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市町村同報系防災行政無線システム
Vol.66 No.1 2013年8月 社会的課題解決に貢献するNECの事業活動特集〜災害情報伝達の多様化に向けて〜東日本大震災以降、災害情報の伝達は従来にもまして多様な情報伝達メディアを活用するという方向にあります。本稿では、自治体からの地域住民及び防災関係者に対しての行政・防災情報伝達において、市町村防災行政無線を軸とした素早くかつ幅広い情報伝達を実現したシステムを紹介します。あわせて、「災害情報伝達の多様化」に関する導入事例及び、災害時の情報伝達を支える通信技術DTN(Delay/Disruption Tolerant Networking)の取り組みも紹介します。
1. まえがき
2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0という国内観測史上最大の地震により、東日本大震災が発生しました。この地震に連動した想定を超える規模の津波発生時には、警報の誤認識や避難行動の遅れなどにより多くの犠牲者が出ました。
日本では地域住民に対する災害時の警報伝達、避難勧告・指示は市町村が行います。そして、その情報伝達の中心的な手段として、市町村防災行政無線(同報系)(以下、防災行政無線)が使用されています。防災行政無線は災害時であっても通信の輻輳(ふくそう)や発信規制が無いことから、今回の震災においても災害情報伝達の手段として有効に活用されました。その一方で、沿岸部では津波により無線設備自体が被害を受けたこともあり、災害時並びに災害後に公衆網を含めてあらゆる状況の住民に情報を完全に伝達することは難しいという、災害時における情報伝達の課題も露呈しました。
この課題に対する対策の1つとして、多様な情報伝達メディアの活用が挙げられます。例えば、テレビ・ラジオを始めとして、一斉メール配信システム*1、エリアメール・緊急速報メール*2、Twitter*3など、現在登場している各種情報伝達の仕組み、サービスでも防災行政無線の放送内容を配信し、住民により早く確実に災害情報を伝えるというものです。
一方、これらの仕組みを活用して複数の手段で情報伝達を行う場合、伝達手段ごとに操作、対応が必要となります。災害時の自治体では、限られた人数で複数の災害対応業務を行う必要があるため、そのシステム操作を含む対応がいっそうの業務負荷となる可能性があります。
- *1一斉メール配信システム:災害情報・防犯情報などを一斉かつ高速に電子メール配信する仕組み
- *2エリアメール・緊急速報メール:各携帯電話事業者のネットワークを介して、携帯基地局エリアに存在する携帯電話に限定して緊急情報が配信されるサービス
- *3Twitter:140文字以内の文章を投稿でき、インターネットで共有できる情報サービス
2. NECが目指すシステムの方向性
このような課題を踏まえ、NECでは防災行政無線の放送と同時に「多様な情報伝達メディア」に情報を一括で配信するためのシステムを実現しました。従来の防災行政無線屋外拡声子局及び戸別受信機に対する「音声」の伝達とあわせて、新たに防災行政無線以外の多様な情報伝達メディアにも情報配信を行うことで、災害情報配信の一元化かつ迅速化を図り、防災行政無線のみでは届かない個所に対する補完が可能となります。
また、通常時から慣れ親しんだテレビや携帯電話などで防災行政無線の放送内容が確認できることで、音声だけでは把握しづらい詳細な情報や、行政が発信する「その地域にとって必要な」情報を得やすくなるというメリットもあります。
この「情報伝達の多様化」と「配信の自動化」の実現に向けた防災行政無線機能の拡充として、弊社では防災コンテンツマネジメントシステム(以下、防災CMS)の開発を行いました。
3. 防災コンテンツマネジメントシステム
多様な情報伝達を行う場合の特性として、連携する外部システムが多岐にわたるということが挙げられます。特にシステムの構築後に接続先が増える場合、職員の業務負荷が大きくなり、システムの運用が非常に複雑になる傾向があります。
また東日本大震災以降、入電情報をいかに早く住民に伝えるか、職員の手作業による業務負荷をいかに軽減して情報を配信することができるかが課題となっています。
弊社ではこの業務負荷の軽減、効率化を図る仕組みとして防災CMSの開発を行いました。
防災CMSは複数の情報配信元、情報配信先を制御し、「どのような情報が登録された場合、どのメディアに対して、どのようなフォーマットで配信する」という設定を、ユーザー側で実施することが可能となります。更に、自動配信の条件設定に関してもユーザーが容易に変更することができ、手動で配信する場合も配信先をチェックし、配信内容を共通項目として記載するだけで、それぞれのメディア用の配信フォーマットに自動変換できます。
