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グリーン社会の実現に向けたNECにおける5G/Beyond 5G基地局のエネルギー効率化技術開発

Vol.75 No.1 2023年6月 オープンネットワーク技術特集 ~オープンかつグリーンな社会を支えるネットワーク技術と先進ソリューション~

NECは、ネットワークと無線通信の技術開発と製品供給において123年の実績を持ち、常に業界をリードしてきました。そして現在、O-RANベースのモバイルアクセスインフラ装置とネットワークのベンダーとして世界的な役目を担う企業の一社です。本稿では、データ量需要の爆発的な拡大に対応しつつも、利用者のQoSを維持しながらエネルギー消費とCO2排出を削減し、携帯電話事業者や社会にその利益を提供するO-RANシステムの省エネルギー技術開発の取り組みを紹介します。また、日本の大都市圏をカバーすることを想定した標準的なシステム構成に提案した技術を適用することで、期待できる年間エネルギー消費の低減や運営コストの削減、そして炭素ガス排出低減などの例を紹介します。

1. はじめに

急速に増大する移動体アクセスのデータ量に対応するため、第5世代(5G)モバイルアクセスネットワークの分野では多数の革新的な技術が開発され、その商業化が進んできました。モバイルアクセス技術は、声や視覚といった人間のさまざまな感覚、そして現在では運動や予測なども遠隔で実現することができます。しかし、この利便性は、膨大なエネルギーの消費が前提となっていることに注意しなければなりません。

最近、移動通信の標準化団体である3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)のRAN(無線アクセスネットワーク)は、5G Advancedの最初となるリリース18のワークパッケージを承認しました。そこでは、ネットワークのエネルギー効率を改善するさまざまな技術の研究と確認が行われようとしており、時間や周波数、空間、電力の領域でのネットワークの動的・準静的な省エネルギー化が含まれています1)。現在、NECは、これらの研究に大きく貢献しています。

従来のTDD(時間分割多重)や符号分割多重、直交周波数分割多重に加え、5GにおいてはMassive MIMO(大規模マルチプルインプット、マルチプルアウトプット)技術が開発導入され、空間多重による多元接続によって更なる大容量化が図られています。NECでは、RIC(RANインテリジェントコントローラ)と連携したビームフォーミング技術により必要とされる場所と時間に無線電波を供給することで、Massive MIMOがエネルギーを節約する能力も備えていることに注目しています。

地球環境を保全し後世に有益な資産として引き渡すために、NECはシステムの性能向上と併せて省エネ技術の研究開発にも取り組んでいます。図1では、本稿で論じているRIC、CN(コアネットワーク)、OSS(運用支援システム)、CU(中央ユニット)、DU(分散ユニット)、RU(無線ユニット)で構成される5Gシステムの標準的なブロック図を示しています。

図1 5Gシステムのブロック図

2. エネルギー効率化技術

2.1 RU(無線ユニット)、RF(無線周波数)ユニット

RU、特にRFパワーアンプ(PA)は、基地局におけるエネルギー消費の大部分を占めます。

今日では、これまでのモバイルアクセスシステムで普及していたSi(シリコン)ベースのMOS FET(LDMOS)の後継として、GaN HEMT(窒化ガリウムトランジスタ)がPA用RFデバイスの主流になってきています。GaN HEMTは、バリガ性能指数(バリガFOM)が大きく高電力効率を発揮する能力がありますが、電荷トラップに起因する不安定要素もあり、特にTDDの過渡動作における信号品質に注意・対策が必要です。NECは、GaN HEMTが無線性能に及ぼす影響とその対策2)3)、及び高効率ドハティ増幅器への適用4)に関する研究活動を行い、学術的な評価も得ています。

ドハティ方式とは、B級アンプを拡張し、平均的な信号用の主増幅器とピーク信号用の補助増幅器の並列構成により、高いピーク電力対平均電力比(PAPR)の変調信号に対応した高効率アンプ方式です。B級アンプの消費電流対出力電力特性は、出力電力の平方根に比例します。これは、より大きなバックオフや無信号の状態でも、PAがまだ余剰な電流を消費していることを意味します。マイクロスリープ技術は、トラフィックの大小に応じて、トラフィックが少ない時のPAが消費する待機電流を削減します。

