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自治体が取り組むマイナンバーカードの普及策

デジタル庁が各省庁や自治体と連携して取り組んでいるマイナンバーカード普及と利用拡大に関して、「国の政策紹介」、「マイナンバーカードが必要となる社会的背景」、「自治体の取組み紹介」の3回に分けて、ご紹介していきます。

第1回 徹底解説! マイナンバーカード、その普及を進める政府施策のポイント

第2回 なぜ、今、マイナンバーカード??

第3回 自治体が取り組むマイナンバーカードの普及策

第1回、第2回でご紹介しましたように、将来のサイバー空間での行政サービスを当たり前にするための本人確認手段として、各自治体はマイナンバーカードの普及を促進しています。

中には、12月末時点の全国交付率57.1%に対して、80%を超える自治体もあります。一体、どんな取組みを実行してきたのでしょうか。

1 マイナンバーカード交付率上位の自治体の取組みとは

マイナンバーカードの交付率上位の自治体を対象に、公式サイト等から各自治体の普及率向上のための事業・施策について調査してみました。

最も多い取組みの1つは、政府の行ったマイナポイント事業と同様に、マイナンバーカード申請に対する地域振興券やポイント等の特典配布でした。また、ショッピングモール等の住民が集まる場所などへの出張申請窓口の設置、高齢者への職員の申請支援など物理的・人的支援の取組みも多くみられます。

調査した取組み内容を整理すると、おおよそ5種類ほどのカテゴリで施策が実行されていることがわかりました。

申請に伴う特典だけでなく、コンビニ交付への誘導や施設利用料の割引、図書館カードとの併用など、マイナンバーカードを繰り返し使う、まさしく「市民カード」として利用するような取組みも始まっています。

これらの取組みを俯瞰すると、普及だけを目的とせず行政サービスのデジタル化の手段としてマイナンバーカード活用を推進するためには、「普及促進」と「利活用拡大」の2つの軸での取組みが重要だということがわかります。

【普及促進】マイナンバーカードを申請する動機付けとなるインセンティブ施策
ポイント等特典付与、広報などの訴求、申請場所(機会)の提供

【利活用拡大】マイナンバーカードを繰り返し利用する動機付けとなるインセンティブ施策
利用者特典・割引、既存カードとの併用・オンライン申請による利便性の向上

こういった取組みを実行に移し、かつ成功につなげていくために、各自治体はどのような工夫をしてきたのでしょうか。また、どんな課題を持っているのでしょうか。
今回、マイナンバーカードの普及促進・利活用拡大を担当されている職員の方々にお話を伺う機会をいただきました。マイナンバーカードの交付率において、中核市第一位の宮崎市様、政令市第一位の神戸市様の取組みをご紹介します。

2. 宮崎市様の取組み マイナンバーカード交付率72.0%(令和4年12月末時点)

宮崎市様からは、特に普及促進に向けた施策についてお伺いしました。
国からの通知(事務連絡)に呼応した各種機関や企業と連携したマイナンバーカードの出張申請受付等の数多くの施策を積み重ねているなか、特に効果が高い・住民の評判が良いとされている施策をご紹介します。

  • 庁内にマイナンバーカード専用窓口を設置
    • これまで市民課と共用していた窓口を別庁舎に移転・拡充し、マイナンバーカード関連の専用窓口として窓口の動線分離・混雑緩和を図った
    • ITを活用した順番待ちソリューション事業を展開する民間事業者と連携して順番待ち発券機の運用を開始してマイナンバーカード交付、マイナポイント申請等の来庁理由を受付時に申告いただく等、業務効率化を図り住民の滞在時間を短縮
  • 庁舎外(路線バスのターミナルを内包する商業施設)に臨時窓口を設置
    • 住民の利便性向上と窓口混雑緩和のため、人が集まる場所、且つ通勤通学や買い物客、高齢者も利用しやすい場所へ「マイナンバーカード推進センター」(*1)を設置
    • 平日の日中に市役所窓口になかなか来ることができない方のため、受付時間を庁内窓口より長い18:30までとして月2回の日曜開庁も実施
  • マイナポイントの申請手続きの理解・認知度向上
    • 高齢者でもわかりやすい操作手順を念頭として、複数のアプリ操作の違い、申請手続きの画面遷移及び紐づけ可能な主なキャッシュレス決済サービスの案内といったポイント取得までに必要なトータルでの説明資料(冊子)を作成し、宮崎市内全戸に配布

