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映像流通DXが目指す新たな社会インフラ「映像プラットフォームサービス」
社会システムのDXを実現する技術 ~ 放送システムのDX映像素材の管理・流通は、旧来のアナログテープから新たにデジタルファイルへ移行し、その仕組みも大きく変化しています。これにより映像素材を単に保管・送信するだけではなく、クオリティチェックやプレビュー、オンライン送稿などの機能を持つ安全・安心な映像流通DXを実現するサービス基盤が求められています。本稿では、NECが提供している映像流通の新たな社会インフラ「映像プラットフォームサービス」の概要と主要機能・技術、及び今後の展望について紹介します。
1. はじめに
近年、放送業界を中心に、映像素材の管理・流通はアナログテープからデジタルファイルへと移行し、その扱いはinB(企業内)にとどまらず、BtoB(企業間)やBtoC(一般消費者向け)の領域まで拡大しています。例えば、2017年10月にテレビCMのデジタルファイルによるオンライン搬入が開始され、業界横断的な映像流通を実現するプラットフォームが整備されたように、今後更に広い範囲での流通が予想されます。
このように、新たな映像流通の仕組みを実現するサービス基盤が注目されるなか、本稿では、NECが提供する映像流通の新たな社会インフラ基盤「映像プラットフォームサービス」の概要と構成する機能・技術、今後の展望を紹介します。
2. 「映像プラットフォームサービス」の概要
NECが提供する「映像プラットフォームサービス」の機能概要を図1に示します。
このサービスでは、映像を中心とした素材コンテンツの管理、流通を実現する機能を持つプラットフォーム基盤を実現しています。各機能は、マイクロサービスアーキテクチャを採用しており、サービスの利用形態に合わせて柔軟に機能を組み合わせることが可能です。また、高度な安全性/信頼性を提供するJDCCティア4の評価を受けたNECクラウド基盤サービス(NEC Cloud IaaS)と、柔軟性/多様性に優れたAWS環境によるハイブリットクラウド基盤での提供を行っています。これらにより、基幹システムのような高い処理精度が求められる(System of Record)場合や、フレキシブルに変化する業務のような迅速性・多様性が求められる(System of Engagement)場合など、ニーズに合わせた最適な環境でのサービス提供を実現しています。
各機能に関する概要を次に示します。
- (1)セキュリテイ
WAF(Web Application Firewall)・IDS(Intrusion Detection System)の機能を実装し、ネットワーク層やアプリケーション層まで不正アクセスやサイバー攻撃を遮断します。 - (2)承認ワークフロー
プロジェクト単位でステータスの管理を行い、企業間・部門間での承認ワークフロー機能を実現します。 - (3)メタ情報管理
映像素材ごとのメタ情報管理機能を提供します。詳細は第3章1節に記載します。 - (4)素材管理/プレビュー機能
映像素材ごとの管理・プレビュー機能を提供します。詳細は第3章2節に記載します。 - (5)QC(クオリティチェック)機能
映像素材のクオリティチェック機能を提供します。詳細は第3章4節に記載します。 - (6)編集機能
映像素材のトランスコード・シーン切り取りなどの簡易的な自動編集機能を提供します。 - (7)転送PF(プラットフォーム)
複数サーバ(スレッド)のオペレーションエンジンを搭載し、大量の映像素材を効率的に送稿する機能を提供します。また、外部公開機能により、一時利用者に対する映像素材の共有、アップロード依頼も可能です。
3. 映像流通DXを実現している主要機能
第3章では、映像流通DXを実現するために、特に重要な主要機能を説明します。
3.1 メタ情報管理機能
企業間・部門間での映像流通を実現するためには、搬入/搬出時に使用するメタ情報の統一が必要です。
例えば、テレビCMにおける放送局搬入では、一般社団法人日本民間放送連盟(以下、民放連)により定義された搬入のためのメタ情報が整備されています。「映像プラットフォームサービス」では、この民放連で標準化されたメタ情報と搬入時に入力されるメタ情報の規格適用チェック機能が実装されています。これにより、企業間・部門間で安全・安心な搬入/搬出を実現しています。
また、搬入されたメタ情報を取り込み・管理する機能や出力して外部システムと連携する機能により、搬入/搬出業務の効率化が実現できます。「映像プラットフォームサービス」では、メタ情報のXMLファイル入出力機能により柔軟なメタ情報連携が可能です。テレビCMにおける放送局搬入では、NECが放送局へ提供しているCM入稿サーバと連携することで、メタ情報を利用した放送局での入稿業務の自動化を実現しています(特許第5999756号)。
更に、前述のメタ情報の他にも映像自体のファイル構造(フォーマットや圧縮レートなど)に関する情報などや、利用者が映像単位に自由に設定できるカスタムメタ情報の管理も可能です。
3.2 プロキシ生成・プレビュー機能
3.2.1 プロキシ生成・プレビュー機能
