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リチウムイオン二次電池の長寿命化技術
Vol.65 No.1 2012年2月 スマートエネルギー特集グリーンイノベーション研究所では、安全で資源量の豊富なマンガン系正極を用いたラミネート型リチウムイオン二次電池(以下、LIB)の長寿命化技術を開発しました。NEC独自電解液添加剤を用いることで、約2万サイクル(1,435日)後も85%の容量を維持しています。これを含む試験結果から、夜間電力の活用を想定したLIB駆動パターンにて寿命予測シミュレーションを行ったところ、容量が初期の半分になるまでの期間は、東京地区で32年と試算されました。それらの活動について紹介します。
1. まえがき
近年、電気自動車、電動アシスト自転車などの駆動用電源や、系統連携向け、電力平準化向けなどの定置用電源として、LIB市場は大きく成長すると予測されています。その際、LIBに求められる寿命要求は厳しくなっており、系統連携向けでは20年を超える寿命が要求されています(図1)。NECグループでは、結晶構造が安定していることにより熱暴走を起こしにくく、安価なマンガン酸リチウムを正極材料に用いたマンガン系LIBを世界で初めて製品化しました1)。そして、市場の期待に応えるべく、更なるLIBの長寿命化と、同時に短期間でLIB寿命を判断する寿命予測技術の開発を積極的に進めています。
2. 要素技術
1990年代、資源量が豊富で安全・安価なマンガン酸リチウムを正極に用いたLIBは、寿命は1年も持たないと言われていました。原因は、電解液中に発生する酸がマンガンを溶かすためでした。弊社グループでは、電解液中に発生した酸が正極に与えるダメージを緩和する技術を開発し2)3)、実用化に成功しました。しかしながら、その技術だけでは、20年以上の寿命を実現することは不可能でした。そこで、弊社グループでは、負極と電解液の界面に着目し、負極表面上における電解液の分解反応を抑制するための独自電解液添加剤の開発に成功しました4)。
図2に示すように、開発した添加剤を用いることで、より強固な保護膜を負極の表面に形成することができます。その結果、電解液の分解生成物の堆積や分解ガスの発生などに伴うLIBの劣化を大幅に抑制することができました。それらの技術を応用したテストLIBの仕様と外観写真を表1に、サイクル試験、及び、保存待機試験の結果をそれぞれ図3、図4に示します。
表1 開発したLIBの外観(上)と仕様(下)
25℃環境下でのサイクル試験は、現在23,500サイクルまで進んでおり、初期放電容量の83.3%を維持しています。また、25℃環境下での保存待機試験は現在4.9年まで進んでおり、90.2%の容量を維持しています。なお、いわゆるルート則に基づいた直線近似を行うため、横軸は評価日数の平方根でプロットしています。
3. 寿命予測
20年以上のLIB寿命が求められたとき、加速試験による寿命予測技術が必要とされます。本章では弊社グループが提案してきた寿命予測技術と、それに基づく実際の寿命予測結果を紹介します。
3.1 温度加速則
温度加速試験で最も有名な式はアレニウスの式です。LIBは有機電解液を使用するため、室温±数十℃の範囲にて動作保証をしています。その場合、いわゆる「10℃2倍則」のような近似が可能(活性化エネルギーEaが、ボルツマン係数kと絶対温度Tの積より十分に大きい場合に近似が可能)です。「10℃2倍則」は、「一定期間の試験において、試験温度が10℃高ければ劣化が2倍になる」という法則ですが、寿命予測のためには「試験温度が10℃高ければ、半分の時間で同等の劣化が生じる」という論理で計算を行います。ここでは、「試験温度がα℃高ければ、半分の時間で同等の劣化が生じる」という概念から、次の式を用いて計算を行います。
3.2 試験環境温度
図5は、那覇市、東京都、札幌市の各月の気温を10年間の平均で示したものです。この環境温度に、サイクル駆動時はプラス10℃、保存待機時はプラス5℃とした温度を試験環境温度としています。
3.3 電池駆動パターン
LIBは充放電の繰り返しや、長時間の高電圧動作を行うと、劣化が早くなります。今回は、夜間電力を活用する電池駆動パターンとして、埼玉県春日部市在住の3人家族世帯の10月の1週間の電力消費5)から、図6のような電池駆動パターンを選択しました。6時から12時、及び、18時から23時に集中的に電力を消費するスタイルに対応するイメージです。この電池駆動パターンから、サイクル動作と保存待機動作がそれぞれ1日のうち何割に相当するかを計算します。図6より、サイクル時間が19時間、保存待機時間が5時間となり、平方根を取ると、サイクル比率は66.1%、保存待機比率は33.9%となります。
3.4 寿命予測結果
図6で定めたサイクル比率と保存待機比率から、25℃でのサイクル保存統合式を、同様に45℃でのサイクル保存統合式を求めます。そして、図3、図4の劣化の傾きから、温度加速因子を計算します。その結果、本LIBは「6.85℃2倍則」に従うことが分かり、寿命予測結果は図7のようになります。容量が初期の半分になるまでの期間は、東京地区の場合32年と試算されました。従来の電解液添加剤を用いたLIBに比べ、約2倍の寿命が得られています(当研究所比)。表2に各都市の試験環境温度で計算した寿命予測結果を示します6)。札幌市のように気温の低い地域では、更なる長寿命化の可能性が示唆されています。
表2 各都市における寿命予測結果
4. むすび
今回、弊社グループ独自電解液添加剤を用いたLIBの長寿命化技術の開発に成功しました。そして、この技術を用いたLIBの寿命予測シミュレーションを行った結果、夜間電力の活用を想定したLIB駆動パターンの場合、容量が初期の半分になるまでの期間は、東京地区の場合32年と試算されました。今後、ニーズが高まると予想される系統連携向け蓄電システムなどの長寿命要求に、十分応えられるものと考えられます。弊社グループでは、今後も高性能・安全・安価なLIBの開発に注力してまいります。
参考文献
- 1)座間浩一ほか「大容量ラミネートリチウムイオン二次電池の開発(高出力型)」、NEC技報 Vol.59 No.5、pp.60‐63、2006
- 2)T.Numata,et al. "Cation Vacancy and Discharge Capacity of Li[Mn2-xLix]O4 Spinel for Lithium Ion Secondary Batteries" NEC Research & Development Vol.38 No.3, pp.294-300, 1997
- 3)T.Numata,et al. "Advantages of Blended Electrode for Lithium-Ion Rechargeable Batteries" NEC Research & Development Vol.41 No.1, pp.8-12, 2000
- 4)石川仁志ほか「リチウムイオン二次電池電解液用新規添加剤の開発」、NEC TOKIN TECHNICAL REVIEW Vol.33、pp.5-6、2006
- 5)社団法人 日本建築学会「住宅内のエネルギー消費量に関する調査研究委員会」http://tkkankyo.eng.niigata-u.ac.jp/HP/HP/database/japan2/index.htm, 関東戸建04
- 6)川崎大輔ほか「定置向け長寿命積層ラミネート型リチウムイオン二次電池の寿命予測」、第52回電池討論会要旨集、p.295、2E06、2011
執筆者プロフィール
中央研究所
グリーンイノベーション研究所
主任
電気化学会会員
日本セラミックス協会会員
中央研究所
グリーンイノベーション研究所
主任研究員
中央研究所
グリーンイノベーション研究所
主任
応用物理学会会員
電子情報通信学会会員
中央研究所
グリーンイノベーション研究所
研究部長
電気化学会会員