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クラウドデータセンターの統合運用を支えるソリューション製品「NetCracker」

Vol.63 No.2 2010年4月 クラウド特集

企業において経営環境の間断ない変化に対応することが経営課題となっており、その解決策の1つとして、ITシステムの改革が挙げられます。この改革の手段として、ITシステムをサービスとして利用できるクラウドデータセンターの利用が活発になってきています。企業ユーザによるクラウドデータセンターへのニーズはますます増大しており、クラウドデータセンターを提供する通信キャリアには、利用者にタイムリーにサービスを提供する必要があります。本稿では、サービスの早期提供を実現するためのクラウドデータセンターの統合運用管理と、これを支援するソリューション製品「NetCracker」について紹介します。

1. はじめに

厳しくかつめまぐるしい経営環境変化を背景に、企業は徹底したTCO削減、柔軟性のある経営、更なるコンプライアンス(内部統制)の徹底が課題となっています。このような状況下において、企業システムはITコスト削減、柔軟性のあるITシステムを追求した「クラウド」指向のITシステムが求められ、クラウドデータセンター(以下、クラウドDCと略す)の利用が進んできています。

一方、上記のような企業ユーザのニーズに応えるため、通信キャリアにおいては、企業ユーザ向けの通信ネットワーク資産の有効活用、通信ネットワークサービスへの付加価値向上及び、更なる収益向上を目的に、ホスティングサービスやアプリケーションサービスの提供基盤であるクラウドDCサービスを提供しています(図1)。

図1 クラウドDCサービスが注目される背景

クラウドDCサービスの利用者(=企業ユーザ)が増加するにつれ、安心・安全、新サービス早期提供など、クラウドDCへのニーズも同様に増大しています。これらニーズに応えるべく、クラウドDCには高度な統合運用管理が必要となっています。

本稿では、通信キャリアの大規模クラウドDCの設備・サービスの統合運用管理の中でも、設備構成管理とサービス開始・変更時のサービス設定管理ついて紹介します。

2. 通信キャリアのクラウドDCサービスの価値

通信キャリアが提供するクラウドDCサービスの価値は、企業ユーザへの(1)迅速・安価なサービス、(2)利用者による簡単な運用の仕組み、(3)安心・安全の提供が挙げられます(図2)。

図2 クラウドDCサービスの価値

(1) 迅速・安価なサービス

サーバのリソースを低コストで提供するために仮想化技術を取り入れ、利用者に必要なときに必要なリソース(サーバCPU、メモリ、ハードディスク容量など)を提供する必要があります。また、企業ユーザのニーズに応え早期にアプリケーションサービス(SaaS:Software as a Service)を仮想化基盤上に安価で提供します。

(2) 簡単な運用の仕組み

利用者自らがネットワークを通じて、オンラインでサービスの申し込みやサーバリソースの追加・変更(CPU、メモリの割り当て変更、ストレージの容量変更)などを簡単に行える必要があります。

(3) 安心・安全

通信キャリアのクラウドDCでは、セキュアなネットワークサービス、通信キャリアならではのサーバやネットワーク設備の高度な保守・運用サービス、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を意識した堅牢な設備(耐震、防火、電源、空調、ディザスタリカバリ対応など)を提供します。

3. クラウドDCにおける統合運用管理

3.1 通信キャリアのクラウドDCシステム構成

通信キャリアのクラウドDCシステムは、仮想化サーバ群、ルータ、ネットワークスイッチ、及び共用ストレージから構成されます。更に通信キャリアが提供するクラウドDCでは、利用者サイトまでのクラウドDCサービスを提供するネットワーク回線(インターネットやVPNなど)を提供することが大きな特徴として挙げられます(図3)。

図3 通信キャリアのクラウドDCシステム構成図

したがって、クラウドDCシステム全体の運用管理を行い、前述の価値を実現するには、クラウドDC内の機器だけではなく、利用者サイトまでのネットワークについても管理の対象とする必要があります。

3.2 クラウドDC統合運用管理

クラウドDC統合運用管理は大きく「障害・サービス品質管理領域」と「設備構成・サービス設定管理領域」に分けられますが、ここからは運用の要となる(1)設備構成管理、(2)サービス設定管理の必要性について説明します。

(1) 設備構成管理

設備構成管理ではクラウドDCサービスの提供基盤であるネットワーク機器、サーバ、ストレージなどの物理設備、利用者サイトまでのネットワーク回線を提供するネットワーク設備、及び論理ネットワーク回線(MPLSパスなど)の管理が必要となります。
更に、クラウドDCの特徴である仮想化サーバ内仮想マシン(VM:Virtual Machine)の収容情報、LAN上での論理ネットワークトポロジ(VLANなど)の管理が必要となります。
また、どの利用者がどの仮想マシンを利用しているかの管理が設備構成管理には必要です。本情報は、サーバ障害時にそのサーバに収容されている仮想マシンから、どの利用者に影響があるかの把握に必要な情報となります(図4)。

