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高出力リチウムイオンキャパシタの開発
Vol.63 No.4 2010年12月 オフィスまるごとエコ特集近年、地球環境の悪化に伴い、エネルギーの有効活用を目的として蓄電デバイスの開発が盛んになっています。
瞬間的に大電流を放電、回収することを得意とするキャパシタは、瞬低・瞬停保護装置、太陽電池や風力発電などからのエネルギー回生用途、建設機器、自然エネルギーの平準化、自動車のエネルギー回生用途などへの利用が検討されています。本稿では、新規に開発した高容量、高エネルギーかつ大電流回生・放電可能な高出力リチウムイオンキャパシタについて紹介します。
1. はじめに
近年、地球環境の悪化に伴い、全世界において脱化石燃料や温暖化ガス削減が急務となっています。日本では、図1に示すように、国連気候変動サミットにおいて、温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減することを目標に、さまざまな環境・エネルギー技術の開発が進められており(図2)、なかでもエネルギーの有効活用を目的として、リチウムイオン電池やキャパシタなどの蓄電デバイスの開発が盛んになっています。
大容量であるリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車などクリーン自動車の主電源として精力的に開発されています。一方、瞬間的に大電流を放電・回収することを得意とするキャパシタは、太陽電池や風力発電などからの自然エネルギー回生用途や平準化、建設機器、瞬低・瞬停保護装置など、さまざまな分野への応用が検討されています。そして自動車への展開も進み、アイドリングストップ時の触媒やセンサの加熱バックアップ用として適用されています。更に、アイドリングストップシステムの回生エネルギー貯蔵用途や、クリーン自動車におけるリチウムイオン二次電池の電流平準化などへの適用も積極的に検討されてきており、キャパシタ性能の更なる高容量化かつ高出力化が望まれています。
この状況を満たす蓄電デバイスとして、最近では、リチウムイオン電池と電気二重層キャパシタの両技術を融合した新しいキャパシタとして、リチウムイオンキャパシタが注目され商品化が進んでいます。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池より容量は小さいものの高出力特性を持ち、かつリチウムイオン二次電池より格段に高温耐久性能が優れています。また、電気二重層キャパシタと比べ高容量、高エネルギーかつ耐久性の優れた蓄電デバイスとして、従来の蓄電デバイスでは検討できなかった用途において適用できる可能性を有しています。
弊社は、水系電気二重層キャパシタを世界に先駆けて商品化した実績を有し、かつ、車載用を含めたラミネートタイプの大型リチウムイオン電池の開発・製品化をした技術を有する総合蓄電デバイスメーカであることから、この強みを生かしてリチウムイオンキャパシタの開発・商品化に着手しました。ここでは、新規に開発した高容量かつ大電流回生・放電可能な高出力リチウムイオンキャパシタについて紹介します。
2. リチウムイオンキャパシタについて
2.1 リチウムイオンキャパシタの原理
今回紹介するリチウムイオンキャパシタは、正極と負極が異なった原理でエネルギーを蓄えるハイブリッドキャパシタの1つに属します。図3に示すように、正極には電気二重層キャパシタの電極として用いられる活性炭を使用し、負極にはリチウムイオン二次電池の負極材料に使用されている黒鉛などの炭素系材料を使用しています。そして、負極はあらかじめリチウムイオンを吸蔵させた構成となっています。リチウムイオンキャパシタは、充電すると負極にはリチウムイオンが吸蔵して正極にはアニオンが物理吸着し、放電すると負極のリチウムイオンは脱離して正極ではアニオンが脱離した後にリチウムイオンが吸着されます。このように、正極は、電気二重層キャパシタと同様に物理吸着のメカニズムを取るのに対し、負極はリチウムイオン電池の負極材と同様にリチウムイオンの吸蔵放出が起こる化学反応を伴う点で、他の蓄電デバイスとはメカニズムが異なります。
2.2 リチウムイオンキャパシタの特徴
リチウムイオンキャパシタの特徴は、図4に示すように、あらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵させることで約4Vと高電圧化が可能であり、電気二重層キャパシタと比べて約1.5倍の電圧を有する点にあります。
