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NEC Open Networksを支える光デバイス技術 ~800G超の光伝送技術~

Vol.75 No.1 2023年6月 オープンネットワーク技術特集 ~オープンかつグリーンな社会を支えるネットワーク技術と先進ソリューション~

近年急激に増加している通信トラフィックは、今後も指数関数的に増加の一途をたどると考えられています。基幹網の大容量化が求められる一方で、特定ベンダーにとらわれず柔軟に機器を選択してネットワークを構築するオープン化や、環境問題への懸念から消費電力の低減を図るグリーン化の流れも同時に高まっています。本稿では、NECにおいて、オープン化・グリーン化を支える光デバイス技術と製品群について紹介します。

1. はじめに

光ネットワーク装置における大容量化を実現するための技術として、デジタル信号処理技術とコヒーレント検波技術を組み合わせたデジタルコヒーレント光トランシーバ製品の開発が積極的に行われています。

一方で市場のニーズは大容量化だけでなく、従来のような特定のベンダーへの依存を避け、柔軟に機器を選択してネットワークを構築できるオープン化、環境問題への懸念からネットワーク全体の消費電力低減を実現するグリーン化の機運が高まっており、標準化活動も活発に行われています。

本稿では、NECの光ネットワークの大容量化及びオープン化・グリーン化を支えるトランスポンダ、デジタルコヒーレント光トランシーバの技術と、製品群について紹介します。

2. トランスポンダ

トランスポンダは100GbE、400GbEといった信号を複数チャネル多重化し、大容量伝送に適した光信号へと変換する機能を持ち、光ネットワークにおいて、長距離大容量伝送の要となる重要な役割を担っています。図1に一般的なトランスポンダの構成を示します。ここでは3つの400GbEクライアント信号を、1.2Tbpsの多値変調信号へと変換し送受信を行います。

図1 トランスポンダ構成

クライアント信号の送受信を行っているプラガブル光トランシーバは、標準規格によって定められた複数のフォームファクタが存在しており、トランスポンダはこれを準拠するデバイスを接続できるように設計されています。これにより、ユーザーは用途に応じてプラガブル光トランシーバを自由に選択し、トランスポンダの構成を変更することが可能です。

デジタル信号処理部では、高速デジタル信号処理を用いて送受信信号のフォーマット変換、誤り訂正符号の付与などを行い、光送受信機では、多値変調などを施した信号送信、コヒーレント検波による受信信号の復調などをリアルタイムで行います。

トランスポンダの機能ブロックのなかでも、光インタフェースを担うデジタルコヒーレント光トランシーバ部については、伝送容量や消費電力に直接影響するだけでなく、オープン化・グリーン化に際しても重要な位置を占めています。したがって、相互接続性を担保したフォームファクタ・仕様や消費電力の規格策定が標準化活動として積極的に進められています。

3. デジタルコヒーレント光トランシーバ

第3章では、NECが取り組んでいるデジタルコヒーレント光トランシーバの大容量化技術と、オープン化・グリーン化の動向、及び小型化の技術を紹介します。

3.1 800Gbps超の光伝送のための技術

3.1.1 デジタルコヒーレント光通信

光トランシーバの大容量化のための技術として、デジタルコヒーレント通信方式が挙げられます。コヒーレント光通信では、搬送波の周波数、位相、偏波の情報を利用した多値変調が可能となり、デジタルコヒーレント光通信以前に使用されていた搬送波の強度情報のみを利用する方式と比較して、周波数利用効率を大幅に向上させることができます。

このコヒーレント光通信に高速デジタル信号処理技術を組み合わせたものがデジタルコヒーレント光通信技術です。波長分散、偏波分散といった光ファイバ伝送による波形の品質劣化要因を、デジタル信号処理で補償することで長距離大容量の伝送を可能にします。

3.1.2 多値変調技術

搬送波の位相・偏波情報を利用することにより、多値変調が可能となりました。例として、位相の異なる4つの変調パターンを2つの偏波で伝送するDP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)などが挙げられます。1シンボル1ビットで情報を伝送していた従来の手法と比較して、DP-QPSKでは1シンボル2ビットかつ異なる偏波を用いた2シンボルでの送信を行っており、周波数利用効率を4倍に向上させ伝送路の大容量化に貢献しています。また、位相に加えて振幅情報を変化させることで変調パターンを16に増やした16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)や、変調パターンを64に増やした64QAMなどが登場し、更なる周波数利用効率向上が進められています。一方で、変調パターンが増えることにより、変調制御の精度や変調パターンの明瞭さが課題となっています。これらの向上施策として、パイロット信号を必要としない変調器制御の手法や、スキュー補正精度の改善、周波数補正による長距離伝送後のSN比改善などの開発が行われています。

