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暮らしと経済を守るデジタル・ガバメント
デジタル・ガバメント(Digital Government)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、はからずもデジタルの有用性への認識が高まるところとなりました。
リモートワーク、オンラインショッピングなど、移動を伴わない様々な活動が急速に社会に浸透してゆく中、印鑑や書面での契約、対面手続など、デジタル化のボトルネックも顕在化しています。
対面、接触を極力排除し、社会全体をデジタル化してゆくことは、防疫面においても経済活動を維持する上でも有効であり、次なる危機に備えることにもつながります。
デジタル・ガバメントの推進によって、ボトルネックを解消することができれば、より強靭な社会を築いてゆける可能性がひろがります。
ここでは、社会全体のデジタル化を進める上での課題とその解消策、NECデジタル・ガバメントへの思いについて、ご紹介したいと思います。
デジタル化を阻むもの
去る2020年4月22日に、経団連、経済同友会、日本商工会議所、新経連の4団体から内閣府に対し、新型コロナウイルス感染症対策としての規制改革要望が提出されました。対面原則や押印を含む書面手続につき、デジタル化や制度そのものの簡素化によって改善を求める内容になっています。
これを受けて、各省庁の制度所轄部門が個別に回答を作成し、内閣府で取りまとめたものが下記に公開されています。
公表資料:経済団体からの「コロナ感染症対応としての規制・制度の見直し要望」への対応についての回答(内閣府サイトに移動します)
前向きな回答もあるものの、「現状では難しい」「今後検討する」といった回答が多く、改善要望の多かった押印の廃止や契約の電子化に対して、「(他省庁所轄の)法律が変わらない限り、当該所轄で対応するのは難しい」といった回答もありました。
また、対面原則の改善要望に対して、「現行法の趣旨に照らして不可能」といった回答も多くありましたが、これらは、技術者のいない所轄部門で、現行法の趣旨をデジタル技術で実現する検討を行うのは、体制的にも時間的にも厳しかったからではないかと推察されます。
こういった状況を克服し、法制度の整備を進めていった、デジタル化先進国の事例を見てみましょう。
法制度のデジタル対応
世界には、日本に先んじて社会全体のデジタル化を推進している国が多くあります。
デンマークはその中でも最もデジタル化の進んだ国の一つで、すべての国民が国民番号、電子私書箱、公金口座※1を持ち、あらゆる行政手続のオンライン利用が可能となっています。さらに高齢者などデジタルでの行政手続が困難な国民には「デジタル委任状」※2という仕組みが提供されています。
- ※1公的機関からの給付(税金還付や保育補助金、失業保険、年金等)を受領する金融機関の口座を個人が指定。
- ※2デジタルサービスを本人ではなく、家族、友人、施設のスタッフ、組織などの信頼できる人 に代わってもらうことが可能。
また、デンマーク議会では、デジタル7原則を定め、この原則に則っていない法案は提出できないことになっています。
法制度は社会システムの設計書であり、そこにデジタルを前提としない記載があると、社会全体のデジタル化のボトルネックとなり得るからです。
デンマークでは、法案作成時にデジタルの専門家が必ず参画し、あらゆる制度のデジタル対応を強力に推進しています。
国家戦略としてのデジタル化の推進
デンマークのみならず、電子政府先進国と言われる国では、自治体を含む国全体として、戦略的にデジタル化を推進するための組織を設置しています。
これにより、ポータルサイトへのあらゆる行政手続の一元化※3や、新型コロナウイルス感染症対策のようにすべての国民にとって必要な情報の集約、省庁・自治体を超えた全体最適化など、統制のとれたデジタル化を実現しているのです。
法制度のデジタル対応についても、こうした組織が中心となります。
個々の法の趣旨を変えずに、デジタル対応により全体最適を図るには、技術、制度両面での検討作業が必要となるでしょう。
例えば、対面主義を規定する法の趣旨に照らして、「本当に人間でなくてはできないのか?」「人間のどういった機能や性質に依存した制度であるのか?」といったことを突き詰め、新たなデジタル技術での代替を検証してゆくことで、法のデジタル対応は進んでゆきます。
日本のデジタル・ガバメント政策に掲げられた、最先端のデジタル国家を目指すという目標を達成するには、行政に関するデジタル技術を専門に研究する機関の設置も有効ではないでしょうか。
