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安全・安心を実現する世界一の顔認証技術
Vol.67 No.1 2014年11月 社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集社会の情報化やネットワークサービスの普及に伴い、生体認証技術に関する必要性は年々高まっています。顔認証は、カメラを見るといった自然な認証動作で認証可能であり、ユーザー負担が少ない認証技術です。NEC情報・メディアプロセッシング研究所では、2009年より米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術評価プログラムに参加し、認証精度や検索速度において2009年、2010年、2013年の3回連続のトップ評価を獲得しました。本稿では、世界トップ性能を獲得したNECの顔認証技術を説明し、2013年に実施されたNIST評価プログラムにおける結果を紹介します。
1. はじめに
今日、犯罪の増加や社会の情報化に伴い、出入国管理や犯罪者検索などの国家レベルのセキュリティから、コンピュータやシステムへのログインなど個人レベルのセキュリティまで、機械を介して本人認証を行う場面がますます増えてきています。
生体認証では、身体的特徴や行動的特徴などの、その人物固有の情報を用いて、個人を識別します。そのため、生体認証には、暗証番号やICカードにはない、忘れることがないという利点があります。利用される生体特徴として、顔や指紋、虹彩などさまざまな特徴がありますが、顔認証特有の利点として、図1に示すように、非接触の認証が可能、専用機器が不要、照合結果を人間が確認することができることが挙げられます。

NEC 情報・メディアプロセッシング研究所では、顔認証技術の研究開発に取り組んでおり、安全・安心を実現するための最重要課題である「高い認証精度」を実現すべく、これまで約25年にわたり研究開発を推進してきました(図2)。その成果は、出入国管理など、高い精度が要求される場面に、既に世界20カ国以上に展開されています。

本稿では、第2章においてNECが提案している顔検出・特徴点抽出・顔照合手法について説明し、第3章において米国国立標準技術研究所(NIST)で実施された技術評価プログラム「Face Recognition Vendor Test」における評価結果について述べます。第4章においてはデモシステムを紹介し、第5章において本稿をまとめます。
2. 顔認証技術の紹介
図3に顔認証における処理の流れを示します1)。まず、画像中から顔を見つけます。次に、顔の中から目や鼻、口端などの特徴的な点を見つけます。最後に、顔画像を比較して、類似度を算出します。ある閾値を決めて、類似度が高い場合には本人と判定し、低い場合は他人と判定します。

次に、それぞれの技術について特長を説明します(図4)。

(1) 顔検出技術
顔検出技術については、画像の端から順に矩形領域を探索することにより、顔と合致する矩形領域を抽出します。矩形領域が顔か非顔を識別するために、弊社独自のパタン認識手法である最少分類誤りに基づく一般化学習ベクトル量子化法を用いて、高速で高精度な顔検出機能を実現します。
(2) 特徴点検出技術
特徴点検出技術については、顔矩形領域から瞳中心、鼻翼、口端などの特徴点の位置を探索します。特徴点周辺輝度パタンを用いて最適な位置を探索しつつ、顔形状モデルにより特徴点配置に制約を加えることで、精密に特徴点位置を求めることができます。
(3) 顔照合技術
顔照合技術については、得られた特徴点位置を用いて顔位置を正規化し、登録画像と照合画像の2枚の顔画像を比較することにより、本人か否かを判定します。顔の中から目鼻の凹凸や傾きなどのさまざまな特徴を抽出した後、これら特徴の中から、多元特徴識別法により個人を識別するために最適な特徴を選択します。これにより、経年変化の影響を受けにくくなるなど、さまざまな変動に頑強な個人識別が実現できます。
3. 米国国立標準技術研究所による性能評価結果
本章では米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価結果を紹介します2)。NISTによる性能評価プログラムは、1993年より実施されており、入国管理システムの入札条件にもなる世界的に権威あるベンチマークテストです(図5)。過去10回以上にわたりベンチマークテストやチャレンジプログラムを実施されており、世界各国の有力ベンダ・大学が参加しています。ベンチマークテストでは、各参加組織がプログラムを送付し、NISTが評価を実施することにより、完全ブラインドテストになっており、評価結果に対する信頼性が非常に高いものです。弊社は2009年より参加し、参加した全てのテスト(2009年、2010年、2013年)でトップ評価を獲得しています。

2013年に開催された最新のベンチマークテストについて、結果を紹介します。ベンチマークテストはFace Recognition Vendor Test(FRVT)2013と呼ばれており、米連邦捜査局(FBI)や米国国土安全保障省(DHS)がスポンサーになっており、世界各国から有力ベンダや大学が16組織参加しています。2010年8月から評価が開始され、最終的に報告書が発表されたのが2014年5月です。アプリケーションとして、出入国管理や鑑識用途を想定しています。
図6に、FRVT2013における評価結果を示します。16万名の本人検索の結果です。横軸は検索速度で、1秒当たりの検索人数です。縦軸が検索精度で、検索エラー率です。検索エラー率は、16万名登録したときの1位に本人が正しく照合される確率をrとした場合に、そのエラー率1-rと定義されます。図6に示すように、弊社は検索速度と検索精度の両面で、2位の約2倍の差をつけてトップを獲得しました。1位照合率は97%で、検索速度は1秒当たり302万名です。NISTによる報告書2)では、「NECのアルゴリズムは2010年に引き続き、最高精度」「NECは全てのデータベースで最も低い検索エラー率」「NECは最も接近している競合相手に比べ、半分以下の検索エラー率」という評価を受けました。

図7に弊社の顔認証技術の特長について示します。図5で説明しました認証性能や速度だけでなく、パスポート写真の本人確認に必要な顔の経年変化への対応や、グローバルに事業展開するために必要な多人種への対応や、重要施設への入退場監視などに必要な斜めや上からの顔画像への対応などを含めて、多くの項目でトップ評価を獲得しています。

4. デモシステムの紹介
2013年にNISTでトップを獲得したアルゴリズムの検証のため、最新アルゴリズムをノートPCに実装し、検索速度を検証しました(図8)。使用したマシンはNEC製ノートPCでIntel Core i7 2.7GHzのCPUで8スレッドを使って並列処理を実装したところ、1秒当たり3,300万件の検索が可能になりました。この速度は、約3秒で1億人の検索が可能であることを意味し、今後、国家レベルの大規模人数検索にも大きく可能性が開けたことになります。

5. むすび
本稿では技術面を中心として、弊社の顔認証技術について説明してきました。国家インフラ・セキュリティから、機器組み込みサービスまで、顔認証技術はさまざまな場面で利用されつつあります(図9)。情報・メディアプロセッシング研究所では、高い認証性能をキーテクノロジーとして、(1)より大規模・ミッションクリティカルな状況に耐える技術への飛躍、(2)さまざまな場面で適用可能な高い技術を実現することを目標として、セーフティ事業のコアテクノロジーとしてソリューション展開を加速するためのコア技術開発に取り組んでいきます。

- *Intel Coreは、アメリカ合衆国および/またはその他の国におけるIntel Corporationの商標です。
参考文献
- 1)NEC's World-renowned Face Recognition Technology
- 2)
- ※なお、MBCG2009、MBE2010、FRVT2012における評価結果は米国政府による特定の製品を推奨するものではありません。
- ※Results shown from the MBGC2009, MBE2010 and FRVT2013 (Face Recognition Vendor Test 2013) do not constitute endorsement of any particular product by the U.S. Government.
執筆者プロフィール
情報・メディアプロセッシング研究所
主席研究員
Patrick Grother,Mei Ngan:NIST Interagency Report 8009(One-to-Many Face Recognition Report),2014.5