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パソリンクの製品紹介とトップシェアを獲得した背景
Vol.61 No.3 2008年7月 ユニファイドコミュニケーションで進化するUNIVERGE特集/医療特集NECの無線通信事業の長い歴史のなかで、90年代後半から無線通信の需要そのものが大きく携帯電話サービスへシフトし、付帯するインフラ製品もコモディティ化が進展して、激しい市場競争が繰り広げられました。そのなかにおいても、パソリンク事業は開発・生産・販売の三位一体の事業遂行を徹底させたことによって飛躍的な成長を遂げ、NECの業績に大きな貢献を果たしています。
1. はじめに
「パソリンク」とは、Point to Pointの超小型マイクロ波通信システムのNEC製品名です(図1)。パソリンクは今日の携帯電話サービス、デジタルデータ固定回線サービスに必要不可欠なバックホール回線を提供する基盤システムであり、適用範囲は広範囲にわたっています。近年、特に携帯電話サービスの普及により、基地局間を結ぶ高品質、大容量のデジタル通信回線の用途として、特に海外からの需要が多く、急速に市場規模が拡大しています。
図2に示すように、2000年時点ではパソリンク型のマイクロ波通信システムは市場シェア8位でしたが、2007年度年間で納入台数のシェアを30.1%とし、ついにマーケットシェア世界一とすることができました(Sky Light Research社調べ)。
1.1 NECの無線伝送技術とパソリンクの歴史
NECの無線伝送技術の歴史は古く、1935年からマイクロ波による多重通信システムの研究開発にいち早く取り組み、1953年には、東北電力殿に時分割型パルス変調(PTM:Pulse Code Time Division Moduration)方式を採用した無人化マイクロ波中継システムとして納入しました。海外向けプロジェクトとしては、1956年にインド向けマイクロ波通信システムの納入を皮切りに、世界各国の海外プロジェクトを成功させました。1963年に世界初の全固体素子によるマイクロ波通信システムの実用化に成功し、1979年にはアメリカのベル系列電話会社にデジタルマイクロ波通信システムを納入しました。
パソリンクは1983年、日本で50GHz帯の周波数利用が簡易電波無線局として制度化された際に、主に企業内のビル間通信システムとしてその産声を上げました。1987年にイギリスBT殿より、海外向けパソリンクを初受注し、90年代には主に欧州、北米を中心にデジタル専用回線および携帯電話のバックホール回線用として納入実績を伸張しました。2000年に入ってからは、特にアジア、中近東、ロシア、中南米、アフリカ地域の携帯電話網の整備に伴い、急速に需要が伸びています。2008年4月末現在、134ヵ国、累計87万台超の納入を達成しています(図3)。
パソリンクは、このように70年以上にわたる、NECの輝かしいマイクロ波通信の歴史に培われた技術の結晶です。
1.2 マイクロ波通信システムの特長
現在のパソリンクのアプリケーションは、携帯電話のバックホール回線用途が大半を占めています(図4)。
マイクロ波通信システムを始めとする無線通信システムの特長としては、山岳地帯、島嶼地域などの地形に左右されず、短期間で安価にシステムが構築でき、しかも災害に対する強さや近年重要視されている対テロ対策を始め、セキュリティ面での有効性が挙げられます。このため、加入者の早期獲得に向け、短期間でセキュアなネットワーク展開を必要とする携帯電話加入者の獲得のためのバックホール回線として最適であることも、急激な市場の伸びに大きく関与しています。
1.3 マーケットシェア世界一の背景
(1) ネットワークの進化へ適応
近年、携帯電話システムのバックホール回線において、2つの大きな変化が起きています。1つはHSDPA(Hi Speed Downlink Access)やEVDO(Evolution Data Only)に代表される新たなデータサービスの導入、およびフラットレート価格(固定価格でのデータ通信量の上限リミットの撤廃)の適用などによる、「データ量の増大化」です。もう1つの変化は、旧来のTDM(Time Division Multiplexing)ネットワークからIPネットワークに向けての「ネットワークのIP化」です。NECは、この2つの大きな潮流をいち早くパソリンクの製品開発に反映させ、2005年には、バックホール回線に対する要求事項の変化に柔軟に対応できるPASOLINKNEOを市場投入しました。PASOLINK NEOは、それまでの比較的小容量のPDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)回線をカバーしているPASOLINK V4、中大容量PDH回線をカバーするPASOLINK Mx 、さらに大容量のSDH(Synchronous Digital Hierarchy)回線をカバーするPASOLINK+、これら3つに分かれていた製品系列を1つに集約しました。
