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カーボンニュートラルへの取り組みが、日本のものづくりとSCMを強くする
~製品カーボンフットプリントのNEC社内実証の成果と課題~
スペシャル対談インタビュー
【2025.01.22】
カテゴリ:品質・環境・物流SCM/MES/FSMPLM/CAD
[目次]
近年、気候変動による自然災害が世界中で多発しています。その要因と考えられているのが、温室効果ガスによる地球温暖化。各国でカーボンニュートラルの取り組みが進んでいるのはご承知のとおりです。
その一つとして製造業が取り組むべき「製品カーボンフットプリント(製品CFP)」について、NECは精緻な積み上げ計算で正確にCO2排出量を把握するための社内実証に着手。そこで得たノウハウをソリューションとしてお客様に提供していくことを目指しています。
ここでは、当該プロジェクトを担当しているNECの岡田和久と廣光徹が、その取り組みについてお話しします。
NEC スマートインダストリー統括部/次世代事業戦略G シニアプロフェッショナル 岡田 和久
NECに入社後、パーソナル製品の事業企画部門にて、SCM領域のシステム企画に従事。
その経験から、製造業の様々なお客様に対するグローバルSCM導入や、生産現場のスマートファクトリー化まで、様々な業務改革プロジェクトにコンサルタントとして関わり、2023年から現組織にて、製造業向けカーボンニュートラルのビジネス検討に従事。
NEC GX事業開発統括部 プロフェッショナル 廣光 徹
NEC入社後、無線通信機の生産技術を中心としたものづくりに関する技術業務に従事。
2013年にNECの生産子会社に出向し、生産技術と生産管理を担当する執行役員を経て、2017年からグループ会社含め全社の環境経営責任者として環境推進部長を務め、現在、全社横断での環境関連ビジネス推進に従事。
1.なぜ製品CFP(カーボンフットプリント)の重要性が高まっているのか?
岡田 日本では、CO2排出量の約3割は製造業を中心とした産業領域から排出されていると言われており、日本の製造業は社会的責任からカーボンニュートラルを強く推進する必要があります。
製造業は製品ごとに原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体のCO2排出量を定量的に算出・分析して、排出量が多いところや減らしやすいところを見つけ、削減につなげることが重要です。
そのために必要なのが、ライフサイクル全体における温室効果ガスの排出量を製品単位のCO2に換算して表示する「製品CFP」と言えます。
特にヨーロッパでは、EU電池規制やエコデザイン規則(ESPR)など様々な製品分野で製品CFPの申告が義務化されてきています。申告できないと、EU内での製品取引において高税率や罰金、取引停止といったペナルティを受ける可能性があり、企業にとっては大きなインパクトがあるでしょう。
しかも製品CFPはライフサイクル全体に関わるので、完成品だけでなく、その部品や材料・原料を作っているサプライチェーンの上流側にいる企業、下流側の流通業や物流業、使用後の廃棄に関わるすべての企業も関係します。これも製品CFPの重要性が高まっている背景と言えます。
加えて、日本の経済産業省が運営する「Ouranos Ecosystem」やヨーロッパの「GAIA-X」など、データ流通基盤により、企業間で扱われる様々な情報の標準化がどんどん進んでいます。そういった中でCO2排出量の情報は、サプライチェーンの企業間でやり取りされる代表的な情報の一つであり、こういった背景も製品CFPの進展に大きな影響を及ぼしています。
2.NECが製品CFPに取り組む理由とは?
