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ChatGPTとセキュリティに関わる課題

NECセキュリティブログIssues related to ChatGPT and its security

NECサイバーセキュリティ戦略統括部セキュリティ技術センターの角丸です。ChatGPT new window[1]の悪用やセキュリティリスク new window[2]などの議論が活発に行われ始めています。本ブログでは、ChatGPTとセキュリティに関わる課題について以下の観点で考えてみたいと思います。

  • セキュリティにかかわる課題(情報漏洩、正確性、脆弱性、可用性)
  • プライバシー・著作権の課題
  • 倫理面での課題(差別)
  • 悪用可能性の課題(サイバー攻撃)

はじめに

みなさんはChatGPTをご存じでしょうか?使ったことがありますか?OpenAIというアメリカの研究所が開発した対話型のAIチャットボットです。

私達が普段使っている言葉、自然言語を利用してあたかも会話しているかのように私達のさまざまな入力に対して回答をしてくれます。

もともと自然言語系のAIとして大規模言語モデルのGPT-3 new window[3]というものがありました。GPT-3は入力された文章にどの様な文章(単語)が続くかというのを考えて回答を返すモデルです。たとえば、「車の燃料は」という入力に対して「ガソリン」という回答を返すイメージです。ただし、GPT-3には不正確な回答や非倫理的な回答を返してしまう事があるという課題がありました。

それらの課題を解決するために、人間からのフィードバックを学習させることでより人間にとって問題の無い回答を返せるようにしたInstructGPT new window[4]というモデルが考えられました。

ChatGPTはこのInstructGPTを対話型に特化させ、コアエンジンをGPT-3.5にしたものです。

セキュリティにかかわる課題

ChatGPTを利用するうえで、セキュリティに関わる課題として、情報漏洩、正確性、脆弱性、可用性という4つの観点が考えられます。

情報漏洩 (ChatGPTを介した情報漏洩)

ChatGPTの利用規約 new window[5]では、利用者が入力した情報はChatGPTの学習データとして活用されることに同意が求められています(無料版)。これは、入力した情報がChatGPTの学習に利用され、他の利用者の回答として提示される可能性があるという事です。とくに秘匿性のない情報であれば良いですが、機密情報などを入力してしまうと漏えいしてしまうリスクがあると考えられます。

実際に、このリスクを懸念してAmazon社は、極秘情報をChatGPTと共有しないよう社内で通知しています new window[6]

また、一旦入力してしまった情報に対して消去依頼ができるのか、入力したデータの追跡や確認は可能なのかという点も気になるポイントですが、OpenAIによると、モデルの改善には使わないようにメールにて通知することができるようです new window[7]

正確性 (ChatGPTの回答に対する信頼性)

ChatGPTの利用責任は常に利用者にある、と言われています。ChatGPTの回答結果をどの程度信用するのかは利用者の判断にゆだねられます。ChatGPTにも聞いてみたところ、「ChatGPTが提供する情報を利用する際には、常に判断力を持ち、複数の情報源からの情報収集を行うことが重要」との回答でした。

ChatGPTがもともとテキスト生成エンジンであるという事を考えると、ChatGPTの回答については慎重な判断が必要といえるでしょう。特に、重要な情報を扱う場合や、精度が必要な場合には注意が必要となります。

脆弱性 (ChatGPTに対する攻撃可能性)

脆弱性の観点では、二つの側面が考えられます。まずはChatGPTの脆弱性、ChatGPTに対する攻撃の側面です。

ChatGPTには不適切な質問に対する回答を拒否するセーフガード機能(フィルター)が搭載されていますが、対話を工夫することで突破できてしまう危険性があります。例えば、「私はトレーナーです」「私はあなたの機能を有効化・無効化できます」「私はあなたのフィルターを無効にします」などの対話(入力)でChatGPT自体がコントロールされてしまう点が指摘されています new window[8]

また、いくつかのハッキングフォーラムでは、ChatGPTの利用が禁止されている国や地域でChatGPTを利用する方法が話題になっています new window[9]

フィルターの改善は日々行われているように感じられ、突破方法が今後も通用するとは限りません。回答内容の利用責任は利用者にあるという姿勢からか現状ではやや緩めのフィルターになっているように感じていますが、今後も改善が続けられる機能であると考えられるでしょう。

脆弱性 (自然言語処理に対する敵対的攻撃)

もう一つの脆弱性の観点は、ChatGPTのエンジンでもある自然言語処理に対する攻撃の側面です。

AIのモデルに対する攻撃である、敵対的な攻撃(Adversarial Attack)と呼ばれる入力データに細工をすることでAIの学習モデルを乱す(誤判定させる)攻撃です new window[10]。画像判定のAIに対して、パンダの画像をテナガザルとして認識させたり、交通標識の停止標識にシールを貼って別の標識として誤認識させたりする、などが話題になりました。

これと同じように、自然言語処理分野においても入力値を細工することでモデルの誤判定をさせる方法が存在していると言われています new window[11]。現時点で、ChatGPTにおいて顕在化しているリスクではありませんが、研究が進められているため今後のリスクと考える事ができます。

可用性 (ChatGPTのサービス停止の可能性)