今後、情報の配信先が増えた場合にも、柔軟に対応できる基盤を提供することで、多種多様な入出力管理を一元的に管理することができます。
4. 事例1:福島県南相馬市-放送情報を基にした文字情報伝達-
福島県南相馬市の防災行政無線システムでは、防災行政無線で避難勧告・指示などの放送を行うと同時に、市ホームページや防災メールサービス・防災行政無線(移動系)に対しても、その内容を一斉に情報配信することができます(図1)。
放送内容が市ホームページのトップ画面に表示され、かつ防災メール配信がされることにより、放送が聞こえない地域の方でも、文字情報として防災行政無線で放送された情報を得ることができます。また、聞き逃した過去の情報も市ホームページで確認することができます。これらの運用により、住民が防災に関する情報をより確実かつ迅速に把握することを可能としました。
5. 事例2:岐阜県中津川市-文字情報を基にした放送及び各種メディア伝達-
岐阜県中津川市では、防災行政無線システムにあわせて防災情報システム及び防災CMSを導入しました。本システムの特徴としては、防災情報システムで収集・入力した各種情報を、防災行政無線でも放送できるようにするという初の試みを行ったことです。これにより、防災情報システムの情報を、エリアメール、緊急速報メール、市ホームページ、市民安全ネットワークメール、そして防災行政無線に、一斉に情報を配信することができるようになります(図2)。
本システム導入による最大のメリットは、1回の操作で多数のメディアに同時配信ができることはもちろん、文字で入力した情報を自動的に音声に変換して、防災行政無線で放送できることです。これまでは、放送用に防災行政無線の操作卓でマイクへの放送を行った後、各種配信メディアへ順番に操作・配信を行うという手順を踏んでいましたが、システム導入により1回の操作で済むようになります。
6. DTN技術-インフラ損壊を補う情報伝達機能-
東日本大震災では通信インフラの損壊により、避難所での自治体からの情報・住民の要求・安否確認は声や張り紙での通知となってしまい、避難民と自治体間の情報交換・収集がスムーズに行えない状態になっていました。
そのため、災害時にも自治体と住民、住民と住民とを結ぶ強固な通信手段・情報提供の手段が必要になってきます。そこで弊社は、通信インフラが部分的に途絶した状態でも通信装置間でデータ交換を可能とする技術であるDTN(Delay/Disruption Tolerant Networking)を車載システムに応用し、災害に強い高信頼性データ転送システムを実現しようと試みています。これは、DTNを構成する各避難所や災害対策本部に通信装置を搭載した車が巡回してデータ交換することで、通信インフラに依存しない情報の集配信が可能となるシステムです。本技術は、平成23年度より弊社と東北大学が参画している、総務省の「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発(大規模災害においても通信を確保する耐災害ネットワーク管理制御技術の研究開発)」の一環として進めてきた研究成果となります。
本システムでは、DTNで伝搬された情報をWi-Fiアクセスポイントに蓄積して提供します。これにより公衆網被災時も、住民のスマートフォンやタブレットに対して安否や必要物資の情報収集・配信手段を提供でき、避難民の自助/共助活動を支援することができます。また、自治体としても従来の緊急時に行われる紙媒体や人づてなどによる情報伝達に比べて、安否情報や避難民の規模、必要物資の情報の管理が容易となり、きめ細かい住民支援対応が可能となります(図3)。
7. まとめ
本稿では、災害情報の「伝達」の観点で、防災行政無線を中心とした複数の手段により、地域への確実な情報伝達を行うためのシステムを紹介しました。本システムを含め、「災害情報伝達の多様化」「災害の見える化」を実現する各種防災システムの提供を通じて、安全・安心を支える防災情報基盤の整備に貢献していきます。
- *エリアメールは、株式会社NTTドコモの登録商標です。
- *Twitterは、Twitter, Inc.の登録商標または商標です。
- *Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
執筆者プロフィール
消防・防災ソリューション事業部
第三ビジネス推進部
マネージャー
消防・防災ソリューション事業部
第三ビジネス推進部
主任
消防・防災ソリューション事業部
第四システム部
主任