――NECが製品CFPに取り組む理由を教えてください。
岡田 大きく二つあります。一つは、NECも「製造業」であること、もう一つは様々な社会課題を解決するための「ソリューション」を提供していることです。
前者の「製造業」の立場として、NECはパソコンやサーバー等のIT機器、ルーター等の通信機器、さらに「はやぶさ」などの人工衛星も製造しています。
前述のとおり、日本のCO2排出量の3割を占める製造業の一員としての社会的責任から、設計から調達、製造など様々な局面で削減活動を推進しています。
皆様の企業の中には「2050年にカーボンニュートラルを目指す」ことを掲げている企業も多いと思いますが、NECでは「10年前倒しの2040年にカーボンニュートラルを実現する」ことを目標に掲げています。
一方でNECは、「ソリューション」を提供している立場でもあります。前記の活動の中で得たノウハウを織り込んだ管理システムを「ソリューション」として外販しています。
製造業の環境領域では、本社・事業所といったサイト単位でCO2排出量の管理ができる「GreenGlobeX」や、化学物質含有量管理ソリューションの「ProChemist/AS」、PLMの「Obbligato」がありますが、これらは、社内で得た知見などをもとに製品化したものであります。
こうしたソリューションを提供する立場として、「お客様の環境対応価値に貢献」する責任もあると考えています。
3.NECが考える製品CFPへのアプローチ方法
――NECが考える製品CFPへのアプローチ方法について教えてください。
岡田 製品CFPの算定方法は、主に二通りあります。
一つは、サイト単位の情報を使って計算する方法です。例えば、ある工場サイトで何種類かの製品を作っているとします。その中で製品AのCFPを求めたい場合、サイト合計のCO2排出量×(Aの出荷金額合計/サイトで作られた全製品の出荷金額合計)の方法で計算する方法です。掛け算の後ろ側は金額でなく重量で按分してもよく、これを「経済按分」と呼んでいます。
この方法のメリットは、情報を集めやすく、算定が簡単なところになります。但し、「価格の高い製品や、重量の重い製品の方がCO2排出量が多い」ということになります。論理的には説明つきますが、実際のところ重量が重くても少ないエネルギーで作れる製品もありますから、正確に実態を表わしているとは言えません。
もう一つの方法は、「この部品はCO2排出量がこれだけ」「この工程はこれだけの電力で2時間動かすのでCO2排出量はこれだけ」といった、個々の部品や工程ごとの算出数字を積み上げて算定する方法です。
この方法のメリットは、CO2排出量の多いところが正確に見えるところにあります。改善サイクルに乗せるためには、この方法が最善と言えます。但し経済按分で算定する方法に比べ、現場の細かな情報が必要になるため、PLMやMES、ERPなどのシステムとの情報連携・整備が必要になります。
自動車業界では、EU電池規制などを背景にサプライヤに対して製品CFPの開示要求だけでなく、「どの部品、プロセスがどの位多いのか?」や「多いところに対する削減対策」についても報告を義務付ける実態も出てきています。
ESPRなども背景に、対象製品のサプライチェーン全体上にいる全ての製造業に影響してくるのは確実です。したがって将来ほとんどの製造業が、このような考えに従ってサプライチェーンの直下にいる企業に対して、自社製品CFPを改善策付きで出さなければならなくなると考えています。
こういったことから、NECではあえて難しい「積上げ型の製品CFPの見える化」を自社でも推進しており、お客様にも提供していこうと考えています。
4.製品CFP社内実証の目的と内容
――NECで行った製品CFP社内実証の目的と内容について教えてください。
廣光 NECは、約20年前からLCA(ライフサイクルアセスメント)として製品のライフサイクル全体でのCO2排出量の算定を実施しています。
しかしながら、削減に向けたアプローチのためのデータ収集や算出となっているかと言うと、必ずしもそうではありません。カタログに掲載されている消費電力値などを使って算出しており、実際との差異が存在しています
NECが目指すカーボンニュートラルを実現するためには、実データの収集および製品ごとの工程や部品の積み上げによる算出が必要となります。それらは一気に実現できるわけではありませんので、どこまでできるか、まずは社内実証により検証を行いました。
