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パブリックセーフティを支える映像配信技術

警備や救急医療などのパブリックセーフティの領域で、映像配信を活用した新たなソリューションが提案されています。しかし、これまでは安定して映像を配信するためには、衛星通信や移動基地局などの高価な専用の通信設備が必要なため、映像配信の活用は限定的なものでした。本稿では、モバイルネットワークやインターネットなどの品質が保証されない安価な公衆通信網でも、安定して高品質な映像をリアルタイム配信できる適応映像配信制御技術について解説し、ランニングポリスへの活用事例を紹介します。本技術により、パブリックセーフティでの映像配信も実用レベルに達し、今後、本格活用が進んでいくものと考えます。

1. はじめに

昨今のモバイルネットワークの進展とスマートデバイスの普及により、警備や救急医療などのパブリックセーフティの領域で、映像配信を活用した新たなソリューションやサービスが提案されています。

警備については、従来、固定カメラと警備員の目視による警備が一般的なスタイルでしたが、NECでは、警備員のウェアラブルカメラでとらえた現場映像を、モバイルネットワーク経由で本部へ配信するソリューションを提案しています。これにより、現場と警備本部との映像による情報共有を実現するとともに、カメラの死角や見逃しのリスクを低減することができます。

また、救急医療についても、NECでは、ウェアラブルカメラからの映像配信を活用した支援ソリューションを提案しています。医療処置を施している救急隊員のウェアラブルカメラから患者の映像を病院へと配信することで、病院側ではどのような患者が運ばれてくるのかを知ることができます。これにより、患者の到着前から受け入れ準備が可能となり、この時間短縮によって多くの命が救えるようになります。

このような映像配信を活用したソリューションでは、高品質な映像をリアルタイムに配信することがとても重要です。これまでは、安定して映像を配信するためには、衛星通信や移動基地局などの高価な専用の通信設備が必要であったため、映像配信の活用は極めて限定的でした。そこで、近年、モバイルネットワークやインターネットなどの安価な公衆通信網を活用することが期待されていますが、これらの通信網はいわゆるベストエフォート型のネットワーク(通信スループットが保証されないネットワーク)で、高品質な映像配信を実現することが困難でした。本稿では、このようなベストエフォート型のネットワークでも、安定して高品質な映像をリアルタイム配信できる適応映像配信制御技術について紹介します。

2. 映像配信の難しさ

モバイルネットワークやインターネットなどのベストエフォート型のネットワークでは、電波環境や混雑状況(他のユーザーのトラフィック)によって、通信スループット(単位時間あたりに通信できるデータサイズ)が時々刻々と大きく変動します。映像はデータ量が大きいため、通信スループットが安定しない環境だと、映像データがネットワーク内で滞留及びロスすることになります。その結果、配信された映像に途絶やノイズが発生することになります(図1)。

図1 映像配信の課題

そこで、従来は通信スループットが下がっても映像データがネットワーク内で滞留・ロスしないように、画質(ビットレート)や映像のコマ数(フレームレート)を低く設定して、映像のデータサイズを小さくすることが一般的でした。しかし、時々刻々変動するネットワーク環境では、実際にビットレートやフレームレートをどの程度小さく設定すればよいかは分かりませんし、低く設定しすぎると映像品質が悪くて業務に役立たなくなってしまいます。

3. 適応映像配信制御技術

NECでは、これら映像配信の課題を解決する適応映像配信制御技術を開発しました。この技術は、時々刻々と変動する通信スループットをリアルタイムに予測し、予測結果に基づいて配信する映像のビットレートとフレームレートを動的に制御することで、不安定な通信環境でも高品質な映像のリアルタイム配信を実現するものです。

適応映像配信制御技術では、通信スループット予測が重要な役割を担います。NECでは、過去数十秒から1分の通信スループットの時系列を解析することで、未来1〜3分先までの通信スループットの変動を80%以上の精度で予測する手法の開発に成功しました1)。これまでに測定、収集した大量の通信ログを分析することで、通信スループットには、安定的に変動する状態(定常状態)と不安定に乱高下する状態(非定常状態)が複雑に混在することを解明し、現在のスループットの状態(定常/非定常)を判別することを可能にしました。更に、判別したスループットの状態に応じて、定常モデルと非定常モデルを混合し、未来のスループットの予測モデル(混合モデル)を生成することで、時々刻々と変動するスループットの状態に応じた、高精度な予測をリアルタイムに実現しました。