また、セルの静電容量(C=Q/V)は、図4のように充放電曲線の傾きで表せますが、電気二重層キャパシタの場合は正負極に同じ活性炭を用いるため、正負極電位の傾きの1/2 になります。これに対して、リチウムイオンキャパシタは、正極の電位挙動は電気二重層キャパシタと同じですが、負極には電位の平坦なリチウムイオン電池と同様に炭素材料を用いるため、セルの静電容量(傾き)は正極の電位と同じとなり、電気二重層キャパシタの2 倍となるため、設計によっては約4倍まで静電容量を高めることが可能です。
更に、電気二重層キャパシタと比べ、高電圧かつ高容量であることから高エネルギー密度及び高パワー密度の特徴を備えた蓄電デバイスと言えます。
3. 高出力リチウムイオンキャパシタの特性
3.1 高出力リチウムイオンキャパシタの初期性能
次に、弊社にて開発した高出力リチウムイオンキャパシタの性能について記します。図5に示した高出力リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池開発にて培ったさまざまな技術を応用することで高出力化を果たしています。セルサイズは、約100cc、重量190g で定格電圧3.8V、カットオフ電圧2.2V、ESR1.3mΩ、DC-IR(直流抵抗)1.8mΩと低抵抗であるのが特徴で、大電流での充放電が可能なパワー重視の設計となっています。また、さまざまな改良によって表に示すように、同サイズにおいて直流抵抗が1.3mΩと更なる低抵抗のセルの開発に成功しました。改良品では、同容量の電気二重層キャパシタに引けを取らないほどの低抵抗化を果たしています。
表 高出力リチウムイオンキャパシタの性能表
図6には、改良品の各放電電流時における放電カーブを示しています。200Aと高電流放電において、10Aと傾きがほとんど変わらず、10Aの放電容量に対して約75%の容量が得られます。
改良品の高出力リチウムイオンキャパシタと電気二重層キャパシタのラゴンプロットを図7に示します。リチウムイオンキャパシタのエネルギー密度は、電気二重層キャパシタと比べて約2.4倍高く、高出力密度においてもリチウムイオンキャパシタのエネルギー密度は低減せず、約10Wh/Lと高エネルギー密度を維持することを確認しました。
3.2 高出力リチウムイオンキャパシタの耐久性能
60℃環境下において、セルを3.8Vに負荷した場合の性能変化を図8に示します。2,000時間経過後において、初期容量と比べ約95%を維持し、直流抵抗は初期とほとんど変わりませんでした。
次に、60℃環境下において、3.8V-2.2V間で100Aサイクル充放電した場合の性能変化を図9に示します。サイクルについても、負荷試験と同様に劣化は少なく、100,000サイクルにおいて容量は約90%維持し、直流抵抗は初期比約1.2倍上昇にとどまりました。また、釘刺し試験、過充電試験、過放電試験、短絡試験、過熱試験などの安全性試験において、セルの破裂及び発火は起こらず、弊社の開発したリチウムイオンキャパシタは安全性を有していることが確認されています。
4. おわりに
以上、紹介しましたように、弊社では、高容量で、かつ耐久性に優れた高出力リチウムイオンキャパシタの開発に成功しました。
今後、高出力リチウムイオンキャパシタは、大容量を有するリチウムイオン電池が不得意とする高出力分野や、電気二重層キャパシタが苦手とする高温高電圧負荷環境下における用途など多岐にわたり活躍することになると考えています。お客様のニーズを的確にとらえ、用途に合致したセル及びモジュールの開発を進めていく予定です。
弊社は、電気二重層キャパシタ、そしてリチウムイオンキャパシタを手がける総合デバイスメーカとして、今後続々と開発されるであろう環境機器に最適な蓄電デバイスを提案し、その性能向上に寄与することにより、持続可能な世界の発展に貢献していきたいと考えています。
参考文献
- 1)羽藤 キャパシタ技術 2005,Vol.12(No.3/4)
- 2)NEC TOKIN Technical Review Vol.36 (2009)
- 3)2009リチウムイオンキャパシタフォーラム 「実用化が始まったリチウムイオンキャパシタ」講演予稿集
- 4)Automotive Technology 2010.3 (p100-102)
- 5)Automotive Technology 2010.1 (p49-51)
- 6)Automotive Technology 2009.11 (p62-67)
- 7)Nikkei Ecology 2010.11(p90-93)
- 8)2008.7 OHM(p16-47)
- 9)
執筆者プロフィール
NECトーキン
キャパシタ事業部
研究開発部
主任
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シニアエキスパート
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