社内実証における主な目的としては、二つあります。
一つは製造業として自社製品のCFPを算出しお客様へ開示するため、まずは実証して今後の適用拡大を目指そうというものです。
もう一つは、ICT企業としてお客様の課題解決を支援するためのソリューション開発に繋げるという目的になります。
現在、NECでは「クライアントゼロ活動」を推進しています。NEC自身が“0番目のクライアント”として自ら実践し、リアルな課題を把握した上でソリューション開発に反映し、お客様や社会に貢献していくという考え方です。
しかしながら、製品CFPに関しては、まだ確立した算定方法が存在しておらず、国内外でも算出方法、特に外部の一次データ利用に向けたルール作りの協議がされています。国際標準としてはISO14064/14067などがあるものの、その解釈の幅は広く、一方で欧州ではWBCSD傘下のPACTがPathfinder frameworkという方法論を作成し推進していたり、日本では2023年3月に経産省・環境省がCFP算出ガイドラインを発行したりという黎明期にあります。
その中にあってNECは、電機電子業界団体であるJEITAが事務局となり他業種企業を含め約160社が参加する「Green×Digitalコンソーシアム」の中で、「見える化WG」の主査を2021年から務め、ルールメイキングに携わっています。
それらのガイドラインをベースに実際の製品・生産での算出をした上で、課題を抽出しようというのが今回の社内実証の狙いでもあります。
実証を行うにあたり、様々な有識者を集めたプロジェクトを組成しています。実証対象とした製品は、NECプラットフォームズの事業所で生産している製品を選定しました。
製品CFP算出範囲は、B to B製品であったことからCradle to Gate(ゆりかごからゲートまで≒サプライチェーンの最上流から自社出荷まで)として、上流の購入品から自社工場での生産、工場出荷までに関わる製品CFPの算出を行っています。
5.CFP算定実証により浮かび上がった課題
――CFP算定実証により感じた課題について教えてください。
廣光 今回の実証は、まずは実生産で収集するデータをもとに算出を行うべく、既存プロセスにおいてどこまでの算出が可能かという観点で実施しました。そのため、既に存在している情報をもとに、どのレベルまで精緻な情報を収集し、算出できるかという検証を行いました。
CFP算出に必要な情報は、設計情報や生産プロセス情報、生産実績情報や工程内で排出される廃棄物の情報など様々です。それらは従来生産拠点全体で管理していますが、製品個々の情報としての管理を行っているわけではありません。エネルギーの情報も、施設管理システムにより工場単位やフロア単位、エリア単位などで管理していますが、対象製品を生産するにあたっての設備や工程ごとでデータを収集できるかと言えば、必ずしもそうではありません。特に既存工場では、あるエリアでのエネルギー管理は実施していても、生産設備や生産ラインごとに分電盤が繋がっているわけではないのです。
製品の設計情報も、電気電子部品はPLMによりBOM情報として品種などの情報を保有しています。しかしながら、機構部品に関しては、素材情報や重量情報など設計者が使用するCADには存在していても、必ずしもPLMとして管理されているわけではない実態がわかりました。
また、購入品に関しては、今回の実証で新たにサプライヤ様への調査を実施したわけではなく、従来Scope3カテゴリ1の削減のためにサプライヤから収集していた実績データを活用しました。それは各サプライヤの固有排出原単位でもあるので、いわゆる一次データではあるのですが、欧州PACTではあくまでも対象製品固有の原単位でなければならないと言われています。今後はサプライヤ様との協働が従来以上に必要になることなど、活動の重点施策とすべきテーマであると再認識しました。
今回は既存データをもとにしたことで、どこにどのようなデータが存在しているかを探り、それをどのように整形し、算出に必要なデータとするかというところに、かなりの時間と工数が掛かったという課題もあります。
6.課題解決へのアプローチとソリューション化
――それらの課題について、どのような解決に向けたアプローチが考えられますか?
