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新東名高速道路での導入事例にみる次世代交通管制システムの特徴
Vol.66 No.1 2013年8月 社会的課題解決に貢献するNECの事業活動特集高速道路では、安全で円滑・快適な交通流の確保を目的として、道路交通情報の収集・処理、及び迅速かつ的確な情報提供を行うために、道路交通状況を一元的に管理する交通管制システムが構築されています。本稿では、新東名高速道路供用に合わせて構築した、次世代交通管制システムの特徴について紹介します。
1. はじめに
交通管制システムは、高速道路を利用するドライバーの「安全・安心・快適」の確保を目的として、さまざまなシステムから構築されています。例えば、道路に設置されたセンサや非常電話からの道路情報の収集、大型表示設備や各種操作端末などを用いた道路管制センターでの情報共有・指示、情報板などによるドライバーへの交通情報の提供といったシステムが挙げられます。
この度、NECが新東名高速道路の供用に合わせて納入した交通管制システムは、路上センサから従来比で約5倍となる約1分間隔でデータを収集し、その大量データ(ビッグデータ)を高速処理することで、リアルタイムな交通情報の提供を実現します。更に、大画面で見やすい大型表示装置、路上からのセンサ情報を効率的に管制センターへ伝送するIPネットワーク網、東名/中央道高速道路システムと連携した大規模災害発生時のバックアップ対応(ディザスタ・リカバリ)など、世界をリードする最新の機能を実現した次世代交通管制システムです。
2. 交通管制システム機能概要
高速道路の交通管制システムは、主に以下の機能を有します。
(1)収集系機能
高速道路上に設置される車両検知器や気象観測局設備、監視カメラ、非常電話などの端末からさまざまな交通状況を収集し、中央処理・交通管制機能へ通知する。
(2)中央処理・交通管制機能
収集系機能が受信する交通データを基に、各種処理・加工を行い、情報提供内容の生成・管理を行う機能。また、道路管理者向けに道路管制センターに設置された大型表示設備による道路状況の把握や、操作卓による事故や交通規制などの事象入力のほか、過去の道路状況の帳票出力を実現する。
(3)提供系機能
中央処理・交通管制機能が生成する交通情報を、適切にドライバーに対して提供する。提供媒体は、文字や図形を用いる情報板、音声を用いるハイウェイラジオのほか、休憩設備に設置される情報ターミナルなどがある。
交通管制システムの主なデータの流れを図1に示します。
3. 新システムに付加した新機能
弊社で新たに構築した交通管制システムは、従来に比べて省エネルギー・省スペースを実現しながら、情報をよりリアルタイムに、確実に道路管理者とドライバーへ伝える機能を、また、大規模災害時も継続して運用可能な機能を有しています。
3.1. 装置、機能集約による省エネ、省スペース化の実現
従来の交通管制システムは、データを統合的に管理する中央処理装置と、収集・提供の機能単位にサブシステムを設け、これらを接続する構成にて構築されてきました。弊社では、新システムの構築に当たり、各装置が有する機能の横断的な見直しと統廃合を行うとともに、サーバ(装置)の処理性能向上に基づくシステム機能と装置の集約化を行い、システムにおけるサーバの設置面積を従来比約90%削減、消費電力を約40%削減しました。装置・機能集約のイメージを図2に示します。
3.2. 情報更新・表示の短周期化の実現
新東名高速道路における車両検知は、2km間隔で路側に設置された画像トラカンにて撮影される映像を基に、走行車両台数、速度などのデータが生成されます。交通管制システムでは、これらのデータを基に所要時間や渋滞情報の提供を行っています。なんらかの原因によりデータが取得できない場合は、隣接して設置される画像トラカンのデータや前周期のデータを用い、空間的・時間的なバックアップを実施し、継続的に情報提供を行います。なお、収集系設備と提供系設備を合わせた接続端末数は約6,000にも上ります。システムを構成するサーバ性能の向上により多量なデータの高速処理が可能となり、従来5分間隔に行っていたデータの収集・更新を約1分間隔に短縮することで、よりリアルタイムな交通情報の生成を実現しています。また、画像トラカンからのデータを基に、逆走車や停滞車といった異常走行に対する情報提供についても実現しています。
3.3 高速・高信頼な道路用通信ネットワークを構築
全744カ所ある路側のアクセスポイントごとにスイッチ機器を設置するとともに、アクセスポイントとセンサ・非常電話を接続するネットワーク(アクセスネットワーク)を、従来のメタル回線から高速な光回線に全て変更してIP化に対応しました。これらにより、道路に設置されたトラフィックカウンターなど、センサからの大量な情報の収集や、非常電話からの緊急連絡に迅速に対応可能としています。
アクセスネットワーク間をつなぐローカルネットワークでは、Ethernetリングプロトコルを採用することにより、光ファイバ断などの障害発生時もネットワークの高速切替(約0.5秒以内)を実現しています。更に道路分断障害などの障害発生時、幹線ネットワークを活用した広域バックアップ構成で、広帯域かつ高信頼なネットワークを実現しました。
3.4. 大型表示装置画面の視認性向上
道路管制センターでは、道路管理者による交通情報の共有・確認を目的として、46型×64面及び32型×28面の表示媒体で構成する大型表示装置に、リアルタイムの道路状況を表示しています(写真)。大型表示装置については、世界最薄クラスのベゼル幅の液晶ディスプレイをその媒体に採用することで、シームレスな提供画面を実現し、視認性の確保を実現しています。
