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国際通信を支える光海底ケーブルネットワークの大容量化及び高信頼化技術
Vol.66 No.1 2013年8月 社会的課題解決に貢献するNECの事業活動特集世界各国を光ファイバで結ぶ光海底ケーブルシステムは、国際通信ネットワークを支える基盤インフラとして、重要な役割を担っています。光海底ケーブルシステムでは「膨大なトラフィック需要を満たすための大容量伝送」「多地点を効率的に接続するためのネットワークの柔軟性」「ケーブル破断など障害時の影響を最小化するためのネットワークの高信頼化」などが求められています。本稿では、これらの特長を実現するために、光海底ケーブルシステムに適用されている最新技術について概説します。
1. まえがき
光海底ケーブルシステムの主な構成要素は、光ファイバを収容する海底ケーブル、光増幅器を搭載した海底中継器、光信号を2地点に向けて分岐する海底分岐装置、各種データ信号の送受信を行う端局装置、海底機器に電力を供給する給電装置などです(図1)。
NECでは、これらの装置に最新技術を適用することでネットワークの大容量化を実現するとともに、利便性の向上を図っています。
2. 大容量伝送技術
弊社が提供する光海底ケーブルシステムは、1ファイバ当たり100Gb/sの信号を100波伝送させることが可能であり、1つのケーブルに8ファイバペア(16芯)を収容するシステムでは80テラビットの超大容量システムが実現可能です。80テラビットシステムの伝送容量とは、最大約12億4,000万の電話回線が同時に通話可能、あるいは最大約2,100枚のDVD(4.7GB/枚)に相当するデータを1秒間に送信できる容量になります。
ここでは、大容量伝送を実現する技術として多値変調技術、デジタルコヒーレント技術を紹介します。
2.1 多値変調技術
多値変調では1シンボルに複数のビット情報を符号化することが可能です。例えば、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調方式では、“00”、“01”、“11”、“10”のビット情報を90度の差を持つ位相に重畳することで、1シンボル当たり2ビットの符号化が実現できます。またQAM(Quadrature Amplitude Modulation)変調方式は、位相に加えて振幅にも符号化を施すことで更なる多値化が図られており、8QAM、16QAMではそれぞれ3ビット及び4ビットの符号化が可能となります。更に多値変調技術と偏波多重技術を組み合わせることで、いっそうの大容量化が可能となっています。
多値変調の利点としては、周波数利用効率の向上、シンボルレートの高速化不要などが挙げられます。一方、多値数が高次になるにつれて隣接シンボル間の差分が小さくなり、伝播中に発生する劣化要因の影響を受けやすくなることで、伝送距離の制限要因となり得ます。光海底ケーブルシステムでは、システム長に応じて適切な変調方式を選択することが重要となります。
2.2 デジタルコヒーレント技術
デジタルコヒーレント技術は、最新のデジタル信号処理技術を用いることにより、高感度なコヒーレント受信検波、偏波多重信号の偏波分離、伝送に伴うさまざまな信号劣化の電気的補償などを可能としており、光通信システムの大容量化において重要な技術として実用化されています。
図2にデジタルコヒーレント受信機の構成を示します。コヒーレント検波部では、受信信号を局部発振光と干渉検波させることで光の位相情報を含んだ電気信号に変換します。そしてアナログ/デジタル変換によりデジタル化された信号は、デジタル信号処理部に送られます。デジタル信号処理部では、波長分散補償、偏波モード分散補償、偏波分離、周波数補正、位相推定を経て復号され、符号誤り訂正処理部によって伝播中に発生したビット誤りを訂正します。
弊社では100Gb/sデジタルコヒーレント技術をいち早く製品化し、光海底ケーブルシステムにも適用しています。
3. 光海底OADM技術
光海底ケーブルシステムでは複数の国々や地域を効率的に結ぶために、海底分岐装置により海底ケーブルを分岐する方法が用いられています。
ここでは、海底分岐装置(Branching Unit)にOADM(Optical Add Drop Multiplexer)技術を適用することにより、より効率的かつ柔軟な光海底ネットワークを構成する技術について紹介します。
3.1 光海底OADMネットワーク
まず、光ファイバ分岐による従来型のネットワークを図3に示します。
従来のファイバ分岐型ネットワークでは、例えばT-1局とT-4局間で通信を行う場合、T-2及びT-3局に設置された端局装置を経由して通信を行う必要があり、その迂回に必要な端局装置のコストとケーブルの長さ分の伝送遅延が発生してしまいます。
次に、OADM技術を使ったネットワークを図4に示します。
OADM技術を使ったネットワークでは、T-1局とT-4局間通信は直接的に確立され、従来のファイバ分岐型に比べて、建設コストの削減と伝送遅延量の低減を図ることができます。更に図4(b)に示すようなメッシュネットワークを構築することが可能となり、陸揚げ局間の接続性が向上します。
