サイト内の現在位置を表示しています。

気候変動対応とNEC事業戦略の融合を加速するために必要なこと ~サステナビリティ情報開示要請の高まりを受けて~

※本ダイアログは2024年2月に実施しました。

第5回「NECサステナビリティ・アドバイザリ・コミッティ」は、「気候変動対応とNEC事業戦略の融合を加速するために必要なこと ~サステナビリティ情報開示要請の高まりを受けて~」をテーマに、2023年度下期に開催しました。NECにおける環境ビジネスの推進状況に対し、社外有識者のみなさまからグローバル先進事例をご紹介いただきながら、気候変動対応とNEC事業戦略の融合を加速するために今後意識しなければならないポイントについて、さまざまな角度からの示唆をいただきました。

ESG視点で事業を改革し、グローバル競争を勝ち抜く

NEC 取締役 代表執行役
Corporate EVP 兼 CFO
藤川 修

藤川 コミッティでみなさまからいただくご示唆は、我々の活動を進化させるドライバーになっている。たとえば、昨年のコミッティで自然資本の重要性を再確認したことを受け、自然資本に関連する自社の事業機会とリスクを正しく捉え、さらにその取り組みノウハウをお客さまに提供することを目的に国内IT企業では初のTNFDレポートを発行した。
また昨年度から、企業価値の向上とサステナビリティの取り組みをどのように整理するかを議論してきた。サステナビリティは、NECが過去より取り組んできた環境の強みを活かし、サステナビリティリンクボンドを発行していることに代表されるように、資本コスト低減、すなわちリスクの低減に寄与する取り組みとなっている。一方、IT業界においては特に、事業機会にもつながるテーマであり、如何に成長、フリー・キャッシュ・フローの増大へ繋げていくか、そういう視点も不可欠である。 そしてその成長のけん引役として、今般全社横断で環境ビジネスを推進する組織であるカーボンニュートラルビジネス推進PMOグループを立ち上げた。今後、気候変動対応と事業戦略を一体化し、グローバルで事業機会につなげる取り組みをさらに加速させていきたい。

TNFDレポート

サステナビリティリンクボンド

企業価値算出式と今後のマテリアリティとの関係の図解
NPO法人NELIS 代表理事
ピーター D. ピーダーセン氏

ピーダーセン氏 ESG情報の開示要請の高まりを受け、NECを含め多くの企業は事業をESG視点で改革する必要があると感じている。サステナビリティ・イノベーションの加速が企業にとって必須要件となり、新しい競争環境に直面していると言える。
カナダのメディア・投資調査会社コーポレート・ナイツは「世界で最もサステナブルな企業100社(Global100)」を発表しているが、そのランキングでは、Global100企業の約50%の収益がサステナブルソリューションから得られていることが示されていて、数字からも、サステナビリティ・イノベーションが企業成長につながることが明らかになっている。
したがい、サステナブル競争戦略というものが無ければグローバル市場で勝てないという認識が重要。そのうえで、NECから提起された気候変動対応とNEC事業戦略の融合を加速するために必要なこと、気候危機をどう事業機会に転換できるかについて議論したい。

サステナビリティを経営戦略に組み込むには

デロイト トーマツ グループ
ディレクター
中島 史博氏

中島氏 サステナビリティと戦略を紐づけ、それを取締役会が監督することの重要性は、WBCSD*1の「Modernizing governance: ESG challenges and recommendations for corporate directors」やICGN*2が発行している「Global Governance Principles」の中でも謳われている。NECと同業種のグローバル先進企業の中には、取締役会や各種委員会、非財務のKPIや役員報酬などあらゆる要素にサステナビリティを組み込み、GHG(温室効果ガス)を下げながら収益の確保を実現している好事例もある。「サステナビリティを本気でやっていく」というトップの強い意思が、会社の構造を大きく変えたと言える。
ただし、そこまで気候変動のリスク・機会を事業戦略と融合できている企業は現状ではまだ少ないのが実態である。中長期役員報酬にサステナビリティ指標を連動させる仕組みを導入することは有効である。指標があることによって、取締役が自身の在任期間だけでなく、将来の株価に寄与するような意思決定をすることができているかどうかを投資家が判断することができるようになる。

