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VUCAな環境下におけるS&OPの課題と進化の方向性VUCAな環境下におけるS&OPの課題と進化の方向性

VUCAな環境下におけるS&OPの課題と進化の方向性

『S&OP』セミナーレポート第1弾【2023.08.16】

カテゴリ:DX・業務改革推進調達・生産管理SCM/MES/FSM

NEC AI・アナリティクス統括部 山口雄大

サプライチェーン環境の不確実性が増す中で、S&OPに取り組む企業が増加しています。しかし、成果を生むには各企業の戦略、ケイパビリティなどを踏まえたアレンジと高度な分析技術の活用が不可欠。ここでは、こうしたS&OPの課題と進化の方向性、およびNECが目指すAdvanced S&OPをご紹介します。

【目次】

1.混乱するサプライチェーンと変革のチャンス

コロナ禍が落ち着き、企業や生活者の活動も変ってきていると思います。一方、カーボンニュートラルなど環境問題への関心は引き続き高く、サプライチェーンにおける人権問題なども注目されています。さらに紛争や国家間の対立など政治・経済での混乱も続いています。
また、「ChatGPT」に代表される生成AI(※1)など先進的テクノロジーが次々に生まれ、実務に取り入れる動きが起きています。サプライチェーンが混乱する中、テクノロジーを活用した変革に早期に取り組むことが重要になっていると言えます。
こうした環境の不確実性の中、日本でも改めて、S&OPという概念が注目されています。

2.S&OPの標準フレーム

S&OPとは“Sales & Operation Planning(※2)(販売・操業計画)”の略ですが、私は過去、これをより分かりやすくまわりの方々に伝えるために、「S&OPとは中長期の需給情報を統合・解釈し、経営層に意思決定のための示唆を与えていくという概念である」と自分なりに解釈し直しました。情報の収集・統合・分析により示唆を発信することを意味する“インテリジェンス”という言葉を用いて“需給インテリジェンス”と言い換えることで、その本質が伝わればと思っています。

S&OPプロセスでは、需要予測に基づく販売計画と、生産や調達、物流などの制約を踏まえた供給計画とを1~2年の中長期スパンでギャップを可視化し、トップマネジメントと共にプロアクティブにリスクを想定し、部門横断的な意思決定を継続的に行い続けます。

ポイントは“部門横断”。グローバルで複数の事業、ブランドなどを展開していても、サプライチェーンを共有しているということがよくあるからです。したがって、S&OPには事業やブランド、チャネルなどを越えて意思決定できる、トップマネジメントやファイナンス部門が関わる必要があると言えます。

具体的なS&OPのプロセスの一例は、次のとおりです。
①デマンドレビュー:SKU・ファミリー別需要予測と事業・販売計画との比較
②サプライレビュー:需要計画と供給計画の比較、需給リスクの抽出
③pre-S&OP:需給リスクへの対応(一事業など小さなセグメントでの意思決定)
④Executive S&OP:需給リスクへの大きな対応(サプライチェーンが事業などをまたがる場合の意思決定)

このプロセスを通して、需要予測・計画と供給制約のギャップを鑑み、生産ラインの増強や代替サプライヤーとの契約、新製品発売時期やプロモーション実施時期の変更、限られた在庫をどの顧客や地域、(原材料や部品であれば)製品に振り分けるのかという最適配分などを意思決定します。

しかしながら、IBF(Institute of Business Forecasting & Planning)(※3)の調査ではS&OPの成功率はわずか25%。ここで言う成功とは、ROEや在庫回転率の向上といった、主には定量的な成果のことを指しています。その原因として、「組織文化やSKU数が異なる他企業の型を強引に導入しようとする」「社内の複数の計画を統合することが目的化する」「S&OP専門チームを設置せず、サプライチェーン担当者などが片手間で行う」といったことがあると考えています。

