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水中からの脅威に対処する水中監視システム及びその関連技術

Vol.66 No.1 2013年8月 社会的課題解決に貢献するNECの事業活動特集

電波応用事業部では、パブリックセーフティ事業分野において「安全・安心な社会」を実現するため、十分な監視が難しい水中からの不審侵入を監視する水中監視システムの開発、提案を行っています。世界では公共交通機関やプラントを標的にしたテロ行為が絶えません。脅威は目的達成のために技術革新や状況変化をうまく取り入れ、柔軟かつ多様にアプローチを変えてきます。我々の開発、提案している水中監視システムは、水中において高い安定性、信頼性、柔軟性を備えます。本稿では、これを支える技術及び実海域での試験結果を紹介します。

1. まえがき

近年、飛行機、列車、バスなどの公共交通機関、政府機関や大規模プラントを狙ったテロ行為が続発し、世界各国で対策強化が叫ばれています。日本でも、発電所、空港、港湾をはじめとする重要インフラの危機管理体制が見直され、対策1)が急がれています。特に日本は四方を海に囲まれており、水際に隣接する重要施設は、陸上のみならず水上や水中からの脅威にも備える必要があります。

そのようななか、電波応用事業部では、「安全・安心な社会」の実現を目指すパブリックセーフティ事業分野において、水中からの不審侵入を監視するシステムの開発、提案を行っています。水中は光や電波が届きにくく、主に音波によって脅威を把握する必要があります。しかし、音波伝搬は水温変化、海底地形、周囲雑音などの水中環境に大きく左右されるため、侵入者の探知が難しく、陸上がレーダー、カメラ、入場ゲートといった監視手段により強化されつつあるのに対し、水中では十分な対策がとられてきませんでした。そのうえ、脅威は常に攻撃対象に合わせて変化し、常に新しい技術をうまく取り入れるため、対処する側も柔軟な対応をしていく必要があります。

我々の開発、提案する水中監視システムは、海底にさまざまなセンサと、それらを接続する接続ボックスから構成された水中センサネットワークを形成します。図1に水中監視システムのイメージを示します。本システムは、水中環境に応じたセンサ配置を可能とする柔軟性、複数伝送路を構成することによる冗長性、運用開始後のセンサ交換を容易とする保守性、脅威のアプローチ変化に対応可能な拡張性を実現しています。以下、個別関連技術に関して説明します。

図1 水中監視システムのイメージ

2. ハードウェア技術

図2に全体構成図を示します。ハードウェアの構成は、陸上部と水中部に分類され、更に水中部はネットワーク機器及び各種センサに分類されます。

図2 全体構成図

2.1 陸上部

陸上部は、全てのセンサ情報を統合的に管理し、信号処理及び監視表示を行うためのサーバ群と汎用のネットワーク機器、水中部への給電ユニットで構成されます。

2.2 水中部のネットワーク機器

水中部のネットワーク機器は、水中部の各構成品に電力を供給するための機器、各種情報のやりとりを行うための通信機器及び水中ケーブルで構成されます。規模は、監視範囲や海底地形などの海洋環境で決まります。必要に応じてメッシュ状のネットワーク構成とすることにより、意図的な妨害などのケーブル破断に対しても迂回作動による残存性(全体システムダウンの回避)を高めることができます。次に図3(左)にセンサ接続ボックスのイメージを示します。また、図3(右)に水中でのコネクタ接続作業の様子を示します。水中で着脱可能なコネクタの採用により、水中でのセンサ追加、変更及び交換を可能とし、メンテナンスやシステムの拡張、縮小を容易2)としています。

図3 センサ接続ボックスのイメージ(左)、水中でのコネクタ接続作業の様子(右)

2.3 水中部の各種センサ

水中部のセンサは、侵入対象のタイプ(ダイバー、潜水艇、小型船舶など)、監視エリア、海底地形など水中の環境状況を考慮して、最適なタイプのセンサを選択します。接続できる主なセンサを以下に示します。

(1)アクティブ音響センサ

アクティブ音響センサ(図4)は音波を水中に送信し、反響音を受信して目標の距離、方位、深度を得ることができるセンサです。このセンサは海底や橋脚に設置でき、侵入対象をダイバーとした場合、約800mの範囲で探知が可能です。図4に示す構造の他に、簡便性を考慮したポータブルタイプがあります。停泊中の船舶から吊下でき、侵入対象をダイバーとした場合、約200mの範囲で探知が可能です。

図4 アクティブ音響センサ(プロトタイプ)と主な性能

(2)パッシブ音響センサ

パッシブ音響センサ(図5)は侵入対象が放射する雑音(スクリュー音、ダイバーの呼吸音など)を受信し、方位や距離の算出、目標が何であるかの類別を行うことができるセンサです。

図5 パッシブ音響センサ(プロトタイプ)と主な性能

(3)非音響センサ

非音響センサとは音波以外の手段で侵入対象を検知するセンサであり、侵入対象が放射する磁気を検出する磁気センサや、電界を検出する電界センサがあります。

以上述べたように、多様なセンサを組み合わせて使用することで、さまざまな脅威への対応が可能となります。なお、いずれのセンサも探知できる距離は、侵入対象のタイプ、水中の環境状況など、各種条件により変わります。

