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Purpose経営におけるサステナビリティ推進の進捗と人権リスクへの対応について

※本ダイアログは2022年5月に実施しました。

当社は、Purpose実現に向け、2025中期経営計画において、「未来の共感」を創ることを謳っています。

今回のコミッティでは、「未来の共感」創りの一環として、ステークホルダーのみなさまとありたい社会像を描き、その実現の道筋をThought(ソート:考え、思想)として提唱する活動を推進していることや、従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを進めていることをご紹介しました。また、非財務のマネジメントの高度化に向け、2021年度より開始している財務・非財務の相関分析についてもご意見を伺いました。

さらに、地政学リスクの高まりや、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)に沿ったデュー・ディリジェンスの法制化・義務化の流れをふまえ、人権リスクへの対応についてBSR永井氏から最新動向をご共有いただきました。その後、メンバー一人ひとりの課題認識をホワイトボードに列挙し、その対応策について討議しました。国・地域や事業単位でのアセスメント(影響評価)を継続的に実施すること、緊急時を想定した原理原則を決めておくこと、ステークホルダーに対し真摯に取り組む姿勢を示し、丁寧にコミュニケーションを取ることといったご意見を、今後の活動に活かしていきます。

NECのサステナビリティ推進の考え方と主な取り組み

NEC 代表取締役
執行役員
常務 兼 CFO
藤川 修

藤川 NECは、「事業をとおした社会課題解決への貢献」「リスク管理・コンプライアンスの徹底」および「ステークホルダー・コミュニケーションの推進」をサステナビリティ経営の基本方針に、Purposeを実現することをとおして、社会とNECグループの持続可能な発展につなげていきたいと考えている。そこで、「2025中期経営計画」(以下、2025中計)で目指す「未来の共感」創りに向けて、Thought Leadership推進活動を開始している。パブリックセクターや市民のみなさまなどとともにありたい社会像を描き、その実現のために技術やアイディアを社会に実装する道筋をThoughtとして提唱していきたい。一方、サステナビリティを経営の根幹に根づかせるためには、サステナビリティを機会ととらえた事業の育成や、財務インパクトをより考慮した非財務戦略への深化が必要であると認識しており、カーボンニュートラル関連事業の育成やアビームコンサルティング(株)と連携した財務・非財務の相関分析も2021年度から開始した。

–Thought Leadership–

荒井氏 Thought Leadershipの活動に興味を持った。企業はそれぞれ何を目指し、何ができるのかを明確に打ち出す必要がある時代であり、打ち出すからこそ一緒に何かやろうという動きにつながる。投資家は、大手企業に対し、これまでの自社の取り組みを広げ、外部も巻き込むことで、一緒に育てていくことを期待している。「こういう社会を創りたい」という思いが各社ある中で、コラボレーションしていけると良い。

NPO法人日本サステナブル
投資フォーラム
(JSIF)会長
荒井 勝氏

松倉 「ありたい未来の社会を、さまざまなステークホルダーとともに創りませんか」という世界観と方向性を打ち出していくことがThought Leadershipだ。我々の思いを語り、それに共感した人が一緒にエコシステムを作って協働していく。「プロダクトアウトではなく、社会から見たときの、我々の在り方を示していこう」という意味で、重要なメッセージと考えている。

荒井氏 ただ考えていても未来は描けない。各企業は今何ができて、例えば2030年以降は何が必要になるのかを発信しないと、具体化しにくいという課題認識を持っている。NECがどのような役割を果たし、リーダーシップをとっていくのかの発信と実践を進めていただきたい。

NEC 取締役 執行役員
常務 兼 CHRO 兼 CLCO
松倉 肇

議長:ピーダーセン氏 これまでのプロダクトアウト、テクノロジーアウトのイノベーションフィールドが、フューチャーインとソサエティインが重なったところにシフトしていくということであると理解した。

NPO法人NELIS
代表理事
ピーター D.
ピーダーセン氏

–非財務指標のPBR(株価純資産倍率)への影響と、エンゲージメント スコア–

藤川 アビームコンサルティング(株)と連携した財務・非財務の相関分析は、非財務データがPBRにどう影響するかを分析するもの。どの取り組みがステークホルダーにとって意味があり、かつ企業価値向上につながるものなのかを繰り返し分析し、データの蓄積をとおして、非財務の取り組みのマネジメントを高度化していく。時間がかかることだが、重要だと考えており、継続して行っていきたい。

荒井氏 データを集めるのは非常に重要。他社より充実したデータを持っていることは今後の強みになる。

松倉 財務・非財務の相関関係は少しずつ見えてきているものの、因果関係となるとまだまだ研究途上である。2025中計では、NEC Wayのもとに多様な人が集まり、そこで大きなイノベーションが起きることが従業員の成長にもなり、ひいては会社の成長にもつながるという仮説を立て、それを測る1つの指標としてエンゲージメントスコアを設定した。