社内の計画統合に関連して、「ワンナンバー」に対する勘違いへの指摘も紹介します。S&OPにおいてはチャンスとリスクを冷静に見極める必要があり、現実的な予測と目標の、少なくとも2種類の数字(マルチナンバー)を管理できることが有効です。これを、利害関係者の期待に応えるトップダウンの財務目標をS&OPのワンナンバーにする、などとすると、目標を定期的にSKU別、数量ベースに1個単位で落とし込むことになり、これは大企業ほど時間がかかり、生み出せる価値とのバランスが悪くなります。
S&OP発祥の地、アメリカを中心とした海外では、計画値ではなく、需要予測や計画の前提(外部環境の見通しや未来のマーケティング施策など)に対する認識を統一するのが良い、と言われ始めているのです。

1980年代に考え出されたこのS&OPという概念は、古典的なフレームワークを適用するだけでは、近年のVUCAな環境下では競争力を生み出すことは難しいと言えます。先述の失敗を回避しつつ、すでに一部のSCM領域で実務活用が広がっているAIをはじめ、先進的な技術を使ってS&OPの各種プロセスを進化させることが必要だと考えています。

3.VUCA時代のS&OP

そもそもS&OPは、需要予測や需給調整がしっかりできないとうまくいきません。なぜならば、S&OPとは自社の戦略と整合した需給の“意思決定”のためにあり、それにはできるだけ正確でリアルタイムの情報が必要だからです。需要予測においては、予測ロジックの高度化や精度管理のしくみ設計、需給調整においてはセグメント別の在庫戦略や供給計画の最適化といったことが求められます。これら、需給インテリジェンスを生み出す土台がしっかりしていてこそ、意思決定で使える有益な情報を発信できるのです。
なお、需要予測の高度化においては、図の下段のとおり、6つの要素からのアプローチが整理されていて、これも踏まえた、new windowS&OPのレベルを無料で診断できるサービスもあるので、ぜひ利用してみてください。

学術的知見を使った課題領域の特定zoom拡大する
図の下段の六角形のフレームワークの出所:『需要予測の戦略的活用』(日本評論社,2021)

NECが考えるS&OPの進化のステップとしては、データドリブンによる高精度・最適な計画立案のレベル1、不確実な条件下のシミュレーションというレベル2、意思決定のスピードと質を向上させるレベル3を想定しています。これを先進的な技術で、各社のS&OPプロセスに沿って実現していくのが、Advenced-S&OPソリューションです。その一つとして、新製品・サービスによる需要創造のための意思決定の質とスピードを上げる「新製品需要予測モジュール(※4)」をローンチし、既にPoCが開始されています。

ちなみに、需要予測には在庫計画や生産管理、物流計画などを含む「オペレーションズマネジメント(※5)」に用いるものと、「戦略立案・実現(Development)」に用いるものの2種類があります(※6)。前者は環境変化が少ない数カ月~半年程度先までという短期間を対象とするので時系列予測(Time Series Methods)が有効になりやすく、予測精度が重要になります。後者は1~2年程度の中長期を対象とするので、精度ではなく、業界トレンドや競合のマーケティング、地政学リスク、ビジネス規制など諸要素のシミュレーションに基づく意思決定が重要です。そのため、需要の因果関係を踏まえた因果モデル(Causal Methods)が必要になります。

この戦略立案・実現のためのFoOps(Forecasting Operations)という概念を考えてみました。これには顧客や市場を熟知しているシニアマネジメントが参画することが前提となります。シニアマネジメントの暗黙知も活用し、需要に影響するキードライバーを見極め、そのデータ分析によって予測モデルを構築します。その後、キードライバーを中心に、需要の原因要素の変化を継続的にモニタリングし、必要に応じて予測モデルやそれに基づく意思決定を更新するというフレームワークです。

予測モデルの更新にはMLOps(Machine Learning Operations)(※7)というAI予測の精度を維持する仕組みを用います。AI予測モデルは放っておくと劣化しますので、予測精度のモニタリングを行い、AIの再学習および予測モデルの更新を行うことが必要になります。とは言え、予測モデル更新にはコストや負荷もかかり、更新頻度が多すぎるとROIがマイナスになる懸念もあるので、予測精度とのバランスをうまく取ることが大切です。