マイナンバー制度の徹底活用
一方で、現行制度の枠組みの中でのデジタル化も多くの可能性を秘めており、マイナンバー制度の活用がその中心となります。
今回の新型コロナウイルス感染症緊急経済対策においては、短期間での準備が追い付かず、役所窓口の混雑や給付の遅れ、オンラインよりもむしろ郵送で、といった事態も起こりました。
今後、マイナンバー制度を活用した基盤整備が進み、本人の口座情報や各種資格情報、健康情報などが必要に応じて連携されるようになると、きわめて効率的で公平な政策の実施が可能となるでしょう。
また、マイナンバーカードには、署名・押印に相当する電子証明書機能、本人の顔写真画像などが含まれています。これらを活用することで、契約の電子化や添付書類の廃止などに加え、対面手続のオンライン化も可能になると考えられます。
例えば、転居手続、マイナンバーカードのパスワードロック解除、電子証明書の更新などは下図のような方法とすることも可能ではないでしょうか。
さらに、マイナンバーカードのICチップに虹彩情報などの生体情報を記録することで、確実な本人確認を、パスワード不要かつ非接触で行うことも可能となります。
NECの開発している虹彩認証と顔認証を組み合わせた端末では、100億分の1の精度で本人を識別することが可能です。人間の能力をはるかに凌ぐ技術の登場は、新たな制度を生み出す契機となるかもしれません。
プレスリリース:NEC、世界最高水準の精度を有する非接触によるマルチモーダル生体認証端末を開発
また、誰もが使いやすく、一人一人に適したサービスを提供するためにはAIは欠かせないアイテムとなります。
行政機関が提供しているサービスには対象や適用条件などが複雑なものもありますが、AIとマイナンバー制度を組み合わせることで、申請者の状況に合わせて最も適切なものを選択し、手続方法までを提示するといった事も可能になります。
NECでは、マイナポータルと連動し、個人の状況に応じた最適なサービスをAIがガイドする地方自治体向けのチャットボットを開発しています。 ※特許出願済
以上のように、「マイナンバー制度の徹底活用」を進めながら、最新技術を活かした「法制度のデジタル対応」を進めることで、効率的で公平な、社会全体のデジタル化の実現につなげていけるのではないかと考えています。
プライバシーへの配慮
社会全体のデジタル化を進める上で、プライバシーへの配慮は必須の命題です。
新型コロナウイルス感染症対策では、位置情報を使って感染者の行動追跡を行う国がある一方で、日本ではプライバシーを重視し近接接近情報を使う方式を採用しています。公共の福祉が個人の権利に優先するケースであっても、その境界は常にあいまいであり、プライバシーに対して最大の配慮を行う必要があるということかと思います。
マイナンバー制度は、個人情報を一元的に管理するものではありませんが、この仕組みが十分に理解されていないことから、過度な期待とともに、不安の声も聞かれるところとなっています。
制度を社会実装する際には、その趣旨や社会的背景の理解とともに、過去の判例も踏まえるなど、社会的受容性の高いシステムとして構築する必要があります。
NECは、AIの社会実装や生体情報をはじめとするデータの利活用に関する事業の推進にあたって、プライバシーへの配慮を含む人権を尊重した取り組み指針※4にもとづいて事業活動を行っています。
社会全体のデジタル化による新たな経済成長
これからの新しい日常(New Normal)では、暮らしや経済の維持、発展に向けデジタルを活用することが不可欠となります。非対面、非接触へのシフトにより、ビジネスにおいても、リモートを前提とした業務プロセスの可視化や業務改革、人材育成といったニーズが一層強くなると考えられます。
従来からDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれているこうした変化が、社会全体に流れ始めたと言えるでしょう。
デジタル・ガバメントは新たな日常を支える基盤となるべきものですが、残念ながら日本においては民間のDXに比べると遅れをとっており、ボトルネックとなっています。リモートワークをしていながら、印鑑を押すためだけに出社するなどは、その典型例でしょう。
ボトルネックが解消し、デジタル・ガバメントが民間のDXを支えてゆくようになれば、経済を押し上げる効果も期待できるでしょう。
暮らしと経済をデジタルで守る。そうした社会の実現に、NECは貢献し続けたいと考えています。