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監視用小型無人機システムとその関連技術
Vol.66 No.1 2013年8月 社会的課題解決に貢献するNECの事業活動特集東日本大震災以降、発災初期の状況確認など災害監視用途への小型の無人(航空)機の活用が関心を集めています。誘導光電事業部は、光学センサと映像伝送用モジュールとを搭載した電動の小型無人機による上空からの監視・観察システムを開発してきました。この小型無人機システムは、通信、制御、センシング、画像処理、ネットワークなど多岐にわたる技術の総合システムとなっています。運搬が容易であり、簡易な操作で周辺状況を上空からの映像情報により取得できる新しいツールについて、誘導光電事業部の取り組みを紹介します。
1. まえがき
東日本大震災以降、大規模災害時における初期状況の迅速な把握の重要性が見直されてきています。他方、広域災害時には利用できる航空機は、機数や離着陸場所の制約などから発災直後の対応には課題があります。この課題を解決し、上空からの俯瞰的な状況把握を迅速かつ簡易に可能とする手段として、小型無人機の原発撮影1)、海岸調査2)などの多岐用途への活用が関心を集めています。
NEC誘導光電事業部では、災害現場上空など人が近づきにくい地域の上空からの情報収集を目的とした、小型無人機よる監視システム(以下、本システム)を開発しました。本システムの小型無人機は、翼長約2m、質量約4kgであり、災害現場への容易な展開、安全かつ迅速な状況把握を可能とします。
本稿では、今後の成長が期待できる無人機市場におけるNECの取り組みとして、本システムの概要と開発の経緯、関連技術や今後想定される応用分野などについて紹介します。
2. 無人機事業への取り組み
当事業部は航空機製造事業法による航空機製造を認可された工場であり、約半世紀にわたって主として自衛隊向けに無人機とその管制装置などの関連装置とを開発、製造してきました。その結果、無人機事業は、総計1,000機を超える無人標的/偵察機とその関連装置の出荷実績を有する事業となっています。2005年には、福井県美浜原発において、国民保護実動訓練の一環として、米国製小型無人機を飛行させ、防災活動における小型無人機の有益性を示しました1)。
以上の経験から誘導光電事業部は、図1に示すように、プラットフォームとして日本飛行機株式会社が開発した小型無人機を使用し、小型通信装置、ネットワーク配信システムなどの無人機関連技術の開発を行ってきました。
3. 小型無人機を構成する関連技術
3.1 システム概要
ここでは小型無人機システムの概要3)について述べます。本システムは小型無人機、地上装置(管制装置、画像受信装置)及びランチャ(質量約5kg)から構成されています。小型無人機の外観を写真1に、主要諸元を表1に示します。
表1 無人機主要諸元
本システムは災害発生直後の状況把握への活用を想定し、監視対象地域近辺までの運搬・展開・組み立てが容易となるように設計されています。機体は本体、主翼両翼及び尾翼部の4部品に分解可能となっており、2~3名の人員により収納状態からの展開ができます。飛行計画の入力は事前に地上装置上で経路点(ウェイポイント)を設定することにより行います。発進にはバンジーランチャを使用し、安定した離陸が可能です。小型無人機はGPS、ジャイロなどを一体化した飛行制御モジュールを搭載しており、発進後は自己位置を認識し、経路点に沿って自動飛行を行います。また、重点監視目標に対しては旋回飛行による継続的な目標捕捉モードも有しており、定点静止が困難な固定翼機としての欠点を補っています。
操作者は地上装置の表示画面上で、小型無人機の飛行位置を把握しながら、無人機からの映像の監視・記録、静止画キャプチャなど、必要な映像・画像情報を取得することができます。また、画像にテレメトリデータが同期しているため、撮影目標の位置(緯度、経度)をその時の無人機位置などから算出する位置標定機能を有しています。更に画像(または映像)は、ネットワークを介して遠隔地にあるクライアントPCに送信することができます。これらの機能は、例えば河川監視において土砂ダム発見時の位置通報などに有効であると考えています。
飛行終了は開傘命令によりパラシュートを開いて降下することにより、操縦スキルを必要とせずに着地・回収ができます。降下速度が遅いパラシュートは比較的安全な回収方法であり、経路逸脱などの不測の事態に対しても安全対策として有効です。
3.2 小型通信装置
本システムでは、前述の美浜原発での無人機運用の教訓を生かし、映像及びテレメトリ情報伝送のための画像伝送モジュールを独自開発しています。写真2に小型画像伝送モジュールの外観を示します。
送信電力は10mW(特定無線設備として認可取得)ですが、画像伝送用のダウンリンクには圧縮による狭帯域化、誤り訂正符号の付与、受信側アンテナのダイバーシティ方式の採用などにより、低指向性アンテナで約2km、高指向性アンテナを使用すれば約5kmの伝送が可能です。また、UHF帯のアップリンク通信機能も有しており、質量は約60gと業界最軽量クラスとなっています。また、周波数、送信出力の変更が可能であり、専用周波数の取得により伝送距離を数倍に延伸することもできます。
3.3 センサジンバル
小型無人機へ非冷却赤外センサと可視センサとを同時搭載するため、小型軽量で2軸駆動可能なセンサジンバルを開発しました。このジンバルの外観と内部構造を図2に、諸元を表2に示します。