図2では、未来の通信スループット変動を予測した結果を例示します。(a)が定常状態での予測、(b)が非定常状態での予測結果で、グラフでは過去の通信スループット変動と未来の確率分布の広がり(確率的拡散)を表しています。定常状態では、確率的拡散が小さく、未来も安定して通信できる可能性が高いことを示しています。一方、非定常状態では、確率的拡散が大きく、通信スループットが大きく低下する可能性を提示しています。

図2 通信スループット予測

通信スループットの確率的拡散を予測することができれば、どの程度のデータサイズの映像を配信すべきかが分かります。図2の例では、確率的拡散(Stochastic diffusion)を示す曲線のうち、下側が通信スループットの低下する可能性を示しています。このように、未来の通信スループット低下を予測できれば、ネットワーク内で滞留・ロスせずに通過することができる最大の映像データサイズを予測することができ、そこから映像のビットレートとフレームレートを算出することができます。リアルタイムかつ動的に映像のビットレートとフレームレートを上で算出したとおりに制御すれば、不安定な通信環境でも途絶やノイズのない高品質な映像を、リアルタイムに送り届けることができるようになります2)3)

あるモバイルネットワーク環境下における、従来の映像配信システムと、適応映像配信制御技術を搭載したシステムで配信された映像を写真1で比較しています。VGA(640x480)、3Mbps、10fps固定で配信する従来のシステムでは、通信スループットが低下した場合、映像データを確実に送り届けることができず、(a)のようにノイズが発生し、もはや内容を把握することはできません。一方、HD(1280x720)、0.3〜5Mbps、2〜30fpsで適応的に制御しながら配信する本技術を適用したシステムでは、同じ通信環境でも、(b)のように安定して高品質な映像を配信することができ、状況を正確に把握することができます。

写真1 適応映像配信制御技術の効果

4. 警備ソリューションへの応用

要旨でも述べましたとおり、適応映像配信制御技術は、パブリックセーフティの領域で活躍が期待されています。その代表例として、警視庁様と共同で実施しましたランニングポリスの実証実験があります。

ランニングポリスは、大規模マラソン大会の「見せる警備」の一つで、ウェアラブルカメラを装備し、ランナーとして参加しながら警備を行う警察官です(写真2)。警視庁様では、ランナー目線での映像をリアルタイムに警備本部へと配信し、警備業務に活用したいとの要望がありましたが、前述しましたとおりモバイルネットワーク経由での映像配信には大きな課題がありました。そこで、NECが開発した適応映像配信制御技術をウェアラブルカメラからの映像配信に適用することで、安定して高品質な映像をリアルタイムに配信することができるようになりました。これを機に、ウェアラブルカメラからの映像配信を活用した新たな警備スタイルが、普及しつつあります。

写真2 ランニングポリス

5. おわりに

本稿では、不安定な通信環境でも、高品質な映像を安定してリアルタイム配信することができる適応映像配信制御技術と、パブリックセーフティへの応用について紹介しました。警備、救護、防災の分野では、映像の活用が期待されており、本技術の重要性はますます高まっていくと考えられます。

参考文献

  • 1)
    H. Yoshida et al.:Constructing stochastic model of TCP throughput on basis of stationarity analysis, Proc. of 2013 IEEE Global Communication Conference, pp.1544-1550, 2013.12
  • 2)
    吉田 裕志ほか:TCPスループットの確率的拡散予測に基づく映像配信制御, インターネットコンファレンス2011論文集, pp.57-66, 2011.10
  • 3)
    吉田 裕志ほか:TCPスループット予測に基づくライブ映像配信制御, 電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集, Vol.2015, 2015.9

執筆者プロフィール

吉田 裕志
システムプラットフォーム研究所
主任研究員 博士(工学)
甲斐 夏季
システムプラットフォーム研究所
金友 大
システムプラットフォーム研究所
主任研究員
里田 浩三
システムプラットフォーム研究所
研究部長

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