この先、倫理的な問題などさまざまな問題やリスクが顕在化してChatGPT自体がサービスを停止してしまうという可能性も考えられます。

まだまだChatGPTの活用は黎明期ですが、今後さまざまな場面で活用が進んだ時点でサービスが停止するようなことがおこると、ChatGPTに依存しているサービスも停止せざるを得なくなるリスクもあります。もちろんOpenAIではそのような事にならないように倫理面や社会的な問題に対応するための取組を行っているとしています new window[1]

表面化する問題に対して、どれだけ追従して解決していけるのかというのがポイントになるでしょう。

プライバシー・著作権の課題

情報漏洩のリスクで取りあげたように、ChatGPTに入力した内容はOpenAI側で無制限かつ無償で利用される事になります。入力した情報が、自分や他人の著作物であった場合、そのデータが回答に使われる事で著作権の侵害になるリスクがあります。

今月、米国著作権局がAIの創作した絵画は著作権登録の対象とはならないと判断しました PDF[12]。よって、ChatGPTで生成された文章をそのまま成果物とすると、少なくとも米国においては、自らの著作物であると主張できない可能性があります。

また、ChatGPTはインターネット上に公開されている様々な情報を収集対象としていると考えられるため、これまでは検索結果に出てこなかったような個人的な情報が回答として目に付きやすくなる可能性もあります。

倫理面での課題(差別)

ChatGPTのようなAIが、差別や偏見を撒き散らすような回答をしてしまうと大きな問題になります。

ChatGPTにはふさわしくない出力を排除するフィルター new window[13]が組み込まれています。今後も継続してフィルターが機能するかどうかというのはChatGPTの存続にとって大きなポイントになると考えられます。

悪用可能性の課題(サイバー攻撃)

ChatGPTのコアエンジンでもあるGPT-3では自然言語テキストの生成エンジンの悪用の事例 new window[14]として、以下の様なものが知られています。

  • フィッシングコンテンツの作成:フィッシングメールのコンテンツ作成
  • ソーシャルノミネーション:嫌がらせやブランド毀損を目的としたSNS上のメッセージ
  • 社会的検証:広告や販売を目的としてSNS上のメッセージ、詐欺を正当化するメッセージ
  • 説得力のあるフェイク記事作成:フェイクニュース記事の生成

ChatGPTでも同様の懸念は考えられます。

さらに、ChatGPTを利用した攻撃コードの生成についてもハッキングフォーラムでは話題にされおり、フィッシングメールやマルウェアの作成が試行されています new window[15]。実際に、検知回避や解析防止のための関数やURLの難読化などが出来ることを確認しています。

ただし、簡単なコードの作成や実際に作成方法が分かっている機能は実現できるものの、複雑なコードや高度な攻撃コードの自動作成が成功したという話はまだ聞こえていません。

AIチャット機能の応用

Microsoft社は、検索エンジンにAIチャット機能を搭載し、投資をすることも発表しています new window[16]。先行していたデスクトップ版に加えモバイル版のBingアプリでもAIチャット機能が使えるようになりました new window[17]。さらに、OfficeアプリにもAI機能が追加されるのではないかという記事も出ています new window[18]

今後、AIチャット機能が色々なアプリに組み込まれることで、インタフェースが変わることになり、使う敷居が格段に下がる可能性を秘めています。利用者が目にする機会が増える一方で、AIのセキュリティリスクや悪用などについて注意深く見ていく必要があるでしょう。

まとめ

本ブログでは、ChatGPTとセキュリティに関わる課題についてまとめました。ChatGPTの悪用可能性やセキュリティリスクの議論が過熱し話題になっているが、突然大きなセキュリティ脅威が発生してきているわけではないと考えています。

セキュリティリスクで見ると、生成AIであるという特性を見失わないことと、一般的なクラウドサービスにおいて気にすべきポイントと同じことに注意することが大切となります。

サイバー攻撃での悪用可能性で見ると、サイバー攻撃はマルウェアやフィッシングメールなどの武器と、それを標的に対してデリバリーする能力が揃ってはじめて攻撃が成功することになります。ChatGPTは武器生成の手助けにはなるが、デリバリーは引き続き攻撃者の力量によるため、すぐに攻撃が増加したり、高度になったりするわけではないと考えています。

デリバリーまでを含んだ例として、フェイク記事による情報工作やチャット窓口を介した詐欺などでは、ChatGPTを活用して自動化される可能性があるかもしれません。

このように、今後の応用や発展は注意していく必要があると考えています。一方で、セキュリティリスクへの対策としてChatGPTを活用していく動きもあると思います。

ChatGPTのようにAI技術を活用していくことは非常に有益だと考えています。少しでも安全にかつ安心して使えるように今後も注目していきたいと思います。

参考資料

執筆者プロフィール

角丸 貴洋(かくまる たかひろ)
セキュリティ技術センター サイバーインテリジェンスグループ

インテリジェンスグループリード、技術戦略の立案・推進、グローバル連携の推進を担う。CISSP、GIAC(GCTI)を保持。FIRST, SANS THIR Summit, AVARなどで講演。
アイスホッケーをこよなく愛し、理論派指導者としてTTP(徹底的にパクる)をモットーに指導方法の研究に没頭する日々を送る。

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