この単一プラットフォーム化により、小容量から大容量までをカバーし、さらに基地局側インタフェースについてもTDMからIPまで、様々なメニューを準備することにより、ネットワークの進化に対して、非常に大きな適応力を与えています(詳細は次項)。これにより、携帯電話オペレータであるお客様のバックホール回線の2つの変化に対する要求を先取りした形で製品を実現化しました。さらに絶えず生産現場を意識し、生産性の向上と原価低減を念頭に置いたコンカレントな製品開発を実行しました。
(2) 生産革新活動とグローバルサプライチェーン
資材調達、生産現場(NECワイヤレスネットワークス)ロジスティクス部門においても、絶え間ない改善活動、生産革新活動、ものづくり力の強化に取り組み、ピーク時、月産で4万台の生産能力を確保し、世界一のマーケットシェアを支える無線事業場を創り上げました。また、部品、素材サプライヤ殿との協力のもと、強力かつ柔軟なサプライチェーンをお客様の手元までシームレスに構築できたことが大きな原動力となっています(図5)。
(3) トータルサポート体制
一方、営業、現地拠点、販社、システムエンジニアリング部門、工事会社においては、お客様との密接なコミュニケーションチャネルを構築し、ネットワーク設計、プランニングサポート、定期的打ち合わせ、技術セミナー等を開催し、厳しい競争下での差別化を図ってきました。また、ネットワークの最適化や設計自体をお客様から発注していただくノンハードビジネスについても積極的に販売促進を行い、お客様のトータルサポート体制を構築し、ハード、ソフト、サービス全面でダントツの品質、ダントツのSCM、ダントツのCSを構築しました。
マーケットシェア世界一という業績の背景には、このような生産現場から販売現場までが一体となったサプライチェーンの構築が大きく貢献しています。
2. パソリンクの強み
パソリンクの強みは、1)業界トップクラスの製品力、2)SCM革新に分類される「強いものづくり」に支えられています。以下、これらの強みについて、個々に説明を行います。
2.1 業界トップクラスの製品力
(1) 豊富なメニュー
現在の主力はPASOLINK NEOシリーズですが、これは共通プラットフォームコンセプトを採用し、小容量~大容量まで様々なアプリケーションに対応した製品展開を継続しています。
パソリンクは屋外ユニット(ODU:Out Door Unit)と屋内ユニット(IDU:In Door Unit)で構成されています。ODUは6~52GHzまで広範囲な無線周波数に対応しているため、シリーズ共通で利用可能な設計となっています。IDUは、次に示すようなメニューを取りそろえることによって、顧客の様々な要求に柔軟に対応しています。
1) NEO STD
PASOLINK NEOシリーズの中核をなす標準装置です。機能・拡張性・コストパフォーマンスのバランスに優れているため、インタフェース部を交換することによって、小容量~大容量、IP対応など様々なアプリケーションに対応できます。
2) NEO/c
NEOの共通プラットフォームコンセプトを生かしながら、中小容量向けに特化した装置で、ハイコストパフォーマンス機として大幅な原価低減を達成しています。
3) NEO STD Nodal
モバイルネットワークの基地局増加・複雑化に伴って、多方向分岐局(Node局)が増加する傾向があります。STD装置を多段接続することによって、増設・配線などの運用コストを大幅に削減可能とした高機能装置です。
4) NEO/a
STD NODAL装置の機能や容量を大幅にアップした1BOXタイプの装置です。STM-4リングネットワーク、大容量クロスコネクト機能などに対応可能であり、STD装置と同一の変復調ユニットを利用することができます。
5) NEO HP(本年度リリース予定)
近年、HSDPAの適用拡大やWiMAXバックホールの増加などによって、ネットワークの大容量化が加速しています。
このため、パソリンクの大容量化・IP化などをターゲットにして、従来比2倍の伝送容量の変復調ユニットやキャリアクラスGbEインタフェースに対応しています。今後も、256QAM超多値変調対応など、さらなる進化を予定しています。
なお、NEOシリーズの無線チャネル帯域幅と変調方式の関係を図6に示します。
(2) 小型・軽量・低消費電力