「宮崎市で全戸配布を行ったチラシ(抜粋)」

特にマイナポイント申請は高齢者だけでなく若年層も来庁して支援を求めることも多く、職員が窓口で対応しているとのこと。マイナンバーカード交付の窓口も含め非常に手厚い住民サポートについて、ご担当者の思いを伺いました。

「自治体は、国の進める施策と住民をつなぐ役割も担う。住民の皆さんがより良い行政サービスを享受できるよう、市町村としての役割を認識し工夫を重ねている」とのことでした。

3 神戸市様の取組み マイナンバーカード交付率62.9%(令和4年12月末時点)

神戸市様からは特に、利活用拡大の施策についてお伺いしました。
利活用拡大は今も検討中とのことですが、成功事例としてご紹介をいただいたのが「神戸市神鉄シニア利用促進パス(神鉄シーパスワン)」(*2)での社会実験事業です。

  • 神鉄シーパスワンの販売時にマイナンバーカードの提示を原則必須化
    • シニア層を対象とした企画乗車券の販売に際して、本人確認手段と乗車券販売枚数管理を、令和4年度より原則マイナンバーカードのみで実施
    • マイナンバーカード以外の手段として販売引換券発行を申請する場合、販売引換券発行費用として500円が自己負担に

「令和4年度 神鉄シーパスワンについてのお知らせ(ポスター)」(神戸市様ご提供)

マイナンバーカードの提示を原則の方法とする運用に懸念がなかったかをお伺いしましたが、試験実施期間を含めて二年超にわたって広報を行ったうえ、カード活用により事務経費が圧縮でき、ひいては事業継続に繋がることを理解いただくことで、大きな混乱なく運用ができているとのこと。実際、9割の方がマイナンバーカードの提示をいただいているそうです。
今後の利活用拡大の検討についてご担当者へ思いを伺いました。

「マイナンバーカードはあくまで本人確認のツール。マイナンバーカードありき、ではなく、住民にとって何が利益・利便性向上になるのか、そこがポイントと考えている。これからも、この視点をぶらさずに検討を進めたい。」とのことでした。

4 マイナンバーカード利活用に係る新たな気づき

様々な自治体のマイナンバーカードに係る取組みを調査する中で気づいたことがありました。それは、「住民がメリットを実感できるサービスは全国共通である」ということ。先進的な自治体の取組みの横展開事例もあれば、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)等で共通的な基盤を整備して自治体が共同利用する方式もありますが、多くの住民がメリットを実感できるのは、コンビニエンスストアのマルチコピー機で住民票の写し等の証明書交付ができる「コンビニ交付」のような全国共通のサービスではないかと思います。

また、個々の自治体が別々に複数のコンビニに直接接続するシステムを整備した場合と、J-LISで共通的の基盤を整備した場合を比較してみると、下図のように後者が効率的であることがわかります。

このコンビニ交付のように、住民がメリットを実感できる全国共通サービスを増やしてくこと、これが、これからのマイナンバーカード利活用の要諦かも知れません。

5 さいごに

将来、「普及促進」と「利活用拡大」の2つの軸により「当たり前にマイナンバーカードを使う社会」が実現し、行政サービスはリアル空間とサイバー空間が混在する中で提供されることが当たり前になっていくでしょう。この社会を担うのが、政府主導の全国共通のサービス。更に、その上で神戸市様のような住民目線での独自サービスを、自治体がどのように企画していくか。また、宮崎市様の取組みから考えると、画一的なオンラインサービスではカバーできない部分、例えば、対面でのきめ細やかなサポート等「人ならでは」の役割を、自治体職員の皆様が担っていくことになるのではないでしょうか。まさに、政府の政策と住民の間を取り持つ役割を自治体が担うということなります。

マイナンバーカードが普及し、デジタル社会の基盤が実現したその先に。
リアル空間とサイバー空間が混在する社会における国や自治体の在り方とは?
まさしく、デジタル社会における行政サービスのあるべき姿が、そこに見えてくるのかもしれません。