また、媒体故障時における部品交換といったメンテナンス時においても、作業に伴う影響範囲を最小とするために、交換対象部位のみを停止対象に限定できる機構にて構成しています。
3.5. 災害時バックアップシステムを実現
新東名高速道路/東名高速道路/中央自動車道の交通管制システムのバックアップサイトを、遠隔地に構成しました。
大規模災害の発生など、メインサイトが利用不能となった場合でも、ループ状に構築したネットワークを経由して、バックアップシステムと路上のセンサや各システムを接続し、運用業務の継続を可能とするバックアップ(ディザスタ・リカバリ)システムを実現し、大規模災害時における緊急網としての高速道路の新たな役割や価値にも貢献しています。図3にディザスタ・リカバリ機能の動作イメージを示します。
4. 将来応用可能な特許技術
サーバの性能向上や機能の集約化は、これまで困難だったシステム連携や機能追加を容易にします。本章では、高速道路の車線規制時に課題となる問題への解決を目指した特許技術の将来応用について記述します。
高速道路では、道路整備や事故処理のために行われる車線規制区間に到達したドライバーの急激なブレーキ操作が、渋滞の原因となる場合があります。その渋滞を解消もしくは緩和する方法としては、ドライバーが、車線規制区間の位置と規制区間に到達するまでの最適な走行速度情報を事前に把握し、徐々に速度を落としながら運転することが挙げられます。
高速道路ユーザーに対する制限速度の通知は、道路上に設置された可変式速度規制標識にて行われています。
しかし、可変式速度規制標識を用いた従来の制限速度情報は、区間単位かつ(可変数が限られていることから)断続的な速度での提供にとどまっており、交通流の状況に合わせ、細かな単位で制限速度を変動させるようなシステムにはなっていないのが現状です。
上記現状の改善策の1つとして、特願:2012-281897では、リアルタイムで収集する交通量データを基に算出する車線規制区間及びその付近の交通密度を基に、車線規制区間までの制限速度を連続的な値で設定・提供することで、後続車両のブレーキを減少・軽減させることにより、渋滞原因を解消します(図4)。本技術は、リアルタイムな交通量データの活用により、精度ある運用が可能であることから、今回納入した次世代交通管制システムでのビッグデータ処理技術による応用が期待できます。
5. 海外市場への水平展開の展望について
日本国内における高速道路向け交通管制システムは、既に全国的な整備が済んでおり、現在は維持・整備のフェーズにあります。東南アジアをはじめとした新興国では、増大する車両と慢性的な渋滞解消の施策の1つとして、高速道路の整備と交通管制システムを用いた交通流の管理が計画されています。
交通管制システム機能は、収集系機能、中央処理・交通管制機能、提供系機能と分類され、国内外を問わずその枠組みは変わらないことから、国内で得られた経験と技術資産は、これら海外市場においても十分生かせるものと考えています。そこで、交通管制に最低限必要となる機能をパッケージ化して、低価格化と短納期を実現するとともに、顧客ニーズに応じた機能をオプションとして容易に追加できる機構を整備し、海外市場への水平展開を計画しています。
(1)今後新たに高速道路を整備していく地域
道路建設計画のため、既存道路の交通量を測る交通量計測機能と、その状況を把握する交通管制機能の一部を提案します。高速道路が整備された後には、交通管制機能の充実化を図っていくことで、その地域の高度交通システムの構築を支援します。
(2)有料道路としてサービスの充実化を図っていく地域
有料道路としてサービスの充実化を図っていく地域へは、道路管理者が事故や交通規制情報などを入力する操作卓と、情報板による情報提供を実現するシステムを提案します。その後、収集系端末の整備とそれら端末からの動的データを用いた情報提供など、サービスの充実化という段階的なアプローチを行っていきます。
(3)有料道路入口にETCなどがない地域
日本ではETCの利用率が9割近くあり、有料道路出入口の渋滞緩和が図られています。しかし、ETCまたはそれに類似する技術が普及していない地域では、料金支払いなどによる出入口の渋滞の発生が考えられます。そこで、出入口付近を運転するドライバーのストレス軽減のため、出入口付近の渋滞通過時間を提供する情報板の構築を提案します。情報の収集範囲と提供範囲を制限することで、システムの小規模化と低コスト化を図ります。
6. おわりに
以上、次世代交通管制システムの特徴について紹介しました。
今後、さまざまな情報提供やサービス拡充が求められるなかで、今回納入した機能の各要素は不可欠になると考えられます。弊社では、道路事業者様向けのさまざまなシステム構築を行ってきましたが、今後も顧客ニーズを察知し、国内はもとより、海外を対象とした次世代の交通管制システムの提案と展開を行っていく所存です。
- *DSRCは、一般社団法人ITSサービス推進機構の登録商標です。
- *ハイウエイラジオは、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社の登録商標です。
- *VICSは、財団法人道路交通情報通信システムセンターの登録商標です。
- *Ethernetは、富士ゼロックス株式会社の登録商標です。
- *ETCは、財団法人道路システム高度化推進機構の登録商標です。
執筆者プロフィール
交通・公共ネットワーク事業部
主任
交通・公共ネットワーク事業部
マネージャー
交通・公共ネットワーク事業部
マネージャー
交通・公共ネットワーク事業部