3.2 OADM海底分岐装置
海底分岐装置は、写真に示すように、海底分岐装置両端に3本の枝を持つことで、3枝間における光信号の合分岐機能と海底ネットワーク特有の給電路の切り替え機能を有しています。
光合分岐におけるOADM機能は、1本の光ファイバ中で波長多重された信号をいくつかのサブバンド帯域に分割し、局間通信に割り当てることで、サブバンドごとに多局間を結ぶネットワーク構築が可能となります。分岐装置内部のOADM構成例を図5に示します。
図5の例では、A-B局間はサブバンド1の信号帯域を使って通信し、同様にA-C局間、B-C局間はそれぞれ、サブバンド2、3を使って通信することが可能です。更に、このサブバンドの幅は自由に変更することが可能で、お客様のネットワークの回線需要に応じて、柔軟なネットワークを構築することができます。
また、弊社の海底分岐装置は、高信頼・高性能な設計により、最大8,000mの水深に耐えられる耐高水圧・高気密封止、太平洋横断にも耐えられる15kVの耐高電圧性能を実現し、25年もの長期間の運用に耐える設計となっています。
4. 給電切り替えによる障害への耐性向上
次に、海底分岐装置のもう1つの機能である、給電路切り替え機能を使った、ケーブル障害に対するネットワークの耐障害性向上について紹介します。
海底ケーブルシステムの海底機器への電力供給は、陸揚げ局舎に設置された給電装置(Power Feeding Equipment:PFE)により行われますが、ケーブル障害の発生時には給電経路を切り替え、障害部分を切り離すことで、システムの運用を継続することが可能です。
ここでは、海底分岐装置を介して多地点を結ぶ海底ケーブルシステムを一例に、システムの給電路構成について説明します。
海底分岐装置で接続されたケーブルシステムにおける給電路構成は、基幹区間(トランク区間:図6、A-B局間)と分岐区間(ブランチ区間:図6、C局-分岐装置間)に分かれます。通常運用時においては、トランク区間給電はトランクの両陸揚げ局から正極及び負極の電圧により給電する両局給電方式を採用します。一方ブランチ区間給電は、ブランチ局から海底分岐装置のシーアースに対して、負極の電圧により給電する片局給電方式を採用します。
トランク局(A局、B局)に設置される給電装置は、通常、トランク区間の全区間の負荷(ケーブル電圧降下、及び海底中継器電圧降下)をカバーする電圧出力供給能力を具備しています。同区間で地絡障害(海底ケーブルの給電路が海水に接地する障害)が発生した場合、A局とB局の給電装置の出力電圧は自動的に調整され、地絡障害点の電位がゼロになるようにバランスをとります。これにより、海底ケーブルの伝送路(光ファイバ)に異常がない時には、障害の位置にかかわらず、システムの運用を継続することが可能です(図7)。
同障害個所をケーブル修理船によって修理する時には、海底分岐装置の給電路をA-B局間からA-C局間に切り替えることで、障害のないA-C局間での両局給電を構成し、同区間の運用を継続することが可能となります(図8)。
また、ブランチ区間に地絡障害が発生すると、海底分岐装置と障害個所の間に位置する海底中継器に電力が供給できなくなります。この場合においても、トランク局からブランチ区間の地絡障害点までを給電するように海底分岐装置の給電路を切り替えることで、障害のあるブランチ区間を含めた全区間のサービスを救済することが可能です(図9)。
従来、これらの給電路構成の変更は、システムのアウト・オブ・サービス(非運用状態)でのオペレーションが前提となっており、各局に設置される給電装置をいったん停止し、再起動する際に海底分岐装置に供給する電流値を調整することで実現していました。この従来方式では、各局間での複雑な電流調整が必要になることから、給電路変更に時間を要していました。しかし、最新のシステムにおいては、これら給電路の切り替えを、陸揚げ局に設置される監視制御装置からのリモートコマンドで実施することが可能となりました。これにより、給電路変更における所要時間を短縮するだけでなく、複数の海底分岐装置が複雑に接続されるシステムにおいても、さまざまな障害に対して給電路の構成変更が可能となりました。
このように、伝送路(光ファイバ)が正常であれば、いかなる地絡障害に対しても、短時間での給電路の変更が可能であり、障害時の影響を最小化するように考慮されています。
5. むすび
弊社の海底ケーブルシステム事業は、海洋調査に始まり、ルート設計、ケーブル敷設などの海洋工事、海底ケーブル/端局装置/海中機器の開発・製造、更には機器設置工事、システム試験などを行い、お客様にシステムを引き渡すまで全ての工程を請け負うフルターンキーサービスを提供しており、これまでに数多くの光海底ケーブルシステムを建設しています。
今後も革新的な技術への挑戦を続け、より豊かな社会の実現に向けて貢献してまいります。
執筆者プロフィール
海洋システム事業部
エキスパート
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マネージャー