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OSS貢献活動OSSライセンスを正しく理解するための本 (姉崎章博(著), C&R研究所(刊) 2021)
2021年秋、「OSSライセンスを正しく理解するための本」を発刊しました。
目次 |
CHAPTER 01 OSSの基礎 |
CHAPTER 02 OSSライセンスの概要 |
CHAPTER 03 OSSライセンスの都市伝説 |
CHAPTER 04 OSSを使ったビジネスで気をつけること |
CHAPTER 05 トラブル回避のための基本的な施策案 |
CHAPTER 06 コンサル事例 |
CHAPTER 07 著作権法とNEC創立の関係 |
2019年春から一章ずつWeb公開していましたが、いくつか、うれしい感想をいただきましたので、「オープンソースの教科書」で縁のありましたシーアンドアール研究所から発刊していただきました。
この本でお伝えしたかった事
「おわりに」(アマゾンで試し読みできます)で記述していますが、本書でお伝えしたかった事は、「OSSは単に無料で入手できるソフトウェアというわけではなく、誰かの著作物であるという認識を持つ必要があります」。そして、「自らの製品販売などの行為が誰の権利を行使することになるのかを自覚し、その権利を侵害することにならないようにOSSライセンス条件を満たすように考えましょう」ということです。
なぜ、このようなことを伝えたかったか
1998年にオープンソースソフトウェアという言葉が生み出される前、フリーソフトウェア(現在は、自由ソフトウェア)と呼ばれていたころから、OSSは多くの誤解とともに語られてきました。「CHAPTER 03 OSSライセンスの都市伝説」でいくつかご紹介していますが、「ソフトウェアライセンスの一種」とか「GPLは契約」とかいう誤解です。このような誤解が、インターネット上や雑誌などの記事でまことしやかに語られ定着してしまって都市伝説のようになっていました。
OSSライセンスの都市伝説 |
13 ソフトウェアライセンスの一種という都市伝説 |
◦ソフトウェアライセンスのイメージ |
◦ソフトウェアライセンスとの違い |
14 GPLが契約という都市伝説 |
◦契約とは |
◦著作権と所有権の類似性 |
◦窃盗罪より重い刑事罰 |
◦GPLを契約と捉え著作権侵害を犯している例 |
15 「GPLは契約ではないと一切述べていない」という事実誤認 |
16 GPL Enforcementを命題とする誤解 |
◦弁護士が「GPLは契約である」という理由 |
◦GPL Enforcementの命題の出どころ |
◦GPL Enforcement証明の弊害 |
◦裁判ではなく法遵守を求める選択肢 |
◦結局のところは |
17 何の制約もない自由という誤解 |
◦自由とは |
◦フリーソフトウェアの理念といわれるものについて |
◦人類の共有財産 |
◦コピーレフトとは |
18 IPAの報告書がバイブルという誤解 |
19 GPLは契約という誤解から生まれた誤解 |
◦「GPLを1行でも流用するとGPLにしなければならない」という誤解 |
◦「BSDは商用ライセンスにすることができる(GPLはできない) |
◦「GPLの訴訟リスク」という誤解 |
◦「GPLは厳密なルールが定められている」という誤解 |
◦「GPLは難しい」という誤解 |
また、当時、「GPLは難しい」という話もよく聞きました。このような誤解にもとづいた解説を聞いてもまともに理解できるわけがありません。そのため、著作権にもとづいた解釈をすれば、OSSライセンスを正しく理解できることをお伝えしたかったのです。
技術者と著作権法
技術者の方には、著作権法は縁遠いものと考えがちです。プログラムに限らず、WebやSNSで、文章以外にイラスト、音楽や動画など、何か作品を公開することは日常茶飯事であり、著作権を気にしないで生活できる技術者も少ないでしょう。
実は、著作権の保護期間に関して、いまだに「戦時加算」を考慮して、著作権法で定める50年、現在は70年を超えて保護期間を考えねばなりません。戦時加算は、サンフランシスコ平和条約で規定されています。つまり、第二次世界大戦の平和条約を結ぶための条件に著作権が取り上げられたわけです。
「CHAPTER 07 著作権法とNEC創立の関係」で述べていますが、日本で著作権法が作成されたきっかけも国際条約です。不平等条約として江戸時代から解消が求められた日米修好通商条約の領事裁判権を廃止する日米通商航海条約の施行の条件に、著作権のベルヌ条約に、特許権のパリ条約と共に加盟することが挙げられていたのです。1894年に締結し、1899年に加盟して条約も施行されたわけです。
のちに、1899年に日本電気株式会社を創立する岩垂邦彦は、1894年、技師長として勤務していた会社で輸入していた発電機を自社開発する際、特許を考慮しないという会社の方針に反対して退社しました。当時は、条約施行前ですから、外国人の特許は日本で保護されていませんでした。ですから、会社の方針通りでも法律違反にはならなかったのでしょう。しかし、輸入元の会社への信義に欠くとして退社したのです。技術者だからこそ、表面的な遵法よりも相手の権利を尊重することに重きを置いていたのかもしれません。岩垂のように特許権者・著作権者の権利を尊重する姿勢が、著作権に基づくOSSライセンスを正しく理解し、OSSを上手に活用する方法ではないでしょうか。
そういうことをお伝えしようとしている書籍です。
著者
姉崎 章博 (Akihiro ANEZAKI)
日本電気 (NEC Corporation)
NECで元通信管理屋。日本Linux協会では、Linux商標やOSSライセンスの啓発に取り組む。日本OSS推進フォーラムやIPAで活動後、2008年からOSSライセンスのコンサルティングを始め、CRIC「第9回著作権・著作隣接権論文」に佳作入賞。著書に『オープンソースの教科書』(共著、シーアンドアール研究所刊)