BSR
(Business for Social Responsibility)
マネージング・ディレクター
永井 朝子氏

永井氏 サステナビリティ指標の組み込み方として、企業全体の目標と連動させる場合もあれば、各部門の環境目標を担当する役員の報酬と連動させる例もある。これにより、投資家は企業の目標と経営陣がどのような課題を抱えているのかを明確に理解することができ、企業の取り組みや意図がより理解しやすくなる。

執行役 Corporate SVP
兼 CSCO
清水 茂樹

清水 NECでは、自社のCO2削減やCDP評価などが環境担当役員である私のKPIになっており、賞与の一部が連動している。一方で、従業員エンゲージメントのように役員全員のKPIとなるサステナビリティ関連目標の検討も必要である。引き続き、経営の考えに基づくサステナビリティ関連KPIの設定を検討していきたい。

従業員一人ひとりがサステナビリティへの感度を高め、自分事化する

中島氏 先進企業では、他社に比べて株価も大幅なアウトパフォームとなっていることにも注目してほしい。これは、事業がうまくいっているということだけでなく、こういう会社で働きたいという環境意識の高い優秀な人材が確保できていて、その結果、お客さまからも支持されるという副次的な要素も関係していると言える。

NPO法人日本サステナブル
投資フォーラム (JSIF)
会長 荒井 勝氏

荒井氏 企業として重要と考える課題と、従業員一人ひとりが重要と考える課題の方向性を合わせることが大切である。お客さまと一緒に何が必要かを考え、NECが提供できるものが何か、各部門の現場の人が自分事として身近に感じてお客さまへ提案できる状態が望ましい。自分の事業でお客さまの環境対策に貢献することで自分の評価が高まり、会社の収益にもつながることを皆が納得して取り組めるようになる。

永井氏 従業員一人ひとりが環境やサステナビリティの感度をあげていく必要がある。サステナビリティに関する従業員の理解やエンゲージメント向上に向けた人材育成が非常に重要である。人材育成の一例として、米国企業では、我々が企画開催する年次総会へ事業部や研究開発含めた複数の部署から多数のスタッフを参加させ、そこでサステナビリティを学ばせ、事業アイデアを掴ませるということも行っている。

NEC 経営企画部門
マネージングディレクター
菅原 弘人

菅原 NECが変わらないと、変革できた企業にビジネスを取られてしまう。そういう危機感を持って、経営層や従業員がマインドセットを変えていくことが重要だと理解した。2024年度の体制変更では、私が統括する経営企画部門は経営企画・サステナビリティ推進部門に名称を変更する。その狙いは、まさに経営戦略とサステナビリティを紐づけること。経営企画・サステナビリティ推進部門として、経営戦略とアラインしたサステナビリティを推進し、関連する経営層や従業員のエンゲージメント向上と人材育成に取り組んでいきたい。

長期的な時間軸で事業機会を捉える

永井氏 米国企業が積極的にサステナビリティ人材育成をしているという話をしたが、それはサステナビリティをコストとしてではなく、機会ととらえていて、「事業機会創出のためだからやる」という考えが根本にあるからだ。実際にサステナビリティの事業機会はかなり広がっていると感じている。お客さまはネットゼロやカーボンニュートラルの目標を掲げはじめているが、それを達成するまでの道筋を描けていないのが困りごとである。それをどのように解決できるかを考えていくと、必ず事業機会ができる。一方で、環境は2050年目標など時間軸が長く、事業開発や営業活動の現場では実感が湧き難いということに注意が必要である。

