Japan
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光通信システム
地球環境監視や災害復旧に貢献する光通信システム
地球観測衛星は、宇宙から地震、津波、浸水、土砂崩落、林野火災などの災害監視、森林破壊、異常気象、地殻変動、海洋汚染などの環境監視が可能で、災害からの復旧・被災低減や社会的課題の認識・解決に資するデータの提供に貢献しています。地球観測衛星に搭載されるセンサーの分解能向上や観測幅拡大といった高性能化により観測データは増加しますが、取得した大量の観測データをいかに迅速に地上局に送信するかという課題があります。
宇宙における主な通信手段は、マイクロ波と呼ばれる電波を使った無線通信ですが、近年注目されているは、高速大容量通信を可能とするレーザ光による通信です。地上の基幹ネットワークが通信の高速化・大容量化ニーズに対応するため、メタルから光ファイバーに変わっていったように光通信が普及すれば、地球観測衛星からのデータを従来以上に大量に取得(通信)できるようになり、様々な課題に対してより迅速・適切な対応が可能になると考えられています。
宇宙におけるNECの光通信への取り組みは、1990年代のJAXA(宇宙航空研究開発機構) 技術試験衛星VI型「きく6号」(ETS-VI)で世界に先駆けて行われた光通信実験にまでさかのぼります。その後、2005年8月に打ち上げられた技術試験衛星「きらり(OICETS)」では、世界初となるレーザ光を用いた衛星間光通信実験や低軌道からの光地上局との光通信実験成功に貢献し、知見や技術を蓄積しています。
中継衛星による地上局との通信時間の拡大
地球観測衛星のデータを地上局に送信する際に課題となるのが、地上局へのデータ送信可能な時間が非常に限られることです。
地球観測衛星は北極・南極付近を通過する1周約90分の極軌道を通ります。地球観測衛星が1つの地上局と直接通信できる時間は地球1周あたりで10分程度しかありません。この時間的な制約を解消するために効果的なのは中継衛星を設置し、そこを経由して地上にデータを送るという方法です。中継衛星は静止軌道にあり、常に地上局に向いているので、地球観測衛星との通信可能時間が4倍となり、観測データの円滑な送信も行いやすくなります。
高速大容量の光通信をより効率的に行うためにJAXAで開発しているのが、高度36,000kmの静止軌道上のデータ中継衛星と高度1,000km程度の低軌道にある地球観測衛星の間でレーザ光を用いて通信を行う光衛星間通信システム「LUCAS」です。NECは、本システム向けに衛星用光通信装置を開発しました。
光通信システムを支える高度な技術
宇宙での光通信では、約40,000kmという距離に到達する強力なレーザ光が必要です。太平洋を横断して日米間を繋ぐ海底ケーブルは、全長約9,000kmありますが、光信号は距離に応じて減衰していくので、数十km毎に中継器を設置して光信号を増幅しながら通信を行っています。宇宙では、地球上に比べ減衰幅は小さいものの、約40,000kmの衛星間をダイレクトに送受信するためには、海底ケーブル中継器に搭載される増幅器に比べ、10倍以上の高出力が必要です。
高出力の増幅器であれば、出力増に応じて発熱量も増加します。宇宙空間は真空なので、空気を媒介にして熱を逃がすことができません。排熱を上手にコントロールしないと故障の原因にもなります。光増幅器に限らず、人工衛星においては、排熱・温度管理がとても重要なのです。
更に人工衛星は、高軌道の静止衛星が約4km/秒、低軌道衛星が約8km/秒という高速で移動しています。これらを捕捉・追尾する技術やレーザ光を40,000km先に向け正確に照射するコントロール技術も必要です。
光通信装置 (光ターミナル) 地球観測衛星用(左)、静止衛星用(右) ©JAXA
NECは1899年の創業以来培ってきた情報通信技術と半世紀にわたる衛星システムおよび衛星搭載ミッション機器の開発に豊富な実績を有しています。太平洋や大西洋等をはさむ地域間を海底ケーブルでつなぐ光通信技術を宇宙技術に融合させたことが新製品開発に繋がりました。開発は、熱との闘いであり、開発初期は、熱でファイバーが溶けるといった困難に直面したこともありましたが、基礎実験とシミュレーションを繰り返し、放熱対策を試行錯誤し、衛星実装可能となる放熱管理を実現しました。今回、1.5μm帯レーザ光の増幅に関する高い技術を有するイギリスのG&H社の協力を得られたことも開発成功の大きな要因です。
また、高速で移動する衛星を捕捉するには、測位情報などで大まかな位置を推測し、半径20km程度をスキャンし、相手衛星を探っていきます。レーザ光は拡散しくにい特徴はありますが距離に応じて光の拡散(広がり)は大きくなり、40,000kmに到達するころには200mに広がっています。この約200mのレーザ光をコントロールするため、微調整用の鏡を高速に動かし、相手衛星を追尾、接続を維持するとともに衛星本体の微細な振動にも対応させています。
近年、複数の小型衛星による宇宙利活用を行う衛星コンステレーションが注目されていますが、電波干渉対策から光通信へのニーズが高まっていくと予想されます。NECは小型化・低コスト化に向けた取り組みを進め、宇宙における光通信システムの普及に貢献していきます。