図4 設備構成管理

(2) サービス設定管理

サービス設定管理ではサービス申し込み受付、サービス開通設定が必要となります。
サービス申し込み受付は、利用者からの基本契約やオプション契約に基づき契約情報を入力し、クラウドDC内リソースの割り付けを行います。ネットワークであればネットワークセグメント、VLANタグの割り当てなど、サーバであれば物理サーバへの仮想マシンの割り当て、サーバCPU・メモリの割り当てなど、共有ストレージ(NASサーバ)ではユーザパーティションの割り当てなどが該当します。
サービス開通設定は、クラウドDCサービスを利用する必要なすべての設備に対して、利用者からの申し込み内容に基づいたサービス設定(プロビジョニングという)が必要となります(図5)。

図5 サービス設定管理

弊社ではクラウドDC統合運用管理に必要なソフトウェア製品を多数提供しており、設備構成管理、サービス設定管理機能を有したソリューション製品としてNetCrackerを、仮想化サーバ管理、NASサーバ管理、ネットワーク・サーバ障害管理、サービス品質管理などのソフトウェアとしてはWebSAMシリーズ製品を提供しています(図6)。

図6 クラウドDC統合運用管理製品

4. NetCrackerとクラウドDC統合運用管理

NetCrackerとは通信サービス事業者向けの運用支援システム(OSS:Operation Support System)用ソフトウェアであり、サービス導入支援(フルフィルメント: 顧客からのサービス受け付けから、サービスを提供するまでを管理・運用する)機能を提供しています。

以下に、NetCrackerが持つ各機能を下層から順に説明します(図7)。

図7 NetCracker製品構成

(1) リソース管理

NetCrackerリソース管理では、第3章第2節で説明した「設備構成管理」の機能を具備しています。NetCrackerでは、サーバやネットワーク機器といった物理リソースのほか、VMやVLANといった論理リソースをオブジェクトモデルで定義することができます。これらのリソース情報はSID(Shared Information Data model)に準拠した形式でNetCracker内のデータベースに蓄積され、GUI上で簡単にモデル変更や追加ができます。
また、リソースを外部の運用設備から検出し、差分情報を同期させることができます。

(2) サービス管理

NetCrackerサービス管理では、第3章第2節で説明した「設備構成管理」、及び「サービス設定管理」にまたがる機能を具備しています。NetCrackerでは、通信キャリアが利用者に提供するサービスを容易に定義することができます。
リソース情報と同様、サービス情報もオブジェクトモデルで定義でき、サービスの変更、新規サービスの追加が容易に行えるため、市場へサービスの早期投入が実現できます。
更に、サービス設定管理では、図5で示したサービス開通に必要なサービス設定の、一連のプロセスを自動化するワークフロー機能を具備しています(図8)。

図8 NetCrackerでのワークフローのイメージ

また、利用者-サービス情報-リソース情報の関連付けによって、クラウドDC内設備に障害が発生した際に利用者やサービスにどのような影響があるか分析する機能も具備しています。

(3) 顧客管理

NetCracker顧客管理では、第3章第2節で説明した「サービス設定管理」の機能を具備しています。利用者情報を登録し、利用者からの契約申し込み処理(新規、変更、解除など) に必要な一連の流れを管理し、サービスオーダーに対して一連の処理を行います。また、顧客管理では利用者へのサービス申し込み状況を一元的に把握し、利用料請求のための課金情報を出力することもできます。

NetCrackerでは、統合運用管理システム導入時において、図7に示す管理層内の個々の機能を業務フローに合わせて組み合わせ、最適化されたクラウドDCシステムを構築することができます。

更に、NetCrackerは図6に示した通り、ほかのシステムとの連携を多々考慮しており、レガシーシステムとの統合運用も可能となっています。通信キャリアが所有するほかの運用管理システムとも密接な連携ができ、通信キャリアのビジネスニーズに最適化された統合運用を行うことが可能となっています。

5. おわりに

企業ユーザが期待するクラウドDCサービスを提供するために、通信キャリアのクラウドDCでは、仮想化技術を用いたデータセンター設備に加え、利用者サイトまでのネットワーク回線用設備を含めた統合運用管理が必要となります。特に、利用者からのサービスの申し込み受付~サービス開通において、更には新規サービスの投入において、早期にサービスを利用者に提供することは通信キャリアのビジネス機会損失を防止するほか、利用者へのCS向上にもつながります。

本稿で紹介したNetCrackerは、通信キャリアのこれらビジネスシーンに貢献できる統合運用管理ソリューション製品と考えています。

執筆者プロフィール

伊東 一博
ネットワークソフトウェア事業本部
ネットワークマネジメントシステム事業部
統括マネージャー
西出 俊浩
ネットワークソフトウェア事業本部
ネットワークマネジメントシステム事業部
シニアマネージャー
河上 恵三
ネットワークソフトウェア事業本部
ネットワークマネジメントシステム事業部
プロジェクトマネージャー