3. 処理技術

以下に、代表的な音響センサの信号処理、及びセンサからの検出情報を統合・表示する水中統合処理に関わる処理技術を紹介します。

3.1 音響センサの信号処理

アクティブ音響センサの音を送受信する部分には、複数の圧電素子(以下、素子)を配列しています。この配列により所望のビームを形成し、図6に示すクロスファン方式を採用することで、目標の方位、距離、深度の把握を可能としています。

図6 アクティブ音響センサのクロスファン方式

またパッシブ音響センサでは、図7に示すように、配列された複数の素子間の位相差から信号の到来方位を計測するとともに、配置位置の異なる複数のパッシブ音響センサを組み合わせ、計測方位の交点を求めることにより目標位置の把握を可能としています。更に、目標が発する音の周波数上の特徴(スペクトル特性または音紋)をあらかじめデータベース化して受信音と照合することで、目標が何であるかの類別を可能としています。

図7 パッシブ音響センサでの方位及び位置計算

3.2 水中統合処理

水中統合処理は、複数の音響センサの検出情報を統合し、水中統合画面として地図情報の上に統合した情報を表示するものです。脅威となる目標情報(位置、到達時刻など)を分かりやすく、高精度に提供し、施設の監視者が迅速かつ効果的な対処行動を行えるよう支援します。図8にセンサでの目標探知から表示、警報に至るシステム全体の処理ブロックを、図9に水中統合画面の表示例を示します。

図8 システム全体の処理ブロック
図9 水中統合画面

自動検出処理後のデータには、海面・海底からの多重音響反射や、雑音などに起因する不要な信号(誤検出)が多数含まれ、目標の存在や位置の把握に多くの誤りが生じます。このため、後段の自動追跡処理でMHT(Multiple Hypothesis Tracking)アルゴリズムを用いたフィルタリングを行います。このアルゴリズムは、雑音などに起因した自動検出結果(誤検出)が不連続になることに着目し、これらを振るい落とすことで、多数の検出結果のなかから真の目標情報を追跡できるようにするものです。更に、脅威度分析処理では、追跡している目標の運動情報から脅威の度合いを得点化し、対処すべき目標かどうかを判定します。このように脅威度が付与された各目標の軌跡を、センサの位置情報などとともに航空写真や地図の上に表示し、脅威度が判定基準を超えた場合、対処すべき目標として警報を発します。また、信号処理結果の表示、すなわち音の可視化を行い、目標の存在を直感的に確認できるようにします。

4. 海上試験結果

平成24年3月に静岡県の沼津港周辺において、ダイバーと水上バイクを主要な目標とした、アクティブ及びパッシブ音響センサの性能評価を実施しました。

まず、アクティブ音響センサによるダイバーの探知結果(信号処理表示)の一例を紹介します。図10は、距離200mにいるダイバーをクロスファンビームにより探知した際の方位対水深の垂直断面表示です。図中の点線で囲んだ個所に、ダイバーと気泡からの反射波を確認することができます。次に、図11にパッシブ音響センサによる水上バイクの探知結果(信号処理表示)の一例を示します。水上バイクの運動に応じ、特に低周波領域でレベルが変化しており、目標の存在とスペクトル特性を確認することができます。

図10 アクティブ音響センサによるダイバーの探知結果
図11 パッシブ音響センサによる水上バイクの探知結果

5. むすび

本稿では、パブリックセーフティ領域で事業化を進めている水中監視システムを紹介しました。本システムは、従来欠落していた沿岸重要施設における水中脅威への対処を可能とするものであり、防衛用ソーナー事業で培った技術力、ノウハウを発揮して高い監視能力と柔軟性を実現しています。また、既存の陸上レーダー、赤外線や高感度カメラといったイメージセンサと連携することで、水中から水上、陸上まで、全ての空間を監視対象としてカバーでき、信頼性の高いトータル監視システムの提供が可能になります。更に、クラウド技術やビッグデータを活用し、事象の予知や予防へとつなげることで、更なるサービスの向上が可能となるものと考えています。

参考文献

  • 1)
    国土交通省:国土交通行政におけるテロ対策の総合点検, 平成17年度 政策レビュー結果(評価書), 2006.3
  • 2)
    M.Nakano et al,:Flexible integrated maritime security network system, Maritime Systems and Technology mastAmericas 2011 Conference, 6-C3, 2011.11

執筆者プロフィール

中野 正規
電波応用事業部
統合USW推進室
エキスパート
芝 博史
電波応用事業部
統合USW推進室
マネージャー
村松 順
電波応用事業部
統合USW推進室
主任
三原 健志
電波応用事業部
海洋システム部
主任
小林 稔
電波応用事業部
統合USW推進室
主任
八木 雅宏
電波応用事業部
統合USW推進室

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