こうした「需要予測AI」では、短期的な精度を上げることより、新たな価値を生むことのほうが重要だと考えています。具体的には、次の4種の新しい需要予測として整理しました(※8)。
①エッジ・フォーキャスティング:より細かなセグメントにおける複雑な因果関係を分析
②リバースキャスティング:根拠⇒予測ではなく、ビッグデータから出てきた予測から、その背景にある因果関係を分析
③レンジ・フォーキャスティング:不確実性が高く未来を見通せない要素(例:為替レートなど)について、複数のシナリオを想定し、幅を持った予測を行う
④アジャイル・フォーキャスティング:環境変化を早期に察知して、素早く需要予測をリバイスする

こうした高度な需要予測は、S&OPにおいて“センスメイキング”(腹落ち感)を生み出すという価値があります。「センスメイキング理論(※9)」という、“変化が激しい環境では情報収集・分析に時間をかけ過ぎず、関係者が納得感を持って一旦市場に製品やサービスを投入し、顧客の反応を見てアジャイルに自社の活動を更新することが競争力を生む”、といった考え方が知られています。これをS&OPの文脈で解釈すると、AIなど高度な分析に基づく需要予測を活用し、各種ステークホルダー(マーケティング、営業、SCM、ファイナンス、経営層など)をセンスメイキングさせ、迅速に製品やサービスの市場投入・撤退・コンテンツの見直しといった意思決定ができる組織が強いと言えます。
これからの需要予測は、データで過去を説明する精度を高めることにフォーカスし過ぎるのではなく、未来の需要を創造するための意思決定を支援することによりフォーカスしていくべきだと考えています。

4.事業戦略とS&OP

最後に、“事業戦略とS&OP”について情報共有をします。
サプライチェーンにおける戦略には、低コストを追求する“オペレーショナルエクセレンス”や、製品(またはサービス)の独自の魅力を打ち出す“製品差別化”などが挙げられます。
それらの戦略に合わせて、需要予測やサプライチェーンマネジメントの在り方、さらにはS&OPの意思決定でフォーカスするアジェンダを考える必要があります。環境変化に応じて、各現場で迅速に意思決定を行う場合、それが全社的な戦略と乖離していると、顧客からの不信感を招き、競争力を落としていくことになります。したがって、各部門が自社の戦略およびそれに整合するS&OPとはどういうものかを理解しておく必要があるのです。戦略別の需要予測、供給計画、S&OPの意思決定の具体例(※10)は図のとおり整理されています。

例えば“製品差別化”戦略を採用している企業においては、新しい価値を提供する新製品が極めて重要な役割を果たします。新製品の需要予測ロジックを整備し、根拠の透明性と組織パフォーマンスの再現性を高めると共に、ナレッジマネジメントを継続的に行い、暗黙知を組織知として継承できるようにする必要があります。さらに、新製品のヒットを支えるSCMについて、様々なリスクヘッジの引き出しを増やしていくことも重要です。
これはまさに、NECのAdvanced-S&OPの新製品需要予測モジュールが目指したことです。

S&OPのエコシステム(構成要素)(※11)についても簡単に紹介しておきましょう。
図のとおり、ファイナンス、コマーシャル(マーケティング・営業領域含む)、サプライチェーンのそれぞれで計画やレビューがあり、それらを統合する形でS&OPは成立します。皆さんの会社でS&OPプロセスを設計する時、各要素がどれくらいのレベル感で実行されているのか、どこを連携・強化する必要があるのか、などを考えるのに参考にして頂ければと思います。

最後の図は、NECのS&OPソリューションの全体構成です。
本セミナーでは需要予測の部分をメインにお話しさせて頂きましたが、NECでは図の通りS&OP全体をカバーする体制・ソリューションをご用意しておりますので、お気軽にご相談ください。

NECのS&OPソリューションzoom拡大する
※「(新製品)需要予測AI」はAdvanced-S&OPソリューションの1モジュールであり、他にも「市場追従型需要予測」や「SKU別在庫計画最適化」、「生産・発注計画最適化」などがある

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