スリープ管理の詳細については、第2章2節以降で解説します。

2.2 QoSを考慮したスリープモードの制御

RUのスリープモードは、セルのトラフィック負荷が時間的及び空間的に変動する環境でQoSに及ぼす影響を考慮しながら、ユーザーの体感品質を保証できるように動作しなければなりません。NECのソリューションは、ユーザーの体感品質を維持しながら、機器の省電力効果を最大限に引き出します。その際に、RICは各セルのトラフィック負荷の変動とQoSを踏まえ、3種類のスリープモードの中からセルごとに最適なものを動的に適用します。図2に、RUの3種類のスリープモードの機能を示します。

図2 RUのスリープ制御機能

マイクロ(シンボル/スロット)スリープ機能は、送信する制御信号やユーザーデータがないシンボル/スロットの時間区間において、PAをオフ状態に切り替えて静止電流を停止させます。このようなマイクロスリープは、余分なエネルギー消費を抑える有効な手段の1つです。

MIMOスリープ機能は、MIMOやMassive MIMOに対応して多数のRFチャネルを用いるRU内の一部の送信器を停止します。この機能は、停止する送信器の数を調整することにより、QoSの維持に必要なセルのカバレッジや通信容量と、RUのエネルギー消費との間のバランスを最適に保つことができます。

セルスリープ機能は、深夜などの低トラフィックの時間帯に、RU内のPAとデジタル回路を停止します。通常この機能は、カバレッジセルの上にオーバーレイされたキャパシティセルに適用されます。QoSを保つため、この機能はセルスリープを起動する前に、キャパシティセル内のトラフィックを隣接するカバレッジセルへ移します。

2.3 仮想化RANとインテリジェントコントローラ

ネットワーク運用者は、AI技術を導入することにより、省エネ関連のきめ細かい最適化作業を自動的に行うことが可能になります。その際に、RICは、AI技術と無線制御を基地局で統合できるようにする機能を提供します。図3に示すように、RICはNon-RT RICとNear-RT RICを介して、AIを用いた制御機能をRANノードに提供します。例えば、Non-RT RICは、長周期(1秒以上)の制御ループにおいて、CU/DUからO1インタフェース経由で過去のトラフィックデータを収集します。Non-RT RIC上で動作するrAppは、AIを用いて過去データからトラフィック負荷を予測し、最適なスリープモードを決定します。この制御命令はO1インタフェース経由でCU/DUに送信され、続いてRUに転送されます。強化学習により、基地局の無線制御の設定とセル内のKPIの達成状況の関係がモデル化されます。最適化機能は、このモデルを用いて、許容可能なエネルギー消費の上限といったKPI要件を満たす最適な無線制御の設定を自動的に決めることができます。

図3 AIによるRICの省エネ最適化

基地局は、E2インタフェース経由でNear-RT RICと協調しながら、短周期(10ミリ秒~1秒)の制御ループにおいて、最適なスリープモードを適用することができます。これにより、スリープ制御に起因するQoSの劣化から迅速に回復することが可能になります。例えば、Near-RT RIC上で動作するxAppは、QoSに関連するKPIデータをCU/DUから収集します。Non-RT RICからA1インタフェース経由で受信したQoS要求を参照しながら、xAppはQoSの劣化を検出し、必要に応じて他のスリープモードに切り替えて劣化に対処します。RICを用いることで、基地局は、よりエネルギー効率が高いスリープ制御をより長期間にわたって自動的に適用できるようになります。また、AIを備えたNear-RT RICの短周期の制御ループにより、予期しないトラフィック需要や無線品質の一時的な劣化によって生じる深刻なQoS劣化のリスクを最小限に抑えることができます。これらのソリューションを導入することで、ネットワーク運用者は、運用経験から得られるデータに基づいて、rApp/xAppのAIアルゴリズムを改善しながら、基地局のエネルギー効率を継続的に引き上げることが可能になります。