廣光 製品CFP算出に必要な情報は多岐にわたります。今後対象品種を拡大していくためには、関係部門を含めた体制作りが重要です。今回はNEC本体のメンバーを中心に実施しましたが、今後は開発事業部門や生産工場側でのメンバー含めた体制を構築し、必要なデータを効率よく収集していく必要があります。
また、プロセスフローに沿った各種データの保有状況を整理しつつ、算出のためのデータ整形や変換を効率よく実施するための仕組みも必要となります。
データの精緻化としては、実データへの比率を上げなければなりません。生産工程では、対象となる設備や工程での実データ、工程間の輸送や一時保管時のエネルギー消費などのデータ収集も行い、どの工程のCO2排出量が多いかのホットスポット分析による削減へのアプローチへと繋げていきたいと考えています。
購入品に関しては、サプライヤ様からの一次データの収集がポイントとなります。現在、Scope3カテゴリ1の削減に向け、各サプライヤ様へのCO2排出削減依頼とともにハンズオン支援の活動をしていますが、今後は組織レベルの算出から製品レベルへの高度化が必要になります。単なるお願いではなく、各社の状況を把握した上での支援を強化していきたいと考えています。
――今後、NECでは製品CFPについてどのようなサービス提供を検討しているのでしょうか。
岡田 NECは1990年代の後半に経営危機を乗り越えた経験があります。そのキーポイントは「生産革新・現場革新」でした。その考え方が現場に染みついており、2015年からは「ものづくり共創プログラム」を立ち上げ、その自己革新経験をお客様にも提供してきた強みがあります。
カーボンニュートラルというと、電力契約を非化石証書付きのものに切り替えたり、建物の屋上に太陽電池パネルを設置してクリーンエネルギーの活用を進めたりしているのが今日のトレンドでしょう。
一方、ものづくりにおける製品CFPでのカーボンニュートラルは、前述の生産・現場革新と非常に親和性が高いと捉えています。例えば、現場革新活動の中で生産ラインを短くする「間締め」ができると、AGV(無人搬送車)等の移動距離も短くなり、その分の電気の使用量が減り、CO2排出量を減らすことができます。したがって、カーボンニュートラルの延長上には、NECが大事にしてきた、強みとしての生産・現場革新活動があると思っています。
カーボンニュートラルを背景にした規制の話を先述しましたが、これを「日本のものづくり」や「日本のサプライチェーン」を強くする機会と捉え、ビジネスを展開していきたいと考えています。
また、製品CFPはCO2排出量の見える化の一つに過ぎず、見える化だけでは価値を生まないと考えます。「削減実行」ができて、初めて「社会課題に応えられる」ということも大事にしていきたいと思います。NECには様々なグループ企業があり、「見える化」だけでなく「削減実行」のソリューションをご提供できることも強みと考えています。
7.今後の展望
――今後の展望について教えてください。
岡田 私たちも、自身の生産革新活動や、その経験をビジネスとしてお客様に提供し続けていますが、カーボンニュートラルの活動においてはこれまでと大きく違うところがあります。それは、一つの企業では完結しない、サプライチェーン全体の取り組みであることです。つまり、サプライヤ様の協力があってこその活動になります。
廣光 これまでの自己完結の革新経験の中で上手くいったものを「答え」としてソリューションやコンサルティングと合わせて売っていく活動とは全く異なります。今回の実証活動も、上手くいったものを「答え」として皆様にご提供できるものに至ってはおらず、まだまだ問題・課題が山積みの状態です。ただ、「ここはうまくいっていない、更にこうせねば」とか「サプライヤ様など他の企業様に、こういった協力をお願いしなくてはならない」といったことがわかったというのは、製造業の皆様に対して、弊社が見つけ出した一つの「答え」だと捉えています。
日本のサプライチェーンを強くするために、いくつものステップを踏んでいく必要がありますが、その先の「答え」を一緒に考え、一緒に悩ませて頂きたいと思っています。
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NEC事例から考えるカーボンニュートラル達成への道筋
ホワイトペーパー(6ページ)
※本資料は2023年9月セミナーの内容を元に制作しています。
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カーボンニュートラルの取り組みのご紹介
リーフレット(2ページ)
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