エンゲージメントスコアの計測は2018年度から始め、最新の調査結果では2020年度から10ポイント改善した。従業員の働く環境や評価方法を変えたこと、またこの1年間、CEOの森田が毎月タウンホールミーティングで会社の目指す方向性を従業員に繰り返し伝えたことにより、一人ひとりのやりたいことや立ち位置がクリアになってきたことが、スコア改善につながったのではないかと考えている。オンラインで実施するタウンホールミーティングには毎回1万人以上が集まっており、デジタルの力を最大限に活用している。

荒井氏 イノベーションを生むには、役員から従業員まで全員が同じ方向を向いていることが重要。バラバラに考えているのでは変化のスピードに間に合わない時代。オンラインでのタウンホールミーティングは非常に良い試みだと思う。

永井氏 デジタル人材の獲得がグローバルで激しくなっており、事業戦略的にもエンゲージメントスコアに着目するのは良いことである。一方、S(社会)とG(ガバナンス)の領域は定性的な取り組みを見ていくことも重要。例えば人権であれば、中長期的なプランを立て、どこまで達成できたのかを確認していくアプローチが良い。中長期的な展望がないままに、毎年できることを積み上げていくだけだと、本来やるべきことを見失ってしまう。

BSR(Business for
Social Responsibility)
マネージング・
ディレクター
永井 朝子氏

ピーダーセン氏 思考の多様性「コグニティブダイバーシティ」が組織的に許されているのかを見ていくことに意味があり、それがイノベーションにもつながる。日本の人口が減少し、海外の労働力を入れざるを得ない状況で、「コスモポリタンなカルチャー」も当たり前になる。この2つをセットで強い組織を作れるとよい。多様性が尊重される文化、手挙げができる文化、パーパスドリブン経営が、人材確保や離職率低下につながるというデータもある。

Thought Leadership

アビームコンサルティング(株)と連携した財務・非財務の相関分析

従業員エンゲージメントスコア

人権リスクへの準備と対応

藤川 地政学リスクやAI技術がもたらす負の影響は、財務インパクトも大きい。人権尊重の取り組みについて、具体的にどのようなテーマを優先して、どのような施策をもってリスクマネジメントを進めていくべきか。

永井氏 グローバルで「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)に沿った取り組みが進められており、EUでは、人権と環境に関するコーポレート・サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令法案が公表された。今後の法制化動向をモニターしていく必要があるが、各社現在の法案に対して準備を進めている状況である。

自社が報告義務対象となったときは言うまでもなく、顧客が対象となったときもNECがサプライヤーという立場で対応する必要が出てくる。したがって、対象になるならないに関わらず、NECが今まで取り組んできたことをより加速していくことが必要。

人権に対するアプローチは、1回実施したら終わりではない。アセスメントの進化や、取り扱うテーマの変化などをふまえて継続的に進めていく必要がある。

NECはコーポレートレベルでのアセスメントはしっかり取り組んでいるが、次の段階として国・地域レベル、事業、製品・サービスレベルでのアセスメントを考えなくてはいけない。また、ステークホルダー・エンゲージメントとしてのこのような場(サステナビリティ・アドバイザリー・コミッティ)も進化が求められている。欧米の事例を見ると、自社だけで課題解決するのではなく、同業他社、NGO、投資家を含めたさまざまなステークホルダーを集めてグローバルなイニシアチブを設立し、マルチステークホルダー型の意見形成を行っている。また、外部の機関で自社の決定を見直してもらい、そこで判断された事項を基本的に採択しているような事例もある。多様な視点を入れ、そのプロセスを可視化することは、世の中のエンドース(支持)を得るためのアプローチの1つである。

ピーダーセン氏 ESGのGは、取締役会や役員報酬などととらえられがちだが、グローバルでは、E(環境)とSがGに統合されてきており、気候変動への対応と人権もGに入っているのが当たり前になっている。

荒井氏 欧州の動きと並行して、IFRS*1とIIRC*2、SASB*3、CDSB*4が一緒になり、サステナビリティ基準を統合する動きがある。特に気候変動に関する基準づくりが急いで進められており、日本では将来的に有価証券報告書での開示が要請されるようになる。

清水 バリューチェーン全体で人権リスクへの対応を行う必要があり、サプライチェーンでは仕組みづくりを進めているが、提供する製品・サービスの使用フェーズでリスクがあると感じている。販売した製品を長く使っていただくことが多く、地政学リスクが発生した際などに、現場で、どこまで、何を担保するのか、判断が悩ましい。