映像素材は、映像品質を重視するため独自フォーマットで高解像/低圧縮レートで管理することがあります。一方で、映像流通を想定した場合、企業間・部門間が齟齬なく視聴確認する必要がありますが、汎用的なPC環境でプレビューするためには、アップロード時にPCで視聴可能なプロキシファイルを生成し、メタ情報とともに管理することが必要です。その際、各PCのインターネット環境からの接続を想定し、ストレスなく、映像素材内容の識別可能な画質レベルを維持することが重要となります。そこで「映像プラットフォームサービス」では、WindowsやMACなどで視聴可能なMP2(MEPG1 Audio Layer-2)をファイルフォーマットとして採用しています。また、視覚的にも映像内容の識別可能な画質を維持するためにビットレート2Mbps、フレームレート29.97fpsに設定することで、企業間・部門間で齟齬のないプレビュー視聴を実現します。
3.2.2 字幕プレビュー機能
聴覚障害のある方や、音声が聞き取りにくい高齢者に対して、情報アクセシビリティを向上させ、動画コンテンツを公平に広く理解していただくために、映像における字幕の普及が進んでいます。
一方で、テレビにおける字幕(クローズトキャプション)は放送独自規格となるため、PCでプレビューするためには専用のプレーヤーが必要となります。「映像プラットフォームサービス」は、字幕用プロキシファイル生成機能を実装することで、HD向け字幕/SD向け字幕/モバイル向け字幕を、特別な視聴環境は必要なく同時にプレビュー視聴することが可能です(図2)(特許第6380695号)。
本機能の提供により字幕コンテンツの更なる流通に貢献し、さまざまな利用ユーザーに対し公平なサービスを提供します。
3.3 映像素材の同一性担保機能
安全・安心な映像流通を実現するためには、搬入/搬出素材の「同一性」の担保が重要です。
「映像プラットフォームサービス」では、素材のアップロード時に「ハッシュ値」を生成、メタ情報として管理します。素材アップロードや転送の際、この「ハッシュ値」を確認することにより、素材搬入/搬出時の同一性担保が可能となります。
また、ハッシュ値は素材のバージョン管理にも利用します。同一ハッシュ値の素材がアップロード、入稿された場合、同一素材として上書きするか、新しいバージョンの素材として登録するか、別素材としてコピーするかの選択が可能です。これらの機能により、効率的な素材管理を実現します。
3.4 映像素材の安全性確認機能
安全・安心な映像流通を実現するためには、映像素材の同一性担保に加え「安全性」も重要です。
第3章4節では、「映像プラットフォームサービス」で映像素材の「安全性」をチェックする2つの技術を記載します。
3.4.1 光点滅区間検知技術
以前、ユーザーが背景色を激しく点滅させて表現するアニメーション技法を用いた映像素材を視聴し、光過敏性発作などを発症した事例があります。このように、映像の過激な光点滅は、ユーザーに悪影響を及ぼす可能性があることが分かっています1)。そのため、激しい光点滅区間がある場合、事前に検知する機能が「安全性」確保につながります。「映像プラットフォームサービス」では独自の「クオリティチェック機能」により、この光点滅区間を検知することが可能です(図3)。
検知の具体的な仕組みを次に示します。
- (1)映像データの各フレームにおいて、8×8の縮小画像を生成します。
- (2)1秒間の時間方向の解析窓内での8×8の縮小画像の輝度変化の割合を、64画素すべてに対し算出し、輝度変化が10%に達する画素の割合を算出します。輝度が10%以上変化する画素が1/4(16画素)を超える場合には、該当画素に対して隣接フレーム間で輝度の時間方向差分を算出します。
- (3)時間方向差分の符号が1秒間に反転する回数をカウントし、回数が10回を超える場合に体に影響を及ぼし得る明滅区間として検出します。
3.4.2 サブリミナル区間検知技術
日本放送協会(NHK)、民放連がそれぞれ番組放送基準でサブリミナル的表現方法を禁止しています。映像素材のサブリミナル区間がある場合、それを検知する機能は「安全性」確保につながります。
「映像プラットフォームサービス」独自の「クオリティチェック機能」により、サブリミナル区間を事前に検知することが可能です(図4)。
検知の具体的な仕組みを次に示します2)。
- (1)視覚的特徴量を映像のフレームごとに抽出します。
- (2)特徴量の時間方向軌跡を解析し、特徴量予測が外れた時点でショットに分割、長さが1秒未満のショット(極短ショット)を検出します。
- (3)検出されたショットの前後で極短ショットの生起パターンを調べ、孤立して生起している場合にサブリミナルとして検知します。これらの検知技術により、ある映像に挿入された1秒未満のショットが検出可能となります。
4. おわりに
「映像プラットフォームサービス」は、inB(企業内)の映像管理から、BtoB(企業間)の映像流通へと発展してきました。これにより、過去資産の管理など業務効率のみを目的としたサービスから、映像の新たな価値を創造することを目的としたサービスへ発展しました。
現在、映像流通過程で取り扱う情報(利用実績やその効果など)もメタ情報として詳細に管理することが可能です。日々蓄積されるこのような情報は、マーケティングデータとして新たな価値を生み出し、更に映像解析による映像内容の分析・解析を行うことで、映像制作事業における継続的なPDCAサイクルを実現するサービスへと、今後発展します。
参考文献
- 1)
- 2)岩元浩太、山田昭雄:多次元特微空間解析に基づく映像カット検出手法,2005年 情報科学技術フォーラム(FIT),2005
執筆者プロフィール
放送・メディア事業部
主任
放送・メディア事業部
シニアマネージャー
放送・メディア事業部
シニアエキスパート
放送・メディア事業部
マネージャー