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AI・IoTを活用した鉄道業務変革(鉄道DX)
Intelligent Logistics & Mobility鉄道業では「AI・IoT」を活用した業務変革(鉄道DX)が加速しており、NECは「鉄道輸送」や「旅客サービス」でさまざまな価値を創出し、 鉄道の究極の「安全」と心豊かな「生活」を支えています。
また、これらのビジネス拡大を目指し、これまでに蓄積したノウハウやモデルを共通プラットフォームとして体系化しました。
1. NECが目指す鉄道DX
鉄道事業者の課題は、次の4つに集約されると考えます。
- (1)人手不足
- (2)スキル継承(暗黙知の形式知化)
- (3)サービスの複雑化、きめ細かさ
- (4)コスト高と旅客収入の減少
これらの課題に応え、社会インフラとしての持続性を支えるべく、NECは4つのテーマに取り組んでいます(図1)。

- (1)CBMを実現するスマートメンテナンス
- (2)業務高度化を支えるスマートオペレーション
- (3)次世代駅サービスを実現するスマートステーション
- (4)快適な移動を支える広く交通事業者を対象としたスマートモビリティ(MaaS含む)
それぞれの具体的な取り組みについて、次章以降で述べていきます(図2)。

2. NECが考えるスマートメンテナンス
2.1 故障予兆検知ソリューション
車両機器や信号設備などは突発的な故障が運行障害につながるため、予兆段階での予防保全が求められています。また万が一故障が発生した際、複雑な機器ユニットのなかでどの部品が原因なのかを迅速に特定し、部分修繕を行うことでダウンタイムを少なくするオペレーションが必要となります。
NECではプラント設備向けに実績のある「インバリアント分析」を鉄道設備向けに適用し、実用化に向けた検証を進めています。無事故運転が基本の業務にて機械学習を用いる場合、学習に必要な異常時データが存在しないことが大きな課題となりますが、本技術では正常運転とされる「いつもの状態」のみを学習し、それを逸脱した状態を「いつもとは異なる状態」として検知するため、故障事象のパターンが一様でない機器に対しても対応が可能です。
2.2 劣化予測ソリューション
鉄道設備は国土交通省で定められた検査基準に従い、設備の使用環境や劣化状況にかかわらず、一定の基準下で行われるため、過剰な修繕となるケースがあり、メンテナンスコストの圧縮が経営上の課題となっています。
これらの課題に対し、NECではメンテナンス頻度の最適化や劣化要因の可視化を実現すべく、「異種混合学習」を鉄道設備向けに適用し、電力設備や信号通信設備領域を中心に導入に向けた検証を進めています。また予測結果の算出に際しては、結果根拠の説明性や劣化要因の明示が求められるため、「異種混合学習」に代表されるホワイトボックス型のAI技術を適用しています。
2.3 設備不良判別ソリューション
鉄道設備は山岳地帯、橋梁上、トンネル内などにあり、現地での目視検査に時間と労力、危険を伴うものが少なくありません。
近年では走行する列車にカメラを設置したモニタリング検査による現場巡回の補完が進みつつありますが、撮影結果の確認は人手で行っているケースが多く、更なる省力化と自動化が求められています。
これらの課題に対し、NECでは高度なディープラーニング技術である「RAPID機械学習」を用いた画像解析を活用し、設備不良の自動判別実現に向けた取り組みを進めています。鉄道設備は屋外設置のものが多いため、画像解析において天候や昼夜の光線具合の違いによる影響を受けやすく、これらの課題解決を行い実用化に向けた開発を進めています。
3. NECが考えるスマートオペレーション
本章では、最先端AI技術群「NEC the WISE」をはじめとしたAI・IoT技術を活用し、次世代の鉄道業務オペレーションを支え、判断の高度化・作業効率化・技術伝承支援による最適な鉄道輸送のためのさまざまな取り組みを紹介します。
3.1 指令業務オペレーション支援
鉄道は、指令のコントロールにより各列車が運行されており、特に輸送障害発生時においては、輸送指令を中心に各指令や駅、乗務員と連携を取りながら、少しでも早い復旧に向けて作業が行われています。輸送障害に伴うダイヤ乱れが発生した場合は、列車の遅延回復のために、お客様の滞留状況や時間帯、車両や乗務員の運用状況、各種設備の状況などのさまざまな要素を考慮し、総合的な判断のもとに、ダイヤの引き直しを行っており、その判断においては、熟練者の知識やノウハウが必要とされています。しかしながら、さまざまな要素を考慮した総合判断であるがゆえに、過去にまったく同一の輸送障害は存在せず、過去のオペレーション履歴から機械学習によって復旧計画を最適化することは難しいという課題がありました。
そこでNECは、過去データのみによらず、シミュレーションによって多様な状況を再現し、輸送障害の疑似データを蓄積し、疑似データを用いた機械学習により最適ダイヤの提案ができないだろうか、という仮説を立て、NEC中央研究所と連携し、列車運行制御や旅客流動を再現した機械学習用の高速シミュレータの開発と、シミュレータを用いた機械学習により、滞留旅客量の最小化などを指標とした最適ダイヤの提案ができる仕組みの研究開発を進めています。この仕組みでは、NECの論理思考AIを活用し、膨大なシミュレーションデータを効率的に機械学習させる工夫をしています。
本研究は、将来的に、鉄道だけではなく航空や物流、船舶ダイヤなどへの活用の幅を広げながら、New Normalにおけるモビリティの垣根を超えた柔軟な運行管理ができることを目指しています。
3.2 駅業務オペレーション支援
鉄道駅においては、駅係員をはじめ、お客様との接点としてのさまざまな業務が存在しています。NECでは、ユニバーサルデザインの観点で、ハンディキャップのあるお客様の案内サポートも含めた業務支援の検討も進めています。まずは、鉄道事業者内における案内サポート情報のシームレスな連携を実現し、業務オペレーションの効率化を図ります。将来的には、利用者を含めた仕組みを構築し、あらゆる鉄道利用者の快適な移動を支えていきたいと考えています。
4. NECが考えるスマートステーション
本章では、駅係員の日々の業務(出札・改札・駅務など)に対し、その業務負荷の軽減や、駅を基点とした鉄道のお客様サービスの向上を目指した取り組みを紹介します。
4.1 駅におけるAIの活用
(JR東日本モビリティ変革コンソーシアム 上野駅実証)
NECは、JR東日本グループのグループ経営ビジョン「変革2027」の取り組みの1つである「案内AIみんなで育てようプロジェクト」に参画し、JR東日本上野駅にて実証を行いました。
実証フェーズ1では、AIチャットボット「NEC自動応答」を活用し、よくある問い合わせを学習させ、回答精度について検証を実施しました。実証フェーズ2では、訪日外国人へのサービス向上を目的とし、多言語対応を実施しました。更に、今後の全駅展開を見据え、乗換案内などにおいては外部APIと連携し、汎用性を持たせました(図3)。

