデータの不一致を防ぐため、常に両系で同等の情報が蓄積される仕組みを導入しました。両系の装置間では常にヘルスチェックを行っており、運用系に障害が発生した際には即座に予備系に切り替え、運用を継続します。また、機能増強などによるソフトウェア更新時は、片系ずつ停止してソフトウェアの入れ替えを行うことで、システムを停止することなく移行することが可能なシステムになっています。

写真1 中央処理装置

2.2.2 情報伝送装置

各駅に設置し、さまざまな被監視装置と接続してアラーム情報の収集、及び制御信号の出力を行う情報伝送装置(写真2)は、接点、アナログ、パルス、シリアル、Ethernetといった多様のインタフェースに対応した装置です。受信したアラーム情報や被監視装置に対する制御信号をリアルタイムに中央処理装置に送受信する際、通信路でのデータ欠損を防止するための特殊な仕組みを有します。また、装置の処理部を二重化構成とし、履歴や設定データなどの情報は常時両系で保持します。両系の処理部は常時相互にヘルスチェックを行い、異常を検知すると自動で系切替を行います。

写真2 情報伝送装置

装置は情報伝送架1形と2形の2架で構成され、1形に二重化された共通部(処理部やネットワークを構成するL3SW)が実装され、2形には被監視装置と接続する各種インタフェースを収容する部位が実装されます。CMSでは未対応であったEthernetでの被監視装置との接続も可能となり、将来の拡張性を考慮して、1装置あたりに接点:1,024項目、アナログ:8項目、パルス:12項目、シリアル:6回線、Ethernet:5システムを収容可能としました。

2.2.3 監視制御端末

指令員が直接操作を行う監視制御端末(写真3)は、中央処理装置が収集した情報のリアルタイム表示、またユーザーからの被監視制御装置に対する制御操作や履歴情報の検索、防災情報のグラフ表示などさまざまな機能を提供します。

写真3 監視制御端末

監視制御端末には、膨大な監視対象装置の多種多様なアラームを指令員が直感的に検知し、迅速な対応が可能となるよう、さまざまな形式で表示する画面を用意しています。また、各保守現場にも指令所と同等の画面が表示可能な端末を設置し、CICネットワークを通して指令所の中央処理装置と接続することで、各個所で発生したアラームの確認や各装置に対する制御を可能としています。

2.3 ソフトウェア構成

中央処理装置や監視制御端末で動作するアプリケーションは、ハードウェアやOSに依存しない高い汎用性と拡張性を考慮し、ソフトウェア開発環境としてJavaを採用しました。また、中央処理装置のサーバOSには信頼性・可用性を考慮してLinux、監視端末のOSにはユーザーの使用感を考慮してWindowsを採用しました。情報伝送装置は専用の組み込みソフトウェアで動作しています。

CICが収集したアラーム情報や防災関係の計測値情報は、全て中央処理装置に一元管理され、監視制御端末は中央処理装置に接続して必要な情報を取得し、表示します。監視制御端末で動作するアプリケーションは、端末起動時に中央処理装置から最新版を取得するため、機能改良時でもソフトウェアリリースなどの作業が不要です。

2.4 機能概要

2.4.1 監視対象装置

CICで監視制御を行う主なシステムをに示します。新幹線沿線に点在する各駅や沿線に設置された信号設備、通信設備の監視・制御に加え、風速・雨量・レール温度、積雪深といった災害検知情報の収集も行っています。また、指令所では運行管理システムなどの他システムと連携しており、CICが収集した災害検知情報は運行管理システムでの運行列車の速度規制などに活用されます。

表 CICの主な監視対象設備

2.4.2 CICでの各種画面表示

監視制御端末には指令員が迅速に情報把握できるよう多種多様な画面を用意しています。以下にその一例を記載します。

トータル画面(マトリクス表示)

初期画面として表示し、監視対象装置と場所からなるマトリクス上に配置された各ボタンの色が変化することで、アラームが発生している監視対象装置までもひと目で確認可能な画面構成です。各ボタンを押下すると下位画面に遷移し、階層をたどって各被監視装置の個別詳細画面に到達することができます。

個別監視画面(系統図表示、表形式表示など)

被監視装置ごとに個別に作成し、障害発生個所を直観的に認識できるよう、装置系統を表した系統図画面や、関連アラームを一覧表示した表形式画面など、多種多様な画面を用意しています。

グラフ表示画面

風速情報、雨量情報などの防災情報に関して、収集した計測値をグラフにて表示する画面です。

履歴表示画面/履歴検索画面

発生したアラームを時系列表示する画面です。画面上にて、各種条件で絞り込みを行うことで、関連するアラームの発生順序などを容易に確認することができます。更に履歴表示された各項目をクリックすると、該当項目の個別監視画面に直接遷移することができます。また、履歴検索画面では、中央処理装置に蓄積された過去のアラーム履歴からさまざまな条件で検索することが可能です。

ツリー表示画面

詳細画面へのアクセスを向上するため、各監視項目の階層をツリー形式で表示し、個別監視画面へ直接遷移できるツリー表示画面としています。アラーム発生時はツリー上の該当個所も表示色が変化するため、アラーム発生項目の詳細画面を素早く表示することが可能です。

3. システム試験及びシステム切り替え

新装置を現地に据え付けた後、約1年半を掛けて各機能試験を行いました。機能試験は、新幹線が走行していない夜間の時間帯(作業時間帯)で行い、接点監視用ケーブルは新旧システム両方で並行監視できるよう接続変更を実施しました。シリアル/LANケーブルは、いったんCMSからCICに接続変更して一点一点確認を行い、翌朝の初列車走行前までに元に戻すという手順で連日連夜行われました。

CMSからCICへの切り替えは、2回にわたる入念なリハーサルを経て作業手順・連絡手順などの確認を行った後、夜間に指令所及び各駅(40駅余り)に作業員を配置し、約300人規模の体制で行われました。5時間に満たない作業時間帯のなかで、全駅にて各装置からの接続ケーブルをCMSからCICに接続変更するとともに、他システム向けのケーブル接続変更も行い、翌朝からCICでの設備監視を開始しました。

4. おわりに

今回の新幹線情報制御監視システム更新プロジェクトは、先行導入から全区間更新完了まで4年以上を要するという、長期間にわたるものでした。この間、多大なるご協力をいただいた、東日本旅客鉄道株式会社様、工事及び施工会社様、被監視装置メーカ様など、関係者各位に厚く御礼を申し上げます。


  • *
    Ethernetは、富士ゼロックス株式会社の登録商標です。
  • *
    Linuxは、Linus Torvalds氏の日本及びその他の国における登録商標または商標です。
  • *
    Windowsは米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
  • *
    Javaは、Oracle Corporation及びその子会社、関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。

執筆者プロフィール

岩瀬 徳宏
交通・都市基盤事業部
第四システム部
主任
西城 光男
交通・都市基盤事業部
第四システム部
エキスパート