NEC 執行役員 兼 CSCO
清水 茂樹

永井氏 新しく製品・サービスを作るとき、お客さまと対話するとき、既存マーケットの情勢が不安定になってきたときなど、ビジネスプロセス上のさまざまなタイミングにゲートポイントを置き、人権アセスメントすることが重要。お客さまへ販売した後、コントロールできないものがあるなら、使い方を契約書上に書いておく、プログラミング上の工夫で想定外の使用ができないようにするといった対策も必要。適宜アセスメントが実施できるように、製品開発時や客先提案時、品質管理やプロジェクトの評価にチェックポイントを設定するなど、既存フローにプロセスを織り込んでいる会社が多い。

–地政学的/高監視社会において想定されるリスクと打ち手–

荒井氏 データ管理のリスクは大きい。NECのようなICTセクター企業には、サイバーアタックによるデータ漏えい対策が適切に行われているかが問われている。もう1つはデータプライバシーの問題。さらに地政学リスクについては、リスクを特定する基準を明確にしないと対応に遅れが出る。監査についても、サプライヤーに対し、質問状での対応で足りるところ、実地監査をする必要があるところなど、監査基準の設定が必要だと思う。

グローバル化がある程度進んだ段階で、多極化が並行して進んでいる。文化、社会、宗教など、みんな違う中で、違いを認め合わないといけない。ダイバーシティをどのように企業として受け入れていくのか議論することが重要。人権は資本主義、自由主義の根本にある。国の考え方がどうであろうと人権は守られなくてはいけない。会社としてそれをしっかりと理解する必要がある。

永井氏 人権侵害を直接行うというより、加担や間接的に関わってしまうリスクが想定できる。間接的なところは気づきにくいので、大きな課題となり得る。また、人権に対して一定の価値観はあるものの、複雑で単純化できなくなっており、二極化どころか多極化が進むと考えている。国や地域の政変、ステークホルダーの意見の多様化もリスク要因となる。

人権リスクは、マジョリティや強い権力を持った人たちが弱い立場の人たちの人権を侵害するのが一般的。脆弱な立場の人たちに対してどのように対応できるかも問われる。さらに、製品・サービスがお客さまのところで意図しない使い方をされた場合に、NECはどのように対応するか。対応によっては、NECに対する世の中のイメージが悪くなり、提供する事業、製品・サービスが受け入れられなくなるリスクがあるうえ、会社に対する従業員のエンゲージメントも低下し、従業員のサポートを得られなくなることにもつながる。

ピーダーセン氏 他社と比較して取り組みやコミュニケーションが劣ることがリスクとなり得る。受け身ではなく、自ら仕掛け、半歩先の活動を行い、伝え方に力を入れることが重要。テクノロジーは、使い方がリスクにもチャンスにもなり得る。すべてのリスクは潰せないが、R&D、機能検討、行政とのエンゲージメント、契約など、各プロセスで戦略的に考えることが重要である。社会から問われているのは、NECが完璧であることではなく、真面目に真摯に取り組む姿勢である。地政学リスクは、緊急時を想定して原理原則を決め、コンティンジェンシープランをあらかじめ準備し、緊急時にすぐ動けるようにしておくことが大切。遅くなればなるほど評価は悪化する。

今後の方向性について

松倉 グローバリゼーションが様変わりした。グローバルな機能の持ち方が資本の論理だけで回せなくなる。グローバルに各機能が偏在し、かつ高コスト化するのを、どのように会社として最適化するのかが問われている。自社自身のポリシーを決めるとともに、DX提供者としての知見も活用し、もう一段違う視座で最適化を実施できないか、模索している。

大きな変化が次々に起こり先が見通せない中で、環境や変化への対応力を上げる必要があり、これを実現するのが多様な人材だと思う。それによりリスクマネジメントやイノベーション創出が可能となる。

清水 サプライチェーンの上流リスクの可視化が課題と感じている。NEC一社ではなく、同じ価値観を持つ企業同士が情報を交換して、リスクをマッピングしていくことが必要と感じた。

藤川 2022年のコーポレートメッセージは“Truly Open, Truly Trusted”である。Trustedなメンバーが作り上げる安全・安心なインフラプラットフォームを、価値観を同じくする人と共有し、オープンでTrustedな世界を創っていくことは、私たちにとって機会である。

シナリオプランニングの中でプランBは考えているが、この3年間、コロナ禍、部材逼迫問題、ウクライナ情勢といった大きなインパクトがある問題が連続して発生しており、あらゆるケースを想定し準備することは難しいとあらためて強く感じた。事業を進める中で、継続や中止に係る判断ポイントをあらかじめ定めておき、発生時、すぐに対処できるよう準備することが、経営リスクを最小限にするために重要と考えている。

  • *1
    IFRS(International Financial Reporting Standards):国際財務報告基準
  • *2
    IIRC(International Integrated Reporting Council):国際統合報告評議会
  • *3
    SASB(Sustainability Accounting Standards Board):サステナビリティ会計基準審議会
  • *4
    CDSB(Climate Disclosure Standards Board):気候変動開示基準審議会