3.1.3 広帯域化

変調信号の高速化によって、単位時間当たりに伝送可能なシンボルの量を増やすことができるため、伝送容量の向上につながります。したがって、光変調器や光受信器といった光部品では広帯域化対応が盛んに進められています。一方で光トランシーバとしては広帯域化対応した光デバイスの採用だけでは不十分であり、復調した信号に対し高速デジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)の広帯域対応や、70GHz以上の高速信号を扱うための基板配線設計などの取り組みが行われています。

3.1.4 FlexGrid対応

従来は光信号に使用される光源波長の設定間隔は固定化されていましたが、伝送路の周波数利用効率を最適化するために、光源波長のフレキシブルな設定変更に対応しています。

3.2 オープン化の動向

光トランシーバのオープン化には、フォームファクタや機能仕様など複数の観点からに示すようなさまざまな標準化団体が関係しています。NECではこれらの標準化団体に参画することで、光のオープン化の推進活動を行っています。

表 光トランシーバの標準化団体と規格

3.3 グリーン化の動向

光トランシーバのグリーン化においてはデバイスとしての消費電力を低減するだけでなく、増え続けるトラフィック需要に対応する必要があります。したがって、単純な消費電力だけではなく、伝送容量VS消費電力を指標として比較することで議論されます。図2は、これまでのデジタルコヒーレント光トランシーバの消費電力の推移を示しています。2016年、100Gデジタルコヒーレント光トランシーバの消費電力を100%としたとき、現行品のQSFP-DD(Quad Small Form-factor Pluggable Double Density)は24%の消費電力で伝送容量は4倍となっています。したがって、伝送容量当たりの消費電力は6%まで低減されています。また開発予定のQSFP-DD800については、QSFP-DDからやや消費電力が増加するものの2倍の伝送容量を確保できることから、100Gデジタルコヒーレント光トランシーバ比で伝送容量当たりの消費電力は4%まで低減されており、ネットワーク全体のグリーン化に大きく貢献することが可能です。

図2 伝送容量当たりの消費電力の推移

3.4 小型化技術

共通規格として定められた形状に収めつつ伝送容量を確保するためには、小型・高密度実装技術が欠かせません。これらの実現へ向けて、NECのデジタルコヒーレント光トランシーバが取り入れている技術を紹介します。

3.4.1 光部品の小型化

従来の波長可変レーザーを更に小型化したnITLA(nano Integrated Tunable Laser Assembly)や、光変調器や周辺ドライバを一体化したHB-CDM(High Bandwidth - Coherent Driver Modulator)などを採用することで実装面積を減らし、小型かつ高品質な光トランシーバを実現しています。

3.4.2 部品の高密度実装

実装面積の縮小に伴い搭載部品を効率よく配置する技術が求められるようになりました。NECでは3D-CADを活用した3次元での実装設計・熱設計を取り入れることで、高密度実装を実現しています。

3.4.3 DSPチッププロセスの微細化

DSPチッププロセスの微細化により、単位面積当たりの性能引き上げと低消費電力化を実現します。DSPチッププロセスについては約10年前40nmだったものが、現在5nmまで微細化されており、光トランシーバの大幅な小型化と低消費電力化に貢献しています。

4. 製品紹介

最後に図3の開発ロードマップに示す、NECで開発しているデジタルコヒーレント光トランシーバ製品を紹介します。

図3 NECの光トランシーバ開発ロードマップ

4.1 400ZR/OpenZR+ QSFP-DD

写真1に示すQSFP-DDは、400ZR / Open ZR+をサポートするDCI(Data Center Interconnection)/Metro向けの光トランシーバです。現在生産中です。

写真1 400ZR/OpenZR+ QSFP-DD

4.2 400G CFP2-DCO

写真2に示す400G CFP2-DCO(100-gigabit Form-factor Pluggable 2 Digital Coherent Optics)は、400ZR/OpenZR+/OpenROADMをサポートするDCI/Metro向けの光トランシーバです。現在サンプル出荷を開始しています。

写真2 400G CFP2-DCO

4.3 800ZR/ZR+ Pluggable Transceivers

800ZR/ZR+をサポートするDCI/Metro向けの光トランシーバとして QSFP-DD800(図4)及びOSFP-XD(eXtra Dense)を開発予定です。サンプル出荷を2024年ターゲットとして開発を進めています。

図4 QSFP-DD800

5. むすび

光ネットワークの大容量化に向けた技術として、デジタルコヒーレント光通信や多値変調、広帯域化などの技術、光トランシーバのオープン化・グリーン化の動向、及びNECの光トランシーバ製品群について紹介しました。世界的な大容量化、オープン化・グリーン化の流れは今後も加速していきます。この流れをリードすべく、NECは高度な光デバイス技術の開発・製品適用や標準化団体への参画に引き続き取り組んでまいります。

執筆者プロフィール

小野 貴寛
光デバイス統括部
坪内 隆史
光デバイス統括部
主任
木田 拓海
光デバイス統括部
主任
窪木 伸吾
光デバイス統括部
主任

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