2.4 コアネットワーク

NECは、RANのネットワーク装置だけではなくコアネットワークのネットワーク装置についても、省エネルギー化の取り組みを積極的に推進しています。NECの5GCは、vEPC(virtualized Evolved Packet Core)で仮想化したソフトウェアを更に発展させ、クラウドに最適化されたソフトウェアアーキテクチャを採用しています。オンプレミス環境の仮想化基盤とパブリッククラウドの両環境でシームレスに動作します。ネットワーク装置を仮想化することにより、ハードウェアとソフトウェアを分離することでハードウェアリソースを効率的に利用でき、更には最適なハードウェアを選択することで処理性能の向上と低消費電力化が期待できます。

2.5 システムレベルの最適化

NECは、通信ネットワーク全体の最適化に向けた研究開発を継続して推進しています。

NECは、ネットワーク運用の自動化・最適化機能を持つEnd-to-End、各RAN/TN(Transport Network)/CNドメインのオーケストレータを提供しています。

これにより、運用者の人件費と消費電力の最適化をすることができます。

仮想化ネットワークのシステムにおいては、最新のCPUアーキテクチャやさまざまなベンダーのCPUデバイス上で電力性能比を評価しながら、ソフトウェア製品の開発を推進しています。特にUPF、CU-UP、DUのようなU-Plane系のネットワーク装置については、高性能と低消費電力化を両立させるため、NECはハードウェアデバイス(FPGA、スマートNICなどのハードウェアアクセラレータを含む)をはじめ、COTSサーバ、仮想化プラットフォーム、ハイパースケーラークラウドサービスなどの分野の主要ベンダーと共同し5)6)、エコシステム全体として製品化を促進しています。

3. 運用上の利点

第2章で述べたRUスリープ技術とサーバレベルの電力最適化を用い、仮にEIRP 70dBm、セル半径1kmのSub6GHz 64T64R Massive MIMO RUを36,000台使用して110,000km2の面積をエリア化した場合、6.8MWのエネルギーを削減できるという計算になります。この面積は、日本の居住地域部の広さに相当します。この計算において想定したトラフィック条件とスリープの深度・時間をに示します。これらは実際のトラフィックデータをもとにした概算の数値です。

表 想定したトラフィック、スリープ深度、時間

更に、電力量料金を0.2$/kWhと仮定すると、年間の運用コスト削減量は約1,200万$になります。

また、標準的なCO2排出係数である0.000453tCO2/kWh7)を使用すると、前述したシナリオによる年間のCO2排出削減量は27,000tとなります。

4. まとめ

NECは、地球環境の緑を保全し次世代に継承できるように、省エネ技術の研究開発を続けています。

高周波8)と新しい分散MIMO技術9)10)を使ってネットワーク容量を拡大させるためのRF技術開発も行っており、更に5GシステムでEnd-to-Endなインテリジェント制御技術の探求も行っています。特にAIサービスの利用において、NECが研究中のオンライン強化学習技術は、設定ポリシーを5Gシステムに適用し、電力消費とサービス性能のバランスの最適化を自動的に実行できる技術として期待されています11)12)

参考文献

執筆者プロフィール

伊達 克紀
テレコムキャリアソフトウェア開発統括部
渡辺 吉則
モバイルRAN統括部
プロフェッショナル
馬場 翔平
BSS/OSS統括部
主任
池田 仁
BSS/OSS統括部
主任
角田 正人
モバイルコア統括部
ディレクター
芦田 順也
ワイヤレスアクセス開発統括部
ディレクター
ウン チャンホク
海外モバイルソリューション統括部
上席プロフェッショナル
桶谷 賢吾
海外モバイルソリューション統括部
プロフェッショナル
川口 研次
テレコムキャリアソフトウェア開発統括部
ディレクター
濱辺 孝二郎
テレコムキャリアソフトウェア開発統括部
シニアプロフェッショナル
金子 友哉
ワイヤレスアクセス開発統括部
シニアプロフェッショナル

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