この検証でのノウハウを生かし、回答精度の更なる向上や、利用されるお客様ごとに最適なサービスが提供できるよう、お客様自身のスマートデバイス(マルチデバイス対応)でのサービス提供など、サービス拡充を目指します。
4.2 駅における生体認証技術の活用
NECは、顔・指紋などの生体認証による共通のIDを通じて、複数の場所やサービスで顧客へ一貫した体験を提供する新しいコンセプト「NEC I:Delight」を掲げています。社会生活のあらゆる場面で、一人ひとりにあった体験を楽しむことができる世界の実現を進めており、その1つとして生活インフラである交通事業は、このコンセプトと親和性が高く、価値共創できると考えています。
生体認証(顔認証)を用い、改札を通過することや、商品を購入する際においても、顔認証で決済が行えるなど、新たなサービスへの広がりがあります。
5. NECが考えるスマートモビリティ
5.1 スマートモビリティとMaaS
交通事業者の課題を解決するDXと、利用者にとっての利便性をも高めるカスタマーエクスペリエンス(CX)の2つの側面を兼ね備えるソリューションを目指し、「スマートモビリティ」をテーマに取り組んでいます。
スマートモビリティは、MaaSの実現も包含しています。
MaaSは、大都市では鉄道が、地方都市ではバス・LRTが交通手段の中心であると考え、広く交通事業者へのICT技術の提供に着手しています(図4)。

5.2 交通事業者の視点でのスマートモビリティのあるべき姿
鉄道をはじめとする交通事業者の課題は、第1章で述べた通りです。
課題を背景として、求められるモビリティサービスのあるべき姿を次のように設定します。
- (1)誰にでも乗っていただきやすいモビリティサービス
- (2)提供する側の要員スキルを問わず、均質かつ高品質のサービスの提供
- (3)サービスの質を上げつつ、コストを抑制する
- (4)IoTやAI技術を活用した新たなCXの提供
5.3 NECの具体的な取り組み
経済産業省・国土交通省事業である中型自動運転バス実証実験において、神姫バス株式会社様とともに将来の無人自動運転に備え、バスオペレーションの高度化と、車内の運賃決済の多様化へ向けた顔認証の試みを実施中です(2020年7月時点)。
バスオペレーションの高度化としては、映像と音響によって遠隔の営業所から見守るトライアルを実施しています。映像については、走行中でも安定して車内の状況が把握できる「適応映像配信」を、そして音響については「異常音検知」を用いて、少ない要員で車内の安全確保を行うことが可能です。
また、顔認証については、空港の出入国や税関への実用化、鉄道の改札における実証は進みつつありますが、運行のため刻々と移動する車内での顔認証は、チャレンジングなテーマです。顔認証クラウドサービスを用いて、スムーズな認証が可能か、また、地域住民から顔認証が受容されるかどうかを検証しています(図5)。

5.4 スマートモビリティの今後
これまで述べた通り、大都市・地方都市のそれぞれの交通事業者・利用者に対応したソリューションに着手しています。今後は、各ソリューションを充実させていき、流通・サービスとの連携により、デジタルマーケティングの機能を充実させるとともに、大都市と地方都市をつなぐデジタルプラットフォームへと進化させることで、交通事業者の課題に応え、利用者にとってより豊かな暮らしの実現を目指します。
6. 最後に ~鉄道DXで切り拓く未来~
NECは、鉄道DXの取り組みにより、AIやIoT技術を駆使して、「輸送」や「旅客サービス」のさまざまな価値を創出し、鉄道を起点として、公共交通の「安全」と心豊かな「生活」を支えていきます。
- *LTEは、欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
執筆者プロフィール
交通・物流ソリューション事業部
マネージャー
交通・物流ソリューション事業部
主任
交通・物流ソリューション事業部
主任
交通・物流ソリューション事業部
データサイエンス研究所
主任、特別研究員
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