中島氏 時間軸はポイントである。NECグループ内でさまざまな環境事業を推進しているが、評価の時間軸をどのように想定しているか。3年、5年の時間軸だけで考えていては、気候変動やサステナビリティなど不確実性の高いものに投資しようということにならない。長期的な時間軸をふまえたエンゲージメントや従業員のモチベーション、事業の評価を考える必要がある。

NEC Corporate SVP 兼
コーポレート事業開発部門長
和田 茂己

和田 事業部門は年間予算と2025中期経営計画の達成が最重要課題である。一方、我々、新事業開発部門では、長期的な目線でお客さまの将来課題へ切り込むため、その時間軸での評価が可能な運営をしている事業創出もある。特にサステナビリティ関連の事業創出ではこのような観点を踏まえて取り組んでいる。また、NEC全社の総合力で対応できるようにカーボンニュートラルビジネス推進PMOグループを設置し、NECの立ち位置やビジネスチャンスを見極めるようにしているが、今回のご示唆をふまえ、従業員のナレッジ向上や長期視点での行動を評価できる仕組みの強化についても環境事業推進の立場から検討していく。

終わりに

清水 NECの課題をふまえ有意義な議論ができたと思う。今日の議論の中で、健全な危機感を持つことの重要性を再認識した。NEC自身のCO2排出削減について、2025年度までの目標の達成はすでに見込んでいるが、その先の2030年のマイルストーンに向けた5年間の目標はチャレンジングなものになる。すなわち、環境関連目標に関する達成難易度は今までの5年間とこれからの5年間では全く異なるということだ。次の中期経営計画を考えるときに、今日議論した内容をしっかりビルトインできるよう、経営企画部門と一体となって進めていきたい。

藤川 本日の議論で2つのポイントを認識した。1つは、一人ひとりが環境課題を自分事としてとらえること。自らの行動を、部門や全社の目標と連動させ、評価につなげることで自分事になる。これまでも会社としての環境に関する目標を設定しているが、もう一段踏み込んだ形での仕組みづくりが必要と認識した。あわせて、リテラシーを向上させる仕組みも構築したいと思った。
2つには、「長期的な時間軸で考える」という点である。環境課題を解く時間軸は10年、20年といった長期になる。和田Corporate SVPの発言にもあるように、NECには長期的な視野にたった事業創出のしくみがある。ITの場合、とかく投資から回収までの期間が短くなるので、短期的にもマイルストーンを置きながら、ディシプリンを働かせて事業創出プロセスを回すことが重要である。そうすることで、この先10年、20年を見据えた事業創出が可能となり、お客様と同じ時間軸に立つことができる。
まず自分事としてお客さまと一緒に世の中を変えていくというマインドを持つこと、そのうえでお客さまが抱える長期的な課題にともに向き合っていく。そして真のパートナーとして認められることが、サステナビリティを事業機会につなげる要諦である。 本日得られた気づきをふまえ、サステナビリティとNEC事業戦略の融合に向けた課題を引き続き検討していく。

全体写真
(写真左から)経営企画部門菅原、中島氏、CSCO清水、Pedersen氏、CFO藤川、荒井氏、Corporate SVP和田、永井氏
  • *1
    World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議、世界中の民間企業のCEOや幹部が集まり、環境や気候変動、公平な社会を実現するために働きかける組織
    参考:new window新時代のガバナンスを目指して
  • *2
    International Corporate Governance Network:国際コーポレートガバナンスネットワーク、効果的なコーポレートガバナンスと投資家のスチュワードシップ向上により、効率的なグローバル市場と持続可能な経済の発展を目指す国際的な組織のこと
    参考:new windowICGN グローバル・ガバナンス原則

ゲストメンバー(社外有識者)

中島 史博氏

有限責任監査法人トーマツ所属
外資系大手コンサルティング会社、サステナビリティコンサルティング会社を経て現職。
サステナビリティ経営や脱炭素戦略の策定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応及び気候変動シナリオ分析などに従事。