ODUは、体積3L/質量3kg/消費電力19W(15GHz)と、世界最小・最軽量を誇っています。また、IDUも重量1.8kg、消費電力13W(NEO/c)を自然空冷で実現した、業界トップクラスの性能となっています。
特に、ODUは屋外への初期設置工事が必要ですが、非常に小型で容易に工事可能な構造となっているため、工事費用の削減にも貢献しています(写真)。さらに、システム全体の消費電力も32W(15GHz,NEO/c)と超低消費電力を実現しているため、地球環境に優しくオペレーションコストの削減にも大きく寄与しています(図7)。
(3) 品質・信頼性
パソリンクは、日本の国内工場だけで生産されており、NECが誇る信頼性の高い技術によって、世界最高レベルの品質で生産されています。
その結果、パソリンクのODUは、-33~+50℃という幅広い温度範囲での特性を保証しているため、たとえば砂漠のように気温変化の激しい環境においても使用可能な耐久性、信頼性を確保しています。特にパソリンクの信頼性は傑出しているため、100年に1回故障するかどうか、と言っても過言ではありません。これは、業界平均値の10倍も優れた数値となっています。
(4) 拡張容易性
NEOのIDUは、E1、STM-1、10Base-T/1000-Base-TX、1000Base-SX/TXといった多様なインタフェースに対応しているため、インタフェースカードのみを挿し替えることによって、伝送容量増大、インタフェース変更などの顧客ニーズに対応することができます(図8)。
また、大幅なアップグレードのためにIDUの変更が必要になった場合でも、パソリンクのODUは、シリーズで共通設計されているため、IDUを置き換えるだけで機能拡張が可能で、ODU設置のための再工事が不要です。
2.2 SCM革新
パソリンク事業は、全世界の地域/顧客ごとに異なる個別ニーズに応じ、装置の組合せとしては1,000品種以上のメニューを受注生産で対応しつつ、納入リードタイムの短縮要求にも応じる必要があります。
パソリンクの主力生産拠点であるNECワイヤレスネットワークスでは、競争力ある「ものづくり」をテーマに生産革新活動に取り組んできました。2001年度よりトヨタ生産方式に取り組み、総合生産力の向上を実践しています。
徹底したムダの排除をめざした流れ化/作業標準化、多品種に対応した混流化推進、インライン自動化設備自主開発などの、様々な改善活動を関連部門の全員参加にて推進しています。改善活動は、ものづくりに主眼を置いた現地・現物活動を通じ、設計開発者と製造ラインとの強い連携により、フロントローディングによる設計開発段階からの製造容易性の追求にも反映されています。
さらに、多品種受注生産を支えるための安定資材調達の取り組みとして、部材サプライヤとの緊密連携による変動対応力強化、部品品種数の絞り込み、「かんばん」を主体としたジャストインタイム調達の推進、およびコア部品の内製化を鋭意推進しています。
生産拠点での、「ものづくり力」の改善効果を生かし、競争力を最大化するには、販売/生産部門が一体となったグローバルSCM活動の推進も必要になります。短納期受注案件の増加や生産量の変動に的確に対応するための諸施策に着手し、順次展開しています。受注/生産情報を一元管理するための情報システム(WiNDS)を改良し、世界各地域販社から生産拠点までを結んだ情報システムを構築中です。在庫情報に関しては、生産から流通情報までをワールドワイドで可視化することで、部材投入判断へ的確に反映するための仕組み導入を検討しています。また、パソリンク本体のみならず、アンテナ/ケーブルなどのシステム仕入品においても、グローバル適地生産と、短納期での客先同時納入を視野においたSCMの最適化施策を実行中です。他社を凌駕する短納期対応/フレキシビリティ対応を目標とし、グローバル№1のSCM体制強化に向け鋭意活動を推進しています。
3. おわりに
NECのグローバル事業展開で最も実績を上げているワイヤレス事業ですが、常に順風満帆であったわけではなく、厳しい事業環境変化にも直面してきました。パソリンクが登場した25年前には、世界的にこれだけ携帯電話サービスが普及することは、当時は誰も考えが及ばなかったかもしれません。
そのなかで、NECの無線通信事業の強みをベースに、市場との接点を絶やさずワイヤレス事業を継続し、事業環境変化に対応するべく開発・生産・販売が三位一体となった事業運営に磨きをかけてきた結果が、まさに今NECの業績を支える柱の1つとなっているパソリンク事業の姿です。
執筆者プロフィール
海外キャリアソリューション事業本部
グローバルネットワーク事業部
統括マネージャー
モバイルネットワーク事業本部
モバイルワイヤレスネットワーク事業部
技術マネージャー
モバイルネットワ-ク事業本部
モバイルネットワ-ク生産統括本部
計画マネ-ジャ-