表2 ジンバル諸元
開発したセンサジンバル4)は、軽量化のためジンバル内部フレームに板金を導入するとともに、それをアルミニウム製半球ドームと組み合わせた独自一体化構造を適用することで、十分な機械剛性を確保しています。また可視光(EO)だけでなく遠赤外線(IR)に対する透過特性をも有する「赤外線透過絶縁保護カバー(市販品)」を採用し、カメラ窓部を一体化することにより軽量化を実現しています。
センサジンバル全体の質量は、部品軽量化と小型軽量モータの適用によりセンサ込みで約600gを達成しつつ、駆動特性も小型無人機の飛行特性に対して十分な性能を実現しています。ジンバルに実装したIRセンサは弊社が独自開発した8~14μmの波長の非冷却赤外線センサであり、可視センサとの同時搭載により、夜間、煙などに対しても情報収集が可能です。このセンサジンバルの性能を確認するために小型マルチローターヘリ(千葉大学開発品)に搭載した時の様子を、写真3に示します。
3.4 情報配信
ここでは取得した映像情報の利用者への配信機能5)について紹介します。無人機で取得した画像・映像を、どのようにして利用者の手元に届けるかは、重要な課題です。本システムでは、現場から利用者への簡易かつ迅速な動画配信を目的として、管制端末に簡易サーバ機能を付与することにより映像のリアルタイム配信を可能としています。
この動画配信機能の特徴は、管制端末自体がサーバとしての送信機能を有し、データ送信を固定周期(200ms)で行うことにより再生遅延時間が少ないリアルタイム性を有していることです。更にこの管制端末は双方向通信が可能であり、将来的に無人機に対して遠隔地からの搭載センサ指向制御などを行うこともできます。
本機能の実装により、現地の情報をインターネット回線を介してスマートフォンなどのモバイル端末で共有することが可能となります。
4. システム応用と関連機材
4.1 通信中継
東日本大震災のような広域災害の場合、地上情報通信ネットワークの被災により多くの地域がインフラ孤立地域となり、救助活動や復旧活動の妨げとなりました。このネットワーク孤立地域を迅速に通信でつなぐ手段の1つとして、小型無人機による通信中継システムがあります。
弊社では独立行政法人情報通信研究機構(NICT)殿とともに、「災害に強いワイヤレスネットワーク」の研究開発の一環として無人航空機搭載マルチホップ通信システムを開発し6)、2013年3月の「耐災害ICT研究シンポジウム」にてNICT殿保有の無人機によるマルチホップ通信を実証しました。この通信中継システムの概要を図3に、諸元を表3に示します。このシステムは、中継エリアの上空150m~600mを飛行する小型無人機が通信中継を行うことにより、災害による通信孤立地域と基幹地上インフラとを接続するものです。将来的にこの通信中継機を弊社製小型無人機システムに搭載(評価済)して運用することにより、ネットワーク孤立地域との通信をサポートするシステムを提供できます。
表3 通信中継システム主要諸元
4.2 施設監視/山林管理への応用
本システムは災害などの有事のみならず平時の応用として、ダム施設管理や山林/海岸管理への利活用が考えられます。例えば、山間部においては天候・気象の急変などにより飛行が制限される場合が少なくありません。そのため山間部の運用などでは、極力少ない飛行回数で広範囲の映像情報を取得することが重要です。このような課題に対し、当事業部では3個のカメラを正面・両側に配置した搭載用多眼カメラユニットを開発5)し、電力会社への施設管理業務への活用にも対応しようとしています。
5. まとめ
以上、本稿では誘導光電事業部が開発した小型無人機システムとその関連技術とについて紹介しました。小型無人機による空中からの情報収集システムは、映像情報のみならず、放射線量測定、通信中継などにも活用される可能性を有しています。またプラットフォームとしては、固定翼無人機だけでなくマルチローターヘリなどへの応用も、お客様の用途に応じて対応できるように検討を進めているところです。本稿で紹介した弊社が得意とする技術開発を通じて、今後成長が期待できる「安全・安心」市場において無人機事業の発展に尽力していく所存です。
参考文献
- 1)和田昭久:小型無人機の防災活用, 日本航空宇宙学会誌, 54巻 625号, 2006.2
- 2)酒井和也ほか:海岸調査における飛行ロボットの活用事例, 第49回飛行機シンポジウム, 2011.10
- 3)和田昭久:災害監視における小型無人機システムの活用, 建設の施工企画, 2009年10月号
- 4)大木場正、黒田英彦、山下敏明ほか:小型無人機向け目標追尾システム-EO/IR同時搭載ジンバルの開発-, 第47回飛行シンポジウム, 2009.11
- 5)和田昭久、山下敏明ほか:無人機による施設監視用途への運用技術展望, 第50回飛行機シンポジウム, 2012.11
- 6)三浦龍、滝沢賢一ほか:大規模災害で孤立した地域を上空からつなぐ!-小型無人飛行機を活用した無線中継システム-, NICT NEWS, No.428, 2013.5
執筆者プロフィール
誘導光電事業部
ISRシステム部
シニアエキスパート
誘導光電事業部
生産技術部
シニアエキスパート
誘導光電事業部
ISRシステム部
エキスパートエンジニア
誘導光電事業部
ISRシステム部
主任
誘導光電事業部
管制・ネットワーク技術部
主任
誘導光電事業部
管制・ネットワーク技術部